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1章 ― 旅立ち
第19話-これどうしよう
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『きっ、ぎざまぁぁーーぁぁっだだだっっ!』
黒ローブの集団が神と崇め、呼び出してしまった悪魔――サタナキアは感じるはずのない痛みに思わず叫び声を上げる。
「おはよう、ぷーちゃん」
サタナキアの腹に空いた穴からはどす黒い血が流れ出ていた。その傷にあろうことかブーツを突っ込んでぐりぐりと踏みつけている少女、ヨルはにっこりと笑いながらサタナキアに話しかけた。まるで朝、リビングで会ったような気軽な声だった。
『ぎゃぁぁーーいででで、やめろ!矮小な獣の分際で!』
「ここ、痛いでしょ? 昔の傷って治ったと思っても脆いのよね』
ヨルは表情を変えずに尻尾をふりふりと揺らしながら、サタナキアの腹を足で踏みつけ続けている。
『うがぁぁっっーーやめっ、やめろ!』
「足をどけても私に何もしない?」
サタナキアは深い眠りについていたところを、突然呼び出され苛ついていた。そこに突然飛び出してきた謎の娘に腹に穴を開けられ、踏みつけられ、本来感じない痛みを連続で叩き込まれたショックで軽くパニックを起こしていた。
『わかった! わかったからその足をどけるのだ!』
それだけを聞くとヨルは納得したのか、素直に足をどけて倒れたままのサタナキアの顔の横にしゃがみ込む。
「まず聞きたいんだけど、ぷーちゃん」
『ぷ、ぷーちゃんだと……我をそう呼んでいいのは、我がお慕いするあのお方だけだ!そもそも、貴様どこでその……呼び名……を……』
ヨルは何も言わず、じぃっとサタナキアの山羊のような瞳を見つめ続ける。
『まさか……まさか!! アネさん!! 会いたかっ――ぐぼぁっ!』
突然起き上がり、両腕を広げてガバッと抱きついたこようとした山羊をヨルはさっとかわし、勢い止まらずサタナキアは地面に顔面を打ち付けた。
[プート・サタナキア]
はるか昔、地上に顕現し暴れていたところを大地神ヨルズにより討伐される。
その後、あろうことか彼女に一目惚れをしたサタナキアはその後、大地神ヨルズに付き従っており、ヨルズがこの世から消えたのち、彼の姿を見たものはおらず、自ら深い眠りについていたと言われている。
――――――――――――――――――――
「それにしてもよく私がわかったわね」
ヨロヨロと起き上がりどかっと腰を下ろしたサタナキアの前に立ち、ヨルはそう切り出した。
『そりゃアネさんの神力は見間違えませんよ!』
(相変わらず暑苦しい……ん?)
「今の私は生まれ変わって、ただのセリアンスロープよ?」
『あっしらは、生き物の魂を観ることができます。普通、転生を重ねると前世の汚れとかそういうのがこびり付いてくるんでさぁ。だから"あ、こいつ何かの生まれ変わりだな"と判るんでさぁ』
つまり、輪廻転生をして生まれ変わった生物は、その魂が真っ白ではなく使い込まれて薄汚れてくるとのことだ。そのため、元がどういう生物だったかのまでは分からないが、輪廻転生によって生まれて来たということはわかるらしい。
「あれ、じゃあ何で私はわかったの?」
ヨルに至っては、この世界を追放されてから少なくとも8回も輪廻転生を重ねてきた。と聞いていた。
『そりゃアネさんの魂があの時のまんま真っ白だからですぜ!さすがアネさんです!』
(……あっ)
ヨミはそこまで言われてやっと思い至る事があった。
『はぁぁぁ~……ダメだねすっかり魂が濁りきってる。まずは掃除しないと話にもならないか』
『うん、ちゃんと浄化が終わったようだね。言葉に意識がちゃんと乗っているし、性格も矯正されたようだ』
「あーうん、まぁいろいろあってね」
『あっしからも! ひとついいでしょうか!』
「(暑苦しい……)……どうぞ?」
『その目、痺れますアネさん!』
「殴られるのと蹴られるのどっちがいい?」
『どっちもお願いしやす!』
こんな暑っ苦しい相手はこいつ以外に記憶がないヨルはいろいろ諦めて話の続きを促す。
『どうしてあっしは受肉してるんですかね』
ヨルは横たえてあるカリスの様子を見ると、落ち着いてきたのかスヤスヤと寝息を立てているのを確認する。それからそっとサタナキアの隣に腰を下ろして、覚えている事を順を追ってサタナキアにポツリポツリと話しだした。
――――――――――――――――――――
『うぉぉぉぉっっっ! アネさんが!! そんな大変な時にお側に居れず申し訳ありやせん!』
サタナキアが見事な土下座をキメた勢いで、ヅガッと激しく地面がえぐれ、山羊のツノが綺麗に地面にめり込んだ。
『これからは、あっしが一瞬も目を離さずお側におります!この命に代えて!』
「(暑っ苦しい)暑っ苦しい」
つい思っている事が口から出てしまい、山羊がショックを受けたような表情で崩れ落ちる。そんな姿を見ながらヨルは「ふむ…」と顎に指を当てて考える。
「ぷーちゃん、小さくなれるわよね」
『やった事はありやせん! が、アネさんの頼みとなら! たとえ元に戻れなくても!』
変身系の魔法は場合によっては元に戻れなくなる事がある。変形させてしまった魔力ではもう一度変身魔法が使えなくなる可能性があるという理由だった。
「じゃお願い」
あっさりと酷いことをお願いするヨルだったが、その返事にサタナキアは嬉々として魔力を放出し立体魔法陣を描いていく。その様子を横目で見つつ、まだ目を覚まさない魔法使いの女の子――カリスの頬をぺちぺちと叩いてみた。
「ん、んんーん」
「朝よーそろそろ起きなさいー」
「――っ!やめっー助けて!」
軽いノリで起こそうと思ったのだが、気絶する前の記憶が思いの外キツく残っていたらしく叫び声を上げながら目を覚ました。
「――はぁはぁ……こ、ここは」
カリスが目を覚まし周りを見回す。そして少し落ち着いたのを見計らってヨルは改めて声をかける。
「拐われて生贄にされかかってたところだったの。無事でよかったわ」
カリスは目を丸くしてヨルを見て動かなくなる。怪訝な顔になったあと、泣きそうな顔になり、最後に嬉しくでたまらないという表情になる。
「お、おねえさま!やっぱりお姉様は運命の方です!」
突然ガバッと抱きついてきた彼女だが、流石にこれを避けるのは可愛そうだと思い、ヨルはされるがままになる。
「うぇぇーお姉様、怖かったですっ!」
耳元で泣かれながら前後に揺さぶられ、されるがままのヨル。そうして、彼女の背に手を回してポンポンと叩いていると段々と落ち着いてきたところで、ヨルは再び口を開いた。
「それで、改めて聞くけど怪我はない?」
彼女は身体を頭から順にまさぐり、痛いところがない事を確かめて「はい!お姉さまのおかげでなんともありません!」と元気よく答える。
「私の名前、ヨル。多分あなたより年下」
「ヨルお姉様! 年齢なんて関係ありません! 私はお姉様をお慕いしております!」
ヨルは(やっぱりかー)と首の後ろをポリポリと掻きながら心底面倒くさそうな顔をする。
「とにかくその話は――」
『てめぇ、あっしのアネさんを困らすたぁ、見過ごせねぇな!』
後でゆっくり――と言いかけたところで、すっかり忘れられていた声がヨルの背後から響いた。
(やばい、こいつのこと忘れてた)
この悪魔の存在をどう言い訳しようかと振り返ると、そこには"山羊の姿をした悪魔"の形をそのまま小さくし、掌に乗るレベルまで小さくなったサタナキアがパタパタと飛んでいた。
「なっ、なんですかこの可愛い生き物は!」
あなたの魔力と肉と血と命を依代に呼び出された悪魔だよ。とは答えられない。流石にヨルでも、それは言えなかった。
黒ローブの集団が神と崇め、呼び出してしまった悪魔――サタナキアは感じるはずのない痛みに思わず叫び声を上げる。
「おはよう、ぷーちゃん」
サタナキアの腹に空いた穴からはどす黒い血が流れ出ていた。その傷にあろうことかブーツを突っ込んでぐりぐりと踏みつけている少女、ヨルはにっこりと笑いながらサタナキアに話しかけた。まるで朝、リビングで会ったような気軽な声だった。
『ぎゃぁぁーーいででで、やめろ!矮小な獣の分際で!』
「ここ、痛いでしょ? 昔の傷って治ったと思っても脆いのよね』
ヨルは表情を変えずに尻尾をふりふりと揺らしながら、サタナキアの腹を足で踏みつけ続けている。
『うがぁぁっっーーやめっ、やめろ!』
「足をどけても私に何もしない?」
サタナキアは深い眠りについていたところを、突然呼び出され苛ついていた。そこに突然飛び出してきた謎の娘に腹に穴を開けられ、踏みつけられ、本来感じない痛みを連続で叩き込まれたショックで軽くパニックを起こしていた。
『わかった! わかったからその足をどけるのだ!』
それだけを聞くとヨルは納得したのか、素直に足をどけて倒れたままのサタナキアの顔の横にしゃがみ込む。
「まず聞きたいんだけど、ぷーちゃん」
『ぷ、ぷーちゃんだと……我をそう呼んでいいのは、我がお慕いするあのお方だけだ!そもそも、貴様どこでその……呼び名……を……』
ヨルは何も言わず、じぃっとサタナキアの山羊のような瞳を見つめ続ける。
『まさか……まさか!! アネさん!! 会いたかっ――ぐぼぁっ!』
突然起き上がり、両腕を広げてガバッと抱きついたこようとした山羊をヨルはさっとかわし、勢い止まらずサタナキアは地面に顔面を打ち付けた。
[プート・サタナキア]
はるか昔、地上に顕現し暴れていたところを大地神ヨルズにより討伐される。
その後、あろうことか彼女に一目惚れをしたサタナキアはその後、大地神ヨルズに付き従っており、ヨルズがこの世から消えたのち、彼の姿を見たものはおらず、自ら深い眠りについていたと言われている。
――――――――――――――――――――
「それにしてもよく私がわかったわね」
ヨロヨロと起き上がりどかっと腰を下ろしたサタナキアの前に立ち、ヨルはそう切り出した。
『そりゃアネさんの神力は見間違えませんよ!』
(相変わらず暑苦しい……ん?)
「今の私は生まれ変わって、ただのセリアンスロープよ?」
『あっしらは、生き物の魂を観ることができます。普通、転生を重ねると前世の汚れとかそういうのがこびり付いてくるんでさぁ。だから"あ、こいつ何かの生まれ変わりだな"と判るんでさぁ』
つまり、輪廻転生をして生まれ変わった生物は、その魂が真っ白ではなく使い込まれて薄汚れてくるとのことだ。そのため、元がどういう生物だったかのまでは分からないが、輪廻転生によって生まれて来たということはわかるらしい。
「あれ、じゃあ何で私はわかったの?」
ヨルに至っては、この世界を追放されてから少なくとも8回も輪廻転生を重ねてきた。と聞いていた。
『そりゃアネさんの魂があの時のまんま真っ白だからですぜ!さすがアネさんです!』
(……あっ)
ヨミはそこまで言われてやっと思い至る事があった。
『はぁぁぁ~……ダメだねすっかり魂が濁りきってる。まずは掃除しないと話にもならないか』
『うん、ちゃんと浄化が終わったようだね。言葉に意識がちゃんと乗っているし、性格も矯正されたようだ』
「あーうん、まぁいろいろあってね」
『あっしからも! ひとついいでしょうか!』
「(暑苦しい……)……どうぞ?」
『その目、痺れますアネさん!』
「殴られるのと蹴られるのどっちがいい?」
『どっちもお願いしやす!』
こんな暑っ苦しい相手はこいつ以外に記憶がないヨルはいろいろ諦めて話の続きを促す。
『どうしてあっしは受肉してるんですかね』
ヨルは横たえてあるカリスの様子を見ると、落ち着いてきたのかスヤスヤと寝息を立てているのを確認する。それからそっとサタナキアの隣に腰を下ろして、覚えている事を順を追ってサタナキアにポツリポツリと話しだした。
――――――――――――――――――――
『うぉぉぉぉっっっ! アネさんが!! そんな大変な時にお側に居れず申し訳ありやせん!』
サタナキアが見事な土下座をキメた勢いで、ヅガッと激しく地面がえぐれ、山羊のツノが綺麗に地面にめり込んだ。
『これからは、あっしが一瞬も目を離さずお側におります!この命に代えて!』
「(暑っ苦しい)暑っ苦しい」
つい思っている事が口から出てしまい、山羊がショックを受けたような表情で崩れ落ちる。そんな姿を見ながらヨルは「ふむ…」と顎に指を当てて考える。
「ぷーちゃん、小さくなれるわよね」
『やった事はありやせん! が、アネさんの頼みとなら! たとえ元に戻れなくても!』
変身系の魔法は場合によっては元に戻れなくなる事がある。変形させてしまった魔力ではもう一度変身魔法が使えなくなる可能性があるという理由だった。
「じゃお願い」
あっさりと酷いことをお願いするヨルだったが、その返事にサタナキアは嬉々として魔力を放出し立体魔法陣を描いていく。その様子を横目で見つつ、まだ目を覚まさない魔法使いの女の子――カリスの頬をぺちぺちと叩いてみた。
「ん、んんーん」
「朝よーそろそろ起きなさいー」
「――っ!やめっー助けて!」
軽いノリで起こそうと思ったのだが、気絶する前の記憶が思いの外キツく残っていたらしく叫び声を上げながら目を覚ました。
「――はぁはぁ……こ、ここは」
カリスが目を覚まし周りを見回す。そして少し落ち着いたのを見計らってヨルは改めて声をかける。
「拐われて生贄にされかかってたところだったの。無事でよかったわ」
カリスは目を丸くしてヨルを見て動かなくなる。怪訝な顔になったあと、泣きそうな顔になり、最後に嬉しくでたまらないという表情になる。
「お、おねえさま!やっぱりお姉様は運命の方です!」
突然ガバッと抱きついてきた彼女だが、流石にこれを避けるのは可愛そうだと思い、ヨルはされるがままになる。
「うぇぇーお姉様、怖かったですっ!」
耳元で泣かれながら前後に揺さぶられ、されるがままのヨル。そうして、彼女の背に手を回してポンポンと叩いていると段々と落ち着いてきたところで、ヨルは再び口を開いた。
「それで、改めて聞くけど怪我はない?」
彼女は身体を頭から順にまさぐり、痛いところがない事を確かめて「はい!お姉さまのおかげでなんともありません!」と元気よく答える。
「私の名前、ヨル。多分あなたより年下」
「ヨルお姉様! 年齢なんて関係ありません! 私はお姉様をお慕いしております!」
ヨルは(やっぱりかー)と首の後ろをポリポリと掻きながら心底面倒くさそうな顔をする。
「とにかくその話は――」
『てめぇ、あっしのアネさんを困らすたぁ、見過ごせねぇな!』
後でゆっくり――と言いかけたところで、すっかり忘れられていた声がヨルの背後から響いた。
(やばい、こいつのこと忘れてた)
この悪魔の存在をどう言い訳しようかと振り返ると、そこには"山羊の姿をした悪魔"の形をそのまま小さくし、掌に乗るレベルまで小さくなったサタナキアがパタパタと飛んでいた。
「なっ、なんですかこの可愛い生き物は!」
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