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2章 ― 信仰するモノ
第26話-魔法は口と耳から出るらしい
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朝の光でヨルはベッドの中でモゾモゾと目を覚ました。低血圧なのか猫成分のせいか知らないが、朝が弱かった。むにむにと目を擦り、布団から顔を出して眩しい光が差し込む部屋の中を見回す。
――突然ソレと目があった。
「ひっ!?」
ガバッと布団から飛び出し天井付近まで飛び上がり、壁に張り付くヨル。
「あははっ、ヨルちゃん今の猫っぽかった」
ヨルのベッドに肘をつけ、組んだ手に顔を載せて笑うヴェルがそこに居た。
「いつのまに――」
朝が弱いとはいえ、それなりに気配に敏感だという自信がヨルにはあった。サタナキアも一晩中机の上で見張りをしてくれているため、ここまで気づかないなんてことは考えられなかった。
ベッドの上に着地して、膨らんでしまった尻尾の毛を手ぐしで整えながらテーブルの上にいるはずのサタナキアに目を向けるが、そこには何もいなかった。
「ぷーちゃんならあそこだよっ」
ヴェルが指差す天井へと視線を向けると、何やら鎖のようなものでグルグル巻きにされ、天井に貼り付けられていた。完全に気絶しているらしく白目を向いている。
――――――――――――――――――――
「…………。それで急ぎの用?」
ヨルは見なかったことにして、部屋着のままベッドに座ると、ヴェルも隣に腰掛ける。
「はいこれ、言われてたやつ」
そう言ってどこからか取り出したのは小さな巾着袋。赤色の厚めの布に白の糸で猫の肉球らしき柄が刺繍されている。革紐が通されておりベルトに引っ掛けられるようになっている。
「あと説明書ね」
手渡された紙を受け取りながら、ヨルは前回渡されたアイテムの名前を思い出し、嫌な気がしつつも、紙に目を通す。
[ヨルちゃんの嬉し恥ずかし秘密の袋]
口は小さいけれど頑張れば入っちゃう☆
入れるのは大変でも出すのはカンタン!
次元接続により魔猫屋内個人倉庫へ接続可能
ヨル・ノトー以外の使用不可
「だから名前!」
受け取った紙を勢いよくグシャリと握り潰してしまうヨル。
「かわいいでしよ! ちゃんと名称登録終わってるから誰が鑑定しても読めちゃうよ。間違ってヨルちゃん以外が使っちゃったら大変なことになるし」
「……使うとどうなるの?」
「そのまま吸い込まれちゃう☆」
「吸い込まれた人はどこに?」
聞きたくないが聞いておかなきゃ、間違えてサタナキアやアルが触ると大変なことになると、ヨルは思い恐る恐る尋ねる。
ヴェルは顎に指を付け「んー」と考えるポーズをする。
(あざといなぁ……)
「――それとこのメガネなんだけど」
「まって!」
―――――――――――――――――――
何度かヴェルの肩を揺すって聞き返すが、吸い込まれた人がどこに行ってしまうのか教えてくれなかった。
(絶対に肩身離さず持っておかなきゃ……)
結局ヨルは追求を諦めて説明の続きを聞くことにする。
「このメガネとか、ぜーんぶ鑑定しておいたよ」
そう言って取り出したのは、先程のメガネをはじめとする盗賊から頂いた品々。先日、ヴェルとの別れ際に鑑定を頼んでおいたものだ。
「二つ、ヤベェのがあったよ」
「見た目は可愛いのに、話し方が残念すぎるわ」
見た目はどう見ても十歳ぐらいにしか見えないメイド服を着た子供である。にも関わらず、口調やら、センスやら、性格やら、色々なもののせいで破綻してる。
ヴェルはヨルの一言に気にした素振りも見せず「これよ。」と言って一つのブレスレットを取り出す。
「これは…? ぷーちゃんの首輪にしようと思ってもらってきたものなんだけど」
「――っ!? あはははっ! さっすがヨルちゃんエグいーあははっ」
キョトンとした表情をしてから突然笑い出すヴェル。
特に理由なくサイズ感だけで選んだのだが、ぷーちゃんに付けるのが良くないのか、悲惨なことになるのかよくわからず、笑いころげているヴェルを半眼で見つめるヨル。
ヴェルは一通り笑い終わったのか、急に真面目な顔に戻る。
「これ、人が装備して魔力を通すと悪魔化して死ぬ呪いがかけられてる。それで、死んだ瞬間、死体が爆発して呪いがあたり一面に撒き散らされる」
「作ったやつ、バカじゃないの」
なるほど普通のブレスレットにしか見えないが、恐ろしいテロアイテムのようだった。
――――――――――――――――――――
――だったのだが、ヨルはふと先程の話の続きが気になった。
「で、ぷーちゃんが付けるとどうなるの?」
「たぶんお腹が痛くなる程度かな? 自身以外の魔力だし。もしかしたら吐いちゃうかも」
死んで爆発して呪いを撒き散らすテロアイテムなのに、悪魔がつけると悪いものを食べてお腹が痛くなる程度だった。
「かなり指向性のある魔法だからね。人の身だと耐えられないわよ」
「……ちなみに私だと?」
「たぶんクシャミがしばらく止まらなくなるかも」
「はっ?」
「だってヨルちゃん神力もってるし、そこに魔力を流し込むわけだから、拒絶反応が出るかもだよ」
「アレルギーかな」
なにそれ?と言ってるヴェルはスルーする。
「でも私、魔法使ってるわよ?」
ヨルはそれが昨日から気になっていた。
神が持っている神力は人の身では扱うことが出来ない。
そのため人は魔力という自らの心が自然に生み出す力を体に溜め、呪文をキーワードにして行使している。
だが、ヨルには微量だが神力があると言う。それで魔法も使えているのはどういうわけか。
ヨルの質問にヴェルは「ふふーん」とドヤ顔で指をピンと縦で説明する。
「それは詠唱しているときに、必要な量を無意識に周りから集めているんだと思うよ」
「そんな芸当してるつもりないんだけど」
ヨルはそのつもりがなくても、どうやらその通りらしい。
「じゃあ攻撃魔法や大魔法が使えないのは体内に魔力のストックがないから?」
「そうだねー☆」と天井で簀巻きにされているサタナキアを剣のようなものでツンツンしてる。
(やめてあげて、ビクビクしてるから)
つまり魔力の確保さえできれば魔法使えるんだ!とヨルは平静を装いながら心の中で歓喜する。
「でも攻撃魔法は無理ねー」
しかしヴェルは無慈悲なことを告げる。
「例えばアイテムで魔力を集めて魔法を発現しても、ヨルちゃんだとコントロールする魔力が無いから、その場でドッカーンだね」
「むぅーだめかー残念」
ほっぺをぷくっと膨らませ、拗ねたような表情をするヨル。
「あ、でも方法はあるかも」
曰く。
体内に溜めた魔力を使い魔法を発現。
その魔法は発動させるときに体内の魔力とリンクされておりコントロールができる。
これが普通の人が使う魔法。
必要な魔力を使うときに使う分だけ周りから集めるヨルは、体内にコントロール用の魔力が無い。だから身体から離れてしまう攻撃魔法が使えない。
逆に補助魔法など、体内で発動させるものなら使える。
神力でコントロールするのは魔力が相反するから無理。
神法は量が足らないから無理。
神法を魔力で補うのも無理。
「体内で攻撃魔法を発現してそのまま発動させちゃえばいいのよ☆」
「ちょっと何言ってるのかわからない」
つまり理論上、コントロールを無視した魔法なら使えるとヴェルは言う。
「体内で攻撃魔法を発生させるとか、私が死ぬんじゃないの」
「死ぬわね、普通なら。でもヨルちゃんは神力を持ってるでしょ? 神力は魔力と相反するのよ」
例えば火槍を自分の体内で発現させる。だがヨルは神力により、その魔法の効果はヨル自身には効かない。
「え? わたし魔法無効なの?」
「自分の魔法なら、たぶん」
パァァっという顔から、何度目かのシュンとした顔になるヨル。
「……それで、自分の体内で発現させた魔法はどうなるの?」
ヨルは若干投げやりな感じでヴェルに視線を向けつつ、ヴェルの銀色の毛で覆われた尻尾を触りながら質問する。
「……さぁ? 口とか耳とかの穴から出るんじゃ無い?」
「――狂気!」
何が悲しくて口と耳から火を吹きながら戦わなきゃならないのかと、自分の姿を想像しながら崩れ落ちる。
「じゃ、試してみよー☆」
そんなヨルの尻尾をむにむにしながら怖いことを口にした。
――突然ソレと目があった。
「ひっ!?」
ガバッと布団から飛び出し天井付近まで飛び上がり、壁に張り付くヨル。
「あははっ、ヨルちゃん今の猫っぽかった」
ヨルのベッドに肘をつけ、組んだ手に顔を載せて笑うヴェルがそこに居た。
「いつのまに――」
朝が弱いとはいえ、それなりに気配に敏感だという自信がヨルにはあった。サタナキアも一晩中机の上で見張りをしてくれているため、ここまで気づかないなんてことは考えられなかった。
ベッドの上に着地して、膨らんでしまった尻尾の毛を手ぐしで整えながらテーブルの上にいるはずのサタナキアに目を向けるが、そこには何もいなかった。
「ぷーちゃんならあそこだよっ」
ヴェルが指差す天井へと視線を向けると、何やら鎖のようなものでグルグル巻きにされ、天井に貼り付けられていた。完全に気絶しているらしく白目を向いている。
――――――――――――――――――――
「…………。それで急ぎの用?」
ヨルは見なかったことにして、部屋着のままベッドに座ると、ヴェルも隣に腰掛ける。
「はいこれ、言われてたやつ」
そう言ってどこからか取り出したのは小さな巾着袋。赤色の厚めの布に白の糸で猫の肉球らしき柄が刺繍されている。革紐が通されておりベルトに引っ掛けられるようになっている。
「あと説明書ね」
手渡された紙を受け取りながら、ヨルは前回渡されたアイテムの名前を思い出し、嫌な気がしつつも、紙に目を通す。
[ヨルちゃんの嬉し恥ずかし秘密の袋]
口は小さいけれど頑張れば入っちゃう☆
入れるのは大変でも出すのはカンタン!
次元接続により魔猫屋内個人倉庫へ接続可能
ヨル・ノトー以外の使用不可
「だから名前!」
受け取った紙を勢いよくグシャリと握り潰してしまうヨル。
「かわいいでしよ! ちゃんと名称登録終わってるから誰が鑑定しても読めちゃうよ。間違ってヨルちゃん以外が使っちゃったら大変なことになるし」
「……使うとどうなるの?」
「そのまま吸い込まれちゃう☆」
「吸い込まれた人はどこに?」
聞きたくないが聞いておかなきゃ、間違えてサタナキアやアルが触ると大変なことになると、ヨルは思い恐る恐る尋ねる。
ヴェルは顎に指を付け「んー」と考えるポーズをする。
(あざといなぁ……)
「――それとこのメガネなんだけど」
「まって!」
―――――――――――――――――――
何度かヴェルの肩を揺すって聞き返すが、吸い込まれた人がどこに行ってしまうのか教えてくれなかった。
(絶対に肩身離さず持っておかなきゃ……)
結局ヨルは追求を諦めて説明の続きを聞くことにする。
「このメガネとか、ぜーんぶ鑑定しておいたよ」
そう言って取り出したのは、先程のメガネをはじめとする盗賊から頂いた品々。先日、ヴェルとの別れ際に鑑定を頼んでおいたものだ。
「二つ、ヤベェのがあったよ」
「見た目は可愛いのに、話し方が残念すぎるわ」
見た目はどう見ても十歳ぐらいにしか見えないメイド服を着た子供である。にも関わらず、口調やら、センスやら、性格やら、色々なもののせいで破綻してる。
ヴェルはヨルの一言に気にした素振りも見せず「これよ。」と言って一つのブレスレットを取り出す。
「これは…? ぷーちゃんの首輪にしようと思ってもらってきたものなんだけど」
「――っ!? あはははっ! さっすがヨルちゃんエグいーあははっ」
キョトンとした表情をしてから突然笑い出すヴェル。
特に理由なくサイズ感だけで選んだのだが、ぷーちゃんに付けるのが良くないのか、悲惨なことになるのかよくわからず、笑いころげているヴェルを半眼で見つめるヨル。
ヴェルは一通り笑い終わったのか、急に真面目な顔に戻る。
「これ、人が装備して魔力を通すと悪魔化して死ぬ呪いがかけられてる。それで、死んだ瞬間、死体が爆発して呪いがあたり一面に撒き散らされる」
「作ったやつ、バカじゃないの」
なるほど普通のブレスレットにしか見えないが、恐ろしいテロアイテムのようだった。
――――――――――――――――――――
――だったのだが、ヨルはふと先程の話の続きが気になった。
「で、ぷーちゃんが付けるとどうなるの?」
「たぶんお腹が痛くなる程度かな? 自身以外の魔力だし。もしかしたら吐いちゃうかも」
死んで爆発して呪いを撒き散らすテロアイテムなのに、悪魔がつけると悪いものを食べてお腹が痛くなる程度だった。
「かなり指向性のある魔法だからね。人の身だと耐えられないわよ」
「……ちなみに私だと?」
「たぶんクシャミがしばらく止まらなくなるかも」
「はっ?」
「だってヨルちゃん神力もってるし、そこに魔力を流し込むわけだから、拒絶反応が出るかもだよ」
「アレルギーかな」
なにそれ?と言ってるヴェルはスルーする。
「でも私、魔法使ってるわよ?」
ヨルはそれが昨日から気になっていた。
神が持っている神力は人の身では扱うことが出来ない。
そのため人は魔力という自らの心が自然に生み出す力を体に溜め、呪文をキーワードにして行使している。
だが、ヨルには微量だが神力があると言う。それで魔法も使えているのはどういうわけか。
ヨルの質問にヴェルは「ふふーん」とドヤ顔で指をピンと縦で説明する。
「それは詠唱しているときに、必要な量を無意識に周りから集めているんだと思うよ」
「そんな芸当してるつもりないんだけど」
ヨルはそのつもりがなくても、どうやらその通りらしい。
「じゃあ攻撃魔法や大魔法が使えないのは体内に魔力のストックがないから?」
「そうだねー☆」と天井で簀巻きにされているサタナキアを剣のようなものでツンツンしてる。
(やめてあげて、ビクビクしてるから)
つまり魔力の確保さえできれば魔法使えるんだ!とヨルは平静を装いながら心の中で歓喜する。
「でも攻撃魔法は無理ねー」
しかしヴェルは無慈悲なことを告げる。
「例えばアイテムで魔力を集めて魔法を発現しても、ヨルちゃんだとコントロールする魔力が無いから、その場でドッカーンだね」
「むぅーだめかー残念」
ほっぺをぷくっと膨らませ、拗ねたような表情をするヨル。
「あ、でも方法はあるかも」
曰く。
体内に溜めた魔力を使い魔法を発現。
その魔法は発動させるときに体内の魔力とリンクされておりコントロールができる。
これが普通の人が使う魔法。
必要な魔力を使うときに使う分だけ周りから集めるヨルは、体内にコントロール用の魔力が無い。だから身体から離れてしまう攻撃魔法が使えない。
逆に補助魔法など、体内で発動させるものなら使える。
神力でコントロールするのは魔力が相反するから無理。
神法は量が足らないから無理。
神法を魔力で補うのも無理。
「体内で攻撃魔法を発現してそのまま発動させちゃえばいいのよ☆」
「ちょっと何言ってるのかわからない」
つまり理論上、コントロールを無視した魔法なら使えるとヴェルは言う。
「体内で攻撃魔法を発生させるとか、私が死ぬんじゃないの」
「死ぬわね、普通なら。でもヨルちゃんは神力を持ってるでしょ? 神力は魔力と相反するのよ」
例えば火槍を自分の体内で発現させる。だがヨルは神力により、その魔法の効果はヨル自身には効かない。
「え? わたし魔法無効なの?」
「自分の魔法なら、たぶん」
パァァっという顔から、何度目かのシュンとした顔になるヨル。
「……それで、自分の体内で発現させた魔法はどうなるの?」
ヨルは若干投げやりな感じでヴェルに視線を向けつつ、ヴェルの銀色の毛で覆われた尻尾を触りながら質問する。
「……さぁ? 口とか耳とかの穴から出るんじゃ無い?」
「――狂気!」
何が悲しくて口と耳から火を吹きながら戦わなきゃならないのかと、自分の姿を想像しながら崩れ落ちる。
「じゃ、試してみよー☆」
そんなヨルの尻尾をむにむにしながら怖いことを口にした。
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