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1章 ― 旅立ち
第15話-やってみるか
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(邪教徒ねぇ……)
ヨルとしては誰が何を信仰するのも個人の自由だとは思うが、関係のない人を巻き込むのは許せない。
(明日ギルドに行って聞いてみよう)
――――――――――――――――――――
結局今日は朝から魔猫屋とギルドの往復だけで終わってしまったのだが、濃すぎる一日だった。別れ際にヴェルから「感想を聞かせて」と幾つかの魔道具を渡された。全て手作りの一品ものだと言うのでお断りしようとしたのだが、半分無理やり渡された。というよりも押し付けられた。
「使用感をレポートして手紙で提出するように……か」
いつの間にやらモニターのような事になっていたのだが、それだけで高価な魔道具をゲットでき、ヴェルも生の声を開発に活かすことができWin-Winとのことだ。猫耳につけるイヤリングと首に付けるチョーカーと革のベルト。
説明書も一緒に渡されたのだが……。ヨルは大通りを歩きながらアイテムの説明がかかれた紙を広げ、ちらっと目を通す。
――――――――――――――――――――
[春を感じる苺のイヤリング]
お洒落な貴女にぴったりのイヤリング。
ピンクゴールドをあしらった魔石の台座デザインに彼もノックアウト!
風魔法による超加速発動可能。
まれに相手を即死させる。
チャージタイムは一日。
――――――――――――――――――――
[にゃんこのチョーカー]
内側にかわいい肉球のデザインが隠されているのがポイント♪
小さな鈴型チャームにあしらわれた魔石がきらりと光る!
これであの人も貴女の声しか聞こえなくなる!
音声魔法による超音波衝撃発動可能。
チャージタイムは所持者の魔力により前後する。
――――――――――――――――――――
[ピンクブロッサム・ベルト(黒)]
大人の女性を感じさせる革ベルト。
内側にピンク色の魔石粉をふんだんに使った新シリーズ!
夜に長期戦になっても安心!
回復魔法による自動継続回復発動可能。
リチャージ不可。
――――――――――――――――――――
(センスがヤバイ……パフェの名前かと思った……ピンクブロッサムベルト(黒)とか、もう訳わかんない)
だが意味不明な名前と読むだけで頭が痛くなる説明文を差し引いても、それらのデザインは可愛らしく性能も超破格だった。
これだけのワンオフ商品、金貨数百枚は余裕で必要なはずだ。しかし遠慮ばかりも申し訳ないし、断り続けていたら徐々にヴェルの目つきが座ってきたので、ありがたく使わせてもらう事にした。
ついでにとヴェルから渡されたのは、受け取っていたグローブの説明書だった。
[ヴェントゥス・グローブ]
付与されしは瞬間加速と重量
魔力を通すことで発動し三十秒間の行使が可能。
(師匠のほうはまともで良かった……)
――――――――――――――――――――
「あっ、このカップかわいい~」
宿屋に向かう途中、食器類が売っている露店が並んでいる辺りで一つの木製カップに目が留まった。
(あ、女将さんへのお礼……)
そう思い手に取ってみると、全て一つの木材から切り出しているようで、縁に肉球の彫り物があってとても可愛かった。
「すいませーん、これ六個ほどありますか?」
奥で片付けをしていた、筋肉ダルマのような男の人に声をかける。
(……レスラーみたいな体型だなー)
「まいど! これは一つ一つ手作りなんだ。だから全部同じ柄じゃないがいいか?」
このカップも他の木彫りの食器は全てこの筋肉ムキムキのおっちゃんの手彫りらしい。
(人は見かけで判断しちゃだめよね……)
この街に来てまだ二日目だが、ヨルはきちんと学習していた。カップに合わせる形で、どうせならと、柄がお魚になっている可愛らしいティースプーンも合わせて買った。
「まいどあり! お嬢ちゃん、これはおまけだ!」
「ありがとう、これは?」
「うちの村で作ってる紅茶だ! よかったら飲んでみてくれ!」
「わぁありがとう!ありがたく頂くわ」
陽が傾き始めてきた頃、いくつかの露店が片付けに入っており、ヨルも宿に戻ろうときた道を引き返し歩き出す。今日はよく物をもらった日だなと思い返しながら宿屋に向かったのだった。
――――――――――――――――――――
女将さんに、お店を紹介してもらったお礼にカップとスプーンのセットをプレゼントしたら大層感激されて抱き付かれてしまった。みーちゃんこと女将さんのお母さんもにっこり微笑みながら握手をされたので気に入ってくれたんだろうなと思う。
(……お母さんか)
それから、テーブルに案内されてパンと野菜のスープ、よくわからない豚っぽい肉のソテーとサラダまでつけてもらった夕食を平らげ部屋に戻ったヨルは、裁縫道具を取り出して脱いだスカートと短パンを広げて睨めっこしていた。
(うーん…このぐらいかな…)
今朝、適当に縫い合わせた部分を一度解いて、切り口に綿を入れて肌触りを良くする。上部にゴムをつけて尻尾を入れやすくして完成だ。
(あとは明日着てみてから手直ししよう)
ヨルは裁縫道具を仕舞い、ヴェルから頂いた魔道具をデスクに並べてから寝巻を持ってお風呂に向かった。
――――――――――――――――――――
翌日。
ヨルは傭兵ギルドの向かいに位置する冒険者ギルドまで足を運んでいた。朝イチで割りの良い依頼を確保しようと冒険者たちが集まっており、ロビーは喧騒に包まれていた。そんな中、ヨルは壁に貼られた依頼書を端から目を通していた。
(盗賊……山賊……謎の集団……無いわね~)
ヴェルから街道付近に盗賊が出ると言う話を聞き、まずはそれを糸口にしようと考えたのだが退治依頼などは見当たらない。
(これは自分で探すしか無いのかな)
まだ状況からの推測でしかないが、その怪しい集団が女性を誘拐し、それを生贄にして魔神を呼び出そうとしている。その召喚時の失敗作があの謎の魔獣。
それだけ聞くとお伽話か妄想かと言われてしまうような内容なのだが、ではあの魔獣の正体はなんだと言うことになってしまう。冒険者ギルドのなかでも上位の実力をもった一握りしか所属が許されていない傭兵ギルド。
その傭兵ギルドの精鋭ですら、あっさりと全滅させてしまうあの魔獣たち。魔獣にやられた彼らが弱いのではなく、あの魔獣たちの強さが異常なのだ。
それともう一つ。
(私、ひよっこレベルだと思っていたんだけどな)
実際ヨルの実力は、この街に居る全戦力の中では頭ひとつ抜き出るほど強かった。
(でも多分ヴェルには勝てない…)
あのロリ店主は一度だけ腰を捕まれて威嚇されただけだが、見た目とは全く違い相当強いというのがヨルの認識だった。
(それにあのタコには全力をぶつけてやっと倒せた。あれより強いのが現れたら…)
そんなことを考え、ヨルは無意識に手をギュッと握る。
(魔獣を呼び出してる奴らを見つけて、勝てないような魔獣を呼び出される前に倒す! 手遅れなら逃げる!)
結局ヨルは、やられる前にやれという師匠の教えに従おうと決めた。
(事件の解明は必ず私がやらなきゃならないわけじゃない。私はただの旅人だ。)
それでも――
(ここまでお膳立てされちゃ、動くしか無いよね)
ヴェルに渡された妙に高性能な装備品の数々と、話してくれた内容。それだけを考えるとヨルに一連の問題の真相を解決させようとしているのは明らかだった。
(とりあえず、盗賊とやらを片っ端から潰して、芋づる式に謎の集団を探して潰すってことでいいか)
耳につけたイヤリングを指でもて遊びながらヨルは冒険者ギルドを出て行くのだった。
ヨルとしては誰が何を信仰するのも個人の自由だとは思うが、関係のない人を巻き込むのは許せない。
(明日ギルドに行って聞いてみよう)
――――――――――――――――――――
結局今日は朝から魔猫屋とギルドの往復だけで終わってしまったのだが、濃すぎる一日だった。別れ際にヴェルから「感想を聞かせて」と幾つかの魔道具を渡された。全て手作りの一品ものだと言うのでお断りしようとしたのだが、半分無理やり渡された。というよりも押し付けられた。
「使用感をレポートして手紙で提出するように……か」
いつの間にやらモニターのような事になっていたのだが、それだけで高価な魔道具をゲットでき、ヴェルも生の声を開発に活かすことができWin-Winとのことだ。猫耳につけるイヤリングと首に付けるチョーカーと革のベルト。
説明書も一緒に渡されたのだが……。ヨルは大通りを歩きながらアイテムの説明がかかれた紙を広げ、ちらっと目を通す。
――――――――――――――――――――
[春を感じる苺のイヤリング]
お洒落な貴女にぴったりのイヤリング。
ピンクゴールドをあしらった魔石の台座デザインに彼もノックアウト!
風魔法による超加速発動可能。
まれに相手を即死させる。
チャージタイムは一日。
――――――――――――――――――――
[にゃんこのチョーカー]
内側にかわいい肉球のデザインが隠されているのがポイント♪
小さな鈴型チャームにあしらわれた魔石がきらりと光る!
これであの人も貴女の声しか聞こえなくなる!
音声魔法による超音波衝撃発動可能。
チャージタイムは所持者の魔力により前後する。
――――――――――――――――――――
[ピンクブロッサム・ベルト(黒)]
大人の女性を感じさせる革ベルト。
内側にピンク色の魔石粉をふんだんに使った新シリーズ!
夜に長期戦になっても安心!
回復魔法による自動継続回復発動可能。
リチャージ不可。
――――――――――――――――――――
(センスがヤバイ……パフェの名前かと思った……ピンクブロッサムベルト(黒)とか、もう訳わかんない)
だが意味不明な名前と読むだけで頭が痛くなる説明文を差し引いても、それらのデザインは可愛らしく性能も超破格だった。
これだけのワンオフ商品、金貨数百枚は余裕で必要なはずだ。しかし遠慮ばかりも申し訳ないし、断り続けていたら徐々にヴェルの目つきが座ってきたので、ありがたく使わせてもらう事にした。
ついでにとヴェルから渡されたのは、受け取っていたグローブの説明書だった。
[ヴェントゥス・グローブ]
付与されしは瞬間加速と重量
魔力を通すことで発動し三十秒間の行使が可能。
(師匠のほうはまともで良かった……)
――――――――――――――――――――
「あっ、このカップかわいい~」
宿屋に向かう途中、食器類が売っている露店が並んでいる辺りで一つの木製カップに目が留まった。
(あ、女将さんへのお礼……)
そう思い手に取ってみると、全て一つの木材から切り出しているようで、縁に肉球の彫り物があってとても可愛かった。
「すいませーん、これ六個ほどありますか?」
奥で片付けをしていた、筋肉ダルマのような男の人に声をかける。
(……レスラーみたいな体型だなー)
「まいど! これは一つ一つ手作りなんだ。だから全部同じ柄じゃないがいいか?」
このカップも他の木彫りの食器は全てこの筋肉ムキムキのおっちゃんの手彫りらしい。
(人は見かけで判断しちゃだめよね……)
この街に来てまだ二日目だが、ヨルはきちんと学習していた。カップに合わせる形で、どうせならと、柄がお魚になっている可愛らしいティースプーンも合わせて買った。
「まいどあり! お嬢ちゃん、これはおまけだ!」
「ありがとう、これは?」
「うちの村で作ってる紅茶だ! よかったら飲んでみてくれ!」
「わぁありがとう!ありがたく頂くわ」
陽が傾き始めてきた頃、いくつかの露店が片付けに入っており、ヨルも宿に戻ろうときた道を引き返し歩き出す。今日はよく物をもらった日だなと思い返しながら宿屋に向かったのだった。
――――――――――――――――――――
女将さんに、お店を紹介してもらったお礼にカップとスプーンのセットをプレゼントしたら大層感激されて抱き付かれてしまった。みーちゃんこと女将さんのお母さんもにっこり微笑みながら握手をされたので気に入ってくれたんだろうなと思う。
(……お母さんか)
それから、テーブルに案内されてパンと野菜のスープ、よくわからない豚っぽい肉のソテーとサラダまでつけてもらった夕食を平らげ部屋に戻ったヨルは、裁縫道具を取り出して脱いだスカートと短パンを広げて睨めっこしていた。
(うーん…このぐらいかな…)
今朝、適当に縫い合わせた部分を一度解いて、切り口に綿を入れて肌触りを良くする。上部にゴムをつけて尻尾を入れやすくして完成だ。
(あとは明日着てみてから手直ししよう)
ヨルは裁縫道具を仕舞い、ヴェルから頂いた魔道具をデスクに並べてから寝巻を持ってお風呂に向かった。
――――――――――――――――――――
翌日。
ヨルは傭兵ギルドの向かいに位置する冒険者ギルドまで足を運んでいた。朝イチで割りの良い依頼を確保しようと冒険者たちが集まっており、ロビーは喧騒に包まれていた。そんな中、ヨルは壁に貼られた依頼書を端から目を通していた。
(盗賊……山賊……謎の集団……無いわね~)
ヴェルから街道付近に盗賊が出ると言う話を聞き、まずはそれを糸口にしようと考えたのだが退治依頼などは見当たらない。
(これは自分で探すしか無いのかな)
まだ状況からの推測でしかないが、その怪しい集団が女性を誘拐し、それを生贄にして魔神を呼び出そうとしている。その召喚時の失敗作があの謎の魔獣。
それだけ聞くとお伽話か妄想かと言われてしまうような内容なのだが、ではあの魔獣の正体はなんだと言うことになってしまう。冒険者ギルドのなかでも上位の実力をもった一握りしか所属が許されていない傭兵ギルド。
その傭兵ギルドの精鋭ですら、あっさりと全滅させてしまうあの魔獣たち。魔獣にやられた彼らが弱いのではなく、あの魔獣たちの強さが異常なのだ。
それともう一つ。
(私、ひよっこレベルだと思っていたんだけどな)
実際ヨルの実力は、この街に居る全戦力の中では頭ひとつ抜き出るほど強かった。
(でも多分ヴェルには勝てない…)
あのロリ店主は一度だけ腰を捕まれて威嚇されただけだが、見た目とは全く違い相当強いというのがヨルの認識だった。
(それにあのタコには全力をぶつけてやっと倒せた。あれより強いのが現れたら…)
そんなことを考え、ヨルは無意識に手をギュッと握る。
(魔獣を呼び出してる奴らを見つけて、勝てないような魔獣を呼び出される前に倒す! 手遅れなら逃げる!)
結局ヨルは、やられる前にやれという師匠の教えに従おうと決めた。
(事件の解明は必ず私がやらなきゃならないわけじゃない。私はただの旅人だ。)
それでも――
(ここまでお膳立てされちゃ、動くしか無いよね)
ヴェルに渡された妙に高性能な装備品の数々と、話してくれた内容。それだけを考えるとヨルに一連の問題の真相を解決させようとしているのは明らかだった。
(とりあえず、盗賊とやらを片っ端から潰して、芋づる式に謎の集団を探して潰すってことでいいか)
耳につけたイヤリングを指でもて遊びながらヨルは冒険者ギルドを出て行くのだった。
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