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第二幕

[ヒマリside]依存戦争・前編(清瀬啓)

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「アインス。今、なんと……」
「戦争です! 西の――基本世界の者どもが今、この国に……!」

 肩で息をするアインスの言葉に、クイーンは拳を握りしめた。その後ろでは幼いフィフスが困ったような顔をして立ち尽くしている。

「基本世界の者どもめ……」

 トゥエルブがそう呟く。それから、はっとしたように視線を泳がせ、小さくクイーンとヒマリに手招きをする。何事かとヒマリが問うと、トゥエルブはチラリと視線をハートのほうへ向ける。

「ハート……様がどうしたのですか?」

 ヒマリが取り乱した様子のトゥエルブに問う。隣のクイーンも状況を察したようだ。

「ハートは愛する人を奴らの手で奪われている。彼女の傍に居てやらねぇと」

 顔を見合わせる二人。おそらくはどちらかが鎮圧、どちらかがハート様の元へ居るつもりなのだろう。騎士一人お守りにつけるほどハートは取り乱しているようには見えないが、きっと今、彼女の心のなかには様々な感情が渦巻いているのだろう。ヒマリはそんな風に察する。それから、おずおずと手を挙げる。

「私がハート様、いえ、ハートの側に付きます」
「いえ、まだ幼い子には任せられないわ、一国の女王のお守りなん……」

 ヒマリを制しようとしたクイーンの言葉が止まる。彼女の瞳が強い正義感に揺れていたからだ。

「愛する人……ジョーカーさん、ですよね。ハートはその人が殺されたことを、とても悔しいと言っていました。分かるんです。私も大好きな人と、離れてしまったから……」

 小さく肩を落とすヒマリの脳内には今は会えない、兄の優し気な掌が映る。

「今街を、このダイヤシティを守れるのはお二人なんです!」
「そうは言っても、“大革命”によって私たちに残された力は……」

 それこそこの間トゥエルブが言っていたではないか。取り締まりの際にも返り討ちになるような騎士もいるのだと。そんな力でこの国は守れない。そんなこと、ヒマリにだってわかる。

「お姉ちゃんたちならできるよ!」

 いつからそこにいたのか、フィフスが小さな声を張り上げた。その姿はもう、先程までの自由奔放な少女ではない。ダイヤの騎士としての家系に生まれた強い女性のそれだ。クイーンがそんなフィフスの頭を撫でる。

「やりましょう。私たち姉妹で、この国を守るのです」

 そんな言葉に感心する面々とは裏腹に、アインスが戸惑うような表情で二人の様子を見ている。狼狽えたように自分が来た道を見つめるアインスに何事かと聞こうとするクイーンは、すぐに違和感に気づいた。

「おいアインス、ハートは!?」
「すみません、気づいたら姿が無く……」
「だったら一人でも追わんか!」

 トゥエルブは一度そう言ってから、心を落ち着け、アインスに命じた。

「ヒマリと、ハートの元へ行け。きっと一人で城にでも向かってるんだろう。私たちは基本世界の者どもの鎮圧に向かう。こんな所で、この街を壊されては堪らん」

 アインスがその言葉を聞いて、クイーンの方を見る。本当に良いのだろうかと聞いているような目だ。

「もう『折れぬ純潔デイジー・デイジー』も『微睡む睡蓮の芳香ドゥオズ・リリィ』もありません。私たち、『ダイヤの騎士』は法から解き放たれ、商人たちとも手を取ってこの国を改新するのです」

 その言葉を聞いて、アインスが一瞬ホッとしたような素振りを見せた。恐らく騎士の誰もが、クイーンとトゥエルブの派閥争いに心をすり減らしてきたのだろう。

「わかりました。ではヒマリ様、行きましょうか」
「はい。でも、フィフスは……」
「私が守るよ! 小さいからって舐めないで! 私だってお姉ちゃんたちの妹なんだから!」

 胸を張るフィフス。その姿に思わず場の雰囲気が綻ぶ。

「では」

 ヒマリを連れたアインスが来た道を戻ってゆく。それに続くようにトゥエルブとクイーンも駆ける。一人残ったフィフスは、二人の背を見ながら小さく「頑張れ」と呟いた。


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