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カムイの贈り物
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東京は連日猛暑日が続いた。
空木は、週末に予定しているトムラウシ山登山に備え、連日トレーニング室に通った。
土曜日、空木は羽田空港から札幌千歳空港に飛んだ。千歳空港到着予定十二時三十五分、気温二十四度、天気は曇り時々晴れ、という機内アナウンス。飛行機は予定通り千歳空港に到着した。空港には、一緒に登る予定の上松克秀が待っていた。
上松は、空木が万永製薬の札幌支店でチームリーダーをしていた時の部下だった。上松は、冬はスキー、夏は登山、自転車、バイクのツーリングを楽しむ、アウトドア大好き人間で、空木と一緒に羊蹄山や斜里岳といった北海道の山々を登っていた仲だった。
空木は、上松の運転する車に同乗し、トムラウシ山の登山ベースでもある、トムラウシ温泉東大雪荘に向かった。道東自動車道から一旦夕張インターチェンジで降り、狩勝峠、日勝峠を越えて十勝清水に出る。そこから北上し、新得を通り、トータルおよそ二百キロを走る。
東大雪荘の宿泊客の大半は、本州から来た登山客と思われた。
空木は、北海道に来て最初に登った山が、日本百名山に数えられるこのトムラウシ山で、登るのも、東大雪荘に泊まるのも二度目だった。このトムラウシ山で北海道の山の厳しさを体感し、北海道の山の素晴らしさも実感した。
トムラウシ山は標高2141メートル、大雪山系南部の山で「大雪山の奥座敷」と称され、北海道で九つ選定されている日本百名山のうちの一つである。トムラウシとは、アイヌ語で「花の多いところ」を意味するとも、「水垢が多いところ」の意だとも言われる。山の上部には池塘や沼が点在し、高山植物が群生しており、また、岩場も多く、ナキウサギの生息地にもなっている。近年は、本州の登山者の人気も高く、憧れの存在となっている。
夏山登山での事故も多い。特に、2002年7月、2009年7月の事故は、それぞれ二名、九名が死亡する悲惨な事故で、トムラウシ山の、北海道の山の厳しさを改めて示す事故だった。
空木も三年前のトムラウシでは、天候の不良のため、7月の2000メートル級の山とは思えない異常な寒さを味わった。本州の3000メートル級の山以上の厳しさであると実感したものだった。
トムラウシ山に初めて登る上松にも、ツエルト(携帯テント)の携帯と防寒対策だけはしっかりするよう伝えてあった。
二人は、翌朝四時に起床し、前夜のうちに宿が用意してくれたおにぎりを食べ、登山口に向けて出発した。
登山口の駐車スペースには、既に十台近くの車が止まっていた。
今日一日で、累積標高差千四百メートルを登り降りする。スタートする前の緊張感が空木は好きだった。
カムイ天上までは緩やかな登りで、眠っていた体が徐々に目覚めてくる。天気は悪くないようだが、ガスが出て周囲の状況は判然としない。気温は十七、八度か。
カムイ天上からおよそ一時間半歩いた所から、一旦下り、コマドリ沢に出る。ここから雪渓登りが始まる。標高で二百メートル、距離で四、五百メートルあろうか。雪渓が終わると、前トム平までの岩場だ。二人は「ピッピー」というナキウサギの鳴き声を聞いたが、姿を見ることは出来なかった。ガスは消えず、視界は良くない。標高が高くなりガスも加わりかなり寒い。
前トム平からロックガーデンを登る。登り終わると、池塘が点在するトムラウシ公園と言われる湿地に下る。足はかなり重くなってきた。
ガスが切れてきて、少しずつ周りの眺望が利くようになる。この辺りからがトムラウシ、アイヌ語の「花の多いところ」の真骨頂だ。
エゾノツガザクラ、エゾコザクラ、チングルマ、エゾノハクサンイチゲ、白、濃いピンク、淡いピンクと色とりどり、正に高山植物のオンパレードで、疲れた体を癒してくれる。
頂上直下のテント場から最後の登りになる。急登に息が上る。上松の足は快調で空木の先を行く。およそ三十分で頂上に着いた。二人は握手した。頂上は風があって、かなり寒い。二人はレインウェアの上衣を着た。
二度目のトムラウシは、絶好の景色を見せてくれた。北に大雪山の最高峰旭岳、南西方向に十勝岳、北東にニペソツ山を見せてくれた。空木は頭の中が真っ白になった。下界で起こった事、起きている事を全て忘れさせてくれる。およそ五時間半の登りの後の至福の時間だ。空木は来て良かった。登って良かったと思った。
下りの途中、十勝平野を望みながら、空木は上松に聞いた。
「上松、お前さん、人を殺したいと思ったことはあるか」
「えっ、何を急に聞くんですか。そんなことある訳ないですよ」上松は答えた。
「そうだよな、普通はないよな。人間はどんな時に殺意を抱くのかな」
「僕は、独身なので分かりませんが、子供とか家族を殺されたりしたら、敵討ち的に殺意を抱くかもしれませんけど、殺人までするかどうか」
二人は話しながら、ロックガーデンを下り、雪渓を尻セードして滑って降りた。 登山口の駐車場に着いたのは、午後二時四十五分だった。
東大雪荘の湯に浸かった二人は、達成感の心地良さにも浸った。
トムラウシ温泉を出て、空木たちが札幌に着いたのは、午後七時を回っていた。
二人は、空木が札幌に居た四年間馴染みにしていたススキノの寿司屋『すし万』でトムラウシ山登山の無事を祝した。
『すし万』は空木の自慢の寿司屋だった。須川夫婦と娘さんの奈美ちゃんの家族三人でやっている。ススキノの寿司屋では、寿司そのものは勿論、仄々とした雰囲気も合わせ一番の店だと確信していた。
空木は、エゾ鮑とホッキ貝の刺身を注文した。そして須川夫婦に、山で上松に聞いたことと同じことを聞いてみた。
「私の近くから居なくなったら良いのになって思う人はいても、殺そうとまで思う人なんて居ないわよ」と言ったのは女将さんだった。
それを聞いていた上松が言った。
「そういえば、僕の友達も言ってました。会社の先輩で『この会社にはこの世から消えるべき人間が三人いる』というのが、飲んだら口癖の人がいるって。そういう人はどこにでも居るんでしょうね」
「そう思っているところに何かが起こると、それがきっかけになって殺意に変わり、殺人が起こることはあるかも知れませんよ」主人が言った。
浅見豊を殺した犯人は、どんなことで殺意を抱いたのか、と空木は思いながら。
「会社に三人も消えるべき人間がいるのか。上松の友達の会社の業種は何なんだ」空木は何気なく聞いた。
「同じ業種。東亜製薬ですよ」
「ん、東亜製薬。そうか、本社の中にはどの会社も魑魅魍魎がうようよしているそうだからな」
「友達は本社じゃなくて仙台にいるんですけどね」
「え、仙台。東亜製薬の仙台支店に居るのか」
「そうです。そいつは僕の高校の同級生なんですよ。電話のやり取りは結構してますし、札幌にも遊びに来たこともあります」
上松は、エゾ鮑に何回も箸を伸ばし、ビールをお替りした。
空木は、芋焼酎のロックを注文しがら、こんな偶然があるのかと思った。この偶然を生かさない手は無いと。
「上松。その友達に聞いて欲しいことがあるんだけど、お願いしても良いかな」
「お願いですか。何のお願いなんですか?変な話でなかったら」
上松の顔は怪訝になり、構える顔になった。
「実は、今、依頼されている仕事があって、それは、ご主人の過去の女性関係の詳細を調べて欲しいという、その奥さんからの依頼なんだ。そのご主人という人が東亜製薬の部長だった人で、仙台に単身赴任中に、どうやら女性関係が出来て、妊娠させてしまったらしい。そこまでは大凡の調べは出来た。出来る事なら、その女性の素性、姓名まで調べたいんだ。それには、東亜製薬の仙台支店の関係者に直接聞く事が出来れば、と思っていた。そしたら、今偶然、上松の友達が出てきたということだ」
「東亜製薬繋がりは、確かに偶然ですね。しかし、僕の友達がそんな詳しい情報を知っているとは思えないし、たとえ知っていても、話してくれるかどうか分らないですよ」
「それは仕方ないことだし、覚悟もしている。俺としては、依頼者に対して、ベストを尽くした、という報告をしたいと思っているんだ」
空木は、芋焼酎のロックを飲み、煙草に火を点けた。この『すし万』は喫煙客にとってはありがたい店だ。
「空木さん、その部長は今どこに居るんですか」
上松の問いに、空木は少し間をおいた。
「‥‥‥亡くなった」
「え、死んでしまった。それなのに、奥さんは、過去のご主人の女性関係を知りたいと言っている訳ですか」
「何故かは分らないが、そのことが亡くなったことに繋がっているのではないか、と思っているようだ」
「死に方が不自然だったんですね」
上松は何かを想像しているようだった。
「上松、会えるように頼んでみてくれないか。会えるのであれば、明日でもいいし、いつでもいいから頼んでみてくれ」
「分りました。今、電話してみます。ところでその部長さんの名前は何て言うんですか」
上松は携帯電話を取り出し、椅子を立った。
「名古屋で亡くなられた部長さんと言ってくれないか。もし、会って貰えるようなら、電話を替わって欲しい」
店の外で電話をしていた上松が、玄関戸を開け空木を呼んだ。どうやら、友人は明日会ってくれるらしい。空木は、清水順也という上松の友人と電話で話し、会ってくれる礼と、待ち合わせ場所を決めた。
空木と上松は、鮭の「時不知」の卵、「時子」を肴に焼酎を何杯も飲み、締めの握りを注文した。空木は、鮪の漬け、烏賊、北寄貝の三貫で締めた。
翌日の、三連休最後の月曜日、空木は、札幌から仙台へ飛んだ。
札幌、仙台便は、震災の影響を受け、便数は半分に減便していた。幸いにも午後の便に空席があった。
仙台空港に着陸する際、窓から見える、海岸線から陸側の風景を見た空木は、その荒涼とした町跡に言葉を失った。
空港から仙台駅へのバスの車窓からも、仙台東部道路を境にして、左右の風景が全く違った。空木はバスの右側に映る、海まで見通せるその車窓を呆然と、ただ見つめるだけだった。
清水順也との待ち合せは、清水の自宅に程近い仙台駅東口のホテルで午後五時半にしていた。
空木の大きなザックを目印にしていたことで、清水はすぐに空木と分ったようで、「空木さんですか」と尋ねた。
空木は名刺を出しながら挨拶をし、突然の面会の非礼を詫びた。
二人は、ホテルの右手にあるラウンジに入り、コーヒーを注文した。
「昨日の電話では、亡くなった浅見部長のことで聞きたいということでしたが、どのようなことでしょう」
清水は、探るような目を空木に向けながら言った。
「実は、亡くなった浅見さんの奥様からご依頼を受けまして、ご主人の仙台単身赴任時代の女性関係を調べています。これまでの調査で、どうやら女性関係は間違いなくおありだったようで、その女性は妊娠したようなのですが、その方の素性、名前までは分りません。もし、清水さんが御存知なら教えて欲しいのです」
空木は一気に話すと、コーヒーを口に運んだ。
「浅見部長の奥様からの依頼ですか‥‥‥」
「奥様の想いは、嫉妬心からではなく、ご主人が亡くなったことと、女性関係が関連しているのではないか、と思われてのことだと思います」
「私のような平社員は、噂話程度の事しか知りません。ただ、当時、支店内に箝口令が出ましたから、噂は本当だと思っていました」
「噂で結構です。お聞かせいただけませんか」
清水は周りを見回した。話す覚悟をしたようだった。
「ここだけの話にして下さい。その女性は、ある開業医の受付事務をしていた女性だという噂です。その女性を紹介したのは当時の当社の担当者だったようで、それで課長に昇進出来た、という専らの噂でした。尤も、噂のその課長は不幸なことになってしまいましたが」
話した後、清水はコーヒーを飲み、もう一度周囲を見回した。
「もしかしたら、その課長というのは、先日、月山で転落して亡くなられた江島という方ですか」
「そうです。空木さん良くご存知ですね。うちの会社では、三月以降不幸な出来事が続いているんです。三月の大震災の時の大津波で、ある社員の家族が全員行方不明になったのを始めに、名古屋で浅見部長が亡くなり、先日は江島課長です」清水は声を潜めて言った。
「その江島課長さんが紹介した女性の名前とか、勤務先とかは噂では聞きませんでしたか。それと津波でご家族が被害に遭われたのは、辞められた伊村さんという方ですよね」
「それもご存知だったのですか。探偵さんというのはすごいですね。そこまで調べているんですね。江島課長が紹介した女性のことは知りません。多分誰も知らないのではないでしょうか。当事者の江島課長と浅見部長以外は」
「伊村さんのことはたまたま知っただけです。そうですか女性のことは分りませんか。二人とも亡くなってしまいましたし、もう知っている人間はいないということですか」
空木は、事件に巻き込まれたことで、そこまで知ることになったのだとは言わなかった。
「伊村さんは、お子さんがいなくて、奥さんと二人でしたから、ショックは大きかったようでした。カズミを何が何でも捜すと言って、結局会社を辞めてしまわれましたから」
聞いていた空木は、体に電気が走った。
「清水さん、今、カズミさんと言われましたが、それは伊村さんの奥様のお名前なのですか」
「ええ、そうですけど」
清水はキョトンとしている。
「カズミさんというのは、どんな字を書くのでしょう。苗字は、いや、旧姓はご存知ですか」
空木は、自分の目がカッと見開いているのが、自分でも分かった。清水が引いているのを感じた。
「どんな字のカズミなのかは知りません。旧姓も知りません」
「旧姓をご存知の方はいらっしゃいませんか」
「うちの女子社員に同級生だった子がいますから、多分知っているのではないかと思います‥‥‥」
清水は、空木の勢いに戸惑っていた。
「今すぐに分かりませんか」
空木は、一刻も早く知りたかった。
「今すぐは無理です。電話番号も知りませんから。明日になれば分かりますから、空木さんの携帯電話に電話しましょう」清水は困惑気味に言った。
「ありがとうございます。それと、その社員の方に、もしかしたらカズミさんには妹さんがいないか、聞いていただけませんか。お願いします」
「分かりました。聞いておきます」
空木の目は、ギラギラとしているのだろう。清水は、空木の様子が豹変したことに驚いた様子だった。
空木は、事態が大きく進展する可能性を感じながら東京に戻った。
三連休が明けた火曜日の朝の九時前、空木の携帯電話が鳴った。普段は消音、バイブレーターにセットしている空木だが、今日だけは違った。逃してはならない電話が来るという気持ちだった。
髭を剃っていた空木は、慌てて携帯を手に取った。清水順也だった。清水によれば、カズミは和美。旧姓は仲内。妹がいる。とのことだった。携帯電話を握る空木の手が震えた。
空木は、和美の同級生というその女子社員に電話を替わって貰えないか、清水に聞いた。女性は清水のすぐ近くにいるらしかった。
電話が清水から女性に替わった。
「お電話替わりました。奥村律子と申します。おはようございます」透き通るような綺麗な声に聞こえた。空木は名前を名乗り、突然の電話の非礼を詫びた。
「奥村さんは、同級生だった和美さんのご実家の住所はご存知でしょうか。それから、和美さんの妹さんのお名前が分れば教えていただきたいのですが」
空木は、動揺している自分を感じ、出来る限りゆっくり話した。
「和美さんの実家は、名取市閖上です。何丁目何番地までは分りません。それと、妹さんのお名前も存じ上げません」奥村律子ははっきり答えた。
「和美さん本人も、ご家族も、未だ行方不明とお聞きしましたが。」
「はい、そうです。ご両親も妹さんも、お宅も含めて全て津波に持っていかれてしまいました」
空木には、奥村律子の声が沈んだように感じた。
「和美さんのご主人の伊村さんは、どうしておられるかご存知ですか」
「伊村さんは、東京にいらっしゃるようですが、住所は存じ上げません。何度も避難所に行かれて、奥様を含めたご家族を探しておられるようです。会社にもたまに電話が架かってきます」
「そうですか。電話が架かってきたのは、最近ではいつ頃か覚えていらっしゃいますか」
「曜日までは覚えていませんが、先週だったと思います。和美さんも、ご家族の誰もまだ見つからない、と言っていました。あの、申し訳ありません。私もう席に戻らないといけないのですが」
奥村律子の声が慌てていた。
「お忙しいところ申し訳ありませんでした。ありがとうございました。清水さんにも宜しくお伝え下さい」と言って、空木は電話を終えた。
空木は石山田に電話をした。
「巌ちゃん、分ったよ、分った。伊村だ。仲内和美だよ」
空木は支離滅裂な言葉になっているのが自分でも分った。
「健ちゃん何を言ってるんだ。さっぱり分らないよ」
「ごめん、ごめん。すごい情報を掴んだものだから、つい慌ててしまった。つまり、尾行の依頼をして来た、最初の手紙の差出人の仲内和美という名前は、伊村政人の奥さんの名前だったんだ。あの手紙を出した時には、仲内和美は行方不明だった。しかも、仲内和美には名前は分らないが、妹がいることも分ったんだ」
「仲内和美という名前は、健ちゃんが探していた、伊村という男の奥さんの名前だったのか。良く調べたな」
「ああ、北海道の後輩の伝手から辿り着いた。トムラウシ山に登ったご褒美みたいなものだから、カムイの贈り物といったところかな」
カムイとはアイヌ語で神様の意味だが、空木はこの一連の偶然は、本当にカムイの業だと思った。
「しかし、仲内和美という名前が、伊村の奥さんの名前と同じというだけでは、伊村が手紙を出したということにはならないだろう。たとえ、妹の名前が好美だったとしてもそれは同じことだ。ただ、伊村という男が、重要な鍵を握っていることは間違いない。重要参考人として浮かんだことには間違いないだろう。湖東警察署の大林刑事に教えたら大喜びしそうだ。仙台へ調べに行くタイミングでのこの情報は、ベストタイミングだよ。ところで、浅見豊の関係した女性の目星は着いたのかい」
石山田は、興奮冷めやらない電話の向こうの空木に、冷水を掛けるが如く言った。
「‥‥そっちは分からない。分かったのは開業医の受付事務員の女性が相手で、紹介したのが月山で死んだ江島ということだ」
「江島が紹介。健ちゃん、浅見が殺され、江島が死んだ。この二人が繋がるとしたら、東亜製薬ともう一つは女性だ。紹介した女性繋がりかも知れないよ。これも良い情報かも知れない」
電話を終えた空木は、石山田の言う通り、仲内和美の名前で出された手紙の主は伊村とは限らないと改めて考えた。しかし、妹の名前が好美だとしても、差出人は伊村ではないのだろうか。姉妹の名前を知っている人間は限られる筈だ。湖東警察署の捜査本部は全力で伊村を探すだろうと空木は思った。
石山田は湖東警察署の大林に電話を入れた。大林は別の電話に出ているらしく、しばらくした後で電話口に出た。
大林は東亜製薬の仙台支店に電話をしていたところで、明後日の午後、支店長に会うことになったと石山田に伝えた。
石山田は新たな情報が、空木から入ったと切り出した。
仲内和美という名前は、三月まで東亜製薬に勤務していた伊村という男の奥さんの名前で、その仲内和美には名前は分からないが妹がいること。仲内和美とその家族は、三月の震災による大津波で名取市閖上(ゆりあげ)の実家もろとも流され、今も行方不明であること。浅見豊は、仙台で得意先の受付事務員の女性と関係を持ち、妊娠させていたこと。その女性を紹介したのは、月山の転落事故で死んだ、江島という男だったことを伝えた。
「それはすごい情報を頂きました。仲内和美の実家のある名取警察署に、もう一度詳しい調査を依頼してみます。妹の名前が分かると思います。それと、今、石山田さんが言われたイムラという男の姓名は分かりますか」
大林の声は明らかに張りが出ていた。
「わかります。イは伊藤の伊、ムラは町村の村です。名前は政人、マサトです」
大林は電話口で何かを持ってきてくれと、叫んでいた。
「石山田さん、湯の山温泉の宿泊客に居とるんです。伊村政人、三十九歳が居ったんです。東京在住で最後に直接の確認が出来た男です。すぐに所轄に連絡して、重要参考人として身柄を確保してもらうように依頼します。石山田さん、後でこちらから電話しますんで、一度電話を切らせて下さい。すんません」と言って、大林は一方的に電話を切った。
石山田はまだ、相談したいことがあったが、近江弁が強く出る程慌てていた大林の様子からは仕方がないと諦めた。
それから、一時間ほどして大林から国分寺署の石山田に電話が入った。
「先程は失礼しました。あまりの良い情報につい慌ててしまいました」
大林は電話の向こうで詫びた。
「それで両方の所轄にはうまく連絡は出来ましたか」
「はい、両所轄ともに動いてくれています。伊村政人の身柄の確保はまだ出来ていないようですが、直接の確認が出来た時の状況を担当巡査に問い合わせもしています。仲内姓の調査での最初の報告書では、名取市に一軒、世帯主、仲内則夫とありました。津波で家屋流出、家族全員行方不明という内容でした。今回の再調査で妹の名前も判明すると思います。これで捜査も大きく前進します」大林の声は弾んでいた。
石山田は、伊村政人の東京の住所を聞いた。杉並区荻窪五丁目七ハイム荻南202であった。その住所は、湯の山温泉「旅館湯元」に、五月二十六日の木曜日に宿泊した時、宿泊カードに記載された住所であった。
「大林さん、殺された浅見、月山で死亡した江島という男、そして伊村政人。三人とも東亜製薬の仙台に絡んでいます。この三人のトライアングルの中心が何かによっては、月山の事故も、事件の可能性が出てきます。私から言うべき話ではないのですが、月山西川警察が動き出すような情報が、仙台で取れれば、全容が見えてくるのではないでしょうか」
石山田は、管轄としては全くの門外漢であることは承知であったが、空木とともに、霊仙山の事件、月山の事故に絡んでしまった刑事としての責任感から、余分な事と思いながらも言ってしまった。
「その通りかも知れませんね。私も月山の話を聞いて、偶然ではないなと直感しました。分りました、心して仙台に行ってきます」
大林は捜査の進展に気分が良いのか、石山田の話しに素直に同意した。
二人は大林が、仙台から米原に戻る途中の二十二日金曜に、国立駅での待ち合わせを決め電話を終えた。
翌朝、国分寺署の石山田に大林から電話が入った。
「昨日の夕方、名取署から連絡がありました。伊村和美、旧姓仲内和美の妹の名前は、好美でした。父親は則夫、母親は房江です。父親が脳卒中の後遺症で半身が不自由、母親もリウマチで歩くのが不自由だったらしいです。加えて、好美には生後四、五ヶ月の赤ん坊がいて逃げ遅れたようです。家族全員まだ発見されていないということでした。それから、伊村政人は、昨日は部屋には帰ってきませんでした。此処しばらくは、202号室に人の気配が無いと、周囲の住人が言っているそうです」
そして大林は、伊村を重要参考人として指名手配したいが、仙台での聞き込みの後にしたいと思っていること、東京に湖東警察署の捜査本部から人を送るということを石山田に伝えた。
石山田は空木にこのことを伝えた。
その日の夜、空木と石山田は『さかり屋』で会った。
「妹の名前が好美だったということは、健ちゃんに送られて来た手紙の主は、伊村にほぼ間違いないということだ。健ちゃんを嵌めたのも伊村ということになるね」
「そういうことになるな。浅見豊を殺したのも伊村なんだろうか。」
「その可能性は高い。しかし動機が分らない」
二人はビールを飲み始めた。あっという間に一杯目が空になった。二人とも、ビールをお替りした。今日も東京は猛暑日だった。
「赤ん坊がいたって言ってたけど、好美は仲内姓のままだよね。婿でも貰ったのかな」
「だったら、役所で調べている筈だから、分るだろう」
「巌ちゃん、もしかしたら浅見豊の不倫相手は仲内好美じゃないだろうか。姉が妹の妊娠を知る、姉の旦那がその事を知る。当然有り得る話だよ。伊村は知っていたんだ。それで‥‥‥」
空木は、その後が思い浮かばなかった。
「好美の不倫相手が浅見豊だということになれば、それは言えるけど、調べるのはそれこそ容易じゃないよ。それにそうだと分っても、それが何故、殺人に繋がるのか、その動機が分らない事には伊村には繋がっていかないと思う」
石山田は、空木が思っていることを見透かしているかのように言った。
「巌ちゃん、もしも浅見豊の不倫相手が仲内好美だったと仮定しよう。浅見が名古屋に転勤した時期が去年の三月。赤ちゃんが生まれたのが、その年の十月か十一月。つまり二月には妊娠は確認されている。伊村はそれを知ると同時に、その相手も知った。浅見を問い詰めた。困った浅見は異動を希望した。赤ちゃんが生まれたが、浅見は認知する気配も無い。手切れ金のように、お産費用に近い金額の五十万を好美に振り込んだ。その事を、伊村は東亜製薬仙台支店の支店長に訴えた。江島のしたことと一緒にね。手に負えないと思ったのか支店長は、浅見ではなく伊村を転勤させた。そこに大震災で和美までが被害に遭ってしまった。こんな目に遭わせたのは誰か。張本人は浅見豊だ。殺したい。こういう筋書きはないだろうか」
空木は今まで、モヤモヤしていたものが切れかかっているような気がした。しかし、モヤモヤの中心は消えなかった。それは何故自分に手紙を送ってきたかということだった。
「そのストーリーは、多少の無理はあると思うけど有り得るよ。そのストーリーでいくと、江島の事故も伊村が絡んでくる。やっぱり浅見の不倫相手を見つけ出す必要がある」
石山田のジョッキは空になっていた。芋焼酎を注文した。
「伊村はどこに行ったのか。杉並西署が宿泊確認で会ったのが七月十二日火曜日昼過ぎ。外出から戻ってきたらしく、黒服だったそうだ」石山田は芋焼酎を口に運びながら言った。
「黒服か。どんな感じの男だったのかな。車はどうなんだろう」
空木も芋焼酎を飲みながら、イカの一夜干しを摘まんだ。
「色が黒くて、痩せて、髪は短かったと言っていた。車は確認出来ていないそうだ。夏の暑いのに黒服ということはどこかの葬式だったのか」
石山田は言いながら、手に持った焼酎のグラスを見ていた。
「十二日は江島の葬儀だよ。もしかしたら伊村は江島の葬式に出ていたんじゃないか」
「考えられないこともないね。芳名帳を見てみたいな」
空木も頷いた。
「伊村は山はやるんだろうか。健ちゃん、確認しておいた方がいいよ」
「山登りか。山をやっているとしたら、霊仙山も月山も登れる。確認の方法はあるけど‥‥、俺、一度伊村のマンションに行ってみるよ」
といいつつ、空木の目は宙を泳いだ。伊村に起こった人生最悪の、不幸な出来事を考えていた。
「巌ちゃん、伊村は仙台に居るんじゃないだろうか。閖上の海岸辺りを探し歩いているんじゃないだろうか」
空木は、海岸線を、涙を流しながら彷徨い歩いている男の姿を思い浮かべた。
空木は、週末に予定しているトムラウシ山登山に備え、連日トレーニング室に通った。
土曜日、空木は羽田空港から札幌千歳空港に飛んだ。千歳空港到着予定十二時三十五分、気温二十四度、天気は曇り時々晴れ、という機内アナウンス。飛行機は予定通り千歳空港に到着した。空港には、一緒に登る予定の上松克秀が待っていた。
上松は、空木が万永製薬の札幌支店でチームリーダーをしていた時の部下だった。上松は、冬はスキー、夏は登山、自転車、バイクのツーリングを楽しむ、アウトドア大好き人間で、空木と一緒に羊蹄山や斜里岳といった北海道の山々を登っていた仲だった。
空木は、上松の運転する車に同乗し、トムラウシ山の登山ベースでもある、トムラウシ温泉東大雪荘に向かった。道東自動車道から一旦夕張インターチェンジで降り、狩勝峠、日勝峠を越えて十勝清水に出る。そこから北上し、新得を通り、トータルおよそ二百キロを走る。
東大雪荘の宿泊客の大半は、本州から来た登山客と思われた。
空木は、北海道に来て最初に登った山が、日本百名山に数えられるこのトムラウシ山で、登るのも、東大雪荘に泊まるのも二度目だった。このトムラウシ山で北海道の山の厳しさを体感し、北海道の山の素晴らしさも実感した。
トムラウシ山は標高2141メートル、大雪山系南部の山で「大雪山の奥座敷」と称され、北海道で九つ選定されている日本百名山のうちの一つである。トムラウシとは、アイヌ語で「花の多いところ」を意味するとも、「水垢が多いところ」の意だとも言われる。山の上部には池塘や沼が点在し、高山植物が群生しており、また、岩場も多く、ナキウサギの生息地にもなっている。近年は、本州の登山者の人気も高く、憧れの存在となっている。
夏山登山での事故も多い。特に、2002年7月、2009年7月の事故は、それぞれ二名、九名が死亡する悲惨な事故で、トムラウシ山の、北海道の山の厳しさを改めて示す事故だった。
空木も三年前のトムラウシでは、天候の不良のため、7月の2000メートル級の山とは思えない異常な寒さを味わった。本州の3000メートル級の山以上の厳しさであると実感したものだった。
トムラウシ山に初めて登る上松にも、ツエルト(携帯テント)の携帯と防寒対策だけはしっかりするよう伝えてあった。
二人は、翌朝四時に起床し、前夜のうちに宿が用意してくれたおにぎりを食べ、登山口に向けて出発した。
登山口の駐車スペースには、既に十台近くの車が止まっていた。
今日一日で、累積標高差千四百メートルを登り降りする。スタートする前の緊張感が空木は好きだった。
カムイ天上までは緩やかな登りで、眠っていた体が徐々に目覚めてくる。天気は悪くないようだが、ガスが出て周囲の状況は判然としない。気温は十七、八度か。
カムイ天上からおよそ一時間半歩いた所から、一旦下り、コマドリ沢に出る。ここから雪渓登りが始まる。標高で二百メートル、距離で四、五百メートルあろうか。雪渓が終わると、前トム平までの岩場だ。二人は「ピッピー」というナキウサギの鳴き声を聞いたが、姿を見ることは出来なかった。ガスは消えず、視界は良くない。標高が高くなりガスも加わりかなり寒い。
前トム平からロックガーデンを登る。登り終わると、池塘が点在するトムラウシ公園と言われる湿地に下る。足はかなり重くなってきた。
ガスが切れてきて、少しずつ周りの眺望が利くようになる。この辺りからがトムラウシ、アイヌ語の「花の多いところ」の真骨頂だ。
エゾノツガザクラ、エゾコザクラ、チングルマ、エゾノハクサンイチゲ、白、濃いピンク、淡いピンクと色とりどり、正に高山植物のオンパレードで、疲れた体を癒してくれる。
頂上直下のテント場から最後の登りになる。急登に息が上る。上松の足は快調で空木の先を行く。およそ三十分で頂上に着いた。二人は握手した。頂上は風があって、かなり寒い。二人はレインウェアの上衣を着た。
二度目のトムラウシは、絶好の景色を見せてくれた。北に大雪山の最高峰旭岳、南西方向に十勝岳、北東にニペソツ山を見せてくれた。空木は頭の中が真っ白になった。下界で起こった事、起きている事を全て忘れさせてくれる。およそ五時間半の登りの後の至福の時間だ。空木は来て良かった。登って良かったと思った。
下りの途中、十勝平野を望みながら、空木は上松に聞いた。
「上松、お前さん、人を殺したいと思ったことはあるか」
「えっ、何を急に聞くんですか。そんなことある訳ないですよ」上松は答えた。
「そうだよな、普通はないよな。人間はどんな時に殺意を抱くのかな」
「僕は、独身なので分かりませんが、子供とか家族を殺されたりしたら、敵討ち的に殺意を抱くかもしれませんけど、殺人までするかどうか」
二人は話しながら、ロックガーデンを下り、雪渓を尻セードして滑って降りた。 登山口の駐車場に着いたのは、午後二時四十五分だった。
東大雪荘の湯に浸かった二人は、達成感の心地良さにも浸った。
トムラウシ温泉を出て、空木たちが札幌に着いたのは、午後七時を回っていた。
二人は、空木が札幌に居た四年間馴染みにしていたススキノの寿司屋『すし万』でトムラウシ山登山の無事を祝した。
『すし万』は空木の自慢の寿司屋だった。須川夫婦と娘さんの奈美ちゃんの家族三人でやっている。ススキノの寿司屋では、寿司そのものは勿論、仄々とした雰囲気も合わせ一番の店だと確信していた。
空木は、エゾ鮑とホッキ貝の刺身を注文した。そして須川夫婦に、山で上松に聞いたことと同じことを聞いてみた。
「私の近くから居なくなったら良いのになって思う人はいても、殺そうとまで思う人なんて居ないわよ」と言ったのは女将さんだった。
それを聞いていた上松が言った。
「そういえば、僕の友達も言ってました。会社の先輩で『この会社にはこの世から消えるべき人間が三人いる』というのが、飲んだら口癖の人がいるって。そういう人はどこにでも居るんでしょうね」
「そう思っているところに何かが起こると、それがきっかけになって殺意に変わり、殺人が起こることはあるかも知れませんよ」主人が言った。
浅見豊を殺した犯人は、どんなことで殺意を抱いたのか、と空木は思いながら。
「会社に三人も消えるべき人間がいるのか。上松の友達の会社の業種は何なんだ」空木は何気なく聞いた。
「同じ業種。東亜製薬ですよ」
「ん、東亜製薬。そうか、本社の中にはどの会社も魑魅魍魎がうようよしているそうだからな」
「友達は本社じゃなくて仙台にいるんですけどね」
「え、仙台。東亜製薬の仙台支店に居るのか」
「そうです。そいつは僕の高校の同級生なんですよ。電話のやり取りは結構してますし、札幌にも遊びに来たこともあります」
上松は、エゾ鮑に何回も箸を伸ばし、ビールをお替りした。
空木は、芋焼酎のロックを注文しがら、こんな偶然があるのかと思った。この偶然を生かさない手は無いと。
「上松。その友達に聞いて欲しいことがあるんだけど、お願いしても良いかな」
「お願いですか。何のお願いなんですか?変な話でなかったら」
上松の顔は怪訝になり、構える顔になった。
「実は、今、依頼されている仕事があって、それは、ご主人の過去の女性関係の詳細を調べて欲しいという、その奥さんからの依頼なんだ。そのご主人という人が東亜製薬の部長だった人で、仙台に単身赴任中に、どうやら女性関係が出来て、妊娠させてしまったらしい。そこまでは大凡の調べは出来た。出来る事なら、その女性の素性、姓名まで調べたいんだ。それには、東亜製薬の仙台支店の関係者に直接聞く事が出来れば、と思っていた。そしたら、今偶然、上松の友達が出てきたということだ」
「東亜製薬繋がりは、確かに偶然ですね。しかし、僕の友達がそんな詳しい情報を知っているとは思えないし、たとえ知っていても、話してくれるかどうか分らないですよ」
「それは仕方ないことだし、覚悟もしている。俺としては、依頼者に対して、ベストを尽くした、という報告をしたいと思っているんだ」
空木は、芋焼酎のロックを飲み、煙草に火を点けた。この『すし万』は喫煙客にとってはありがたい店だ。
「空木さん、その部長は今どこに居るんですか」
上松の問いに、空木は少し間をおいた。
「‥‥‥亡くなった」
「え、死んでしまった。それなのに、奥さんは、過去のご主人の女性関係を知りたいと言っている訳ですか」
「何故かは分らないが、そのことが亡くなったことに繋がっているのではないか、と思っているようだ」
「死に方が不自然だったんですね」
上松は何かを想像しているようだった。
「上松、会えるように頼んでみてくれないか。会えるのであれば、明日でもいいし、いつでもいいから頼んでみてくれ」
「分りました。今、電話してみます。ところでその部長さんの名前は何て言うんですか」
上松は携帯電話を取り出し、椅子を立った。
「名古屋で亡くなられた部長さんと言ってくれないか。もし、会って貰えるようなら、電話を替わって欲しい」
店の外で電話をしていた上松が、玄関戸を開け空木を呼んだ。どうやら、友人は明日会ってくれるらしい。空木は、清水順也という上松の友人と電話で話し、会ってくれる礼と、待ち合わせ場所を決めた。
空木と上松は、鮭の「時不知」の卵、「時子」を肴に焼酎を何杯も飲み、締めの握りを注文した。空木は、鮪の漬け、烏賊、北寄貝の三貫で締めた。
翌日の、三連休最後の月曜日、空木は、札幌から仙台へ飛んだ。
札幌、仙台便は、震災の影響を受け、便数は半分に減便していた。幸いにも午後の便に空席があった。
仙台空港に着陸する際、窓から見える、海岸線から陸側の風景を見た空木は、その荒涼とした町跡に言葉を失った。
空港から仙台駅へのバスの車窓からも、仙台東部道路を境にして、左右の風景が全く違った。空木はバスの右側に映る、海まで見通せるその車窓を呆然と、ただ見つめるだけだった。
清水順也との待ち合せは、清水の自宅に程近い仙台駅東口のホテルで午後五時半にしていた。
空木の大きなザックを目印にしていたことで、清水はすぐに空木と分ったようで、「空木さんですか」と尋ねた。
空木は名刺を出しながら挨拶をし、突然の面会の非礼を詫びた。
二人は、ホテルの右手にあるラウンジに入り、コーヒーを注文した。
「昨日の電話では、亡くなった浅見部長のことで聞きたいということでしたが、どのようなことでしょう」
清水は、探るような目を空木に向けながら言った。
「実は、亡くなった浅見さんの奥様からご依頼を受けまして、ご主人の仙台単身赴任時代の女性関係を調べています。これまでの調査で、どうやら女性関係は間違いなくおありだったようで、その女性は妊娠したようなのですが、その方の素性、名前までは分りません。もし、清水さんが御存知なら教えて欲しいのです」
空木は一気に話すと、コーヒーを口に運んだ。
「浅見部長の奥様からの依頼ですか‥‥‥」
「奥様の想いは、嫉妬心からではなく、ご主人が亡くなったことと、女性関係が関連しているのではないか、と思われてのことだと思います」
「私のような平社員は、噂話程度の事しか知りません。ただ、当時、支店内に箝口令が出ましたから、噂は本当だと思っていました」
「噂で結構です。お聞かせいただけませんか」
清水は周りを見回した。話す覚悟をしたようだった。
「ここだけの話にして下さい。その女性は、ある開業医の受付事務をしていた女性だという噂です。その女性を紹介したのは当時の当社の担当者だったようで、それで課長に昇進出来た、という専らの噂でした。尤も、噂のその課長は不幸なことになってしまいましたが」
話した後、清水はコーヒーを飲み、もう一度周囲を見回した。
「もしかしたら、その課長というのは、先日、月山で転落して亡くなられた江島という方ですか」
「そうです。空木さん良くご存知ですね。うちの会社では、三月以降不幸な出来事が続いているんです。三月の大震災の時の大津波で、ある社員の家族が全員行方不明になったのを始めに、名古屋で浅見部長が亡くなり、先日は江島課長です」清水は声を潜めて言った。
「その江島課長さんが紹介した女性の名前とか、勤務先とかは噂では聞きませんでしたか。それと津波でご家族が被害に遭われたのは、辞められた伊村さんという方ですよね」
「それもご存知だったのですか。探偵さんというのはすごいですね。そこまで調べているんですね。江島課長が紹介した女性のことは知りません。多分誰も知らないのではないでしょうか。当事者の江島課長と浅見部長以外は」
「伊村さんのことはたまたま知っただけです。そうですか女性のことは分りませんか。二人とも亡くなってしまいましたし、もう知っている人間はいないということですか」
空木は、事件に巻き込まれたことで、そこまで知ることになったのだとは言わなかった。
「伊村さんは、お子さんがいなくて、奥さんと二人でしたから、ショックは大きかったようでした。カズミを何が何でも捜すと言って、結局会社を辞めてしまわれましたから」
聞いていた空木は、体に電気が走った。
「清水さん、今、カズミさんと言われましたが、それは伊村さんの奥様のお名前なのですか」
「ええ、そうですけど」
清水はキョトンとしている。
「カズミさんというのは、どんな字を書くのでしょう。苗字は、いや、旧姓はご存知ですか」
空木は、自分の目がカッと見開いているのが、自分でも分かった。清水が引いているのを感じた。
「どんな字のカズミなのかは知りません。旧姓も知りません」
「旧姓をご存知の方はいらっしゃいませんか」
「うちの女子社員に同級生だった子がいますから、多分知っているのではないかと思います‥‥‥」
清水は、空木の勢いに戸惑っていた。
「今すぐに分かりませんか」
空木は、一刻も早く知りたかった。
「今すぐは無理です。電話番号も知りませんから。明日になれば分かりますから、空木さんの携帯電話に電話しましょう」清水は困惑気味に言った。
「ありがとうございます。それと、その社員の方に、もしかしたらカズミさんには妹さんがいないか、聞いていただけませんか。お願いします」
「分かりました。聞いておきます」
空木の目は、ギラギラとしているのだろう。清水は、空木の様子が豹変したことに驚いた様子だった。
空木は、事態が大きく進展する可能性を感じながら東京に戻った。
三連休が明けた火曜日の朝の九時前、空木の携帯電話が鳴った。普段は消音、バイブレーターにセットしている空木だが、今日だけは違った。逃してはならない電話が来るという気持ちだった。
髭を剃っていた空木は、慌てて携帯を手に取った。清水順也だった。清水によれば、カズミは和美。旧姓は仲内。妹がいる。とのことだった。携帯電話を握る空木の手が震えた。
空木は、和美の同級生というその女子社員に電話を替わって貰えないか、清水に聞いた。女性は清水のすぐ近くにいるらしかった。
電話が清水から女性に替わった。
「お電話替わりました。奥村律子と申します。おはようございます」透き通るような綺麗な声に聞こえた。空木は名前を名乗り、突然の電話の非礼を詫びた。
「奥村さんは、同級生だった和美さんのご実家の住所はご存知でしょうか。それから、和美さんの妹さんのお名前が分れば教えていただきたいのですが」
空木は、動揺している自分を感じ、出来る限りゆっくり話した。
「和美さんの実家は、名取市閖上です。何丁目何番地までは分りません。それと、妹さんのお名前も存じ上げません」奥村律子ははっきり答えた。
「和美さん本人も、ご家族も、未だ行方不明とお聞きしましたが。」
「はい、そうです。ご両親も妹さんも、お宅も含めて全て津波に持っていかれてしまいました」
空木には、奥村律子の声が沈んだように感じた。
「和美さんのご主人の伊村さんは、どうしておられるかご存知ですか」
「伊村さんは、東京にいらっしゃるようですが、住所は存じ上げません。何度も避難所に行かれて、奥様を含めたご家族を探しておられるようです。会社にもたまに電話が架かってきます」
「そうですか。電話が架かってきたのは、最近ではいつ頃か覚えていらっしゃいますか」
「曜日までは覚えていませんが、先週だったと思います。和美さんも、ご家族の誰もまだ見つからない、と言っていました。あの、申し訳ありません。私もう席に戻らないといけないのですが」
奥村律子の声が慌てていた。
「お忙しいところ申し訳ありませんでした。ありがとうございました。清水さんにも宜しくお伝え下さい」と言って、空木は電話を終えた。
空木は石山田に電話をした。
「巌ちゃん、分ったよ、分った。伊村だ。仲内和美だよ」
空木は支離滅裂な言葉になっているのが自分でも分った。
「健ちゃん何を言ってるんだ。さっぱり分らないよ」
「ごめん、ごめん。すごい情報を掴んだものだから、つい慌ててしまった。つまり、尾行の依頼をして来た、最初の手紙の差出人の仲内和美という名前は、伊村政人の奥さんの名前だったんだ。あの手紙を出した時には、仲内和美は行方不明だった。しかも、仲内和美には名前は分らないが、妹がいることも分ったんだ」
「仲内和美という名前は、健ちゃんが探していた、伊村という男の奥さんの名前だったのか。良く調べたな」
「ああ、北海道の後輩の伝手から辿り着いた。トムラウシ山に登ったご褒美みたいなものだから、カムイの贈り物といったところかな」
カムイとはアイヌ語で神様の意味だが、空木はこの一連の偶然は、本当にカムイの業だと思った。
「しかし、仲内和美という名前が、伊村の奥さんの名前と同じというだけでは、伊村が手紙を出したということにはならないだろう。たとえ、妹の名前が好美だったとしてもそれは同じことだ。ただ、伊村という男が、重要な鍵を握っていることは間違いない。重要参考人として浮かんだことには間違いないだろう。湖東警察署の大林刑事に教えたら大喜びしそうだ。仙台へ調べに行くタイミングでのこの情報は、ベストタイミングだよ。ところで、浅見豊の関係した女性の目星は着いたのかい」
石山田は、興奮冷めやらない電話の向こうの空木に、冷水を掛けるが如く言った。
「‥‥そっちは分からない。分かったのは開業医の受付事務員の女性が相手で、紹介したのが月山で死んだ江島ということだ」
「江島が紹介。健ちゃん、浅見が殺され、江島が死んだ。この二人が繋がるとしたら、東亜製薬ともう一つは女性だ。紹介した女性繋がりかも知れないよ。これも良い情報かも知れない」
電話を終えた空木は、石山田の言う通り、仲内和美の名前で出された手紙の主は伊村とは限らないと改めて考えた。しかし、妹の名前が好美だとしても、差出人は伊村ではないのだろうか。姉妹の名前を知っている人間は限られる筈だ。湖東警察署の捜査本部は全力で伊村を探すだろうと空木は思った。
石山田は湖東警察署の大林に電話を入れた。大林は別の電話に出ているらしく、しばらくした後で電話口に出た。
大林は東亜製薬の仙台支店に電話をしていたところで、明後日の午後、支店長に会うことになったと石山田に伝えた。
石山田は新たな情報が、空木から入ったと切り出した。
仲内和美という名前は、三月まで東亜製薬に勤務していた伊村という男の奥さんの名前で、その仲内和美には名前は分からないが妹がいること。仲内和美とその家族は、三月の震災による大津波で名取市閖上(ゆりあげ)の実家もろとも流され、今も行方不明であること。浅見豊は、仙台で得意先の受付事務員の女性と関係を持ち、妊娠させていたこと。その女性を紹介したのは、月山の転落事故で死んだ、江島という男だったことを伝えた。
「それはすごい情報を頂きました。仲内和美の実家のある名取警察署に、もう一度詳しい調査を依頼してみます。妹の名前が分かると思います。それと、今、石山田さんが言われたイムラという男の姓名は分かりますか」
大林の声は明らかに張りが出ていた。
「わかります。イは伊藤の伊、ムラは町村の村です。名前は政人、マサトです」
大林は電話口で何かを持ってきてくれと、叫んでいた。
「石山田さん、湯の山温泉の宿泊客に居とるんです。伊村政人、三十九歳が居ったんです。東京在住で最後に直接の確認が出来た男です。すぐに所轄に連絡して、重要参考人として身柄を確保してもらうように依頼します。石山田さん、後でこちらから電話しますんで、一度電話を切らせて下さい。すんません」と言って、大林は一方的に電話を切った。
石山田はまだ、相談したいことがあったが、近江弁が強く出る程慌てていた大林の様子からは仕方がないと諦めた。
それから、一時間ほどして大林から国分寺署の石山田に電話が入った。
「先程は失礼しました。あまりの良い情報につい慌ててしまいました」
大林は電話の向こうで詫びた。
「それで両方の所轄にはうまく連絡は出来ましたか」
「はい、両所轄ともに動いてくれています。伊村政人の身柄の確保はまだ出来ていないようですが、直接の確認が出来た時の状況を担当巡査に問い合わせもしています。仲内姓の調査での最初の報告書では、名取市に一軒、世帯主、仲内則夫とありました。津波で家屋流出、家族全員行方不明という内容でした。今回の再調査で妹の名前も判明すると思います。これで捜査も大きく前進します」大林の声は弾んでいた。
石山田は、伊村政人の東京の住所を聞いた。杉並区荻窪五丁目七ハイム荻南202であった。その住所は、湯の山温泉「旅館湯元」に、五月二十六日の木曜日に宿泊した時、宿泊カードに記載された住所であった。
「大林さん、殺された浅見、月山で死亡した江島という男、そして伊村政人。三人とも東亜製薬の仙台に絡んでいます。この三人のトライアングルの中心が何かによっては、月山の事故も、事件の可能性が出てきます。私から言うべき話ではないのですが、月山西川警察が動き出すような情報が、仙台で取れれば、全容が見えてくるのではないでしょうか」
石山田は、管轄としては全くの門外漢であることは承知であったが、空木とともに、霊仙山の事件、月山の事故に絡んでしまった刑事としての責任感から、余分な事と思いながらも言ってしまった。
「その通りかも知れませんね。私も月山の話を聞いて、偶然ではないなと直感しました。分りました、心して仙台に行ってきます」
大林は捜査の進展に気分が良いのか、石山田の話しに素直に同意した。
二人は大林が、仙台から米原に戻る途中の二十二日金曜に、国立駅での待ち合わせを決め電話を終えた。
翌朝、国分寺署の石山田に大林から電話が入った。
「昨日の夕方、名取署から連絡がありました。伊村和美、旧姓仲内和美の妹の名前は、好美でした。父親は則夫、母親は房江です。父親が脳卒中の後遺症で半身が不自由、母親もリウマチで歩くのが不自由だったらしいです。加えて、好美には生後四、五ヶ月の赤ん坊がいて逃げ遅れたようです。家族全員まだ発見されていないということでした。それから、伊村政人は、昨日は部屋には帰ってきませんでした。此処しばらくは、202号室に人の気配が無いと、周囲の住人が言っているそうです」
そして大林は、伊村を重要参考人として指名手配したいが、仙台での聞き込みの後にしたいと思っていること、東京に湖東警察署の捜査本部から人を送るということを石山田に伝えた。
石山田は空木にこのことを伝えた。
その日の夜、空木と石山田は『さかり屋』で会った。
「妹の名前が好美だったということは、健ちゃんに送られて来た手紙の主は、伊村にほぼ間違いないということだ。健ちゃんを嵌めたのも伊村ということになるね」
「そういうことになるな。浅見豊を殺したのも伊村なんだろうか。」
「その可能性は高い。しかし動機が分らない」
二人はビールを飲み始めた。あっという間に一杯目が空になった。二人とも、ビールをお替りした。今日も東京は猛暑日だった。
「赤ん坊がいたって言ってたけど、好美は仲内姓のままだよね。婿でも貰ったのかな」
「だったら、役所で調べている筈だから、分るだろう」
「巌ちゃん、もしかしたら浅見豊の不倫相手は仲内好美じゃないだろうか。姉が妹の妊娠を知る、姉の旦那がその事を知る。当然有り得る話だよ。伊村は知っていたんだ。それで‥‥‥」
空木は、その後が思い浮かばなかった。
「好美の不倫相手が浅見豊だということになれば、それは言えるけど、調べるのはそれこそ容易じゃないよ。それにそうだと分っても、それが何故、殺人に繋がるのか、その動機が分らない事には伊村には繋がっていかないと思う」
石山田は、空木が思っていることを見透かしているかのように言った。
「巌ちゃん、もしも浅見豊の不倫相手が仲内好美だったと仮定しよう。浅見が名古屋に転勤した時期が去年の三月。赤ちゃんが生まれたのが、その年の十月か十一月。つまり二月には妊娠は確認されている。伊村はそれを知ると同時に、その相手も知った。浅見を問い詰めた。困った浅見は異動を希望した。赤ちゃんが生まれたが、浅見は認知する気配も無い。手切れ金のように、お産費用に近い金額の五十万を好美に振り込んだ。その事を、伊村は東亜製薬仙台支店の支店長に訴えた。江島のしたことと一緒にね。手に負えないと思ったのか支店長は、浅見ではなく伊村を転勤させた。そこに大震災で和美までが被害に遭ってしまった。こんな目に遭わせたのは誰か。張本人は浅見豊だ。殺したい。こういう筋書きはないだろうか」
空木は今まで、モヤモヤしていたものが切れかかっているような気がした。しかし、モヤモヤの中心は消えなかった。それは何故自分に手紙を送ってきたかということだった。
「そのストーリーは、多少の無理はあると思うけど有り得るよ。そのストーリーでいくと、江島の事故も伊村が絡んでくる。やっぱり浅見の不倫相手を見つけ出す必要がある」
石山田のジョッキは空になっていた。芋焼酎を注文した。
「伊村はどこに行ったのか。杉並西署が宿泊確認で会ったのが七月十二日火曜日昼過ぎ。外出から戻ってきたらしく、黒服だったそうだ」石山田は芋焼酎を口に運びながら言った。
「黒服か。どんな感じの男だったのかな。車はどうなんだろう」
空木も芋焼酎を飲みながら、イカの一夜干しを摘まんだ。
「色が黒くて、痩せて、髪は短かったと言っていた。車は確認出来ていないそうだ。夏の暑いのに黒服ということはどこかの葬式だったのか」
石山田は言いながら、手に持った焼酎のグラスを見ていた。
「十二日は江島の葬儀だよ。もしかしたら伊村は江島の葬式に出ていたんじゃないか」
「考えられないこともないね。芳名帳を見てみたいな」
空木も頷いた。
「伊村は山はやるんだろうか。健ちゃん、確認しておいた方がいいよ」
「山登りか。山をやっているとしたら、霊仙山も月山も登れる。確認の方法はあるけど‥‥、俺、一度伊村のマンションに行ってみるよ」
といいつつ、空木の目は宙を泳いだ。伊村に起こった人生最悪の、不幸な出来事を考えていた。
「巌ちゃん、伊村は仙台に居るんじゃないだろうか。閖上の海岸辺りを探し歩いているんじゃないだろうか」
空木は、海岸線を、涙を流しながら彷徨い歩いている男の姿を思い浮かべた。
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