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02-Verse
013話-魔技のひみつ
しおりを挟む俺が一通りクルジュナとアイナの魔技を発動させ、それを見た座長とアイリスは再び座り相談を始める。
俺はそわそわとしながら待っていると「結論が出た」と座長が俺の前に座り、残りのメンバーに円陣に座るように座長が指示した。
「ユキ、君の……仮に魔技だとすると、君の思っている通り、見たことのある魔技を発動できるようなものだろう」
「やっぱり……」
座長に言われた通り、今までの流れからするとそれ意外はありえないものだった。
ゲームなどでもよくある「コピー能力」というやつだとぼやっと考えた。
(もしくは青魔法的な……?)
俺がぼんやりと某ゲームを思い出していると、座長が衝撃的な一言を放った。
「しかも元の魔技を更に強化させて発動できると考える」
「……え? 強化させて?」
コピー能力が本来のものより劣化するというのは聞いたことがあるが、強化させてというのはあり得るのだろうか。
少なくとも俺が触れたことがある作品では記憶にない。
「座長、えっと、それどういう理由でその結論に……?」
「リーチェの魔技は知っての通り幻を見せるものだが、その強化版と言われるような魔技があるのだ。想像したものを具現化して使役するというもので、帝国のとある貴族が代々受け継いでいる魔技だ」
「……クルジュナのは?」
「クルジュナの魔技は直線に放つ矢だ。君は先ほど三発同時に出した上に、放った後に軌道を修正していた」
「じゃあアイナのも?」
「私の身体強化はシンプルだからさー。もしかしたら強化率とかじゃないかな……ユキが私と同じ速度で付いてきたじゃない」
「ふむ、確かにそう言われてみればそうかもしれないな」
座長が顎に手を当て、何かを考え始める。
ケレスに「私のも使える?」と聞かれたのだが、見たこともないのでなんとも言えない。
だが今のところ使えた率が100%なので、ケレスの魔技がどんなものだとしても使える気がする。
だが、それはそれで少し気になる事がある……。
魔技とは利用者本人のユニークな技だと聞いた。
似たような効果を持つ魔技もあるが、基本的には血の滲むような努力をして使えるようになった人もいるそうだ。
他人に自分より高い効果をもって簡単に真似されるなんて、俺なら悔しくて仕方ないだろう。
「これが俺の魔技だとすると……その……」
「どうしたの?」
絞り出すような俺の声を聞き、リーチェが心配そうに声をかけてくれる。
「その……みんなが頑張って使えるようになった魔技を……見ただけで模倣されて、しかも効果も……」
俺の言葉にキョトンとするエイミーとリーチェ。
恐る恐る全員を見回すと、理解したような顔と意味を考えている顔が半々だった。
「ユキ、君のその力は素晴らしいものだ。基本的に皆は歓迎するだろう。だから心配するようなことは何もない」
「それはどういう意味ですか……?」
「いいかい? 魔技もそうだが魔法も自分の想像力が元となっている。つまり使えるようになったということは心がその魔技の効果を理解したということだ。ここまではわかるね?」
先生のような座長の言葉。
アイリスにも習ったが「自分が自分を知らなければ魔法も魔技も使えない」という事だ。
だがそれが「歓迎する」というのはどういう事だろうか?
「魔技は使えば使うほど強化されるものがある。だが自分しか使い手の居ない魔技の効果は、強化した場合どうなるのかが理解できないものも多い」
つまり座長が言うには、リーチェ魔技は『幻を動かした場合こうなる』というのを心で理解していないと、強化させる事ができないということらしい。
「つまりユキが再現した魔技を見て、自分の魔技が強化される可能性がグッと上がるはずだ」
「……本当にそんなことが……」
「詳しいことは私たちにもわからない……けれど試す価値はあると思うわ」
今度はアイリスが座長の後を継いで説明を続けてくれる。
「まずはクルジュナとリーチェの魔技で、その後、ハンナの魔技で試してみましょう。それなら安全だわ」
「……私は……リーチェの後でいいわ……」
「そう? じゃぁユキ、あとでもっとじっくり見せてねっ」
「さぁ、とりあえずこの話は一旦終わろうか。みんな明日は中央広場での公演だ。しっかり明日に備え、今日はゆっくりと体を休めよう」
最後に座長が締め、全員がそれぞれ荷物の片付けを始める。
俺も頭を切り替えようと、最後に自分の手帳をもう一度具現化させてページをめくってみた。
(やっぱり魔技だけしか書かれていないか……)
何か元の世界のことが書かれていないかと思ったのだが、残念ながら他のページは全て白紙だった。
(明日は公演日……か)
大道芸をして日銭を稼いでいるというこの一座。
何度か練習を見学させてもらっていたのだが、俺としては不安しかない。
全員が身体能力はすごく、技の一つ一つを見ても「おおっ!」とびっくりするようなものばかりだった。
(アイナなんて忍者みたいな動きしてたしな)
だが「それだけ」だった。
そこにはエンターテインメント性はほとんどなく、悪く言えば「ただ技を披露しているだけ」だ。
(この世界ではこれが普通かもしれないし)
まだ半分部外者という意識があるためか、みんなのやっていることに口出しをするつもりはあまりない。
(それこそ余計なお世話だ……)
でもMCぐらいはあってもいいんじゃないかと思う。
(マイクとか無いのかな……)
未だにこの世界のことをほとんど理解していないので、どこまでが助言になって何処からが余計な口出しなのか線引きもできていないのだ。
「ユキ、どうしたの?」
俺の様子を気にかけて、いつもすぐに心配して声をかけてくれるエイミー。
リーチェも自分の荷物を解く手を止めてこちらを心配そうに耳を傾けていた。
(優しすぎるんだよな全員……余計なお世話はしないほうがいいだろうな……)
そもそも、細々とやる方針なのかもしれない。
俺はエイミーに「大丈夫」と返事すると、気を取り直してみんなの荷解きを手伝うことにした。
――――――――――――――――――――
「ユキ、ちょっと」
リーチェの食器類の荷解きを手伝っていると座長が声をかけてくる。
「えっと、どうしました?」
手を止め見上げると、座長が顎をクイっと階段の方を指し階段へと向かう。
俺は立ち上がりその後をついていった。
俺と座長は宿屋の一階ロビーに置かれている木製のベンチへと並んで座る。
「先程の魔技だが、何かのリスクも隠れている可能性があることは覚えておくように」
「リスク?」
「そう、膨大な魔力を使うというものはまだいい。だが世の中には寿命を縮めるという特殊なものも存在する」
「寿命……」
「アイリスの見立てでは、使った魔技より少し多い目の魔力が消えていると言っていたので、あまり心配は要らないと思うが……一応留意しておいてくれ」
「わかりました……」
「あと、リーチェの幻影だが……実在するものの場合、その人物の希望にそった行動をする可能性がある」
座長が耳を疑うようなことをさらっと言う。
本人の希望に沿った行動?
「え……っと……つまり、その、クルジュナは……え? どういうことですか?」
突然の暴露に頭が混乱する。
エイミーとは違う意味でお姫様のような性格のクルジュナ。
恥ずかしがり屋で顔を見て話すだけで顔が真っ赤になるのだが、あんな積極的な行動が本心だとでもいうのだろうか。
「本人に問いただしたら、ユキともっとスキンシップを取りたいと思っていたと暴露したよ」
下手なことを言うと心臓を打ち抜かれそうな眼光を向けてくるクルジュナ。
そんな彼女の本心を問いただすとは、座長はやっぱり凄いんだなとよくわからない感想しか出てこない。
「それと…………いや、明日は人員整理よろしく頼むよ」
立ち上がり何かを言いかけて言葉を濁した座長だが、結局それだけを言って地下へと戻っていった。
残された俺は、ただただクルジュナとどういう顔をして話をすればいいか頭を悩ませるのだった。
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