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4章 新しい生活から魔法学校の日常まで
32話 研究棟と人形の企み
しおりを挟む「………はい、では確かに
提出された書類に記入漏れなどが無い事を確認しました
そして、この承認欄に私の名前とハンコを押して……
よし! 後は私が
この書類を生徒会室に無事送り届ければ
研究会への入会に関する手続きはほとんどおしまいです
では改めまして、ようこそ! 我が記録研究会へ
これからどうぞよろしくお願いしますね、新入生さん
……そういえば、いつまでもこうして
新入生さん、なんて呼び方を続けるのも失礼でしたね
もしよろしければ、もう一度
貴方の名前を教えて頂けますか? ほら、再確認の意味も兼ねて」
わかりました
そう、はっきりと答えた青い少年は
先程から一切崩れぬ無表情のまま
目の前の女性に対して、今更な自己紹介を行います。
「僕の名前はアレン・フォートレス
将来、とある方の日常を支えられるために
自身の性能を向上させるべく
この学校で、生活魔法をはじめとした
様々な技術を学ぼうと入学しました
他にも、いくつか目的があったりするので
そのためにも、この研究会での活動を通し
もっといろいろなことを知りたいと考えています
これからよろしくお願いします」
丁寧に、かつ他人から見たら違和感しかないであろう
かしこまり過ぎて意味の分かりにくい自己紹介をすませ
彼は無事、当初より入会を希望していた研究会である
記録研究会の新たな一員として認められました。
何故、食い意地の張ったこの人形が
合法的に食べる事を正当化できるであろう
魔法料理研究会ではなく、こちらの道を選んだのか
その理由については、後ほど明らかになります。
かくして今回、様々な思惑を胸に秘めながら行動するアレンは
スタンプラリーの時に、鞄の配布場所にて説明をしてくれた少女こと
記録研究会の会長である、アメリア・パイルの案内を受けながら
メイン校舎よりもだいぶ離れた位置にある
それぞれの研究会の本拠地とも呼べる特別な場所
記録研究会の保有する、専用の研究棟を目指して進んでいきました。
授業の次は研究会への入会とそれに伴う活動
無事、アレンが入学を果たして
早いことに、約二週間ほどが経ちましたが
まだまだやる事は山積みです。
「それにしても、良かったです
まさか、一カ月目から
自主的に入会を希望してくれる子がいるなんて
今年は幸先がいいですね
うち、大人しい活動内容のせいか何なのか
他の研究会で上手くいかなくてやめた子達や
所属はどこでも良いやって子達が集まりやすいんですよ
だから、部員が急激に集まるのも
最低入会期限として定められている、入学日から三ヵ月後とかで
最初の一カ月目とには、滅多に希望者が来ない年もあるくらいなんです
そんな理由だから、積極的な活動をしたがらない子も多くて……
あ! もちろん、黙々と活動してくれている子も沢山いるんですよ!?
……でも、やっぱり
こんなに研究員の数が多くても
まともに活動している学生は、四分の一行くか行かないかくらい
だから、貴方みたいに
第一希望です、入って活動頑張りたいですっていう子は珍しいんです
これもきっと、あの子達が新入生向けの配布本を
頑張って製作してくれたおかげですよね!
だから、ここの会長を任せてもらっている私も
案内とか説明とか、色々頑張りますから
安心して、ドーンとついて来て下さいね、アレン・フォートレスさん」
「はい、よろしくお願いします、アメリア先輩
……ところで
早速、一つ質問をしてもいいですか? 」
「? えぇ、どうぞ
遠慮せず、分からない事があれば何でも聞いて下さい
私で分かる事で良ければ、お答えできますし
それが出来なくても
貴方の質問に対する答えを、探す手伝いくらいは出来かもしれません
だから遠慮せず
気軽に質問でも、雑談でも、何でも投げかけてみて下さい
物は試しと言いますから、ドンドン試してみて下さいね」
そう言って、空中に浮かぶ、長い廊下を進みながら
薄水色の長い髪を、後ろで綺麗にまとめたアメリアは
彼女の後ろを、ちょこちょこと懸命に付いてくるアレンに対して
先輩らしく、年上らしく、頼もしい返答を返しました。
この学校が指定した、生徒用のローブとは
また、異なるデザインの長いコートを身に着けた彼女からの返答を聞いて
安心した人形アレンは、気になった一つの質問を投げかけます。
「この廊下、いったいどこまで進むのですか? 」
「ご、ごめんなさいね!
そうですよね、最初からこんなに歩かされて、びっくりしますよね
うちの研究棟、訳があって、敷地の隅っこの方にあるから
メイン校舎からの移動距離が、とても長いんです
もう少し、もう少しだから!
一緒にお散歩をしているつもりで、頑張りましょう! 」
いえ、彼は人形ですので
これくらいの道のりで、決して疲れたとか
そういうわけでは無かったのですが…………。
アメリアの背中を追い続け、かれこれ30分以上にもなる長い道のり
それからさらに、もう20分程、空中に浮かぶ石畳の廊下を歩き続け
人形の体を持つアレンですら
あまりの長さに、少しだけ驚いてしまった、長距離ウォーキング。
合計して、メイン校舎の高台から
徒歩で50分程の長い廊下を進んだ先に、目的の校舎はありました。
散々歩いた彼らの目の前に現れたのは
古い土壁とくたびれた茶色いレンガに覆われた外観を持つ
今にも崩れ落ちてしまいそうな程、老朽化の進んだ
全長150mを優に超えているであろう、空飛ぶ巨大な旧校舎。
階数で換算すると、ざっと35~40階ほどの階層に分かれているであろう
その崩壊寸前のようにも見受けられる高層建物は
形を保っている事そのものが、不思議に思えてきてしまうくらい
表面の塗装は所々で剥がれ落ち
場所によっては、雑草や苔が外装にへばりつき
その建物の趣ある、廃墟か遺跡の様な雰囲気を
これでもかと引き立てています。
そんな、空中に浮かぶ古代遺跡さながらの風貌をした
魔法学校敷地内の、だいぶ端の方に浮遊させられている建物を目にして
「…………ウ、ウワァ」
「………い、言い訳を、させてほしいです」
流石の衝撃に、次の言葉がなかなか出てこないアレンと
そんな空気感を察して、すかさず弁明を挟むアメリア。
いわく、記録研究会とは
この魔法職養成学校の創設時より続いている
比較的歴史の長い研究会である為
与えられた研究棟の改修、増築工事の回数は数知れず
しかも、所属する生徒の大半が、まともに活動していないとはいえ
学校側から任される、情報の整理業務や保管作業の量は
年を重ね、この学校の規模やブランドが増えれば増える程
それに比例していくように、比重を増していく一方なのだとか。
「なので、この大きくて古い建物自体は
先程、説明させてもらった通り、記録研究会の持ち物ではありますが
ほとんどの機能を
学校側から集まる情報の、保管とバックアップに回しています
その為、大きさの割に、研究員が直接的に使用してるスペースは
この建物の半分もいきません
研究棟とは名ばかりで
この建物の本当の用途は、メイン校舎に眠る複合精霊
魔法職養成学校〈ログリウム〉の運営を支える
人工精霊達から日々送られてくる重要な記録データ
その保管と整理が
研究会の開設当初からの、主な役割なのだそうです
昔は、この研究会に所属する研究員が
一から区分けして、整理して、保管作業まで手作業で行っていたそうですが
人工精霊の生成と成長に関する技術が、急速に発達した近年では
そのほとんどの業務を人が行う事は無くなりました
なので、研究会に所属したからといって
難しい仕事を任されたり、何か大変な事をさせられるなどの
そういった類の事はほぼありませんから
そこだけは安心してもらって大丈夫です
ただ、この研究棟の役割の都合上
大切な学校のデータを整理して、保管するという目的が優先される為
防犯面での対策も兼ねて
浮遊場所が、こんなに奥の方の敷地になってしまって
それにほら、保管するデータ量が多いと
どうしても、必要な設備や魔法陣の大きさ、量も増えてしまって
質量も、ここまで巨大に膨れ上がってしまったので
こんなに大きくなった浮遊校舎を
皆さんの良く使う、敷地中心部に持って行っても、邪魔になってしまうでしょう?
み、見た目は確かに
年月を重ねている分、ちょっと古めかしいですが
この校舎が担う役割の重さはとても重要なので
その分、メンテナンスや改修工事、性能アップの為の機材導入は
かなりの頻度で行われているので
中の設備は、この見た目の割に整っているんですよ?
室内は機械類の破損や老朽化を防ぐ為に
常に室温管理を徹底されていますから、夏は涼しく、冬もそんなに寒くなくて
だから本当に、苦になると言えば、この長い移動距離ぐらいなので
ちょっとした、日頃の運動だと思って
是非、こちらにも足を運んで
研究員が使用可能な部屋や設備を使ってみて下さい
………最初はみんな、面白がってたまに遊びに来てくれるんですが
やっぱり、あの距離を歩き続けるのが
浮遊魔法がまだあまり得意ではない新入生からしてみると
なかなかしんどいらしく、足が遠のくとの意見が多いんです
私も、浮遊魔法はそんなに得意でも無いので
この校舎までは、毎日歩いて通っているのですが
慣れると、そこまででも無いんですよ?
そりゃ、たまに面倒だな~とか、だるいな~とか、思わなくも無いですが
う、運動! そう、日頃のカロリーを消費する為の
日々の運動だと思えば! なんとかなります!
………えっと、何の話でしたっけ?
あ! そうです、研究棟の案内でした
長々とした説明をしてしまってすみません!
えっと、だいぶ遅くなってしまいましたが
早速、校舎の中を案内させて下さい」
「はい、こちらこそ
よろしくお願いします
ところで、アメリア先輩
先程、先輩が説明してくださった内容から
この校舎は、機能向上のため
様々な改修工事や修繕が何度も行われている、とのことでしたが
どうして、校舎の外装だけは
こんなにも、老朽化が激しく進んだような状態で維持されているのですか?
外装の改修工事などは、行われないのでしょうか? 」
「え? だって………
ボロボロな見た目の方が、狙われにくくなるでしょう?
誰もこんな、今にも崩れ落ちそうで、廃墟同然の校舎内に
学校内の記録情報が保管されているとか、バックアップデータになってるとか
そんな事、想像もしないでしょうから
だからこの校舎は、ずっとこのまま、昔からのボロイ外装のままなんです」
当たり前のように、そのような事を教えられた人形は
さも当然のように、校舎への入室後、この校舎に関する情報を
不用意に他生徒や学校外部の人間へ漏らさない契約を込めた
魔法陣式の誓約書に、あっさりとサインをさせられて
秘密と機密に満ちた、記録研究会の保有する
研究棟内部の説明と案内を受けました。
全30階建ての高層建築物
その中で、アレン達のような一般の研究員にも使用が許可されているのは
1階から10階までに当たる
この建物の中でも下部に位置する、限られた部屋のみだそうです。
目安としては、建物の三分の二近くが使用不可
という事になってしまっているわけなのですが
それでも、1階分の面積もなかなかの大きさではありますし
それらが10階まで続くというのですから、決して狭い訳ではありません。
むしろ、所属する研究員のほとんどが
ほぼ活動をしていない幽霊研究員だというのですから
これだけの広い活動範囲と
常に維持メンテナンスをされている設備が整った環境は
むしろ、贅沢すぎる扱いだと
言ってしまっても良い程の至れり尽くせり具合です。
1階に広がるエントランスホールを皮切りに
奥の扉を開ければ、ほぼ誰も使っていないであろう談話室がお出迎え。
左右にはそれぞれ、研究員の共同用として備え付けられた
なかなか立派な作りをした厨房室に
男女別のシャワー室まで完備されています。
作りや内装こそ、やや古風な物を採用してありましたが
まじかで観察すれば、それが作られた雰囲気作りである事は一目瞭然。
何故かって、旧式のデザインの設備や家具を採用しているのに
床タイルや台所のコンロ、談話室のソファにシャワー室の蛇口
どこを見ても、年季を感じさせる
埃やくすみ、カビなどの劣化部分が見受けられないのです。
「外観だけ古めかしくて、中の内装が真新しなんて
なんだかいかにも作り物みたいで
わざとらしいですし、何よりちぐはぐですよね?
こういうのは、最初の雰囲気づくりが大切なのだと
私は自負しているのです!
なので、中のインテリアや設備に関しましては
予算範囲内で許される範囲で
私の独断と趣味で揃えさせてもらっているんです
近未来的なデザインも、確かにスタイリッシュで素敵ですが
それはもう、この空中都市の中に住んでいれば
どこれも感じられてしまう物になっていますから
むしろ、この研究棟のように
レトロで昔懐かしい、趣あるデザインの方が珍しいくらいなんです
なので、せっかくですし
ここはあえて、このように温かみのある
年代を感じさせる物をチョイスしてみました!
ほら~ここで研究員のみんなが集まってお茶とかしたら
きっと楽しいと思うんですよ~
夜通しの編集作業を行う傍らで
今しか味わえない様な青春オーラを感じられたり、かもしだしたり……」
意外と趣味前回な活動をしていた先輩を横目に
夕暮れの差し込む校舎内での案内は続けられました。
談話室を出て、エントランスホールから伸びる階段を上り2階へ
同じような部屋がいくつも続くその様子は
まるで学生寮のような作りをしたその階は
研究員に貸し出しが許可されている、作業部屋のようです。
一部屋8畳程の広さに、トイレや洗面室を備え付けた
やや手狭なビジネスホテルを思わせる部屋の中には
仮眠用のシングルベットと
物書きのしやすそうな、シンプルなデザインの広い机。
座りやすそうな椅子が一つと手元を明るく照らせるスタンドライト
空っぽの本棚が設置された、生活感の感じられない部屋の扉には
『空室』とだけ刻まれた
無機質な表札が飾られていました。
「使用したい部屋を選んで
1階にある管理人室で手続きすれば貸し出しが出来ます
最大貸出期間は、24時間
延長して使用したい場合も、管理人室で
その都度延長手続きをしてもらえば可能なので
もしよろしければ、使ってみて下さいね
この、貸出作業室だけは
談話室とか厨房と比べて、生徒からの評判がなかなか良くて
気が付いたら、何人かの生徒がいつの間にか借りて作業してた
なんて事がよくあるんですよ
やっぱり、こうして維持管理なんかを任せてもらっている分
研究員の生徒に利用してもらえると
誰も来なくて、使ってももらえない状況に比べると
私も設備を整えている甲斐があってうれしいです」
「? 1階の共用スペースは不評だったのですか?
とてもきれいに整備されていて、過ごしやすそうでしたが……
デザインも、僕が今住んでいるお屋敷の雰囲気に近い物があり
落ち着ける空間だと感じました
そこまで、酷評が出る程の欠点などは
今、少し見ただけでは気が付きませんでした」
「えっとね、設備やデザインが問題なんじゃなくて
談話室や共同の台所、シャワー室だと、その
人に、他の生徒に会わなくちゃいけなくなるから、それが嫌だと……
ほら、うちの研究員の子達
シャイというか、引っ込み思案な個人主義の子が多いから
誰かと顔を合わせなきゃいけない
他人に合うかもしれない場所そのものが、とても嫌いみたいなんです
なので、活動してくれている生徒の皆さんが
せっかくこの研究棟を利用しに来てくれても
1階部分の、あの談話室や共同キッチンは、誰も使ってくれなくて……
わ、私は結構使っているんですよ!?
作りや配置も、使いやすいように調整もしていますし
なので、アレン・フォートレスさんも
遠慮とか全然しなくて大丈夫なので、是非使ってみて下さい! 」
アメリアからの必死の懇願を受けつつ
アレン達は、その足を3階・4階へと進めていきます。
古風な印象の強かった1階・2階と比べ
様々な機械類がひしめき合う3階からのエリアは
これまでの光景が嘘であったかのように
近代的な印刷機器や画像の編集機械が完備された
記録研究会の別名を体現しているような場所になっていました。
「ここで、学校内にて掲示する学内新聞や
生徒達が制作する、自主制作本などを作ります
うちに所属する研究員の子が
いつ来ても、安全に機械を使えるように
説明書兼見守りシステムとしての人工精霊も配置しているから
アレン・フォートレスさんも
制作したいデータが出来たら、是非これらの設備を活用してみて下さいね
本の表紙に、印刷するインクの色
魔法陣や簡単なまじないを刻める機械をはじめとした
製本に関する様々な専用機材を所有しているので
色々な冊子を作れるんですよ
ちなみに、3階と4階は
今説明したような専門機械を自由に使用できる階になっていて
その上にある、5階と6階のエリアには
本の製本で使用する
紙や糸、インクをはじめとした材料が保管されています
それらの使用も、その階にて管理を行ってくれている
人工精霊の彼らに、使用用途と数量を申請してもらえれば
研究員であれば誰でも使えるので
是非、一度覗きに行っていてください」
「立ち並ぶ印刷機械の光景はすごい眺めです
まるで、絵本の中に出て来た
霧と機械に覆われた、蒸気で動き続ける眠らない町の挿絵みたいです」
「ふふふ、そういえば
はじめてお会いした時も、貴方は童話のお話をしていましたね
そんな、本好きのアレン・フォートレスさんなら
きっと嬉しがるようなエリアになるのが
材料保管場所となっている5階・6階よりもさらに上
7階から9階にあたる、3階分のエリアになります」
「それは、まさか……
過去、この研究棟で制作された
歴代の配布本、その保管用のサンプルだったりするのでしょうか? 」
「もう! なにが、まさか……ですか
あきらかに、最初から知っていたような口ぶりじゃないですか
むしろ、さてはその配布本見たさに入会しましたね?
ふふふ、別に咎める気はありませんから、安心してください
むしろ、そんなに興味を持ってもらえて
研究会の会長としては、鼻高々といった心境です
しかし、新入生であるアレン・フォートレスが
この研究会の隠れ特典の一つをご存じだなんて……
ははぁ~ん、さては
どこかのお調子者な副会長さんがバラしたとか
どうせそんな落ちですね
まったく、私に負けず劣らずのおしゃべり好きさんなんですから!
あとで一応、めっ! って、しておく事にしましょう」
なんだかんだとありつつも
無駄に広い研究棟の説明を受けた人形アレンは
お目当ての一つであった
歴代の再作本が並ぶ本棚の行列を、ある程度堪能してから
記録研究会の会長を務める、アメリアからの最後の説明を受けるべく
1階の談話室へと戻っていきます。
演出だけの為に設けられた暖炉の中に
炎を再現する映像データを表示させた、見てくれだけの古めかしい談話室。
そんな中で、中央部分に設置された
大きめのテーブルを挟んで、向かい合わせに座った彼らの間には
木製のテーブルの上に並べられた
撮影行為を目的として作られた、とある魔法式の機械類が置かれていました。
「複写式の小型魔法カメラと整備用の道具一式
文字の記入や写真のレイアウト、デザインなのは
こちらの記録式デザインブックにて行ってみて下さい
そして、こちらの魔法石を加工した魔道具
魔道具研究会との共同制作で作った、記憶用魔法石メモリーを使えば
デザインブックで制作したデータを
こちらの研究棟にある機械で印刷する事が出来ます
記録研究会に所属する研究員の皆さんには
制作したデータを、卒業と同時に研究会へ記録する事を条件に
この研究棟の利用と
これらの機材の貸し出しサービスが受けられます
そして、貸し出しに際して
研究会側から、皆さんに提示する条件はもう一つ
アレン・フォートレスさん
事前情報をあらかじめ、どこかの誰かから仕入れていた貴方なら
すでに知っているかもしれませんね? 」
人形は、何も答えず、彼女からの返答を待ちます。
しかし、彼女の指摘した通り
これからアレンに課される、記録研究会での最初の試練の内容を
彼はもう、既にこの研究会へ入ろうと決心した時から知っていました。
何を隠そう、その課せられる課題の内容こそが
アレンが記録研究会へ入会を決めた理由の一つなのですから。
「記録研究会に所属する、研究員に課せられる義務活動
それは……、学校内で配布、掲示している
学内新聞と学校紹介冊子に関する制作協力です!
そうですね、新入生であるアレン・フォートレスさんには
さっそく、来月に配布予定となっている
学校内案内の配布冊子、そのうちの1ページ分を
制作してもらう事にしました!
新入生さんの特設ページ、という扱いにしますので
どうぞ気張らず、配布されたカメラや研究棟の機材を活用して
素敵な1ページを作ってみて下さいね」
「はい、頑張ります」
一つ、過去に制作された自主制作本の閲覧権
二つ、膨大な記録データと持ち運びに優れた魔法式カメラの貸し出し
三つ、堂々と学校内のあちこちを見て回れる、取材という名の大義名分
以上、三つの狙いを、見事に全て獲得した人形は
無表情の奥に隠した、溢れんばかりの喜びを押し殺し
日の沈みかけた帰り道を駆け抜けて
師匠である魔法師ライルや屋敷の使い魔のノッポさんが待っている
小さなお屋敷への家路を急ぎました。
学内新聞? 学校内紹介冊子?
制作への協力など、彼が惜しむわけもありません。
怪しまれる事無く、師匠に無理しすぎてないかと心配される事無く
これで堂々と、いまだ全てを見て回れていない程
広大で巨大な魔法学校の敷地内を、これでもかと探検して回れるのですから。
溢れる野望と、芽生えたばかりの好奇心を胸に
彼の今日は、いつも通りに終わっていくのでした。
(おまけ)
〔アレンの学習ノートより抜粋〕
学校内で気になるところメモ
・図書館
実技試験の時から気になっている場所です
高く大きな塔のような形をした建物で、中には数多くの本が保管されています。
僕の好きな童話や小説をはじめ、図鑑に記録書
解説本からエッセイまで、様々な分野の本がこれでもかと並べられています。
スタンプラリーの時に貰った図書カードを利用して
毎日、貸出上限数の5冊を借りて帰ってはいるのですが
まだまだ先は長そうですし、何より
そろそろ徹夜続きなのが、師匠やノッポさんにばれそうなので
焦らず地道に攻略していこうと思います。
・調理室
主に調理系の授業で使われる教室なのですが
いつ何時、教室の前を通っても、常に美味しそうな香りがしてきます。
授業内容の記載掲示板を確認し
授業が行われていない時を見計らって行ってみても
それでも、必ず誰かが中で調理を行っているようなのです。
けして、いい匂いに釣られたとか、そういうことではなく
不思議だな~と思い、観察を続けるために
移動教室の合間などで通りかかるようにしていたのですが
「卑しい行為は慎みたまえ
まだ食いしん坊キャラでとどまっているうちが花だぞ」という
ハンスからの指摘を受けて、あまり行かなくなりました。
卑しい、というのは
使用の弟子としても、約二年後に王女様の生活を支える人形としても
あまり望ましい評価ではないので、喜ばしくありません。
品よく、上品に、たくさん美味しい物を食べたい時は
皆さん、どう対処しているのでしょうか?
それはそうと、不思議な教室であることには
変わりはありませんので、いつか僕もこの教室を使う授業を受けてみたいです。
・植物園
スタンプラリーの時に
土まみれの泥まみれにされた記憶が色濃く残る場所です。
しかし、その規模の広さと園内の様子からは
興味を引き付けられてなりません。
植物を育てる、と最初に聞いた時は
料理で使うような、お野菜や果物などを育てている場所なのかな?
と思っていたのですが
授業で再度、この場所を訪れた時に
その認識が間違っていたことを認識しました。
主に育てている植物は
食用の物ではなく、魔法薬学や実験、調合などに使用する
薬草や魔草などの類が多いようです。
中には、日当たりのいい場所を目指して
自力で歩行し、移動する不思議な植物もいるのだとか。
授業中も、大根に足の生えた、珍妙な植物が園内を歩き回る様子を見たので
他に、どんな摩訶不思議な植物が飼育されているのか、見てみたいです。
ちなみに、あのような自ら動くタイプの生き物でも
植物、という分類に当てはまるのでしょうか?
字ずら的には、動いているのですから
動物、と表現する方が適切なようにも思えます。
・学校内プール
やたらとある体育館とは違い
この学校内に一つしかない、プールと呼ばれる大きな水溜りのある場所です。
この場所は、他の教室のように
使用目的や用途が気になるというわけではなく
この大きなプールの収まる、ドーム状の館内にまつわる
とある噂が気になっています。
選択授業で、たまたま隣に座った他クラスの方が教えてくれたのですが
いわく、このプールドームには恐ろしい噂があるとのこと。
確か内容は、星降る夜
真夜中の午前2時に、競技用プールの水面に飛び込むと
こことは異なる世界に行けるとか行けないとか。
このことをエレラに話してみると
「あ~、学校の怪談話とか、その手の類?
そういうの、不思議とどの学校でも噂として広まるみたいよ
私が前に通っていた普通科の学校でも
真夜中に歌う、音楽室の肖像画とか
誰もいない美術室で作り続けられる、謎の石像とか
なんだかいっぱいあった気がする
この学校に、どれくらいの怪談話があるのかは
まだ入学したばかりで、私も定かじゃないけれど
まあ、寮もあって学校の敷地もこれだけ広いし
生徒側も、夜中だろうが明け方だろうが
出入りしやすい環境ではあることは確かだから
他の学校に比べると
怖い噂や怪談話なんかも立ちやすいんじゃないかしら?
あ、でも噂だからって
いたずら半分で挑戦して、本当に怖い目にあっても知らないわよ~」
との返答を貰いました。
いたずら半分かはともかくとして
興味深い対象であることには変わりありません。
・学校内所持の管理型魔境
魔境とは、高濃度の強い魔力を長期間浴び続けて
環境に適した、独自の生態系を作った特異的な場所のことだと
筆記試験時の試験勉強で学びました。
師匠いわく
「濃い魔力にさらされている分
生息している生き物なんかも、魔物に変異していることが多くて
場所や条件によっては
ランク3以上になってくるような危険な領域の物も多い
だけどその分、そこで採取出来る素材は
一般的な場所で取れる物とは異なる性能をしてて
魔法の素材としても人気が高いんだよ~
だから、危ないって分かってても
年がら年中、いろんな奴が一攫千金やら素材目当てに魔境へ挑むんだ
だから、年間の魔境行方不明者数や死傷者数も
全然減らないんだけどね
最近では、珍しい素材を人工栽培出来ないかって
人工的な魔境の開発と飼育が実験的に行われてるらしいが
維持管理もなかなか難しくて、難航してるらしいよ
でも、もし出来たら夢みたいだよな~
手のひらサイズのテラリウムぐらいなら、俺でも実験できるかもだし
物は試しに、ちょっとやってみようかな? 」
とのことでした。
師匠がとても楽しそうに語っていたので
それはとても楽しいことなのだと思います。
それに、師匠の欲しがっている物ならば
弟子であり、人形である僕も、目指して作ってみたいです。
あわよくば、完成した物を師匠にプレゼントして
成果物を一緒にいじって遊ぶチャンスです。
そこで、そんな難しそうな研究を始める前に
まずは敵城視察、という奴を行いたいと思いました。
何を隠そう、その難しい実験にも
この大きな学校は手を伸ばし
いくつか試作品が出来ているというのですから
これを利用しない手はありません。
まだ規模自体は小さく
本来、自然発生している魔境の1/50も行かない大きさとのことですが
申請さえ通れば、一般の生徒も一時間という制限時間内での
探索と素材の採取が可能らしいので
いつか、テトラやエレラ達とチャレンジしてみたいです。
(このページはここで終わっている)
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その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
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旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
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