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夢の繰り返し
第一話
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「……かはっ!」
大きく息を吸い込み、そのあとに大きく咽せた。
「ゲホッ、うえっ、気持ち悪っ……」
私は汗だくになってベッドから飛び起きていた。
「あれ……?」
頭がなんだかクラクラする。寝起きだからかもしれない、脳がまだ起きてなくて、ぼんやりしてる感じだ。
「なんだ、夢だったのか」
嫌な夢を見たな……トラックに引かれて死ぬ夢なんて。
夢はたいてい目が覚めたら忘れてる事が多いのに珍しいな、なんて思いながら、珍しさついでに夢の内容を思い返していた。
でもなんで私、トラックに引かれる事になったんだっけ? 覚えている事といえば、青信号に突っ込んできたトラックが私を跳ねたという事。そのトラックの車種も、周りの景色も霧がかかったみたいにおぼろげで、思い出そうとすればするほどどんどん記憶は色を失っていく。
「佳代子、いつまで寝てるの。とっくにケンちゃんが迎えに来てるわよー」
お母さんがそう叫ぶ声が扉の向こう側から聞こえて、思わず時計を見やった。
「やばっ、もうそんな時間なんだ!」
私は夢の事なんてどうでも良くなって、慌てて棚から着替えを掴んで部屋を飛び出した。
「お母さーん! ケンにシャワー浴びるから先に行ってって伝えてー」
私はそう叫ぶとともに、お風呂場へと向かった。けど、ケンはお風呂場へと続く洗面所の扉の前で待ち伏せしていた。
「お前、そう言うことは早めに言えよな。メッセージ送ったら一発だろうが」
「いや、だから打つ暇ないくらい、急いでたんじゃん」
「はぁ、お前なぁ……もういいから、とりあえず入ってこいよ」
諦めたみたいにケンは洗面所から離れて、お母さんがいるキッチンへと向かった。
……ってか、あれ?
「ねぇ、ケン。私達こんな会話、昨日もしたっけ?」
キッチンに戻ろうとするケンの後ろ姿に私は思わず問いかけた。だって、とても懐かしいというか、なんともいえない感覚だったから。
私の率直な疑問に対して、ケンは怪訝そうな顔で振り返った。
「してないだろ。お前、もし昨日も同じことしてたら、俺もっとキレてるからな」
まぁ……確かに、そうだろうけど。
「ねぇ、ちなみに今日って、何月何日だっけ?」
「はぁ? なんだよ急に」
確かになんだよ急に、って自分でも思った。でもなんでかすごく気になったんだから仕方がない。
「9月26日だろ」
「あれ? それって昨日じゃなかったっけ?」
聞いといてなんだけど、今日って27日じゃないっけ? 昨日何かで日にちを確認した気がするんだけどな。
「昨日は25日で日曜だったろ。まだ寝ぼけてんのかよ? それよりシャワー浴びるんならさっさと行ってこいよ。本当に遅刻する気か」
「そうだった! じゃ、そういうことで!」
私は慌てて洗面所に駆け込んだ。今日は朝から変な感じだ。変な夢は見るし、そのせいか体がとても重たい。まるで私の周りだけ重力が二倍かかってるみたいだ。
「学校行く気しないなー」
熱めのシャワーを頭から浴びながら、そんなことを呟いた。けど、言葉の続きは声には出さず心の中でそっと呟くことにした。
……いや、行かないといけないんだけど。
そんな病気でもないのに休ませてくれるほど私のお母さんは甘くないし、私も根が真面目だから今のところ休んだ事がない。なんなら皆勤賞狙ってるくらいだ。
まぁ、遅刻はするけどね……。それに、なんだか今日は学校に絶対行かないといけない気がした。
だるいし行きたくないと指令を出す脳。その指令を出してる部分とは違う脳の箇所が私に学校に行けと指令を出してるみたいな、とにかく変な感覚だった。
「やっと終わったのかよ」
シャワーを終えてリビングに行くとケンはお母さんの前に座ってちゃっかり朝食を食べていた。
トーストと目玉焼き、ウインナーとコーヒーという毎朝同じような献立の朝食だけど、出来立ての朝食の匂いはどうしてこんなに食欲をそそるのだろうか。さっきまでなにも食べたくないって思っていたはずなのに、私のお腹は素直にも反応を示した。
「そういうあんたはまだ、朝ごはん食べてんの?」
「カヨが食べなさそうだったから、代わりに食べてやってたんだろ」
「えっ、なにそれ。……ってそれ、また私の分を食べてるわけ⁉」
人間とは欲深い生き物で、匂いだけでなく私のご飯がケンに食べられてると考えたらよけいにお腹が空いてきた。
「お母さん、私のは?」
「そんな時間どこにあるの。さっさと学校に行ってきなさい。ケンちゃんまで遅刻させる気なの?」
でた、ケン贔屓! 誰の親なのか時々わからなくなるくらい、お母さんはケンの味方だ。
「ひどっ! 娘が飢え死にしてもいいの!?」
「大げさねぇ、一食抜いただけでしょ。それに佳代子、普段からあまり朝は食べないじゃない」
「それは、朝時間が無い時だけでしょ! ってか、お母さんもこうやって、私のご飯をケンにもあげたりするから……!」
……って、あれ? やっぱりこの流れなんかとても馴染みがある。最近こんな会話のくだりしたっけ?
「とにかくカヨ、さっさと学校行くぞ。マジで遅刻する気かよ」
指定のリュックを肩に下げて、ケンはお母さんにだけ笑って「行ってきます」と言った。
私はまだ違和感を感じるけど時計の時刻を見て、慌てて部屋に置いてあるリュックを掴んで玄関へと向かった。
お母さんがケンに甘いのもいつものことだし、ケンの両親が家にあまりいないからケンも毎日うちに入り浸ってうちの両親と仲良いのもいつものことだ。だからきっとつい最近も同じことを言い合ったに違いない。
大きく息を吸い込み、そのあとに大きく咽せた。
「ゲホッ、うえっ、気持ち悪っ……」
私は汗だくになってベッドから飛び起きていた。
「あれ……?」
頭がなんだかクラクラする。寝起きだからかもしれない、脳がまだ起きてなくて、ぼんやりしてる感じだ。
「なんだ、夢だったのか」
嫌な夢を見たな……トラックに引かれて死ぬ夢なんて。
夢はたいてい目が覚めたら忘れてる事が多いのに珍しいな、なんて思いながら、珍しさついでに夢の内容を思い返していた。
でもなんで私、トラックに引かれる事になったんだっけ? 覚えている事といえば、青信号に突っ込んできたトラックが私を跳ねたという事。そのトラックの車種も、周りの景色も霧がかかったみたいにおぼろげで、思い出そうとすればするほどどんどん記憶は色を失っていく。
「佳代子、いつまで寝てるの。とっくにケンちゃんが迎えに来てるわよー」
お母さんがそう叫ぶ声が扉の向こう側から聞こえて、思わず時計を見やった。
「やばっ、もうそんな時間なんだ!」
私は夢の事なんてどうでも良くなって、慌てて棚から着替えを掴んで部屋を飛び出した。
「お母さーん! ケンにシャワー浴びるから先に行ってって伝えてー」
私はそう叫ぶとともに、お風呂場へと向かった。けど、ケンはお風呂場へと続く洗面所の扉の前で待ち伏せしていた。
「お前、そう言うことは早めに言えよな。メッセージ送ったら一発だろうが」
「いや、だから打つ暇ないくらい、急いでたんじゃん」
「はぁ、お前なぁ……もういいから、とりあえず入ってこいよ」
諦めたみたいにケンは洗面所から離れて、お母さんがいるキッチンへと向かった。
……ってか、あれ?
「ねぇ、ケン。私達こんな会話、昨日もしたっけ?」
キッチンに戻ろうとするケンの後ろ姿に私は思わず問いかけた。だって、とても懐かしいというか、なんともいえない感覚だったから。
私の率直な疑問に対して、ケンは怪訝そうな顔で振り返った。
「してないだろ。お前、もし昨日も同じことしてたら、俺もっとキレてるからな」
まぁ……確かに、そうだろうけど。
「ねぇ、ちなみに今日って、何月何日だっけ?」
「はぁ? なんだよ急に」
確かになんだよ急に、って自分でも思った。でもなんでかすごく気になったんだから仕方がない。
「9月26日だろ」
「あれ? それって昨日じゃなかったっけ?」
聞いといてなんだけど、今日って27日じゃないっけ? 昨日何かで日にちを確認した気がするんだけどな。
「昨日は25日で日曜だったろ。まだ寝ぼけてんのかよ? それよりシャワー浴びるんならさっさと行ってこいよ。本当に遅刻する気か」
「そうだった! じゃ、そういうことで!」
私は慌てて洗面所に駆け込んだ。今日は朝から変な感じだ。変な夢は見るし、そのせいか体がとても重たい。まるで私の周りだけ重力が二倍かかってるみたいだ。
「学校行く気しないなー」
熱めのシャワーを頭から浴びながら、そんなことを呟いた。けど、言葉の続きは声には出さず心の中でそっと呟くことにした。
……いや、行かないといけないんだけど。
そんな病気でもないのに休ませてくれるほど私のお母さんは甘くないし、私も根が真面目だから今のところ休んだ事がない。なんなら皆勤賞狙ってるくらいだ。
まぁ、遅刻はするけどね……。それに、なんだか今日は学校に絶対行かないといけない気がした。
だるいし行きたくないと指令を出す脳。その指令を出してる部分とは違う脳の箇所が私に学校に行けと指令を出してるみたいな、とにかく変な感覚だった。
「やっと終わったのかよ」
シャワーを終えてリビングに行くとケンはお母さんの前に座ってちゃっかり朝食を食べていた。
トーストと目玉焼き、ウインナーとコーヒーという毎朝同じような献立の朝食だけど、出来立ての朝食の匂いはどうしてこんなに食欲をそそるのだろうか。さっきまでなにも食べたくないって思っていたはずなのに、私のお腹は素直にも反応を示した。
「そういうあんたはまだ、朝ごはん食べてんの?」
「カヨが食べなさそうだったから、代わりに食べてやってたんだろ」
「えっ、なにそれ。……ってそれ、また私の分を食べてるわけ⁉」
人間とは欲深い生き物で、匂いだけでなく私のご飯がケンに食べられてると考えたらよけいにお腹が空いてきた。
「お母さん、私のは?」
「そんな時間どこにあるの。さっさと学校に行ってきなさい。ケンちゃんまで遅刻させる気なの?」
でた、ケン贔屓! 誰の親なのか時々わからなくなるくらい、お母さんはケンの味方だ。
「ひどっ! 娘が飢え死にしてもいいの!?」
「大げさねぇ、一食抜いただけでしょ。それに佳代子、普段からあまり朝は食べないじゃない」
「それは、朝時間が無い時だけでしょ! ってか、お母さんもこうやって、私のご飯をケンにもあげたりするから……!」
……って、あれ? やっぱりこの流れなんかとても馴染みがある。最近こんな会話のくだりしたっけ?
「とにかくカヨ、さっさと学校行くぞ。マジで遅刻する気かよ」
指定のリュックを肩に下げて、ケンはお母さんにだけ笑って「行ってきます」と言った。
私はまだ違和感を感じるけど時計の時刻を見て、慌てて部屋に置いてあるリュックを掴んで玄関へと向かった。
お母さんがケンに甘いのもいつものことだし、ケンの両親が家にあまりいないからケンも毎日うちに入り浸ってうちの両親と仲良いのもいつものことだ。だからきっとつい最近も同じことを言い合ったに違いない。
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