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 私はアログナに片腕を差し出し、彼女に血液検査というものをしてもらう。

 腕に針を刺したかと思えばすぐに腕から離し、手のひらサイズの石盤に針に付着した一滴の血を垂らす。
 すると石盤が反応し、赤色に光輝いた。


「赤色ってことなので、やはり魔族の血で間違いないですね。こんだけ輝いていたら体内魔力も十分ですね。」

 
 魔力量多いですねー、とアログナは言う。

 私はふと疑問に思ったことを彼女に尋ねてみる。

 
「私の血が魔族の血となったら、今までの人間とは違う身体の作りになってしまったのでしょうか?」

 
 それにしては、なんも変わったところは見当たらない。

 
「見た目はほぼ人間体のままですが……違うとしたら生きるうえで大切だった食事が不要になります。あと魔力量が増えたとかですかね。ですが体内の魔力量が増えても、個人が扱える魔力量は変わりません。」
 
「おぉ……、過去の私でしたら、食事の時間がなくなったということは、その分仕事に割くことができると喜んでいたでしょうね。……分かってます。そんなことしませんよ魔王様。」


 予想通り彼はジト目で私を見ていた。
 私をなんだと思ってるのですか。
 ……まぁ、根気詰で働いていた前科はありますが。
 ふふっ。
 ちょっと笑ってしまう。


「……これでですね、ちょっと問題が……。食事不要が便利だと、安易に魔族の血を欲しがる者達がちらほらと出てきました。魔力の相性が良いのが条件とはいえ、少しでも良ければ良いというわけではないのです。昨今では、お互いの仲も魔力相性に関係するという研究報告があがっています。魔力相性がよくても知らぬ仲だと、魔力発作を起こしてしまう……それをよく分からぬ者がまだ多くいます。」

 
 彼女は使った魔道具を片付けながらそう言う。
 

「まぁ、魔族の方たちは赤の他人、しかもたくさんの者に渡すなんてことはしないので安心ですが。……相性がよくない相手なんて尚更興味ない種族ですからね。血を渡すに値する人物がいたら、すぐ囲い込みますよね。」

 そう言いながら、彼女は魔王様に目配せする。
 魔王様はそれに対して、恥ずかしそうに外を眺めだす。
 
 そうか、だからあの時私を拾ったのですね。
 魔力の相性が良いとなんかしらで感じ取って。
 そしてビジネスパートナーとして側に置くために。
 
 
「閣下!気になりませんか?血だけ魔族という中途半端な状態から完全に魔族になることができるとしたら。」

「え?えぇ、まぁ。」
 

 そりゃあ、気になりますけど……。
 
 チラッと隣を見てみる。
 すると、魔王様が目が合うと尚更物凄く顔が赤くなってしまわれました。
 何故でしょうか。

 そんなことはお構いなしに、彼女は語りだす。
 
 
「うふふっ。実はですね……魔族は人を同族にできる力があるのです。ただし、お相手は番のみです。番以外にはしませんし、しようとは思いません。……だって、それは相手と交わらないとできないのですから。」

 
 彼女はニヤつく口元を必死で手で隠す。

 あぁー、交わる必要がある……と。
 だから、魔王様はあんなに恥ずかしがられてらっしゃるのですね。
 部下にこういう事を聞かれるのは、誰だって恥ずかしいものですからね。
 気にしてないとアピールしなければ。

 
「そうなのですね。魔族にはそんなお力が……。やはり強い種族となると、人間にはないお力があるのですね。」

 
 とりあえず、客観的に述べる。


「魔族になるかならないかは、ちゃんと魔王様とご相談して下さいね。それと、一応身体が変化した際には私か他の医者をお呼びになって下さい。」


 彼女は変な事を聞く。
 
 私が番うようなことを……
 それはない。
 彼には運命の番が過去にいたはずだから。
 悲しくもすれ違いの……
 魔族は運命をそれは大事にすると聞きました。
 過去に出会えたとしたら、その者以外とは番たいとは思わないでしょう。
 

「あはは。ご冗談を。」

 
 すると、彼女は不思議そうな表情をする。

  
「え?」

「……は?」


 遅れて魔王様も驚く。

 何故あなたも驚くのです……
 あっ!
 何故知っているのか驚いたのですね。
 
 私は安心させるため、彼に見せつけるように満面の笑みを浮かべる。

 
「ふふっ。」

「…………」

 
 すると、彼は赤かった顔色が今度は顔面蒼白になる。

 そんなに知られたくなかったのですか……

 今度は、私は困ったように笑いながら言う。

 
「……すみません」
 

 すると、彼は震えながら私の手に重ねていた手を離し、そっと自身の頭を抱え出した。

 それをしばらく見守っていたら、彼は静かにポツリと呟く。


「……少し外に出る」


 彼は心配になるほどフラフラとした足取りで部屋から退出する。
 バタンと扉が閉じる音がする。


「……閣下、もしかして他に気になるお方がいるのですか?」

 
 アログナが先程の穏やかな表情とは違い、真剣な表情をしながら聞く。


「気になる?いえ、いませ――」

「っでは、何故?!」


 アログナは凄い形相で聞いてくる。


「えっ……、魔王様は過去に……番の方がいらっしゃったのでしょう?」

「へ?い、居ませんよ!聞いたことありません。」

「ですが……」


 あれ?
 私の勘違いでしたか?


「……なんだ、勘違いでしたか。……よかったです。本当に。」


 アログナは短期間で疲れたのか、部屋に用意された椅子に座る。


「そういえば……、魔王様本人から聞いたことありませんね……」


 ……元々口数少ない方なので、詳細は分かりませんが。


「……思い切って聞きますが、閣下に魔王様と将来番いたいお気持ちはありますでしょうか?」

「魔王様と……番う……」


 私は一度頭の中で考えてみる。
 だが……


「……正直、考えたことがありません。」

「魔王様が好きとか……愛しているとか……」

「愛……」
 
 
 魔王様のことは好きだ。
 だが、私は彼に感謝し尊敬しているからであって……


「………分かりません。」


 愛など……愛国心しか……分からない
 
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