6 / 114
本編
早朝の出来事 2
しおりを挟む
「なんだ、マーガレット上手いじゃない」
リュセットが出て言ってすぐに、廊下からほくそ笑みながらキッチンへと入ってきたのは、姉のマルガリータだ。
「それはどういう意味ですの?」
リュセットとは違い、血が繋がっているのはマルガリータの方だというのに、マーガレットはマルガリータのことはどうしても好きになれない。
いつも自分が一番だと思い、ドレスを買ってもらうのも姉のマルガリータばかり。ドレスアクセサリーもたくさん持ち合わせているというのに、そのどれ一つもマーガレットにもシェアしようともしない。特にリュセットに対しては最悪だった。サイズが小さくなったドレスですら、リュセットに渡そうともしない。いくらリュセットが着回したボロのドレスを着ていたとしても御構い無しだ。
「あんた、マッサージなんてしたことないじゃない。一度もそんな勉強しているところを見たことなんて無いわよ」
「お、お姉様がご存知ないだけですわ。最近興味を持ち始めたのです」
「ふーん、あらそうなの。へーえ」
マルガリータは意味深な笑みをこぼし、それがまたマーガレットの神経を逆なでする。
「なにが言いたいんですの……?」
「私も今度はそうやってあの灰かぶりを痛めつけて差し上げようかと思って? あの子馬鹿だから、自分が馬鹿にされてるとも知らないで、真面目にマッサージ受けようとするでしょうね。おほほ、想像しただけで笑ってしまうわ」
マルガリータは新しいおもちゃでも見つけたように、楽しそうに微笑みを零している。そんな笑みを見ているだけでマーガレットは気分が悪くなってくる。寝不足も合間って、今マルガリータの嫌味に応戦する元気はなかった。
「せっかく早起きをしたので、少し外の空気に触れてきますわ」
マーガレットが席を立とうとした時、マルガリータは昨日とは違う扇をパサリと開き、口元を隠しながらマーガレットにこう耳打ちをした。
「ほうら見なさい、言い訳しないじゃないの。マッサージなんて本当は嘘で、ああやって灰かぶりのことをいたぶろうという魂胆だったのでしょう? あの子の味方についてるフリをしながらマーガレットもやるじゃないの」
マーガレットはカッと顔が一気に赤らむのを感じ、机の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「私はそんなつもりなんてーー」
そう言った瞬間だった。ガタンという何かがぶつかる音が耳に届き、マーガレットはハッとして音のする方向を目で追った。すると音のする場所に立っていたのは、キッチンを後にしたはずだったリュセットだ。
気まずそうな表情で微笑みながらそそくさとダイニングテーブルに置かれていた小さな財布を掴んだ。
「お財布を持って出るのを忘れてしまって……」
「リュセットこれは……」
リュセットはマーガレットの目を見ずにそのまま小走りでキッチンを後にした。マーガレットが伸ばした手は空中で止まったまま、動かない。まるで時が止まってしまったような空気を破ったのは、マルガリータの高らかな笑い声だった。
「あーははははっ。あの灰かぶりの顔ったら、最高だったわね!」
開いていた扇をパチンと閉じて、マルガリータは可笑しそうに笑い続けている。
「……お姉様はもしかして、リュセットがまだ外に行っていないことを知っていてあんな事を言ったのですか?」
マーガレットは静かに腕を下ろし、恐々と肩を揺らしながらマルガリータを見やる。鋭い眼光を放つその瞳は、まるでマルガリータを一突きにしてしまおうとでもするようだ。
「ええ、もちろんよ。そこに財布を置きっぱなしだったもの。お金を持たずにどうやって買い物をするつもりかしらって」
言いながらマルガリータはまだ笑っている。マーガレットの感情とは相反する態度のこの姉に、マーガレットはなにも言わずキッチンを出て行った。
そんなマーガレットの背中に向かって、マルガリータはこう呟いた。
「ほんと、どいつもこいつも醜いこと。……あんた達さえいなければ、ドレスを買うお金もアクセサリーを買うお金も全ては私のために使ってもらえるというのに」
リュセットが出て言ってすぐに、廊下からほくそ笑みながらキッチンへと入ってきたのは、姉のマルガリータだ。
「それはどういう意味ですの?」
リュセットとは違い、血が繋がっているのはマルガリータの方だというのに、マーガレットはマルガリータのことはどうしても好きになれない。
いつも自分が一番だと思い、ドレスを買ってもらうのも姉のマルガリータばかり。ドレスアクセサリーもたくさん持ち合わせているというのに、そのどれ一つもマーガレットにもシェアしようともしない。特にリュセットに対しては最悪だった。サイズが小さくなったドレスですら、リュセットに渡そうともしない。いくらリュセットが着回したボロのドレスを着ていたとしても御構い無しだ。
「あんた、マッサージなんてしたことないじゃない。一度もそんな勉強しているところを見たことなんて無いわよ」
「お、お姉様がご存知ないだけですわ。最近興味を持ち始めたのです」
「ふーん、あらそうなの。へーえ」
マルガリータは意味深な笑みをこぼし、それがまたマーガレットの神経を逆なでする。
「なにが言いたいんですの……?」
「私も今度はそうやってあの灰かぶりを痛めつけて差し上げようかと思って? あの子馬鹿だから、自分が馬鹿にされてるとも知らないで、真面目にマッサージ受けようとするでしょうね。おほほ、想像しただけで笑ってしまうわ」
マルガリータは新しいおもちゃでも見つけたように、楽しそうに微笑みを零している。そんな笑みを見ているだけでマーガレットは気分が悪くなってくる。寝不足も合間って、今マルガリータの嫌味に応戦する元気はなかった。
「せっかく早起きをしたので、少し外の空気に触れてきますわ」
マーガレットが席を立とうとした時、マルガリータは昨日とは違う扇をパサリと開き、口元を隠しながらマーガレットにこう耳打ちをした。
「ほうら見なさい、言い訳しないじゃないの。マッサージなんて本当は嘘で、ああやって灰かぶりのことをいたぶろうという魂胆だったのでしょう? あの子の味方についてるフリをしながらマーガレットもやるじゃないの」
マーガレットはカッと顔が一気に赤らむのを感じ、机の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
「私はそんなつもりなんてーー」
そう言った瞬間だった。ガタンという何かがぶつかる音が耳に届き、マーガレットはハッとして音のする方向を目で追った。すると音のする場所に立っていたのは、キッチンを後にしたはずだったリュセットだ。
気まずそうな表情で微笑みながらそそくさとダイニングテーブルに置かれていた小さな財布を掴んだ。
「お財布を持って出るのを忘れてしまって……」
「リュセットこれは……」
リュセットはマーガレットの目を見ずにそのまま小走りでキッチンを後にした。マーガレットが伸ばした手は空中で止まったまま、動かない。まるで時が止まってしまったような空気を破ったのは、マルガリータの高らかな笑い声だった。
「あーははははっ。あの灰かぶりの顔ったら、最高だったわね!」
開いていた扇をパチンと閉じて、マルガリータは可笑しそうに笑い続けている。
「……お姉様はもしかして、リュセットがまだ外に行っていないことを知っていてあんな事を言ったのですか?」
マーガレットは静かに腕を下ろし、恐々と肩を揺らしながらマルガリータを見やる。鋭い眼光を放つその瞳は、まるでマルガリータを一突きにしてしまおうとでもするようだ。
「ええ、もちろんよ。そこに財布を置きっぱなしだったもの。お金を持たずにどうやって買い物をするつもりかしらって」
言いながらマルガリータはまだ笑っている。マーガレットの感情とは相反する態度のこの姉に、マーガレットはなにも言わずキッチンを出て行った。
そんなマーガレットの背中に向かって、マルガリータはこう呟いた。
「ほんと、どいつもこいつも醜いこと。……あんた達さえいなければ、ドレスを買うお金もアクセサリーを買うお金も全ては私のために使ってもらえるというのに」
6
お気に入りに追加
95
あなたにおすすめの小説

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい
斯波@ジゼルの錬金飴②発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。
※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。
※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。

悪役令嬢に転生したら手遅れだったけど悪くない
おこめ
恋愛
アイリーン・バルケスは断罪の場で記憶を取り戻した。
どうせならもっと早く思い出せたら良かったのに!
あれ、でも意外と悪くないかも!
断罪され婚約破棄された令嬢のその後の日常。
※うりぼう名義の「悪役令嬢婚約破棄諸々」に掲載していたものと同じものです。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる