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 結局、私室にあった花は魔王様の手によって塵と化しました。
 何故かあの装飾具と服は無事でしたが。

 それに、何故か私からある一定の範囲から人が近付いて来なくなりました。
 私にが近づくと、皆さん共に渋い顔をなされるのです。
 鼻を抑える人まで現れます。
 流石に失礼だと思います。

 理由を問いただすと、私から匂う・・らしいのです。
 
 まさか、あの花の匂いが私に移ったのでしょうか。
 一応、体臭のせいかもしれないので浄化魔法を自身に使用したりしてみたのですが、一向に改善されないとのこと。
 では、魔力が匂うのでしょうか。
 魔族も獣人と同じ魔力を匂いで感じることができるみたいなので。
 急に魔力は変化する体質があるのでしょうか。
 
 一応、同僚のセオドアに聞いてみたところ魔力が身体中にへばり付いているらしいのです。

 もう、セオドアがドン引きするほどに。

 魔力で心当たりあるのは、魔王様の魔力でしょうか。
 最近、私とのティータイム時に必ずと言っていいほどハグしてきます。
 仕事にお疲れで、何か心寂しいのでしょう。
 ハグされると、毛布に包まれているような感覚で温かく気持ちがいいのですよね。
 
 もしかすると、本当に匂いの正体は魔王様の魔力なのでしょうか。
 ハグされているときに魔王様の魔力が染みついたとか。
 ありえます。
 ですが、その場合だと魔王様に会うときにも同僚は反応するはずですよね。
 
 そもそもの話、魔王様に対してその態度は失礼に値すると思いますが。
 
 
 考えても拉致があかないし、仕事には支障をきたしていないのでこの件は一旦保留とさせていただこうと思います。
 
 魔王様はいつも通りですし、そんなこと気にしてられるほど仕事が忙しくなりましたから。



 
「前回の報告書に記載していた、人間の国アンデリック国が異世界から人を召喚を成功したことについて、また新たに影から情報が入りました。」

「……」

 魔王様は書類から目を外し、こちらに向き直る。

「異世界から召喚できた人数は2名であり、2人とも人間であるそうです。推定17歳の若い男女らしく、共通してこの世界にはない服装をしていたと確認されております。その異世界人たちは何故か我々の言語を理解し話すことができ、対話が可能なようです。」

「様子は?」

「何故かこの世界に来たことに大変喜ばれていたらしいです。それと、アンデリック王と友好的な会話が確認されております。残念ながらアンデリック王は異世界人を我々魔族に対する切り札にするおつもりのようです。異世界人は魔族と敵対することに賛同されたと聞きました。」
 
「能力は?」

「アンデリック国の神殿の者が魔導具にて調べてたところ、2人とも光属性を持っていることが判明しました。男性は攻撃系光属性、女性は回復系光属性だったとか。」

 私はそう言いながら、先程受け取った書類束を魔王様に提出する。
 魔王様は書類を受け取った後、静かにページをめくって軽く目を通していく。

 敵対するとなると、異世界人は厄介です。
 魔王様は闇属性が特に得意とされているので、相性が悪いですからね。
 今頃、アンデリック王が異世界人たちに良からぬ何かを吹き込んでいることでしょう。
 魔族、ないし魔王様を討伐するように誘導していそうです。
 
 異世界人とて若者なのに。
 若者に戦争なんて体験させてはいけません。
 それに、この世界の面倒事に巻き込みたくありません。

 
 何故、人間たちはここまで魔族を嫌っているのでしょうか。
 私自身悪魔だとか噂されていた身だからか、魔族だから獣人だからだと差別化することに興味がありません。
 
 心が狭い人たちが国の上層部に多くいるからということでしょうね。


 やはり、戦争は免れないのでしょうか。
 戦争にはいいことがないというのに。
 なんと愚かな。

 何かしらの対応を考えなければいけないですね。
 これを機に、あちらこちらで引きこもっている魔族を呼び出してしまいましょう。
 

「1ヶ月後に開催される、王国主催のパーティーの招待状が届いております。罠の可能性が高いです。ここで宣戦布告を宣言する算段なのでしょう。」

「だろうな。」
 
「……使者として私が行きましょう。同族ですし、適任なのでは?人間以外の者が行くとなると威嚇されますからね。万が一私が捕まっても、宰相は他の魔族にでも――」
 
「だめだ、行くな。」

「ですが、不可侵条約だけでも結ばないと……」

 本当に戦争が起こってしまう。

「俺も行く。」

「御身の身に何かありましたら……」

「大丈夫だ。影もつける。」
 
「……魔王様でしたら、人間を怖がらせてしまうかと思いますよ。」

「フードを被っておく。」

 それでも怖がると思いますが……。
 
「……わかりました。」
 
 魔王様がそうお決めになったのなら、従いますよ。

「もういっそのこと、セオドアを連れて行きましょう。彼行きたがっていたじゃないですか。喜ぶと思いますよ。」

「……そうだな。」




 これから一ヶ月後に向けて、色々と準備していかなくてはいけませんね……。

 それに、このことを同盟国と属国にも通達しなければいけません。
 
 ……はぁ、しばらくはティータイムできなさそうですね。

 

 
 
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