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本編
前夜の出来事 2
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「あと、マーガレットは最近は外に出歩く機会が増えてるらしいじゃないか。まさかとは思うけど、街の外に出たりはしてないだろうね?」
「え、ええ。もちろんですわ」
今まで外に出るなとは言われたことがなかった。それだけにこの質問は嫌な予感がしてならない。これもマルガリータから得た情報だった。
「それならいいけど、外は女性にとって危険なことも多いからね」
すでに強姦未遂にあったとは口が裂けても言えまい。マーガレットはひやりとした汗が背中を滴り落ちるのを感じながら、眉根を寄せて心配そうな顔をして見せた。
「そうですわね。私は怖くて街の外へ出る勇気はありませんわ」
この言葉を聞いて満足したのか、イザベラはくるりとスカートを翻し、廊下を今しがた歩いてきた方向へと戻り始めた。それにつられるように、マルガリータも身を翻す。その瞬間に不敵な笑みをマーガレットに投げ、扇で口元を隠した。
マーガレットは拳を握りながら、部屋の中に入ろうとした時、イザベラが再びこう言った。
「あと、一週間外出はやめて裁縫の練習なさい。最近ずっと外に出ていたのであればそんな練習すらできていないでしょうからね。裁縫はレディのたしなみだよ」
「えっ!? お母様それは……」
「何か問題でもあるのかい?」
イザベラは首だけ振り返り、マーガレットの言葉の続きを待った。
「た、たまには外の空気も吸わなければ集中することなどできません」
「それなら窓をお開け。庭に出ることも許しましょう。だけど、家の外はダメよ」
「なぜですか? 街の活気ある景色を見てリフレッシュするのが好きなのです」
マルガリータは困るマーガレットの様子を見て面白可笑しそうにクスクスと笑っている。
「もう少し令嬢らしくなさい。なんです? 毎日あてもなく外に出て、子供でもあるまいし」
「それならばリュセットは毎日買い物のためにマーケットへ行っていますわ」
「買い物のため、だろう? それにあの子はいいのよ」
あの子はいいのよ、どうでも……とでも言いたげな投げやりな物言いにカチンとくるが、それよりも明日外出できないのは困る。そう思ってマーガレットは懸命に何か策を講じようとするが、いい案が思い浮かばない。
「これもドレスをダメにした罰です。そういうおてんばなところが今回のことに繋がったのですよ」
「……」
弁論の余地がない。マーガレットの視線は気がつけば床に向けられていた。
「裁縫を頑張って、そのドレスを修復してみればいいわ。ドレスも直せて裁縫の腕も上がって一石二鳥でしょ?」
嫌味ったらしくそう言ったのはマルガリータだ。
「あんたもよ、マルガリータ。あんたたち二人揃って裁縫できないじゃないの。そんなことで立派な相手を見つけれると思ってるのかい?」
この言葉はさすがのマルガリータも意表を突かれたらしい。今まで観客としてこの様子を楽しんで見ていたマルガリータは、イザベラの言葉によって突然表舞台に上げられた気分だった。
「私はちゃんと毎日していますわ」
「ではそれを見せてごらん。毎日していても腕が上達していなければ意味がないんだ」
「……き、今日は遅いので明日お見せしますわ、お母様……」
二人はそんなやりとりをしながら、俯いたままのマーガレットをその場において去って行った。
「何としても、明日は出かけなくちゃならないのに……」
誰にいうわけでも、誰に聞かせるわけでもなく、ただ一人、そう呟いた。下唇を噛み締めながら、しばらくの間その場に立ちすくみながら……。
「え、ええ。もちろんですわ」
今まで外に出るなとは言われたことがなかった。それだけにこの質問は嫌な予感がしてならない。これもマルガリータから得た情報だった。
「それならいいけど、外は女性にとって危険なことも多いからね」
すでに強姦未遂にあったとは口が裂けても言えまい。マーガレットはひやりとした汗が背中を滴り落ちるのを感じながら、眉根を寄せて心配そうな顔をして見せた。
「そうですわね。私は怖くて街の外へ出る勇気はありませんわ」
この言葉を聞いて満足したのか、イザベラはくるりとスカートを翻し、廊下を今しがた歩いてきた方向へと戻り始めた。それにつられるように、マルガリータも身を翻す。その瞬間に不敵な笑みをマーガレットに投げ、扇で口元を隠した。
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「あと、一週間外出はやめて裁縫の練習なさい。最近ずっと外に出ていたのであればそんな練習すらできていないでしょうからね。裁縫はレディのたしなみだよ」
「えっ!? お母様それは……」
「何か問題でもあるのかい?」
イザベラは首だけ振り返り、マーガレットの言葉の続きを待った。
「た、たまには外の空気も吸わなければ集中することなどできません」
「それなら窓をお開け。庭に出ることも許しましょう。だけど、家の外はダメよ」
「なぜですか? 街の活気ある景色を見てリフレッシュするのが好きなのです」
マルガリータは困るマーガレットの様子を見て面白可笑しそうにクスクスと笑っている。
「もう少し令嬢らしくなさい。なんです? 毎日あてもなく外に出て、子供でもあるまいし」
「それならばリュセットは毎日買い物のためにマーケットへ行っていますわ」
「買い物のため、だろう? それにあの子はいいのよ」
あの子はいいのよ、どうでも……とでも言いたげな投げやりな物言いにカチンとくるが、それよりも明日外出できないのは困る。そう思ってマーガレットは懸命に何か策を講じようとするが、いい案が思い浮かばない。
「これもドレスをダメにした罰です。そういうおてんばなところが今回のことに繋がったのですよ」
「……」
弁論の余地がない。マーガレットの視線は気がつけば床に向けられていた。
「裁縫を頑張って、そのドレスを修復してみればいいわ。ドレスも直せて裁縫の腕も上がって一石二鳥でしょ?」
嫌味ったらしくそう言ったのはマルガリータだ。
「あんたもよ、マルガリータ。あんたたち二人揃って裁縫できないじゃないの。そんなことで立派な相手を見つけれると思ってるのかい?」
この言葉はさすがのマルガリータも意表を突かれたらしい。今まで観客としてこの様子を楽しんで見ていたマルガリータは、イザベラの言葉によって突然表舞台に上げられた気分だった。
「私はちゃんと毎日していますわ」
「ではそれを見せてごらん。毎日していても腕が上達していなければ意味がないんだ」
「……き、今日は遅いので明日お見せしますわ、お母様……」
二人はそんなやりとりをしながら、俯いたままのマーガレットをその場において去って行った。
「何としても、明日は出かけなくちゃならないのに……」
誰にいうわけでも、誰に聞かせるわけでもなく、ただ一人、そう呟いた。下唇を噛み締めながら、しばらくの間その場に立ちすくみながら……。
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