上 下
4 / 19

4

しおりを挟む

 
「着いたぞ。」
 
 外にいた護衛のセオドアが声をかける。
 
 ようやく到着したようだ。

 セオドアが扉を開けてくれたので、私は馬車のような乗り物の大型魔導車から降りようとしました。
 ですが、魔王様先に降りて腕を手すりのように固定して待ってくれていたので、私はありがたく腕を借りて降りました。
 
 懐かしい木々や花の匂いが鼻をくすぐる。
 
 私は昔、この城にわざわざ教育を受けに来ていました。
 そんな出来事が、今でははるか昔のように感じます。
 久しぶりの母国の大地に足を踏み入れたというのに。

 
 さて。
 とうとうこの日が来ました。
 前日までこの日の準備に追われていたため、私は若干寝不足です。
 他の魔族方もあれだけ忙しくしていたというのに、何故か元気なのですよね。
 これが人間と魔族の差。
 
 ほんと、頑張りましたよ私。
 この疲れが、無事報われればいいのですが。
 
 
「……」
 
 いつの間にか隣にいた魔王様が、私の前に片腕を差し出してきました。

 私をエスコートするということでしょうか。
 私は素直に差し出された腕にソッと片手をおく。

 本日の魔王様はいつもとは違い、前髪をかきあげたスタイルをしており、いつもより美しさに磨きがかかっています。

 ヘアスタイルを担当した従者には後でボーナスでもお渡ししましょうか。
 

 本当はフードを被る予定でしたが、魔王なる者が顔を隠すのは魔王様が舐められてしまいます。
 なので、却下いたしました。
 それに、こんなに美形なのに隠すなんて勿体です。
 見せびらかして堂々と自慢しちゃいましょう。

 お召しになっている服装も、黒い布地に細かい赤や緑の刺繍が寄り添うように施されており大変綺麗でございます。
 それに、白い刺繍であの花を表現しているみたいですね。

 服装に関しては私はよく分からないため、魔王様にお願いしていたのですが……予想以上にセンスがおありなようで感銘を受けます。

 私の服は魔王様が従者に指示した通り、あの花の祭りのときに誰かからもらった服と装飾品を着ています。

 従者によると、あの服たちは魔王様が用意して下さったものだったそう。

 魔王様のと全体的に色と刺繍のデザインが似ておりますので、これらはレンダリル国を象徴するデザインなのでしょう。

 セオドアも私とは色が違う服装を着ていますが、同じ模様を刺繍されているに違いありません。




 

「レンダリル国アルファス魔王陛下、並びにディオン宰相閣下でございます!」

 私たちの名前が呼ばれると、目の前の扉が開いた。
 魔王様にエスコートされながら広場に入ると、ガヤガヤとしていた空間が一瞬にして静まり、一斉に私たちに注目する。

 その他の来賓の方々が呼ばれる中、私たちは堂々と通路を進む。

 私たちの後ろで呼ばれている方々は、協力者として連れて来た我が国の同盟国と属国の方たちです。
 彼らはこちらから無理に連れて来ました。
 魔導車を貸すから何が何でも来いとね。

 それに、このいざこざを早いとこ終わらせないと、大事な番との時間が取れなくなるぞと少々脅してみました。

 人間以外の種族はみんな番のことが大好きでしてね。
 そこを利用しました。

 他国とは文化が違えど種族同士の戦争とかもなく、割と仲良しなのですよ。
 人間は魔族が独裁政治をしていると勘違いしていますが。

 こっちの人たちは分かりやすいです。
 番至上主義と言いますか、番は生きる一番の目的であり番の幸せが第一。
 血筋や種族にもまったく拘りがありません。
 まぁ、魔力の相性のいい番探しに命をかけすぎている印象はありますけどね。
 セオドアとか特に。
 
 私は、番とか運命ってすぐ分かるものなのでしょうか。
 私は人間ですので、魔力が見えたり匂いが分からないので不便ですね。

 ……今度、魔法石を使ってお相手探しでもしてみましょうか。
 覚えていたらですけれど。



 私たちを見て固まっている観衆はお構いなしで一直線で向かってくる、見覚えのある金髪碧眼の男が近付いて来た。
 
「やあ、久しぶりだな。来てくれたのかディオンス。いや、今はディオン・・・・宰相閣下だったな。」
 
 私の元婚約者アンデリック王太子であるゴードルフが1番はじめに話しかけてきた。
 だが、てっきり隣には実の妹がいると思ってのだが、別の女性が王太子に侍っていたが。

「それに、魔王様も。ようこそ我が国においでになられた。」

 ……魔王様から声をかけるだろうマナー的に。
 数年経っても阿保のままなのですね、この方は。

「こちらも、招待いただき感謝する。」

 魔王様が軽くお辞儀をしたので、私も軽くお辞儀をする。
 
「こちらは我が妻ハリエッタだ。」

 王太子は隣にいるパートナーを紹介する。
 ハリエッタ嬢は、私達に対し静かにお辞儀をした。

「閣下の妹とは魔力の相性はまぁまぁよかったんだがね。実はあの後、複数の男と肉体関係を持っていたのが分かったのだよ。それで、未来の王妃に相応しくないということで破棄した。」

 はははっと笑いながら急に王太子は語り出す。
 
 いや、こんな公の場で話していいことではないのでは?
 
「ああ!あと、閣下が私にしたとされていた王太子毒殺未遂のことだがね。実は婚約破棄するときに白状したことなんだが、私と君の婚約破棄のために妹が計画していたんだってな。ってことで、君は冤罪だったわけだ。あの時はすまなかったよ。」

 そして、王太子は私の身体を舐めますように見てくる。
 
「これで、我が国民に戻れるようになったことだし……。そうだ、君は予想以上に美人に成長したのだから、これからは私が責任を持って我が側室としてむかえ――」

 そして、王太子は嬉しそうに私の腕を掴もうと手を伸ばそうとするが、魔王様は許さなかった。

 「それは結構。」

 魔王様は捕まれそうになるタイミングで私の腰に腕を回し、私を後ろに引っ張ってくれた。
 ありがとうございます、魔王様。

「私はすでに宰相として魔王様に仕えている身なので、お気遣いはご不要にございます。」

 それに、あなたの側室なんて誰がなるもんですか。
 
 あなたの浮気癖はまだ治ってないようですね。
 そりゃ、浮気者に捕まるぐらいですもんね。
 

 ほら、周りをよく見たら皆さんヒソヒソと今のこと会話していますよ。
 魔王様もほら、ブチ切れ寸前です。
 人間の国から捨てられた私を、折角宰相にスカウトしたというのに、やっぱり返してと言われるとプライドが許さないでしょうからね。
 密着しているから、私の腰に回している腕の力が強まったのが感じます。
 ここで騒いでいけないと理解してるため、凄く我慢しているのが伝わります。
 
 これは、魔王様の魔力がダダ漏れしているに違いありませんね。
 我々が連れてきた人たちが恐怖に震えておりますからね。
 普段の魔力ではなく、怒りが混じっているからでしょうね。
 それに最もお強い魔王様の魔力なので尚更ですね。
 目を背けたり、匂いを遮るために貴婦人が手持ちの扇で鼻を隠している人もおります。
 王太子や私は人間だから何も感じませんが。

 こういうのも、人間とだけ話が通じない理由のうちの一つなのでしょう。

「では、心変わりした時は是非私にお気軽にお声掛けくださいね。いつでも私は待っていますよ。」
 
 だから、魔王様を煽らないで下さいよ。
 魔王様が小声で
「来ることのない返事を永遠に待っておけばいい……。」
 と言っているのをこの馬鹿が気付いて欲しいですね。

 
 
 

「異世界の勇者マサキ様、並びに聖女アリカ様でございます!」

 すると、この空気を壊すかのように登場する人物が現れました。
 彼らが出てきたとなると、そろそろ王も登場する時間でしょうね。

 さあ、みなさん。
 お待ちかねの時間がやってきましたよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

順番違いの恋(仮)

Me-ya
BL
【オメガバース】です。 私独自の解釈でのオメガバースですので、間違っているところもあるかもしれません。

次元を歪めるほど愛してる

モカ
BL
白い世界で、俺は一人だった。 そこに新しい色を与えてくれたあの人。感謝してるし、大好きだった。俺に優しさをくれた優しい人たち。 それに報いたいと思っていた。けど、俺には何もなかったから… 「さぁ、我が贄よ。選ぶがいい」 でも見つけた。あの人たちに報いる方法を。俺の、存在の意味を。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

この恋は無双

ぽめた
BL
 タリュスティン・マクヴィス。愛称タリュス。十四歳の少年。とてつもない美貌の持ち主だが本人に自覚がなく、よく女の子に間違われて困るなぁ程度の認識で軽率に他人を魅了してしまう顔面兵器。  サークス・イグニシオン。愛称サーク(ただしタリュスにしか呼ばせない)。万年二十五歳の成人男性。世界に四人しかいない白金と呼ばれる称号を持つ優れた魔術師。身分に関係なく他人には態度が悪い。  とある平和な国に居を構え、相棒として共に暮らしていた二人が辿る、比類なき恋の行方は。 *←少し性的な表現を含みます。 苦手な方、15歳未満の方は閲覧を避けてくださいね。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...