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 アログナはバッグを片手に持ちながら、駄々広い魔王城の中にいるとある人物を探すため、半ば駆け足気味で城内を走り歩く。

 城のとある庭に勢いで出たためか、太陽の光がとても眩しい。
 
 帽子がほしい……
 
 だが、今私は貴族ではなく医師としてここに来てるので、白衣を着ている。
 持っている帽子にあうドレスを着るには非常に作業がしにくく動きにくい。
 
 
「……はぁ。」
 
 
 仲間の医師たちには軽く説明してから、とりあえず真っ先にあの人に助けてもらおうと思いここまで来たけれど……
 あの人もこの話を聞いたら、私と同じくこのモヤつきに頭を抱えるでしょうね……
 
 考えながら庭を歩いているうちに、お探し中の人物が今いそうな場所にようやく到着した。
 そこは、花や植物を育てるために温度や湿度が管理された大型テントであるあの人専用の温室だ。
 前にいる、本日の護衛騎士に顔パスで入手許可を頂いたので、早速入室する。


「アログナです、失礼します。」

「おや、誰か来客が来たと思ったらアログナじゃないか。」
 
「お久しぶりですね、聖女様にカミィス。」

 
 そこで出迎えてくれたのが、薬草研究員であるカミィスと、この温室の主人聖女アリカ様だ。
 カミィスとは昔医療研究関係で知り合ってからよく連絡し合う友達だ。
 

「あら、アログナ様こんにちは。ディオン様の診察し終わったのですか?」
 
「はい、……ですが少し問題が。……それで、ちょっと聖女様に相談したいことがありまして……今お時間ありますか?」


 その言葉を聞いた彼女は少し顔を強張らせる。
 

「ええ、構いませんわ。急ぎのようですので、こちらに。」

 
 聖女は温室の中の木製のテーブルと椅子がある場所に招く。

 
「おっと。では私は退室しますね。」

「いえ、あなたもここにいてほしいわ。」


 私は退室しようと扉の方に向かって歩いていたカミィスを呼び止める。


「いいの?」

「ええ。」


 聖女様が先に座るのを確認してから、カミィスと私は椅子に座る。


「……まず、ディオン様の診察結果はどこも異常がありません。そこは大丈夫です。」
 

 それを聞いて2人はあからさまにホッとする。

 
 「ですが……何から言えばいいか……」


 私はとりあえず、先程の出来事を2人に簡単に説明した。
 

「――それで、ディオン様は私に神殿に石を届けてくれないかとおっしゃりまして……」

「……魔王様にはお伝えしましたか?」

「いえ、探しても見当たらなかったです。ですので、夕食の際まで……今お休みになられているだろうディオン様が起きるまでに、せめて聖女にお伝えしといたほうがいいと思い、すぐこちらに。」

「……お忙しいのに、ありがとうございます。」

「……こりゃ相当落ち込んでるね魔王様。」


 私は先程聖女様の侍女が用意してくれた紅茶をグイッと一気に飲み干す。


「暫くは今まで通り定期的に魔王様から魔力を提供をしてもらったほうがいい、とお伝えしても、ディオン様は頭を縦に振らず……その……他の方を探すと言い出して……」

「……ほんと、本日中にありがとうございます。」

「それで、アログナはその石持っていくの?」

「ええ、約束しましたから。……ですが、魔王様にはまだお伝えできていなくて……」

「まぁ、普通許さないもんね。」

「……だいぶ拗れちゃっていますね。」

「そうなのですよ聖女様。もう、私だけでは解決できそうにありません。何卒お力添えをお願いします。」

「……宰相様のことですから、目の前で魔王様と相性がいいと証明されても信じないでしょうね。」

「そうだね、あの子一度決めたらとことん最後まで貫こうとするからね。」

「そこでカミィス、元人間だったあなたにちょっと相談なんだけど。」

 
 そう、カミィスは元人間の魔族でお相手は前宰相様である。
 しかもディオン様を養子で引き取ったので、父親でもある。
 だがそれは書類上であって、実際は前宰相様だけが短期間でディオン様を鍛えた後すぐにカミィスと共に引きこもってしまったため、あまりカミィスとディオン同士直接交流がないらしいが。
 だが、手紙でやり取りしていたらしく仲が良いみたいだ。
 ちなみに、前宰相様はディオン様の代わりに執務を行うため、今王城で働いてくれている。

 
「何?」
 
「人間だった時、あなたがパートナーと番うと決めたキッカケ……とか教えてほしいの。私みたいな獣人とかは相手の匂いも好きになるキッカケの一部なのだけど。」


 カミィスは顎に人差し指を乗せて、うーんと言いながら考える。

 
「そうだねぇ……。私の場合、彼女に猛烈に毎日アピールされたから意識したけど。」
 

 えへへっと恥ずかしそうに言う。

 
「毎日猛烈アピールねぇ…………カミィス、それ魔王様にできそう?」

「「………………」」


 この場にいる者全員、押し黙る。


「……魔王様って……失礼ですけれど……ヘタレですよね……」


 聖女が静かに言う。


「それ、私も思いました……」

「側に居てくれているだけで満足しているというか……」

「だから逃げられるんだけどねー。」


 この場にいる皆が同時に溜息する。
 

「あれだけ露骨に大切にして周りに威嚇しているというのに、それに全く気付かない宰相様……」

「……それ、ただの魔王様の一方的な片想いじゃん。」

「……カミィスそうなのですよ。だから悩んでいまして。」

「微塵も伝わっていないから、ディオン様は暴走していると……」
 
「……これは、周りのフォロー必要そうですね。」
 
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