11 / 35
夢の繰り返し
第五話
しおりを挟む
「ってことは、あたしも良い奴って事だよねー? カヨちゃんが一緒にいてくれてるから」
ことりちゃんは言いながらまた笑った。
「当たり前でしょ。ことりちゃんはいい子だよ。ケンの何倍もいい子だよ!」
更衣室の入り口にはカーテンが引かれ、奥の部屋が覗けないようになってる。私はそのカーテンの外にいたけど、着替えを終えたことりちゃんが出てくるのを見て、私は思わず抱きついた。
「わっぷ!」
陽の光を浴びて黄色味が濃くなったカーテンにくるまる形で私に抱きつかれたものだから、小鳥が網に引っかかってもがいてるみたいになってる。
「もーカヨちゃんはあたしを窒息死させる気なのー?」
「あははっ、ごめんごめん。愛することりちゃんを殺すなんてする訳ないでしょ」
そう言いながらも私は再びことりちゃんに抱きついた。今度は絡まったカーテンを解いた後で。
「それよりカヨちゃん、予鈴鳴ってるよー。早く教室に戻ろう」
「あっ、そうだね。でもことりちゃん歩ける? ケン呼ぼうか? あいつならきっともう着替え終わってると思うし」
「ううん、大丈夫だよー。全然歩ける!」
ことりちゃんは小さな手をぎゅっと握りしめてこぶしを作りながらも、包帯を巻かれた足を引きずるようにして歩いている。
私はことりちゃんに肩を貸そうとしたけど、身長差があるせいで逆に歩きづらそうだし、とりあえず隣を歩いて階段を登る時だけ手を貸すことにした。
「でもことりちゃんが転ぶなんてほんとに珍しいよね。運動神経が良すぎて転んだとか?」
「あはっ、なにそれー。運動神経良すぎて転ぶってよく分かんないよー」
だってほんの数バーセントの運動能力でもいいから分けて欲しいと心から思うくらい私は運動音痴で、ことりちゃんは運動神経がかなり高い。しかも小さくて俊敏なことりちゃんは、たとえ足元にある小石を蹴って転びそうになったとしても、華麗に側転でも決めて回避するんじゃないかって思ってるくらいだ。
「子供の頃に体操習ってたけど、それももう何年も前に辞めちゃってるし、今は普通だよー」
「でもことりちゃん中学の時、陸上部にいたって言ってなかったっけ? なんで高校では帰宅部なの?」
体操もできて走りも早い。その上可愛いときたらパーフェクトじゃないか。
「だって、毎日部活ばっかりだし、肌は真っ黒になるもん。あたし、白い肌に憧れてるんだぁー」
「今でも十分白いと思うけど?」
「カヨちゃんの方が白いじゃんー。それに部活したらもっと黒くなっちゃうんだよー」
「じゃあ室内の部活にするとか?」
「運動部はもういいの。筋肉質にもなっちゃうし可愛くないもん」
ことりちゃんはそう言いながら愛らしい口を膨らませ、今にも噴火しそうな山を作った。
「それにね、あたし高校に入ったら彼氏作りたいって思ってたの。部活しちゃうと時間もそっちに使うことになるし、可愛くなくなるから……」
そう言って今度は頬を緩ませながら、ほんのり顔を赤らめた。
「ことりちゃん、可愛い……」
思わず溢れた言葉にハッとして、ことりちゃんを見るとことりちゃんは相変わらず足を引きずるようにして歩きながら照れていた。
本当に可愛いと思う。ことりちゃんはこう言うけど今も昔も絶対モテたと思う。だけど、ことりちゃんが好きになるタイプってどんな人なんだろう。
「あっ、本鈴だ。あたしに構わずカヨちゃんは先に行って、授業に遅れちゃう」
「いいよいいよ、遅れても。それにことりちゃんの怪我を説明したら、きっと先生も許してくれるし。ってか次の授業ってなんだっけ?」
「えーっと、歴史だった気がする」
「じゃあ尚更いいよ。私過去は振り返らないタイプだから」
「あはっ、カヨちゃんらしい言葉だねー」
ことりちゃんがクスクスと笑っている間に、本鈴のチャイムは鳴り止んだ。
「あたしにも、大久保くんみたいな幼馴染いたら良かったのになぁ」
「そんなに欲しけりゃ、いつでもあげるよ」
ことりちゃんってば、なんて趣味の悪い。私はケンと兄弟のような関係で、子供の頃から一緒にいるのが当たり前だからあれだけど、もし選べるのならケンよりアイドルみたいな人を選ぶと思う。
「あはっ、そんなこと言ったら大久保くんまた怒っちゃうよ」
「大丈夫、大丈夫。あいつもいい加減私に愛想尽かしてるから、ことりちゃんみたいな可愛い幼馴染いたらテンション上がっちゃうだろうね」
「そんなことないよ。きっと大久保くんはカヨちゃんと幼馴染でいることを選ぶと思うよ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
もしも、私がケンと幼馴染じゃなかったら。もしも、私とケンの家がお隣さんじゃなかったら。もしも、私達の両親がこんなに仲良くなかったら。もしも、私とケンの共通点である誕生日とか生まれた病院とかが同じじゃなかったら。
今のように私とケンは一緒にいないのだろうか。
偶然が重なって私達がここにいる。たくさんの共通点を持ってここにいる。私は単純な性格だから、目に見えるものしか信じない。だけど今日はなぜかそんなことをふと思った。
きっと今朝の夢の事、デジャヴが重なって起きたせいだと思う。
ことりちゃんは言いながらまた笑った。
「当たり前でしょ。ことりちゃんはいい子だよ。ケンの何倍もいい子だよ!」
更衣室の入り口にはカーテンが引かれ、奥の部屋が覗けないようになってる。私はそのカーテンの外にいたけど、着替えを終えたことりちゃんが出てくるのを見て、私は思わず抱きついた。
「わっぷ!」
陽の光を浴びて黄色味が濃くなったカーテンにくるまる形で私に抱きつかれたものだから、小鳥が網に引っかかってもがいてるみたいになってる。
「もーカヨちゃんはあたしを窒息死させる気なのー?」
「あははっ、ごめんごめん。愛することりちゃんを殺すなんてする訳ないでしょ」
そう言いながらも私は再びことりちゃんに抱きついた。今度は絡まったカーテンを解いた後で。
「それよりカヨちゃん、予鈴鳴ってるよー。早く教室に戻ろう」
「あっ、そうだね。でもことりちゃん歩ける? ケン呼ぼうか? あいつならきっともう着替え終わってると思うし」
「ううん、大丈夫だよー。全然歩ける!」
ことりちゃんは小さな手をぎゅっと握りしめてこぶしを作りながらも、包帯を巻かれた足を引きずるようにして歩いている。
私はことりちゃんに肩を貸そうとしたけど、身長差があるせいで逆に歩きづらそうだし、とりあえず隣を歩いて階段を登る時だけ手を貸すことにした。
「でもことりちゃんが転ぶなんてほんとに珍しいよね。運動神経が良すぎて転んだとか?」
「あはっ、なにそれー。運動神経良すぎて転ぶってよく分かんないよー」
だってほんの数バーセントの運動能力でもいいから分けて欲しいと心から思うくらい私は運動音痴で、ことりちゃんは運動神経がかなり高い。しかも小さくて俊敏なことりちゃんは、たとえ足元にある小石を蹴って転びそうになったとしても、華麗に側転でも決めて回避するんじゃないかって思ってるくらいだ。
「子供の頃に体操習ってたけど、それももう何年も前に辞めちゃってるし、今は普通だよー」
「でもことりちゃん中学の時、陸上部にいたって言ってなかったっけ? なんで高校では帰宅部なの?」
体操もできて走りも早い。その上可愛いときたらパーフェクトじゃないか。
「だって、毎日部活ばっかりだし、肌は真っ黒になるもん。あたし、白い肌に憧れてるんだぁー」
「今でも十分白いと思うけど?」
「カヨちゃんの方が白いじゃんー。それに部活したらもっと黒くなっちゃうんだよー」
「じゃあ室内の部活にするとか?」
「運動部はもういいの。筋肉質にもなっちゃうし可愛くないもん」
ことりちゃんはそう言いながら愛らしい口を膨らませ、今にも噴火しそうな山を作った。
「それにね、あたし高校に入ったら彼氏作りたいって思ってたの。部活しちゃうと時間もそっちに使うことになるし、可愛くなくなるから……」
そう言って今度は頬を緩ませながら、ほんのり顔を赤らめた。
「ことりちゃん、可愛い……」
思わず溢れた言葉にハッとして、ことりちゃんを見るとことりちゃんは相変わらず足を引きずるようにして歩きながら照れていた。
本当に可愛いと思う。ことりちゃんはこう言うけど今も昔も絶対モテたと思う。だけど、ことりちゃんが好きになるタイプってどんな人なんだろう。
「あっ、本鈴だ。あたしに構わずカヨちゃんは先に行って、授業に遅れちゃう」
「いいよいいよ、遅れても。それにことりちゃんの怪我を説明したら、きっと先生も許してくれるし。ってか次の授業ってなんだっけ?」
「えーっと、歴史だった気がする」
「じゃあ尚更いいよ。私過去は振り返らないタイプだから」
「あはっ、カヨちゃんらしい言葉だねー」
ことりちゃんがクスクスと笑っている間に、本鈴のチャイムは鳴り止んだ。
「あたしにも、大久保くんみたいな幼馴染いたら良かったのになぁ」
「そんなに欲しけりゃ、いつでもあげるよ」
ことりちゃんってば、なんて趣味の悪い。私はケンと兄弟のような関係で、子供の頃から一緒にいるのが当たり前だからあれだけど、もし選べるのならケンよりアイドルみたいな人を選ぶと思う。
「あはっ、そんなこと言ったら大久保くんまた怒っちゃうよ」
「大丈夫、大丈夫。あいつもいい加減私に愛想尽かしてるから、ことりちゃんみたいな可愛い幼馴染いたらテンション上がっちゃうだろうね」
「そんなことないよ。きっと大久保くんはカヨちゃんと幼馴染でいることを選ぶと思うよ」
「そんなことないと思うけどなぁ」
もしも、私がケンと幼馴染じゃなかったら。もしも、私とケンの家がお隣さんじゃなかったら。もしも、私達の両親がこんなに仲良くなかったら。もしも、私とケンの共通点である誕生日とか生まれた病院とかが同じじゃなかったら。
今のように私とケンは一緒にいないのだろうか。
偶然が重なって私達がここにいる。たくさんの共通点を持ってここにいる。私は単純な性格だから、目に見えるものしか信じない。だけど今日はなぜかそんなことをふと思った。
きっと今朝の夢の事、デジャヴが重なって起きたせいだと思う。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。

あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

攻略対象の王子様は放置されました
白生荼汰
恋愛
……前回と違う。
お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。
今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。
小説家になろうにも投稿してます。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる