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第二幕

[ヒマリside]ダイヤシティ(美夜)

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 女王様改めハートとヒマリは、ダイヤシティへの道を探しながら草原から出ると険しく細い断崖絶壁の山を登っていた。

「あの、女王さ……じゃなくてハートさん?」
「ヒマリ、まだ堅苦しいわ。ハートと呼びなさいよ。さっき言ったでしょう?」
「あ、はい――ハート。何でこんなところを歩いているのですか! 落ちたら一貫の終わりですよ!」

 ハートは少し広いところで立ち止まり、ヒマリに振り返った。

「ダイヤシティへ行くには、この辺にある少し緩やかになっている崖から降りた方が早いのよ」

 駄々をこねる子供に言い聞かせるように話したハートは、再び歩き出した。そんな彼女の後ろを、ヒマリはやむを得ず歩き始める。鳥が旋回する姿を眺めながら、まだ知らぬダイヤシティに思いを馳せた。

「――あったわ、ヒマリ。ここから降りるとダイヤシティの出入り口につくのよ」

 ヒマリは、立ち止まったハートのそばに行くき、その場で立ちすくんだ。

「えっ!? あ……の、ここから降りれるのですか!?」

 ハートが示した場所は緩やかな斜面やしかも段差が有るわけでもない。ほんの少し角度がましになったぐらいの場所で、“降りる”と言うよりも“落ちる”の方が近い。その遥か下には、クッションになりそうなふわふわとした山積みの葉っぱと、それ以外は、森のようになっていた。

「本当に、ここから降りるのですか?」
「何言っているの?」
「良かった、そうですよね」

 ハートの言葉にホッとしたのも束の間だった。

「ここから飛び降りるのよ」

 ヒマリは、もう一度崖の下を覗きこみハートの顔を見比べた。

「じょ、冗談ですよね?」
「本気よ。さぁ、降りるわよヒマリ」

 ハートは、ヒマリの腕をつかむとそのまま崖から飛び降りた。

「イヤヤヤヤ~~~~!!」
「舌噛むわよ!」

 彼女は、無事に降りれることをあらかじめ予測していたのかとてもウキウキとして楽しそうだった。



 プハッと葉っぱの山に落ちると崖の上では聞こえなかった賑やかな人々の声が響き渡っていた。

 ハートとヒマリは、服についた葉っぱを叩き落とし、この先にあるであろうダイヤシティへ向けて歩き出した。

「ねぇ、ハート。ダイヤシティってどんなところ?」
「そうね。人の出入りが多くて、関所が置かれているわ。そこで、身元や危険物資の確認を行っているの」

 ダイヤシティを塀が囲っていて入り口は、1つだけ作られていた。そのため大勢の商売人が長蛇の列を成していた。

「これは、入るまでにそうとう時間がかかりそうだわ――さあヒマリ。並ぶわよ」

 ヒマリはハートに言われるがまま、商人達と同じように長蛇の列にならんだ。関所は3箇所あり、第一関所を抜けても第二関所が有るため予想よりはるかに進まない。


 日が傾き始めた頃、ようやく関所の門が見えてきた。

「初めて並んだけど、けっこう時間がかかるものなのね」
「……ハート。一つ聞いてもいいですか?」
「なにかしら?」
「初めて並んだって言うことは、ダイヤシティに一度も来たことがないのですか?」
「何言っているの。ダイヤシティには、一度来たことがあるわ」

 ヒマリは、薄々と感じていた違和感の、最後のピースが空白に当てはまった。
 女王として来たことのあるハートが、一般市民と同じように並んでいることが、ヒマリにとって違和感でしかなかったのだ。

「ハート、どうして──」
「ハートアイランドの女王様! こんなところに並ばずに裏口から参りましょう」

 ヒマリとハートの後ろから、長身で剣を左腰に付けている大柄の男性が話しかけてきた。
 ヒマリは、警戒心をむき出して、女王を守るように前に出る。

「あの。貴方は誰?」
「僕はフリップ。このダイヤシティの見習い騎士で、将来あの12人の中に入る存在さ」

 フリップと名乗った男性は、紺のシュールコーを羽織り、その左胸には、赤のダイヤで三角形を作っている紋章が入っていた。この紋章が、ダイヤシティの騎士である証なのだろうか。

「女性二人旅は危険だから僕が護衛につこう。女王様もよろしいですか?」

 彼女は、何か諦めたように一息つくと、あのときと同じ女王としての顔に戻っていた。

「えぇ、頼みますわ」



 フリップの案内で、大勢の視線を浴びたが無事にダイヤシティの中へは入れた。
 様々の人々が商売を行い夕刻過ぎだと言うのに、人の行き来が絶えない賑やかな場所だった。小さな屋台を出している人やお店を構えている人。とても平和だと思えるが、路地では柄の悪い集団がたむろっている。

「ここは、交易が盛んで多くの人々が商売を行っているのですよ。僕の使命は、この明るく賑やかなダイヤシティを護ることなんです!」
「きゃっ! だ、誰か助けて!!」

 力拳を作って力説するフリップを余所に悲鳴が上がった。だが、誰一人助けに動くことなく通り過ぎてゆく。
 彼は、ヒマリとハートをその場に残し、声のした方へ駆けていった。

「……ね、ねぇ。ここって治安が悪いの?」
「私が、前回訪れたときはこんなに治安は悪くなかったわ」

 彼女達はフリップを放置して、泊まる予定だった宿に行き、部屋を借りた。

「彼、に声をかけて来なくて良かったの?」

 彼女はソファに腰を下ろすと、頬杖をついた。

「彼は、しつこいのよ。いろいろと。だから姿をくらましたの」

 ヒマリは、フリップを少し可哀相に思いながら、ベッドの上に転がった。そんなヒマリの隣に、ハートも寝転がる。

「さあ、明日はダイヤの騎士に会いに行くわよ」
「ダイヤの騎士ってどんな人たちですか?」
「そうね、ダイヤの騎士は12人いると言われているわ。同じ髪型に同じ服装全く同じだから見分けるのに一苦労するのよ。まぁ、貴女も明日になればわかるわ」

 こうして、二人旅での夜を迎えた。


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