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第一幕

博愛の男・後編(星野リゲル)

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「えっ?」

 シオンは驚き、息を飲んだ。

「なぜ、それを」

「分かるさ。君の目を見れば」


 そうして咳払いをしてから、彼は声のトーンを変えた。


「さて。ここでは人目が気になる。お連れさんも一緒に俺の行きつけのカフェでお茶しません?」


 シュートはシェロに向かって言う。


「私は別に構わないけど……シオンは」

「あっ。でも」


 ためらうシオンにシェロは言葉を投げかけた。


「賞金首みたいだけど、さっきの騒動見ていたら何か、良い人みたいじゃない。こういう誘いには乗るべきよ」

「そうだね。分かった」


 シオンが了解すると、すぐさまシュートは彼の方に目を向けた。その目の奥は深かった。まるで深淵を覗いているような、だがとても暖かく優しい、美しい瞳であった。


「シオン君って言うのかい? これからする話は俺たち転生者にとって、かなり重要な話になる。最も核心に迫る神についての話だ。分かるかい?」


 その深刻そうなシュートの眼差しにシオンの心は不安感で満たされた。これから自分にとって最も重要な話をされる。それが神についての語らいであるという。
 シオンの胸はより一層、脈を打った。動機が止まらない。漠然とした不安感に包まれてシェロの方を振り返った。

 まだ会ってから日が浅いシェロ。だが、シオンには彼女が昔からの大親友であるかのように思えた。そんな安心感があったのだ。


「……シオン、大丈夫よ。この人も転生者。きっとあなたの背負っている物も理解できる」


 そう言われて、シオンは覚悟を決めた。


「分かった。行こう」

「よかった。そう言ってくれて。まあ俺の奢りだからゆっくりしてくれよ」


 そうして三人は店を出た。
 酒場を出る時の客や店員たちのすごい視線を感じながら三人は、歩き始めるのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 シュートはカフェに行くとか言っていたがルイドの町のカフェでは、また新たな転生者との出会いはあるのだろうか。いや、それ以前に神についての重要な話とは何なのだろうかと、シオンは思った。


「そういえばシェロ、君の戦闘機、茂みに置きっぱなしだけど大丈夫なの?」

「うーん。まあちゃんと隠したし、大丈夫なんじゃない?」


 その声にシュートは反応した。


「えっ、シェロちゃん。君パイロットなの?」

「ええ、一応。冒険者やっているわ。だから追われる身っていうのはお互い様ね」

「そうだな。まあ俺の場合、追手は軒並みザコだから問題ないんだけど。ハッハッハッ」


 蛮族と闘っていた時のキリっとした表情とは打って変わり、なんだかシェロに対してデレデレしているような感に見えたが、すぐに話を元に戻した。


「戦闘機ね。心配なら俺が友達に頼んで、向こうのカフェに届けるけど」

「えっ。そんな事が可能なの?」


 シェロの驚いた表情にシュートは答える。


「ああ。着いたら話そうと思っていた事なんだが、実はその友達が今回のお話の重要人物、神についてよく知る人物だ。俺と同じ賞金首で転生者」

「転生者?」


 シオンは食いつく。


「ああ。そいつの異能は念力だ。つまり、俺とテレパシーでやり取りし、君の戦闘機をルイドのカフェへ届けてもらう」

「本当? 嬉しい。じゃあお願いしようかな」


 三人がしばらく道を歩いていると、目的のカフェが見えてきたようだ。


「ほら、お二人さん。あそこが俺の行きつけの店だ。それじゃあ、ゆっくり語り合うとするか…………あれ? 妙だな。戦闘機がない」

「ふふ、シュート。あなた意外とミスをする事もあるのね。まあ私の戦闘機は大丈夫、気にしないで」
 シェロの軽い声とは裏腹に、シュートは暗い表情を浮かべていた。

「いや、違う…………トウラ、アイツやられたのか」

「トウラ? それって、誰の事」


 シオンが聞いたその瞬間だった。
 ドォーン!! と凄まじい爆音と共に、砂煙が舞った。
 シェロとシオンは目を丸くしていた。
 空から人が降ってきたのだ。


「トウラぁあああ!!」


 シュートは落ちてきた人間に駆け寄った。何が起きたか理解できていない二人はただ茫然とその光景を見つめていた。


「シュ……シュートか?」

「どうしたんだお前、その傷……まさか、神と戦ったのか」

「ああ、竜化の能力なら行けると思った。まあ無理な話だったが」

「傷は浅……くもないな。……あまり無理してくれるなよ」


 シュートが短めの詠唱をするとトウラの傷は塞がっていった。


「シュート、あなた回復魔法も使えるのね。さすが、1000万アイロの懸賞金だけあるわ!……でもなんで媒体無しで魔法を……? さっきもそうだったわ、魔法の媒体となるものにさわっていなかった。なのに、魔法が発動された……」

「まぁ細かいことはいいじゃねぇーか。あと、賞金首っても、コイツは60億アイロだけどな」

「60億!?」


 二人は驚きの声を発した。シオンはいまいち金額の大きさがわからなかった。
 するとトウラは立ち上がった。


「シュート、この二人は?」

「見ての通りこの少年は転生者、シオン君だ。でこの美しいシニョリーナが冒険家のシェロだ」

「悪いね。お二人さん、多分状況が飲み込めないだろうから、あの店でゆっくり一から説明しよう」


 と、いう事でシオン、シェロ、シュート、トウラの4人はルイドの少しオシャレな店で語り合う事になったのだ。

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