サンドリヨン 〜 シンデレラの悪役令嬢(意地悪姉役)に転生したので前職を生かしてマッサージを始めました 〜

浪速ゆう

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本編

早朝の出来事 2

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「なんだ、マーガレット上手いじゃない」

 リュセットが出て言ってすぐに、廊下からほくそ笑みながらキッチンへと入ってきたのは、姉のマルガリータだ。

「それはどういう意味ですの?」

 リュセットとは違い、血が繋がっているのはマルガリータの方だというのに、マーガレットはマルガリータのことはどうしても好きになれない。
 いつも自分が一番だと思い、ドレスを買ってもらうのも姉のマルガリータばかり。ドレスアクセサリーもたくさん持ち合わせているというのに、そのどれ一つもマーガレットにもシェアしようともしない。特にリュセットに対しては最悪だった。サイズが小さくなったドレスですら、リュセットに渡そうともしない。いくらリュセットが着回したボロのドレスを着ていたとしても御構い無しだ。

「あんた、マッサージなんてしたことないじゃない。一度もそんな勉強しているところを見たことなんて無いわよ」
「お、お姉様がご存知ないだけですわ。最近興味を持ち始めたのです」
「ふーん、あらそうなの。へーえ」

 マルガリータは意味深な笑みをこぼし、それがまたマーガレットの神経を逆なでする。

「なにが言いたいんですの……?」
「私も今度はそうやってあの灰かぶりを痛めつけて差し上げようかと思って? あの子馬鹿だから、自分が馬鹿にされてるとも知らないで、真面目にマッサージ受けようとするでしょうね。おほほ、想像しただけで笑ってしまうわ」

 マルガリータは新しいおもちゃでも見つけたように、楽しそうに微笑みを零している。そんな笑みを見ているだけでマーガレットは気分が悪くなってくる。寝不足も合間って、今マルガリータの嫌味に応戦する元気はなかった。

「せっかく早起きをしたので、少し外の空気に触れてきますわ」

 マーガレットが席を立とうとした時、マルガリータは昨日とは違う扇をパサリと開き、口元を隠しながらマーガレットにこう耳打ちをした。

「ほうら見なさい、言い訳しないじゃないの。マッサージなんて本当は嘘で、ああやって灰かぶりのことをいたぶろうという魂胆だったのでしょう? あの子の味方についてるフリをしながらマーガレットもやるじゃないの」

 マーガレットはカッと顔が一気に赤らむのを感じ、机の上に置いた手をぎゅっと握りしめた。

「私はそんなつもりなんてーー」

 そう言った瞬間だった。ガタンという何かがぶつかる音が耳に届き、マーガレットはハッとして音のする方向を目で追った。すると音のする場所に立っていたのは、キッチンを後にしたはずだったリュセットだ。
 気まずそうな表情で微笑みながらそそくさとダイニングテーブルに置かれていた小さな財布を掴んだ。

「お財布を持って出るのを忘れてしまって……」
「リュセットこれは……」

 リュセットはマーガレットの目を見ずにそのまま小走りでキッチンを後にした。マーガレットが伸ばした手は空中で止まったまま、動かない。まるで時が止まってしまったような空気を破ったのは、マルガリータの高らかな笑い声だった。

「あーははははっ。あの灰かぶりの顔ったら、最高だったわね!」

 開いていた扇をパチンと閉じて、マルガリータは可笑しそうに笑い続けている。

「……お姉様はもしかして、リュセットがまだ外に行っていないことを知っていてあんな事を言ったのですか?」

 マーガレットは静かに腕を下ろし、恐々と肩を揺らしながらマルガリータを見やる。鋭い眼光を放つその瞳は、まるでマルガリータを一突きにしてしまおうとでもするようだ。

「ええ、もちろんよ。そこに財布を置きっぱなしだったもの。お金を持たずにどうやって買い物をするつもりかしらって」

 言いながらマルガリータはまだ笑っている。マーガレットの感情とは相反する態度のこの姉に、マーガレットはなにも言わずキッチンを出て行った。
 そんなマーガレットの背中に向かって、マルガリータはこう呟いた。

「ほんと、どいつもこいつも醜いこと。……あんた達さえいなければ、ドレスを買うお金もアクセサリーを買うお金も全ては私のために使ってもらえるというのに」
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