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第二幕
昔話・後編(紙本臨夢)
しおりを挟む「――と、いう訳じゃ。だからもし、そういう欲にまみれた者たちから逃げ延びたとしても、彼らは今もひっそりと暮らしているじゃろう。もし、この村にいるとしてもワシはもう、何もしたくない」
「…………」
何も言えない。シオンはおじいさんの最後の部分の意味を理解してしまったから。
おじいさんはその欲にまみれた者の一人だということを。
「どうじゃ、シオンよ。思うことはあるか?」
「…………人間は愚かな生き物ですね」
「そうじゃな。間違いない。しかし、自分は人間としての生を受けてしまったから、最後まで全うしないといけないからな。お主のような若い奴は特に。老い先短いワシとは違い、人生長いからの」
「そうですね。わかっています。昔話をありがとうございます。それでは失礼しますね」
シオンは帰るために背を向ける。
「待つのじゃ!」
「は、はいっ!」
大きな声をかけられたので、ビクつかせながらも返事をして、慌てて体ごと振り返る。
「話はまだ終わっとらん」
「わ、分かりました」
「と言いつつも二つくらいじゃがな」
「はい。どうぞ」
「一つはお主は強く生きるのじゃ。お主ならきっとできる。もし、普通はダメな欲に襲われた時はワシのことを思い出すのじゃ。欲に従って、落ちぶれた者がいることをな」
「わかりました。そうさせていただきます」
「うむ。よろしい。次は二つ目じゃ」
「…………」
「…………」
「…………?」
言うかと思えばおじいさんはなにかを探すように辺りの様子を伺っている。その行動に疑問しか浮かばないので、苦笑いを浮かべている。
おじいさんは辺りを見終えたのか、まっすぐシオンのことを見ている。その表情は真剣そのものだ。何を言われるのかと思い、彼は直立不動になってしまう。そんな彼を見かねてか、おじいさんは手招きしてきたので、近づく。
「あまり大きな声では言えないが、今はこの近くに遺跡がある。行くなら行ってみるといい。そこでもし、一族の血縁らしき人がいれば匿ってやってくれ。くれぐれも誰にもバレないようにの」
声に出さない方がいいと感じたシオンはコクリと首を縦に振る。そのシオンの反応を見て、おじいさんはにこやかに頷く。
「それじゃあ、お家に帰りなさい」
「色々と貴重なお話をありがとうございます」
お辞儀をすると、背を向けて歩き出す。
空を見上げると完全に日が落ちかけている。あと数分もしないうちに夜になる。
「ノアさん激おこだろうなぁ。早く帰らないと」
ノアが怒っている姿が簡単に目に浮かぶ。恐らく彼は約束を破る存在が嫌いだろう。なんとなくそんな気がする。だからこそ、シオンは歩きではなく軽く走りながら帰ることにした。
(それにしても、遺跡が出現したか。嘘っぽい気がするな。でも、ホントの可能性もあるよね。ホントならこんな機会は滅多にないだろうね――)
シオンは帰路の最中、遺跡について考える。
(だけど、罠の可能性もあるし、一人で行くのは危険だなぁ。そうだっ! トウラを護衛の代わりとして連れていけばいいんだ。もし、罠だとしても特訓になるからね。
こんな時にシェロがいたら、きっと大喜びで付いてくるんだろうなぁ。でも、はしゃぎ過ぎるかも――)
やがて、もし仲間たちが遺跡について来たならどんな反応だろうか、を想像し始めた。
(シュートは……付いてきても普通の反応だろうね。まぁ、はしゃぐだろうけど。ノアさんは面倒くさがりそうだなぁ。でも、楽しんでくれそう――)
シェロは間違いないだろうけど、それ以外は、彼が想像しただけだ。だからこそ、誰がどんな反応をするのか、気になって仕方がない。
「っ!?」
ふと、妹であるヒマリの姿が浮かんでしまう。
ずっと一緒にいた妹。後ろについて来ていた妹。周りがうらやむほど仲が良かった妹。そして、叡智の梟──大賢人・オウルニムスの魔法によって見た、可愛らしい服を着せられていて、豪華な部屋に見せかけた牢屋に閉じ込められていた妹。
「ヒマリ……お兄ちゃんが絶対に助けるから、無事でいて」
ヒマリのことは、今の彼では無事を祈ることしかできない。一刻も早く彼女を助けるために鉱石を魔鉱石に変えるしかない。力のコントロールをできるようにならないといけない。でも今のままでは、まだまだ。もし、彼女が危険な目にあっていても、今のままではその危険をさらに大きくするだけだ。
自分の無力さで彼は唇を噛み締めている。
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