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第一幕
蘇った記憶・後編(金城暁大)
しおりを挟む「……なるほど。やっぱり神様がクズ、っていうのは本当だったのね」
ようやく感情を制御できるようになったシュートの説明を聞き、シェロは何とも言い難い不快感を胸に感じていた。同時に、この3人はそれ以上の物を感じているんだろうけど、とも思っていたが。
「ムカつくわね」
「まったくもって同意見だな」
シェロとシュートの言葉に、シオンとトウラも頷いた。
「でも、シオンの妹さん……ヒマリちゃんだっけ? その子の事はそんなに深刻になる必要はないんじゃない? 神様だって、保証したんでしょ?」
「メルフェールに行く方法がある、って話か……」
とはいえ、半信半疑が良いところだろう。なにせ情報源があの神なのだから。
「そう。今までは無かったかもしれない。ううん、神の言葉通りならきっと『バベルの橋』は壊されていなかったのね。きっとあの神がその『ゲーム』とやらのために封印したんだわ。そしてその橋を渡ってメルフェールに行くために必要な……そうね。何かしらの『鍵』を作ったのよ。
“探せ”って事は、少なくともこのヒューマニーのどこかにある筈よ」
「何処かに、か……」
シュートは険しい表情を浮かべた。同じように、トウラも苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべた。この場合、『何処か』というのが問題だからだ。
「時間がかかるな」
「そんなの……!」
シオンは食ってかかるように、声を出した。その声はとてもか細く、泣いているようにすら思えた。
「そんなの待ってられない! 今もヒマリがあっちの世界でどんな目に遭っているのか分からないのに……もしかしたらさっきの獣耳族の女の子みたいに酷い目に遭っているかもしれないんだよ!?」
「落ち着いて、シオン。今私たちが慌ててもどうにもならないでしょう? それはヒマリちゃんを信じるしかないわ」
「そうだぞ、シオン君。きっと俺たちみたいな善人がヒマリちゃんを守ってくれてる。そう信じるしかないだろう?」
シオンはシェロとトウラの言葉に不安を何とか呑み込んだ。
「……そうだと、良いんだけど」
シェロとトウラもそうは言ったものの、3人としてもヒマリの身の上については心配だった。4人とも口を開かなくなり、自然と沈黙が生まれた。その場には静かにクラシックが寂しげに流れていた。
「お客様」
不意にシェロの後ろから声がした。シェロが振り返ると、そこには黒い燕尾服を着た男が立っていた。
「あら、注文をした覚えはないけれど?」
「いえ、その事ではありません。申し遅れましたが、私はこの店舗の店長をしている者です」
店長が直々に声をかけてきた。その事実に、4人は何となく理解しながらも嫌な予感があった。
「失礼ですが、先程お客様方がお騒ぎになっていた件で他のお客様からクレームが寄せられておりまして」
「あら、そうだったの? デショール、それはごめんなさい」
「いえ、謝罪には及びません。しかし、他のお客様が不快に感じておられます。申し訳ありませんが、当店からご退店願います」
「はぁ……そうね。仕方がないわよね」
シェロが頭を下げると、3人も頭を下げた。そして無言で席を立ち、シュートに会計を任せて3人は店を出た。会計を済ませる際、シオンはシュートが店長から何か一言を言われていたのを見た。その事をなんとなくシュートに訊ねてみた。
「俺達みたいな柄の悪い客はもうあの店に来るな、だとよ。お高くとまってやがるよな」
舌打ちしながらそう言ったシュートに対して、シェロは呆れながら言った。
「あんな店であれだけ騒げば当たり前よ。それにあの店を選んだのは貴方でしょう? シュート。そう言われてしまう責任の一端は貴方にあるわ」
「……まぁ、そう言われりゃそうなんだけどさ」
シュートはバツが悪そうにそう呟いた後、蛮族の男から奪った宝石袋を覗き見た。
「ちっ、迷惑料だから仕方がないとはいえ、結構えげつなく持って行きやがった。中々がめついなあの店長」
「まぁ、しょうがねぇよな。あれだけ騒いだんだから」
トウラもシェロ同様、既に状況を呑み込んでいた。
「しかし、これでは今日の宿は難しいな……野宿でもするか?」
「そうよ! シオン、大変よ! 私達、まだ今日の宿を決めてないわ!」
「……あ! そうだ、早く宿を探さないと!」
だが、シェロはシオン以上に切羽詰まった様子だった……。
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