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「よくぞ来られた、レンダリル国魔王。私はアンデリック国の王、バハムスである。」

「歓迎を心より感謝する、バハムス王。」
 
「その他の皆も我が国のパーティーによくぞ来られた。皆、遠いところから来たのだ。まずは、楽しんでくれたまえ。」

 そして王と王妃が用意された玉座に移動する。
 
 2人は豪華な衣装に豪華な装飾品をこれでもかと着込んでいるためか、ノソノソと動きが遅い。
 
 ようやく王と王妃が席につくと、一斉に楽器団が演奏をしだす。


 
 私は周りを見渡す。

 私は、パーティに来ている人間貴族は以外と少なかったことに驚いた。
 ざっと人数は、人間側と魔族側が五分五分というところか。
 魔族側は、ある目的のためにいろんな種族を連れてきたので元から多い。

 
 その中に魔族反対派である、学生のときに交流していた見覚えのある貴族がいるのが見えた。
 彼らは王からの誘いが断れなかったため、渋々来たのか。
 はたまた、今日の面白いイベントを見るために来たのか。
 奴らの性格でいうと後者だろうな。

 私の両親はどこにも見かけないので、そもそも呼ばれていないらしい。
 彼らなら喜んで行きそうなのに。

 運が良いのか悪いのか。

 
 どうしてなのだろう。
 誰も、今日のパーティーは危険だということが分からないのだろうか。
 巻き込まれる可能性だってあると言うのに。
 そこまで信頼できるほど異世界人は強いのだろうか?

 

 それにしても、人間側は揃いも揃って同じ表情をしている。
 他者を貶したい、踏みにじりたい、早くイベントが起こらないかとワクワクしている醜い顔がズラズラと。

 この空気は私が婚約破棄された時と似ている。

 その時、胃のあたりがズキズキと痛み出し吐き気におそわれる。
 
(……意外と私はトラウマになっているようですね。)

 私は冷や汗をかかぬよう、体調が悪いことがバレぬよう、より一層身体に力を入れた。
 
 だが、身体が無意識に震えていたのだろう。
 
「……私がいる。」

 隣にいた魔王様が心配し、ボソッと私に話しかけてくれた。
 
(魔王様に即バレるなんて、忠臣として私はまだまだですね。)

 それに、以前とは違い協力者が大勢、さらには魔王様までついている。
 恐れることなんてない。


「ああ!お二人ともこちらです。」

 王太子は手を振り、ある者たちをこちらに招いた。
 
「こちらは、異国から遥々いらした聖女様と勇者様だ。2人とも、こちらの方々はレンダリル国魔王アルファス殿とディオン宰相閣下だ。」

「私はアリカと申します。よろしくお願いします。」

 そう言って見事なカテーシを披露してお辞儀をする少女は、報告書通り鎖骨ぐらいの長さの黒髪に黒い瞳の人間だった。

 そんな彼女に私たちも自己紹介をした後、私は次に挨拶する勇者を見る。
 
 彼もまたショートヘア黒髪に黒い瞳の人間だ。
 身長は少女より少し背が高いぐらいだった。
 異世界人は元々背が低いのかもしれない。
 
 
「私はマサキと申し……。」

 勇者が自己紹介の途中で固まってしまった。
 何だ?

 魔王様も警戒して私をゆっくりと背後に移動させる。

 勇者の視線は何故か私と魔王様の顔を行き来している。

 そして、勇者はゴクリと生唾を飲みこみながらゆっくり話し出す。

「私はマサキと申します。……ディオンさん、あなたは人間ですよね?」

 うん?
 
「私はそうですが、どうかいたしましたか?」

「……魔族ではない?確か聞いたところによると、魔族は人間を同族にできたよな……。あえてしていないとか?」

 小声でブツブツと独り言を言っているみたいだが、どうしたのでしょう。

 その独り言の内容が聞こえたのだろう、王太子がいい案が閃いたと言わんばかりにニヤリと悪い顔をする。

 そして、こっそりと勇者の耳に小声で何かを伝える。
 
「マサキ殿、実はあの人間は魔王に洗脳されておるのですよ。」

「は?本当か!」

 王太子はその答えに頷いている。 


 そして、勇者はキッ!と魔王様を睨みつけたと思ったら驚くことを言い出した。

「魔王め、こんな美しい人を洗脳なんて信じられない!」


「「は?」」

 魔王様が誰を洗脳?
 流れ的に私なのでしょうか?
 魔王様も驚く展開で固まる。

 あぁ、そういうことですか。
 仲間である人間が魔族に捕まえてられている。
 しかも洗脳までされていると。
 
 そういう筋書きにして、戦になるよう誘導するのか?
 正直、そっち?って思うのが本心なのですが。
 あれだけ策を考えたのに、時間の無駄だったかもしれない。
 
 
「私は洗脳なんてされてませんよ。私は拾われただけ。そもそも私を捨てたのはアンデリック国なのですが。」

「騙されてはなりませんよ勇者殿。洗脳されておるから、そう言えと命令されておるのでしょう。おお、可哀想に。」

 そういうと思いましたよ。
 予定外の出来事に、少々めんどくさいことになりました。

「あぁ……美しい人だから、あんなことやこんなことを……。」

 勇者がまた何か恥ずかしそうに顔を手で隠し、ブツブツ独り言を呟いている。
 失礼な事を考えているのかゾクッと何か寒気がします。

 魔王は耳がいいから聞こえているのか、また私を抱きしめてきました。

 そんな魔王の動作を見た勇者は何やら決意した表情に変わった。

 
「魔王!私と一騎討――」

「ちょっと待ってマサキ。落ち着いて。勝手に暴走しないで。」

「な、何でだよ。」

 
 聖女はスゥッと軽く深呼吸をして私たちを見る。
 

「マサキのご無礼をお許しくださいませ。」
 

 そして、少女は深く頭を下げて謝罪しました。

 
「構わない。」

 
 魔王様がそう答えると、彼女は安堵したのかあからさまにホッとしている。

 
「寛大なお心ありがとうございます。」

「聖女様?どうしたのです?どうしてお止めに?」

 
 王太子が何か焦っているようだ。
 十中八九、あのとき閃いた計画がいきなりおじゃんになったからだろう。
 あんな計画で。
 
 彼女はそんな王太子を無視する。
 

「ご無礼を承知でお願いしますが、ディオン宰相閣下に一応洗脳解除の魔法をかけてもよろしいでしょうか?」


 あれ?
 情報と違う。
 ただ回復魔法だけを使用することができると聞いていたのですが。


「聖女様?!そんなことができるなんて私は聞いておりませんぞ!」

「ええ。わざと言ってなかったのです。」


 そして、彼女は私にまた振り向く。


「といっても、使い方はこっちに来る時に神様が教えてくれたってだけでして。この世界に来てから使ったことないのですよ。それでも構いませんか?」


 そう言いながら私に片手を差しだす。
 
 私は、魔王様に目配せしたら魔王様が頷くのを確認した。
 

「これで疑いが晴れるのならば。お願いします。」


 私は魔王様から離れ彼女の前に立ち、綺麗な手のひらの上に私の手を添える。

 彼女は黙り込んだと思ったら突然、彼女は体から光を発した。
 そして、私の身体に神聖な魔力が流れてくる感じがした。
 魔法を使っているのだろうが、少しくすぐったく感じる。

 
 くすぐったくて笑いそうになるのを必死に我慢していたら、ようやく彼女から光が収まった。

 すぐさま魔王様が心配して私の近くに来て様子を見てくる。


「宰相閣下、どうです?変わった感じがしますか?」


 彼女も心配そうに私にそう言う。


「いえ、いつも通りだと感じます。」

 
 そもそも洗脳されてないのに。
 ただくすぐったかっただけです。


「やっぱりだと思いましたよ。魔法がちゃんと発動したというのに、解除するものがなかった感じがしたので。」


 そして聖女は私たちの前に立ち、王太子の前に立つ。
 
 
「で?何か言うことはないですか、王太子様?」
 

 
 
 
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