サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

早朝の出来事 3

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 するとーー。

「下郎が、その薄汚い手をどけろ」

 今度はさらに別の声。

「なんだとーーひっ!」

 どうやら状況がおかしいと気づいたマーガレットが、ゆっくりと再び瞳を開くと、そこにはーー。

「おい山賊ども、お前ら運がいいな。今日の俺は機嫌がいいからな……」

 マーガレットの体に覆いかぶさっていた山賊は、背後から頬に当てられた剣に恐れ怯えていた。さらに後方にいたはずのもう一人の男は、空を仰いで倒れている。

「……そこで伸びてる仲間を連れて、さっさと消えろ。次見つけた時は容赦なくーー殺すからな」

 ドスの効いた声に、背筋が凍る。昇り始めた朝日の木漏れ日が男の背後から差し、上質な金の髪がマーガレットを捉えた。

「ひっ、ヒィ!」

 背後から伸びる剣先を避けながら、男はマーガレットの身体から飛びのき、倒れている仲間を担いで慌てて逃げて行った。

「あ、なたは、昨日の……」

 マーガレットを助けた男は、金色に輝く髪、青い瞳。白いジレと青のジュストコールに身を包んでいる。その声、その風貌はまさに昨日森で会った、あの男だった。
 マーガレットはもう二度とこの男に会うことはないだろうと思っていたにも関わらず、今はこの男がいてくれて本当に良かったと、心から思っていた。
 正直、マーガレットからすればこの男も信用ならないが、先ほどの山賊達と比べれば安全だと思えていた。同じような状況になった時、この男は力づくで何かをしようとはしなかった上、一応謝っていたのだから、と。

「……あ、あの……」

 マーガレットは衣服を整え、身を引き締めながら、上体を起こした。お礼を言いたいところだが、先ほどのショックからか涙が止まらず、体の震えは止まらない。
 すると男は山賊が完全に去ったことを確認してから剣を鞘へと戻し、マーガレットの元へと歩み寄った。

「お前はバカか!」

 男の強い口調にマーガレットの縮こまった体が、小さく跳ねた。

「昨日忠告したにも関わらず、なぜ一人でノコノコとこんなところに来たんだ。これではまるで襲ってくれと言っているようなものだろうが!」

 マーガレットはスカートをぎゅっと掴み、奥歯を噛み締めた。男の言うことはもっともだとマーガレット自身、身にしみて感じていたため、言い返す言葉も見つからず、ただ涙は止めどなく流れ続けていた。そんな様子を見てか、男は「はぁ」と大きなため息を一つついた。

「……で、怪我は?」
「……」
「怪我はないのかと聞いているのだが?」

 口を開く元気も、声を振り絞って男と話す勇気もなく、マーガレットはただ黙って首を横に振った。そんなマーガレットの様子を見て、小さく息を吐き出した後、男は自分の着ていたジュストコールを脱ぎ、マーガレットの背中にそれをそっとかけてやった。

「ならば、良かった」

 男は屈み込むようにして、マーガレットの下がった顔を覗き込み、ホッとするような優しい表情で微笑んだ。

「俺が来るまでよく耐えた」

 その表情を見たマーガレットは、凍っていたかのように冷え切っていた心が、ほんのり温かみを取り戻したような感覚を覚え、どっと涙が溢れ出した。さっきまでとは違う、涙だった。
 マーガレットは思わず両手で顔を覆い、泣きじゃくった。

「キツイことを言って、悪かった」

 男はそう謝りながら、遠慮がちにマーガレットの頭を優しく撫でる。そんな様子に、マーガレットは首をブンブンと振るが、嗚咽以外の言葉は出てきそうにない。そんな様子をみながら、男は静かに隣に腰を下ろす。マーガレットが落ち着くまで、黙って頭を撫でながら。
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