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夢の繰り返し
第二話
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「ちょ、待ってよ」
「なんだよ、先に行けって言ったのはお前だろ」
「ここまで待ってたんなら、あと少しくらい待つのが筋ってもんでしょーが」
「待ってねーよ。カヨママの朝ごはん食いに来ただけだっつーの」
「言っとくけど、あれあんたのじゃないからね! それに普段だって、本当は私のがメインで、ケンのはついでなんだからね」
「へいへい」
ケンは振り返りもせず私との距離をどんどん突き放して行く。
一緒に行く気があるのかないのかよく分からないけど、ケンはいつもこうだ。マイペースというか、なんというか。
「あっ、あの人……!」
横断歩道で信号待ちをしている時、向かいの歩道を歩いている男性。朝日が男性のかける眼鏡に反射して、私の位置からは人際目立って見えるけど、なんて事ないちょっと風変わりなおじさんって感じだ。
無精髭が生え、ヘアカットも頻繁にされていないような長めの髪を一つ括りにしている細身の男性。おじさんに見えるのはその風体のせいで、実際はどうかわからないけど、眼鏡で顔がよく見えないせいで中年ぽく見える。
風変わりとはいえ、私はあのおじさんの姿を見た瞬間、脳裏に映像が流れ込んでくるかのようにして、思い出したことがある。
「知り合いか?」
訝しがるように私の顔を覗き込むケンには見向きもしないで、私はひたすら向かい側にいるおじさんを見やった。
「知り合いじゃないけど……知ってる」
「なんだよ意味深だな。あんなむさそうなおっさん、どこで知ったんだよ」
あの人は、そう……間違いない。
「あの人、昨日私の夢の中に出てきた人だ」
見た夢の内容なんていつもなら覚えていない。今朝だって正直覚えてないし、この数分の間にすでに全てがおぼろげだ。今朝起きた時よりもずっと。だけど、あのおじさんの顔を見た瞬間、まるで記憶がフラッシュバックでもするように思い出した。
うん、間違いない。あの人は今朝私の夢の中に出てきた人だ。
「こんな遅刻ギリギリの中でなかなかしょうもない話するなよな」
「冗談じゃないってば。本当に見たんだから」
「俺はてっきり、お前の好みが変わったんだと思った」
バカにするような笑みでそう言うケンに、私はカンマ入れず平手打ちをケンの背中に入れた。
「私の好みなんてどこで知ったのよ」
「お前いつも、アイドルとか見ては騒いでるだろ」
「アイドルは騒ぐでしょ。だってアイドルだもん」
「はっ、バカみてーな回答だな。いてっ! いちいち殴んなよな、お前どんどん凶暴化してるぞ。そんなんだから彼氏もできねーんだよ」
「うるさいな! ケンこそ彼女いないじゃん」
「俺は作らねーだけだっつーの」
「強がっちゃって。あんたはオタクだからできないだけじゃん」
なんだかいつも以上にイライラする。なんでだろ、生理前のせいなのかな、なんて思ってる間に、信号は赤から青に変わろうとしていた。
私は再び、あのどこか懐かしい感じのするおじさんに目を向けた。するとおじさんもこちらをじっと見つめていた。
「あっ……」
まるで稲光が目の前に広がったような、そんな鋭い感覚に私は酔いそうになった。
「カヨ?」
私の目の前はまだホワイトアウトした状態で、そんな中で目の前に広がる光景は記憶に残っているわずかな今朝の夢のかけら。記憶の中の景色に目を向けているせいか、ケンの声がどこか遠い。
——そうだ。私はここで、トラックに轢かれたんだ。
「カヨ!」
そう、あの時もケンがこんな風に私を呼んでいたけど、目を開けることも呼びかけに答えることもできなかった。
それから……私はその後、見たんだ。
「おい、カヨ! 大丈夫か?」
ケンが私の腕を強く掴んでいた。目の前に広がっていたホワイトアウトを抜けた先には、いつもの景色。ただケンが怪訝そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。
「あっ、ごめ、なんかめまいしてた」
「大丈夫かよ。とりあえず信号変わるから、さっさと渡るぞ」
私はどうやら横断歩道の真ん中まで歩いていたらしい。信号はとっくに赤から青に変わり、それも点滅を始めていた。
「歩けるか?」
「あ、うん、平気」
まだ頭がクラクラしてる。足も正直おぼつかない。さっき何かを思い出したのにそれがなんだったのか、また忘れてしまった。
私は、何を見たんだっけ……?
「びっくりしたぞ、急にお前よろめき出したから何事かと思った」
「ご、ごめん」
ケンはまだ私の腕を掴んで離さない。さっきケンに声をかけられて意識が戻ってきた時、私の足は軟体動物にでもなったかのように力が入らなくて、ケンに支えてもらってなかったら倒れていたかもしれない。
「お前やっぱあのおっさんと知り合いなんじゃねーの?」
「……へっ?」
「おっさんがすれ違いざまにカヨの腕を掴んでくれたおかげでお前倒れずに済んだんだろ。覚えてねーのかよ?」
「そうなの? あの時もうすでに、意識がもうろうとしてたから……」
私は思わず足元を見やった。
「靴紐が、切れてる……」
あっ、これ……夢と同じだ。
「なんだよ、先に行けって言ったのはお前だろ」
「ここまで待ってたんなら、あと少しくらい待つのが筋ってもんでしょーが」
「待ってねーよ。カヨママの朝ごはん食いに来ただけだっつーの」
「言っとくけど、あれあんたのじゃないからね! それに普段だって、本当は私のがメインで、ケンのはついでなんだからね」
「へいへい」
ケンは振り返りもせず私との距離をどんどん突き放して行く。
一緒に行く気があるのかないのかよく分からないけど、ケンはいつもこうだ。マイペースというか、なんというか。
「あっ、あの人……!」
横断歩道で信号待ちをしている時、向かいの歩道を歩いている男性。朝日が男性のかける眼鏡に反射して、私の位置からは人際目立って見えるけど、なんて事ないちょっと風変わりなおじさんって感じだ。
無精髭が生え、ヘアカットも頻繁にされていないような長めの髪を一つ括りにしている細身の男性。おじさんに見えるのはその風体のせいで、実際はどうかわからないけど、眼鏡で顔がよく見えないせいで中年ぽく見える。
風変わりとはいえ、私はあのおじさんの姿を見た瞬間、脳裏に映像が流れ込んでくるかのようにして、思い出したことがある。
「知り合いか?」
訝しがるように私の顔を覗き込むケンには見向きもしないで、私はひたすら向かい側にいるおじさんを見やった。
「知り合いじゃないけど……知ってる」
「なんだよ意味深だな。あんなむさそうなおっさん、どこで知ったんだよ」
あの人は、そう……間違いない。
「あの人、昨日私の夢の中に出てきた人だ」
見た夢の内容なんていつもなら覚えていない。今朝だって正直覚えてないし、この数分の間にすでに全てがおぼろげだ。今朝起きた時よりもずっと。だけど、あのおじさんの顔を見た瞬間、まるで記憶がフラッシュバックでもするように思い出した。
うん、間違いない。あの人は今朝私の夢の中に出てきた人だ。
「こんな遅刻ギリギリの中でなかなかしょうもない話するなよな」
「冗談じゃないってば。本当に見たんだから」
「俺はてっきり、お前の好みが変わったんだと思った」
バカにするような笑みでそう言うケンに、私はカンマ入れず平手打ちをケンの背中に入れた。
「私の好みなんてどこで知ったのよ」
「お前いつも、アイドルとか見ては騒いでるだろ」
「アイドルは騒ぐでしょ。だってアイドルだもん」
「はっ、バカみてーな回答だな。いてっ! いちいち殴んなよな、お前どんどん凶暴化してるぞ。そんなんだから彼氏もできねーんだよ」
「うるさいな! ケンこそ彼女いないじゃん」
「俺は作らねーだけだっつーの」
「強がっちゃって。あんたはオタクだからできないだけじゃん」
なんだかいつも以上にイライラする。なんでだろ、生理前のせいなのかな、なんて思ってる間に、信号は赤から青に変わろうとしていた。
私は再び、あのどこか懐かしい感じのするおじさんに目を向けた。するとおじさんもこちらをじっと見つめていた。
「あっ……」
まるで稲光が目の前に広がったような、そんな鋭い感覚に私は酔いそうになった。
「カヨ?」
私の目の前はまだホワイトアウトした状態で、そんな中で目の前に広がる光景は記憶に残っているわずかな今朝の夢のかけら。記憶の中の景色に目を向けているせいか、ケンの声がどこか遠い。
——そうだ。私はここで、トラックに轢かれたんだ。
「カヨ!」
そう、あの時もケンがこんな風に私を呼んでいたけど、目を開けることも呼びかけに答えることもできなかった。
それから……私はその後、見たんだ。
「おい、カヨ! 大丈夫か?」
ケンが私の腕を強く掴んでいた。目の前に広がっていたホワイトアウトを抜けた先には、いつもの景色。ただケンが怪訝そうな顔で私の顔を覗き込んでいた。
「あっ、ごめ、なんかめまいしてた」
「大丈夫かよ。とりあえず信号変わるから、さっさと渡るぞ」
私はどうやら横断歩道の真ん中まで歩いていたらしい。信号はとっくに赤から青に変わり、それも点滅を始めていた。
「歩けるか?」
「あ、うん、平気」
まだ頭がクラクラしてる。足も正直おぼつかない。さっき何かを思い出したのにそれがなんだったのか、また忘れてしまった。
私は、何を見たんだっけ……?
「びっくりしたぞ、急にお前よろめき出したから何事かと思った」
「ご、ごめん」
ケンはまだ私の腕を掴んで離さない。さっきケンに声をかけられて意識が戻ってきた時、私の足は軟体動物にでもなったかのように力が入らなくて、ケンに支えてもらってなかったら倒れていたかもしれない。
「お前やっぱあのおっさんと知り合いなんじゃねーの?」
「……へっ?」
「おっさんがすれ違いざまにカヨの腕を掴んでくれたおかげでお前倒れずに済んだんだろ。覚えてねーのかよ?」
「そうなの? あの時もうすでに、意識がもうろうとしてたから……」
私は思わず足元を見やった。
「靴紐が、切れてる……」
あっ、これ……夢と同じだ。
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