サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

仕返し

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 街の入り口まで差し掛かったところで、マーガレットはホッと一息ついた。普段運動なんてしていないマーガレットの体は少し走っただけで簡単に息が上がり、足はすでに震えていた。街の入り口のゲートを抜けて外に出たところで、頭に巻いていたショールを外し、バスケットの中にそれをしまった。と同時に、そのバスケットの中から水筒を取り出した。

「水、用意しておいてよかった……」

 水筒の口をひねり開けて、がっつくように水を喉へと流し込む。カラカラに乾いていた喉が生き返るように潤いを取り戻したのを感じて、水筒をバスケットの中へと戻した。
 疲れて足が鉛のように重い。こんな状態でマッサージなどできるのだろうか……そんな一抹の不安を感じながらも、近くにある大きな岩の上に腰を下ろした。
 すると、道の向こう側から黒い馬が風のように駆けてくるのが見えて、マーガレットは再び立ち上がった。再び足が悲鳴をあげているが、聞こえないふりをしながら。

「なんだ、早いではないか」

 つい先ほどまで黒い点のように見えていた馬が、あっという間にマーガレットの向かいまでやってきた。さすがは馬の脚力とでも言ったところだろうか。
 カインは馬から飛び降り、マーガレットはハッとして会釈をする。そんなマーガレットをまじまじと見やるカインの視線に居心地の悪さを感じ始め、口を開こうとした時、先に口火を切ったのはカインだった。

「今日はやけに質素なドレスを着ているな」
「ええ、マッサージをするのに着飾る必要はございませんので。それに、むしろ煌びやかさは邪魔にございます」

 しずしずとそう言うと、カインはははっと笑った。けれどそれもすぐに影に隠れて、再びこう言った。

「マーガレットがやりやすいようにすればいい。けれど、その言葉遣いはやめろ」

 そうだった。と、指摘されるまで自分の言葉遣いには気づかず、今更どうやって言葉を崩せばいいのか。普段こちらでは目上の方、殿方とは基本的にこのように振る舞うよう教えられている。イザベラは特にそれに煩いのだ。

「そう申されても、急には難しいかと……けれど譲歩するよう努力いたします」

 どこか満足のいかない様子だが、「まぁいい」そう言い、カインはマーガレットの荷物を見やった。

「そんな荷物、どうするつもりだ?」
「ああ、これはマッサージに使う布と私のショール、水筒、そして……」

 パスケットの一番下に大切に入れていたもの、それはカインのジュストコールだ。この上着が大きいため、マーガレットはこの抱えるほど大きなバスケットを持っていたのだ。

「こちらお返しします」
「いらんと言っただろう」
「ですが、私も必要ございません。お貸しいただきありがとうございました」

 深々と頭を下げてみるが、カインは不満な様子が手に取るようにわかる。そんな様子がなぜだかマーガレットにはおもしろおかしく思えてきて、下げた頭の下でクスクスと笑っていた。
 偉そうな口ぶりの騎士団長。その人物がまるで子供みたいに見えてきたのだ。案外慣れてしまうとこの人物の取り扱いがわかってきた……気がしていたそんな矢先、カインはマーガレットの頭をグリグリと力一杯撫でた後、ジュストコールを受け取った。

「何がおかしいのだ?」
「いいえ、何も」

 髪をかき乱され、それを整えているうちにカインはジュストコールを羽織り、馬に跨った。

「マーガレット」

 来いと言わんばかりに手を差し出され、マーガレットがバスケットを抱え持った。

「えーっと……どのようにしたら?」

 そんな疑問を投げた瞬間、カインは上手く馬に捕まったまま、片手でマーガレットを抱き上げた。驚く間も無くマーガレットの視線はいつもよりも高い位置にある。

「ゆっくりと走る。そのバスケットごと振り落とされないよう、しっかり俺にひっついてるんだな」

 そんな言葉を耳元でそっと囁かれ、マーガレットはカインの片手に抱きとめられた状態で馬が歩き出した。腰に回された強い腕。甘い甘いパフュームの香り。
 慣れていないマーガレットは赤く染まる顔を抑えることも、隠すこともできず、ただただ羞恥心から胸がむず痒くなる衝動と戦っていた。そんなマーガレットを見てほくそ笑みながらカインは再びマーガレットの耳元に息を吹きかけ、囁いた。

「……先ほどの仕返しだ。俺を笑ったことを後悔させてやる」

(でしたら私は、すでに後悔済みです……)

 そう言いたいところだが言うのは悔しく、マーガレットは静かに下唇を噛み閉めただけだった。
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