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第二幕

[ヒマリside]嵐の前の静けさ(鈴鹿歌音)

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 梟《ふくろう》の鳴く声が遠くから聞こえてくる。辺りは静けさを取り戻し、焚《た》き火がパチパチと燃える音がキャンプの中心部から聞こえてくる。
 ヒマリたちは、イザベラの屋敷の温泉に浸《つ》かっていた。ハートは、岩場にもたれ掛かり、ヒマリは温泉で泳いでいる。シフォンは、端っこの方にある岩場に隠れるようにしてヒマリとハートを見守っていた。

「あぁ~、極楽極楽」

 ハートがおばあちゃんみたいな事を言っているのを聞いたヒマリは、ハートに抱きついた。

「どうしたの、ヒマリ」
「何か、あたしのお祖母ちゃんみたいな事言っているなぁ、と思って懐かしくなったの」
「ヒマリには、家族がいるのよね?」

 ヒマリは、表情を曇らせ、首を横に振る。

「あの日、災害が起きた時にみんな死んじゃった。お兄ちゃんもあの日、一緒にいたけどはぐれちゃった」
「ヒマリ、そんな表情しないの。あなたにはやるべき事があるでしょ。今は、それを成し遂げないといけないわ。その先にきっとあなたのお兄さんはいると思うわ」

 ハートの言うことは何でも正しい。ヒマリは、ハートといるのが好きだ。仲間が増えるともっと嬉しい。ヒマリは、再びハートに笑顔を見せた。

「何か変な事言ってごめんね、ハート。あたしは大丈夫だから」
「それならよかったわ。それに、シフォンもそんなところに隠れてないでこっちに出てきなさいよ」

 ハートは、シフォンが隠れているであろう岩場に向かって話しかけた。
 すると、シフォンからも返答がある。

「出ていくって裸をさらけ出すって事ですよね?」
「そうよ。もうシフォンの裸は見ちゃったから遅いわよ。胸が大きいの羨《うらや》ましいわ。私の胸はあまり大きくないのに……」

 ハートは、自分のスレンダーな体つきを見て1人で落ち込んでいる。

「ハートの胸は、あたしのよりは大きいから大丈夫だよ。誰も胸の大きさで選んだりなんかしないから」
「ヒマリは優しいわね。私、ヒマリに出会えて良かったわ。シフォンにも出会えて良かった。私は、幸せ者ね」

 ヒマリたちは、一夜の温泉を楽しむのであった。


    
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 温泉から上がり、ヒマリたちは用意された部屋に行った。そこには、4人部屋なのか2段ベッドが2つ備え付けられており、テーブル1つと人数分の椅子が置かれていた。それ以外にヒマリは、家族が写った大きな写真が飾られているのを見つけた。

「そういえばイザベラ、家族の話しなかったよね? どうしてだろう?」
「それは分からないわ。もしかすると今はもう生きていないのかもしれないわね」

 ハートの言った言葉にヒマリは言葉を失う。ハートの言った言葉にシフォンが口を挟む。

「人の命は美しくも儚いものです。だから、イザベラさんは話さなかったのでしょう。私《わたくし》も両親を早くに亡くしていますから……。それに、明日は早いです。そろそろ休みましょう」
「そうね。シフォンの言うとおり今は休むのが良いわね。ヒマリももう寝なさい」

 ヒマリは、2段ベッドの上に上がり、温かい布団を被る。が、なかなか眠れない。シフォンの寝息が微《かす》かに聞こえてくる。

 ヒマリは何度も寝返りをうった。ヒマリの下のベッドで眠っているハートに申し訳ない、と思いながら。

 その時、優しい歌声が部屋に響き渡った。
 誰の歌声なんだろう、と考える。お母さんの歌声に似ていて落ち着く。
 ようやく、睡魔が訪れたヒマリはそのまま意識を歌声に預けた。


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