雪の都に華が咲く

八万岬 海

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05-Chorus

070話-歴史を読み漁る

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 ミラとマリベルを伴い城の中を案内してもらう。
 まだ朝方のため、あっちこっちでメイドさんが窓を拭いたり床掃除をしたりしている姿を見かける。

「ユキ様、どこか行きたい所はございますか?」
「えっと、まず監獄にお願いできますか? 犯人を飛ばす先を確認しておきたいので」
「承知いたしました」

 前を歩くミラとマリベルが進行方向を変え、階段を降りて一階へと向かう。
 俺は相変わらず物珍しさにキョロキョロとしながら後をついていく。

「ミラさんおはようございます」
「おはようございます」
 
「おはよう。タナ、今日は体調が悪いなら無理しちゃダメよ?」
「お気遣いありがとうございます」

 すれ違うメイドさんが全員頭を下げて行く。
 俺が客人だからというのもあるが、ミラが他のメイドに慕われているというのもあるだろう。

「ユキ様、こちらでございます」

 一階へと降りると廊下を曲がり、少し狭くなっている通路を暫く歩くと廊下の先に突然扉が現れた。
 鉄で出来た無骨な扉が壁のようにそびえており、その前には二人の兵士が帯剣した状態で立っていた。

「ミラさん、お疲れさまです。どうされましたか?」
「こちら陛下のお客様である『荒野の星』現座長のユキ様です。監獄へと案内したいと思っております」

「お話は伺っております。ユキ様、この先は犯罪者も収監された建物につながっておりますので、我々も同行させていただきます」
「よろしくお願いします」

 二人の兵士が敬礼し扉を開くと、奥へと続く薄暗い通路が見えた。
 一礼してから先導してくれる兵士の後ろにミラとマリベルが着いていき、その後ろをゆっくりと歩いていく。
 この通路は城とつながっている別館の騎士・兵士宿舎へ通じており、その地下に監獄が用意されているらしい。

 軽犯罪者は、街中にいくつか存在する兵士駐在所に収容されているらしく、この先にある監獄は重罪人専用だそうだ。
 それでも地下三階まである大きな監獄となっているらしい。

「ね、ユキ様? ユキ様ってアーベル様と同じ魔技が使えるってこと?」
 
 兵士に説明を受けながら歩いていると、前を歩いていたマリベルが歩く速度を落とし隣へと並ぶ。

「一応使えるよ」
「そうなんだ、ユキ様って他にも魔技使えるのよね? すごい……私より年下なのに」
 
 色々と魔技が使えるのは確かだが、詳しい話はできないため適当に笑って誤魔化しておく。
 そのままマリベルと話しながら歩いていると今度は鉄格子の扉が前方に見えてきた。

「あれが?」
「はい、あちらの鉄格子の先が階段になっております。足元お気をつけください」

 鉄格子を通り過ぎる手前でミラが隣へと来て手を握ってくる。
 マリベルには反対側の手を捕まれ、またしても連行される気分な姿で階段を降りて行った。




「こちらが大監獄でございます。こちらのフロアの右半分の大広間をアーベル様がご利用されておりました」

 兵士の一人が敬礼をしながら説明をしてくれるのは、本当に大きな牢獄だった。
 このフロアの半分ほどを締めるエリアを鉄格子で区切って牢屋にしているようだ。
 
「じゃぁ、俺が犯人を捕まえたときはここに飛ばしても?」
「はい、問題ございません。当方で適切に処理いたします」

 ここへ『全ては夢の近くアレス・トラオムナーエ』を使って犯人を飛ばせば、後は勝手に兵士の人たちが救護、取り調べから刑の執行までしてくれる素晴らしいものだった。
 ただ、陛下からの依頼で動いている事件の犯人限定という制限はあるが、それでもわざわざ城まで護送してくることを考えると相当楽だ。

 俺は兵士の人に礼を行って上に戻ると、ついでにと騎士宿舎と練習場を案内されたあと図書室へと連れて行ってもらった。

ーーーーーー

 「ミラ、マリベル、ありがとう。ちょっと調べごとしたいからあとは大丈夫だよ」
 「はい、承知いたしました。お戻りになられる際はそちらの司書にお声がけ頂ければ結構です」
 「ありがとう。楽しかったよ」

 ミラとマリベルが綺麗に一礼をする。
 二人に手を上げ、何から読もうかなとしていると背後から二人が抱きついてくる。
 
 「あの……とても楽しかったです」
 「また、また遊びに来てくれますか?」

 「仕事もあるし旅をしているからしょっちゅうは来れないけど、エイスティンに来たら顔出すね」
 
 「お待ち申し上げております」
 「絶対だよ!」

 思っていた以上に懐かれた二人に今度こそ別れを告げ、図書室の奥へと向かう。
 監獄がある建物とは反対側にある同じぐらいの建物。
 ここはなんと魔法や魔技の研究者が居る建物らしい。
 その建物の地下二階から地上三階までの五フロアが図書室となっているそうだ。

 エイスティン中からだけではなく近隣諸国からも集められた貴重な本。
 歴史書や経済書、ただの物語から魔法書、中にはどれだけ調べても書かれている事すら解らない本もあるらしい。

 夜には読書をする人や上のフロアの研究者の人たちが多く訪れるらしいが、まだ午前中ということもあって人の姿は殆どない。

 「さてっと……見つかるかなぁ……『兎の幻想レプス・パンタシア』」

 俺は本棚の影に隠れ、幻影を作り出す。
 六華は宿に向かいアイナたちに伝言をしたあと自分で消えたようで、目の前に再び現れた。

 「なぁ……消えてる時ってどんな感じなの?」
 
 勝手に消えて魔技を使うと再び現れる六華と銀華。
 
 『んっと、寝る感じかな……こうフッと意識がなくなって、よく寝たな―って感じになるとお前が目の前に居る』

 六華と銀華が説明をするのだがよくわからない。
 とりあえず一フロアに二十人ぐらいでいいかと思い、二人を含め合計二百体の俺を作りだす。

 目指す情報は「この国の歴史」に始まり、相手の魔技を奪う魔技、なにか便利そうな魔技、ナルヴィ帝国の情報、エイミーのふるさとのエクルースというエルフの国の情報。
 とにかく俺の知らない情報のうち、今後必要になりそうな知識を片っ端から集めることにした。

 幻影を消すと俺本人に知識が還元されるのであれば、何処かの影分身ではないが利用しない手はない。

「じゃぁ解散!」

 一斉に八方へと散っていく俺の幻影。
 台所で出会いたくないヤツのような感じはするが気にしない。

 俺は俺で手頃な手前にある本棚から攻めることにして、今までは自分から手にとったことのないような太いハードカバーの本に手をかけた。

ーーーーーーー

「結局歴史ぐらいしかわかからなかったなぁ」

 あまり時間も掛けたくなかったので短時間だったが、それでも幻影二百体で集めた情報は中々のものだった。
 俺が知らないような魔技はいくつか書かれていたが推測や論文ばかりだったので、参考程度にとどめておこうと思う。
 基本はこの国や世界の歴史、戦争の話がほとんどなのだがいくつか興味深い話も見つかった。


「歴史に残る程の大発明……」

 鉄やガラス、革製品など突如としてこの世界の歴史上にあらわれている品物がいくつかあった。
 俺的には珍しいものではないが、産業革命なんてものもなく突然現れていたのだった。

「やっぱり誰か居るんだろうな」

 簡単に想像するなら俺と同じ転生者が過去に何人か居てたのではないかという想像。
 思い出してみれば、石畳に馬車というような世界観にもかかわらずアイナが履いているシューズやジーンズのようなショートパンツ。
 他の住人たちも身につけているものではあるが、建物や文化などを考えるとかなり不釣り合いなのだ。

 今同じ時代に居るのか、はるか昔に居たのかは解らない。
 だが、転生者が存在していた居た形跡が歴史本を見ていると時々見かけるのだ。

「……お風呂作るのはデフォなのか」

 実際この世界、湯船は普通に存在するし温泉なんてものも普通にある。
 住人が清潔なだけかと思ったが、これも誰かの仕業のように思えて仕方がないのだった。

「まっ、この辺も追々解るだろうし……そろそろ帰ろう」

 俺は手にしていた本を棚に戻すと、司書さんへと声をかけ図書室を後にしたのだった。
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