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3章 入居から入学まで
24話 入学式と輝く星
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早朝、午前6時頃
人形アレンは、魔女のまじない屋敷での、何度目かの目覚めを迎えます。
師匠であるライルが実行した
魔法師らしからぬ、至って人間的でごく普通の作戦の成功により
数日前から師匠と共に、宿泊していた大きなホテルの一室から
この小さなお屋敷へと、移り住む事となった彼らは
屋敷の守りを魔女より命じられた使い魔『ノッポさん』の助けを借りつつ
なんとか、この都市での新しい新生活をスタートさせていました。
ちなみに、ノッポさんという、何の捻りも工夫も無い
安直な名前となってしまった理由としては
どんなに屋敷の資料を探してもあさっても
この、首も体も存在しない、やたらと縦に長い、黒い霧状の体を持った使い魔に関する
資料の類が見つからなかった為の緊急措置。
名前も性能も、依然として不明なままの使い魔との
少しでも円滑な意思疎通を行うにあたり、ライルがとりあえずで付けた仮名だった為です。
後々、本当の名前が分かればそちらを使い
現状、何も分からない今の状態では、あまりにも不便であるのでせめて仮名を付けよう
これが、5年ぶりに新たな屋敷の持ち主として認められた
ライル・クラフトが選んだ苦肉の策でした。
そして、住人である彼らに
少しでも心地の良い目覚めをと、この屋敷に長く仕え続けてきた使い魔こと
ノッポさんは、献身的に身を粉にしてお仕えするのです。
具体的に言い表すと
その起こし方は、もはや寝起きドッキリと言ってしまって良いくらいに。
「ノッポさん、おはようございます
毎朝、起こしに来てもらってありがとうございます
でも、本音を言うと僕は人形なので
人間の皆さんのように、疲労や睡眠不足から寝坊する、ということはほぼ無いです
なので、こうした早朝のモーニングコールの必要性も
人間である師匠よりは、必要性が薄いのですよ? 」
『……………』
ベットの上に寝転がりながら
人形アレンは、彼を起こそうと部屋に侵入して来たノッポさんに、その様な言葉で返事をします。
声も物音も一切出さず、ただじっと、先程まで眠っていたアレンの顔の真横で
自身の体を極端な距離まで近づけた状態で待機するノッポさん。
想像してみて下さい。
朝、何かの視線を感じるなと
重たい瞼を薄く開くと、カーテンの開けられた窓から差し込む淡い日差しに
少し明るくなった自室の風景
そして真横に目を向ければ、自分の顔面から数センチ離れた距離に、身をかがめてこちらの顔を覗き込む
黒い霧の体を持つ、人の服を着た首無しの使い魔。
全長にして約6mもの巨体を持つ、顔の無い存在が
ただフワフワとこちらがベットから起き上がるまで、瞳も無いその体で見つめてくる。
正直に言って、バチクソ怖いです。
びっくりしすぎて朝からショック死しかねません。
現に、この屋敷で数日間
アレンが今遭遇している、この衝撃的な起こし方を毎朝されている人間のライルはと言うと
初日の日には朝から恐怖と驚きのあまり気絶し
ファーストインパクトを終えた次の朝も
気絶とまではいかずとも、怖さのあまり盛大な絶叫を披露したものです。
今となっても、この起こされ方になかなか慣れないらしく
最近では、びっくりして後ろに飛びのいた拍子に、勢いよくベットから転げ落ちるという
毎朝の新しいルーティーンで目を覚ますようになったと言っていました。
そんな師匠のライルよろしく
人形であり人間でないアレンも、最初こそ驚き
ベットから天井まで飛び上がっていた頃もありましたが、今となっては慣れたもの。
2日目以降からは、そこまで驚く事も無くなっていました。
住人の穏やかな寝起きを確認し、満足したかのような態度のノッポさんに
自身に対するこの行為の不要性を訴えてみますが
理解しているのかいないのかは、今も不明なまま。
5年間もの間、借り主も持ち主も見付からなかった、魔女のまじない屋敷。
その理由を、なんとなくではありましたが
それとなく察し始めていたアレンは
過保護な使い魔に着替えを手伝ってもらいながら
2階の廊下を下り、朝食の用意されているダイニングへと向かいました。
「いてて……、あ、おはようアレン
今日も天気は晴れらしいぞ」
「おはようございます、師匠
また腰を床に打ち付けてしまったのですか? 」
「あぁ、2日連続で腰から落ちるのは流石に堪えるよ
いや、頭から落ちた時も痛かったけど
何回言ってもやめてくれる様子はないし
これはもう、こちらが受け身の練習でもした方が早いかもな」
「そうですね、ここまでくると、命令されている使い魔としての業務というわけでは無く
あれはノッポさんの趣味のような物なのかもしれません
それはそれとして、今日の朝食も美味しそうですね」
「そうだな
自宅で出来立ての朝食をすぐ食べれるのって、よく考えたらすごい贅沢な事だよ
目覚ましドッキリぐらいは我慢しなくちゃな
それじゃ、冷めないうちに頂こうか」
アレンとライルは、6席あるうちの2つの席に
向かい合うような形で腰を下ろし、運ばれてきた朝食に向かって手を合わせます。
ベーコン、キノコ、トマトにお豆、ソーセージと目玉焼きも付いた欲張りセット。
こんがりと焼かれた素材に、塩と胡椒で適度に味付けした
シンプルかつボリュームのある、昔ながら定番な朝食メニューの一つ。
そこに、きつね色にこんがりと焼かれたトーストと温かな紅茶まで付いてくるのですから
食いしん坊のアレンも大満足の嬉しい朝食です。
食事を用意してくれた、ノッポさんにお礼を言いつつ
ライルは、これから入学式を迎えるアレンに対して、お祝いの言葉を投げかけました。
「アレン、改めまして
魔法学校への入学おめでとう
今日から、はれてお前もあの学校の生徒だな」
「ありがとうございます、師匠
師匠が目標として僕に提示した、生活魔法の習得と
僕自身の性能の向上に向けて、これからも頑張ります
ところで師匠、学校側からの説明によると
道具や教材の用意はせず、正装で学校まで来てほしいとのことでしたが
様々な魔法職に関する技術を学べる学校、という所では
道具などはまったく使用しない、特殊な学習方法を行っていたりするのでしょか?
それとも、授業で使用する道具は学校側からレンタルとか」
「ははは、流石にそりゃないだろ
勉強に道具は付き物だし、持ち帰っての自宅学習も必要になるんだから
やっぱりそこらへんは、これからそれぞれ購入してねって事じゃないか?
もしかしたら、教材の購入も含めて
今日の入学式後の学校案内の時とかに、合わせて行われるのかもしれないな
授業料なんかの説明も
生徒と保護者向けに、今日行われるとの説明書きがあったし
そう考えると、正装で来いとはいえ
ある程度、まとまった荷物を持ち運べるぐらいの
リュックか鞄なんかは、用意して行った方がいいかもな
アレン、実技試験の時に持って行かせた
解体式の布リュックがあっただろ?
あれと、買い物の時とかによく使ってる、布製のエコバックを1つ持って行っておこう
教科書なんかはかさばると、重さが半端じゃないからな
学校側がもし、気をきかせて紙袋なんかを用意してくれたとしても
重さで持ち手の紐とかが切れたら大惨事だ
ああいった荷物の時は、やっぱりなんだかんだ布製の単純なバックが
一つはあると便利だよ、壊れても汚れても替えが効くしな」
「わかりました、確か、タンスの中にしまっておいたはずなので
またお腹の中にでも入れておきますね
………結局、実技試験のあの夜から、テトラやエレラには会えていません
ホテルが広すぎたという理由もあるので、けして、会えなくても不思議ではないですが
二人は、無事合格できたのでしょうか?
また会えるなら、会って話がしたいです」
「大丈夫だよ、アレンの話を聞けば
二人とも、なかなか良い出来の作品を作って提出出来たそうじゃないか
アレン達の協力プレイも含めて
きっと試験監督の先生達は評価してくれてるはずだ
そこはまあ、学校に入ってみてのお楽しみって事で
さて、そろそろ俺達も
学校に向かう準備をしなくちゃな」
「はい師匠、以前に着た正装も
いつの間にやら、ノッポさん表に出しておいてくれていました
クリーニングから持ち帰って、そのままの状態で放置していたはずなのですが
さすが、お屋敷に仕える使い魔さんです
おかげでいつでも着替えられます」
「あぁ、じゃ、それぞれ着替えて荷物を持って
8時には玄関の広間に集合な
あ、そうそう、これも忘れる前に渡しとこう
アレン、手を出してみなさい」
「 ? こう、ですか? 」
命令の意味がよく理解出来ず
おずおずと、右手をライルの方向へ差し出すアレン。
天井に手の甲を向けた状態で出されたその手を
ライルはくるりと反対側にひっくり返して
空っぽな彼の手の上に
小さな箱をちょこんと乗せました。
真っ白な無地の箱に、青く輝くサテンのリボン。
蝶々結びの結び目には、アレンが最初に身に付けていた衣装の
首元に取り付けられていた、青いバラのブローチによく似た
小さな花の装飾が添えられています。
「師匠から弟子への入学祝い
ちょうどいいから、通信機と発信機の機能も追加して、一つ作ってみたよ」
細く柔らかなリボンの端を、そっと引っ張り
単純な構造をした紙の箱の蓋を開けて、人形は白い箱の中身を覗きました。
青い布地を下敷きにして
十字の星を模った、金色に輝く小さなブローチが一つ。
部屋から差し込む朝日に反射して、その表面に薄く彫り込まれた
細やかな模様の数々が浮かび上がっています。
贈り主であるライルにお礼を言い
足早に2階の寝室へと駆け上がる人形。
扉を開け、ハンガーラックに吊るされた正装へと着替え
大きな布地が掛けられた姿見の前に立ち
古ぼけたその布を、バサリと大胆に払いのけると
自身の姿を映し出した鏡に目をやりながら
先程貰ったばかりの星を手に取って、体の様々な位置にあてがってみます。
胸元にあて、中央に寄せ、逆に真横に移動させてみたり
最後にはブローチという役目を完全に忘れて
彼の頭に取り付けられたリボンと合わせてみたり
おでこの中央にあてがってみたり、と
15分もの間、人形アレンは、貰ったばかりの星型のブローチを
その手に握り込んだまま、色々な使用方法を模索しました。
最終的には、着替えを手伝いに来た、使い魔のノッポさんに
あっさりと首元へブローチを付けてもらい、無難な位置での使用となったのですが
そんな事もお構いなしに、輝く星を身に付けたアレンは
首の無い使い魔に向き直り、誇らしげにそれを見せつけて言い放ちます。
「ご覧ください、ノッポさん
僕は今、この国で一番、星が似合うお人形さんです」
エッヘン、と
無表情に胸を張る、ご立派な衣装に身を包んだ人形と
今の状況を呑み込めているのかいないのか、顔が無いせいで全く分からない使い魔が
いかにも軽そうな両手でフワフワと拍手して見せる様子は
なかなか下の階に降りてこないアレンを迎えに来たライルですら
数分間、状況が理解できずに固まってしまうような
そんな訳の分からない、トンチキで冗談みたいな光景でした。
身支度を終え、階段を下り
玄関ホールに設置された大きな鏡で、身だしなみのチェックを終えると
玄関から見送るノッポさんへと手を振り返しながら
人形アレンと魔法師ライルはまじない屋敷を後にします。
彼らが住む魔女のまじない屋敷、住宅が密集する地域の端っこにポツンと建つ
小さなそのお屋敷から表通りに出て
次の角を右に曲がり、最寄りの駅を目指して進みます。
これからアレンが毎朝通う事になる、お屋敷から魔法学校までの道のりは
近くの駅を通る路面電車に乗り1時間、その後、電車を降りて徒歩15分の
合計片道1時間15分程という、少し長めな道のりではありますが
通って通えない距離ではありません。
自転車や自家用車を使用すれば、もう少し時間を縮められそうなものではありますが
それはまた、アレンが自転車に乗れるよう練習を重ねたり
ライルが散々先延ばしにしていた、運転免許を取得してからのお話になるでしょう。
ガタンゴトンと、流れる街並みを揺れる電車の中から眺めつつ
一人と一体は、これから入学式が執り行われる
空中都市の中心部に位置する、魔法学校への到着を待ちました。
(俺、学校に通ったこと無いから
本当のところは知らないけど
こういった、入学式とか開会式とかいう
何かを始める為の最初の儀式って、やたら長いって話を聞いた事があるな
同期の奴らも、お城で行われるセレモニーでの長い話を聞いている最中
校長先生の話かよって、よく愚痴を零してたし………
聞くからに退屈そうな内容ではあったけど
こうして、実際に目の当たりにできるとなると、ちょっと楽しみではあるかも)
まだ見ぬ入学式という未知のイベントに対して、学校へ通うアレン本人形よりも
師匠であるライルの方が、我が事のように胸を躍らせながら
新たな入学生達が意気揚々と集う、魔法学校の金色の正門をくぐります。
魔法職養成学校〈ログリウム〉
魔法を専門として扱う職業に必要となる、特殊な魔法技術を学び習得する為
年齢、種族、性別を問わず、様々な人々が集い、学ぶ。
この広い星の都、国内でも有数の大型魔法学校に数えられる内の一つ。
そんな、将来有望な人材を育てるべく
国が力を入れている学校ですから、その保有する校舎や施設の大きさも
なかなか類を見ない規模の巨大さを誇っていました。
学校の中央に建造されたメインの校舎、その周りを少し低い校舎が囲みますが
その周りの校舎ですら、この都市のビジネスエリアに建つ高層ビルに
匹敵しかねない大きさをしています。
それに加えて、広い敷地内には複数の体育館にガラス張りの植物園、塔のような図書館
空中を浮遊する、鎖と桟橋で繋がれた複数の校舎が並ぶのですから
その光景と入学を果たす生徒の数を見れば、どれ程の規模の大きさなのか
魔法学校どころか、普通科の学校にすら通った事の無い
城下町から遠く離れた、ド田舎の教会出身なライルにも、よく理解出来ました。
それと同時に、こんなすごい学校の入学試験に
自分の弟子は合格を果たし、これからこの学校へと通う事になるのだなと
改めて、誇らしくも少し寂しいような、干渉深い気持ちが込み上げてきます。
そんなこんなで、目的地である魔法学校へと到着した彼らは
入学式が開催される、この学校内で最も大きい体育館である第一体育館へと移動し
入学生であるアレンは、教師の案内の元、体育館の前側に設けられた学生用の席へ
保護者であるライルは、案内板の指示に従い
来賓者用に用意された、後ろ側の席へ着席しました。
会場にひしめき合う人々、洗練された飾りつけに贈り物の花束達
高さのある大空間、その前方に広がる体育館ステージ
はじめてみる多くの景色に
自身の正体を隠す為、幻影効果を付与した仮面を付けたライルも
目元を覆う仮面の奥から、興味深そうに辺りをキョロキョロと見渡します。
広い作りをした第一体育館が、多くの人々で埋め尽くされた頃
『えーー……皆様、大変長らくお待たせ致しました
これより、第32回 魔法職養成学校 ログリウム の入学式を始めさせて頂きます
一同、ご起立ください』
体育館内に設置されたスピーカーから、入学式の開始を告げるアナウンスが鳴り響きました。
ステージ上にはまだ人は立っておらず、その両サイドにも
司会の人らしき人物は確認できないので、おそらく壁で隠されてはいますが
ステージの両端に準備用の空間などがあり、音響やカーテン、アナウンスの放送も
そちらの方で行っているのでしょう。
会場にいる人々が、館内に反響する指示に従い、無機質な椅子から立ち上がります。
そして、スピーカーからは心地よい管楽器とピアノの音色
どうやら、この国の国家を演奏してくれているようです。
歌声の混じり始めたその放送をBGMに
期待度マックスで、体育館に集まった一同は、前方のステージへと視線を移しますが
………その広く立派なステージに、誰かが壇上する事はありませんでした。
『スピーカーでの校歌斉唱と共に
入学許可宣言を、この体育館の運営を任された、本校の人工精霊の一体である私
0013精霊体が行わせていただきます、本日はよろしくお願い致します
皆様、ご着席ください』
おや、こういった宣言や祝辞の言葉というのは
普通の学校であれば、校長先生などの学校を代表する偉い方が行うのですが
この入学式では、学校の運営を補佐しているであろう
人工精霊がその役割を任されているようです。 不思議ですね。
ステージに誰も立たないまま、エンドレスで流れ続ける国歌斉唱を聞き流しながら
人工精霊が読み上げる、入学許可宣言がされ
続けて、学校長式辞の代理音読、来客祝辞の代理音読も
まとめて人工精霊の0013精霊体さんが簡潔に手短に済ませてしまいます。
時間にしておよそ15分
驚異的な速さで、これまでに類を見ない様なスピーディーな司会と進行で
魔法学校の入学式は進められました。
( ? あれ? 入学式の挨拶って、長いんじゃないの? あれ? )
事前に予習していた情報との違いに、呆気にとられるライル・クラフト
その困惑は彼が入学式初心者だからという訳ではなく
その場にいた半数以上の人が、頭の上に?マークを浮かべてしまいそうな程
この入学式は最初から異質で異常なものとなっていたのです。
まず一番最初から、新入生入場をすっ飛ばしていますしね。
しかし、場に広がる混乱の空気感などいざ知らず
怒涛の勢いで入学式は続行されます。
やや早口気味の来賓紹介と祝電の披露
相変わらず誰も登壇しない前方のステージと置いてあるだけのマイクスタンド
あまつさえ、新入生代表挨拶に至っては
後ろの投影機から前方のステージの壁に映し出された映像での紹介
もはや読み上げてすらいません。
いつの間にやら、BGMとして流していた
国歌斉唱と言う名の、ただの国歌の録音テープを
この学校の校歌斉唱へと切り替えて
式はまさかの閉式の辞、この入学式の終わり宣言へと移行します。
時間にしておよそ30分
この国で一般的に多く存在する、一般的な知識を幅広く教える普通科の学校での
入学式と比較すると、その所要時間はおよそ1/4。
1時間~2時間程度はかかるとされている入学式に比べ
驚異的な速さを誇ります。
「え……終わるの? もう? 」
いよいよ皆が混乱を隠せなくなる中
スピーカーにてアナウンスを務めていた人工精霊は
ひるむことなく、会場の皆様へと終わりの言葉を続けました。
『皆様、お疲れさまでした
これにて、今年度の入学式を終了致します
新入生は入学オリエンテーションなどの行事がありますので
教師の案内に従い、そのまま学校内へとお進みください
保護者の皆様、ご来賓の皆様につきましては…………』
淡々と、アナウンスは続けられます。
『下校時刻まで、お好きにお過ごしください』
体育館の前方と後方、学生側と保護者側を分ける、空間の間に
天井に設置られた可動式の巨大なカーテンが、ドサッと音を立てて場を区切りました。
厚手のカーテンの向こうに消えた新入生達
カーテンのこちら側で暴動の起きる保護者席一同と、その対応に追われる職員の皆さん。
「………………思ってた入学式と違う」
荒れ狂う会場の中、席に座りっぱなしで途方に暮れる保護者のライルは
自身のスーツの内側から取り出した、何かしらの受信機の画面を確認し
少し疲れたように溜息を吐くと
スリッパとハンカチと罵声の飛び交う体育館の隅をそそくさと移動。
いまだ混乱の続く会場を後にしました。
彼が隠し持っていた受信機の小さな画面には
レーダーのような位置情報の表示された絵と
魔力量や熱量をはじめとした、体の状態を示す様々な数値が映し出されています。
改めて言うまでも無く、この受信機が受信している情報は
今朝方、弟子のアレンに渡した星型のブローチから送られてくる物。
彼のバイタルに、何も異変が無いという事は
今、アレンはライルから離れていても、安全に過ごせているという事。
何も心配する事はありません。
学校側で、何か行事があるのだというならば
その終わりを静かに待ちましょう。
体育館外で待っていた、教師の一人を捕まえて
他の保護者よりも早く、ライルは保護者向け説明会の会場へと案内してもらうのでした。
一方その頃、保護者席同様、こちらも混乱の続く生徒側の席にて
「 ? 師匠から聞いていた話より、だいぶ早い終わりだったような……
まあいいか、終わったというのですから、これで終わりなのでしょう
………ところで、こんなにたくさん新入生がいのですから
テトラやエレラも、きっと合格を果たしていますよね
お二人とも、どちらに座っているのでしょうか?
立ち上がっている生徒も多くなってきましたし
僕も二人を探しに行ってみましょう」
全く混乱した様子も、困惑した様子すら無い人形アレンが
乱れたその場の雰囲気に紛れて、入学試験にて共に協力した彼らを探そうと
今までのんびりと着席していた席を立とうとしていました。
ひしめき合い、押しめき合いながら
隅の方に待機している教師側に向かって流れる新入生。
その人の波に、乗ったり逆らったりを繰り返しながら
アレンはフラフラとお目当ての人物達を探します。
あっちフラフラ、こっちフラフラ
辺りをくまなく見渡しますが、緑髪のテトラも、ピンク髪のエレラも
なかなか見つける事が出来ません。
宛ても無く、ただ何となく人に揉まれながら彷徨うアレン、そんな中で
突如、大きな人影が一人、彼の進行方向へと立ちふさがりました。
「! すみません、ぶつかってしまいました」
「あー、ええよええよ、君がぶつかったんと違うから
僕が君を止めたんや
なんかえらい、一人だけフラフラしとる子おるな~思うてね
危ないかもなって、お兄さんのこの広い胸と長い腕で抱き留めさせて貰いました
突然ごめんね、ビックリしたやろ?
でも君、こないたくさんの人がおしくらまんじゅうしとるような場所で
そないに無秩序に移動し続けよったら危ないよ?
流れに身を任せるか、人が少しでも少なそうな隅の方に逃げにゃ
もしかしてお手洗い? それともお父さんかお母さんの所にでも行こうとしたん? 」
「いえ、そうではなく
入学試験の時に、一緒に行動した方々と、また会いたいなと思い
探していたんです
魔力の残滓だけは、先程から確認できるので
無事入学を果たし、この会場にいるとは思うのですが、人が多くて」
「あぁ! なんや、もう仲いい子出来たんか
ええねええね、仲良しさん出来て、楽しい学校生活への第一歩やんか
会えるとええね、お兄さんも陰ながら祈っとるで
でもな~、今から新入生向けのオリエンテーションがあるんよ
それ、みんなそれぞれ、ランダムで場所の指定されたとこからスタートやけ
今、お友達を苦労して探しても、すぐもう一回お別れせんといけんくなるけ
探すのは、休憩時間の挟まる、お昼休みの方がええと思うよ? 」
「そうなのですか? オリエンテーション? なるものが
これからあるのですか、知りませんでした
ありがとうございます、お兄さん
では、テトラ達を探すのは、お昼休みまで待ってみます
これから、僕は何をした方がいいでしょうか? 」
「うんうん、素直でええ子やね
じゃ、とりあえず、君は僕とここで
これから始まる生徒会執行部、会長さんの
ありがた~いお言葉を一緒に聞こっか
オリエンテーション、たぶん大変やと思うけど
少しでも楽しんでもらえるよう、在校生のみんなでがんばったけん
君達にも、是非楽しんでほしいんよね」
「? 在校生、という事は
お兄さんはこの学校の生徒さんなのですか? 」
「せやね、先におる生徒って事で
新入生の君から見たら、先輩っちゅう事になると思うよ」
オレンジ色の明るい髪を、後ろで長い三つ編みにまとめた
訛り言葉の目立つ、アレンよりもだいぶ背の高い青年に抱き留められながら
青い人形こと、アレン・フォートレスは
いまだ混乱の続く人混みの中、突然現れた先輩の指示に従い
第一体育館の正面側、無人の体育館ステージへと体を向け
彼の言う、会長なる人物の登場を待ちます。
『皆様、おはようございます
突然の入学式の終了に、驚かせてしまって申し訳ありません
しかし、これも全て、この後に行われる
新入生歓迎を兼ねた、入学オリエンテーションの為のプログラムの一つです
どうか怒りを鎮め、混乱する頭を一度リセットし
僕の声に耳を傾けてほしい……
僕達は、この魔法学校にて、己の研鑽を続けようと高みを目指し続ける
君達、生徒諸君の充実した学校生活をサポートする目的で活動する
魔法職養成学校 ログリウム の生徒会執行部!
皆の意を取りまとめ、日々の活動により実現を目指す
この学校の頼れる守護者集団です! 』
高らかに響く、通りの良い透き通るようなソプラノの声
柔らかい声色と、ハキハキとしたしゃべり方。
暴動とかしていた人の波を、一瞬にして釘付けにした
ステージの壇上へと降り立つ、輝く星のきらめきを宿した金髪の少年。
もはや、喚き散らしながら、教師陣へ質問攻めを行う新入生など
その場に一人も存在しません。
はちきれんばかりに溢れ出すカリスマ性と、煌めく金色の美しさを武器に
ステージに登壇した一人の少年は、その場に巻き起こっていた暴動を
事もあろうか、その言葉一つで、いとも簡単に沈めてみせたのです。
『------ピピ、広範囲の魅力系魔法の発動を感知しました
簡易型の防護魔法陣を発動させます』
「 ? 今の声、あの方の何かしらの魔法なのでしょうか?
発動範囲も広く、その威力も高い………
生徒会長、とは
凄腕の魅了系魔法を操る方への、別称か何かなのですね、きっと」
「あれ? 君、もしかして
会長の魅了魔法、防いでしもうたん?
あらら、すごいんやね君
いや、なんや今、自動で防護魔法を発動させた
その星型のブローチがすごいんかな?
どちらにせよ、この事が会長にばれると
後々ぐずって厄介な感じになるから
魔法に掛かった振りして、説明聞いてくれると嬉しいな~」
「分かりました、このまま説明が終わるまで待機を続けます」
「ありがとね、後でなんか奢ったげるわ」
広範囲かつ、強力な魅了効果を持った声を発する
壇上に登場した謎の少年は、魔法の声で皆を魅了しつつ
会場に響き渡るその美声で、皆の視線を釘付けにしたまま話を続けました。
『それではこれより、新入生歓迎オリエンテーション
研究会勧誘と紹介を兼ねた
必要教材配布型、校内スタンプラリーの説明を開始します!
司会進行、演説は
この学校の生徒会執行部、会長を務める
この僕、輝けるみんなの星でお馴染みの
ステラ・サテライトがお送り致します!
皆さん、これからよろしくお願いしますね! 』
輝く星の光を宿した先輩
ステラ会長の始まりの言葉により
人形アレンの学校生活は、華々しいスタートを切るのでした。
(おまけ)
〔ライルの記録帳より抜粋〕
魔女のまじない屋敷で過ごして三日目
既に色々あったし、新たな発見も多かったので
同じ轍を踏まぬよう、ここにメモしておく
・使い魔のノッポさんが必ず起こしに来る
今のところ、正体がほぼ分からないこの屋敷の使い魔、仮名をノッポさんとする
この方、毎朝ご丁寧に起こしてくれるのは良いのだが
その時間が毎朝5時なので、朝眠くて仕方がない。
起こしてくれる時刻を変更したくて、ノッポさん自身に何度お願いしても
微妙にわかっていない様な反応しか返ってこないので
他に何かしらの設定方法があるのだろうが
説明書が無い為、今のところ全くの不明である。
寝坊していい日でも必ず5時に起こしに来てしまう為
夜遅くまで作業を続けた日は地獄だ。
あと、起こし方が怖すぎて
朝から悲鳴を上げたりベットから落ちたりと、割と散々な目にあった。
設定の変更方法が分かるまでは、もう朝5時起きの生活に
体を慣らす他ないかもしれない。
ちなみに、その後に用意されている朝食はとても美味しい。
この点は、この屋敷の大きなセールスポイントの一つだと思う。
アレンも、朝から美味しそうにたくさん食べていた。
いや、よく考えたら、それはいつもの事だった、アレンは元からよく食べる。
・1日に最低でも一回、玄関ホールの鏡に顔を見せないと呪われる
2日目でやらかした。
アレンの調査して来てくれたおまじないの内容から、何かしら起こるとは分かっていたのに
つい、忙しさにかまけておろそかにしてしまい、夜中、枕元に立たれて呪われた。
激しい頭痛と倦怠感が続き、しばらく苦しい思いをしたが
玄関の鏡で自分の姿を確かめると、噓のように症状は消えた。
どうもあの鏡、ただのまじない鏡じゃなくて、使い魔化している気がしてならない。
まじないが掛けられた道具が、時を経て使い魔へと進化するなんて事あるのだろうか?
何はともあれ、2度目はこりごりだ。
小まめに挨拶するようにしよう。
・閉まっていた書庫の扉を開けたら、本に顔面を強打された
この屋敷、鍵の掛けられた部屋がいくつも存在しており
今のところ、使い魔のノッポさんに聞いてみても
その鍵がどこにしまわれているのか分からない為、使えない部屋が何個も存在している形である。
その中で、書庫と名付けられた部屋の鍵は
単純な作りのまじないであった為、いけるかなと思いこじ開けてみたら、甘かった。
まさか、部屋を開けた途端、中から本が飛び出して来て締め出されるとは思わなかった。
アレンは本を読むのが、割と好きなようだから
きっとこの部屋が使えたら喜ぶだろうと思ったのだが、ズルは許してくれないご様子。
大人しく、屋敷内の捜索を続けよう。
・工房の仕掛け魔法と誰かからの課題
魔女が作っただけあり、この屋敷には立派な工房が設けられている。
しかしこの工房、中に代々、この屋敷を使用した住人が貯め込んだであろう
魔法の記録が収納されているらしい。
いったい、何人目の住人が、こんな面倒な仕掛けを施したのか
工房の入り口の扉には、この工房に入るに足りる知恵者か否か
こちらを試す番人の使い魔が備え付けられている。
15問目までは、俺も仕掛けを突破出来たが
それ以降でミスをして、いまだ工房の中にまでは、まだ入れてもらえない。
ただ、15問正解という事もあり、扉だけは開けてくれた。
工房の中を、入り口から見る事が出来るので、それだけでも今は大きな成果だ。
俺自身は、工房の中に入れないが
魔法や魔法道具を使用して、何とか中にある資料を閲覧できないか、今度試してみたい。
中にあった資料や道具、材料などは
遠目からでも分かる程のお宝の山ばかりだったし
いつかなんとしても、全問正解を果たし、あの工房の中身を調べ尽くしたい。
ちなみに、アレンはたまに
扉の番人である使い魔とおしゃべりをして遊んだりしている。
俺には主に相応しいかテストだなんだという癖に
ああ見えて、子供相手には意外と優しいタイプなのかもしれない。
(このページはここで終わっている)
人形アレンは、魔女のまじない屋敷での、何度目かの目覚めを迎えます。
師匠であるライルが実行した
魔法師らしからぬ、至って人間的でごく普通の作戦の成功により
数日前から師匠と共に、宿泊していた大きなホテルの一室から
この小さなお屋敷へと、移り住む事となった彼らは
屋敷の守りを魔女より命じられた使い魔『ノッポさん』の助けを借りつつ
なんとか、この都市での新しい新生活をスタートさせていました。
ちなみに、ノッポさんという、何の捻りも工夫も無い
安直な名前となってしまった理由としては
どんなに屋敷の資料を探してもあさっても
この、首も体も存在しない、やたらと縦に長い、黒い霧状の体を持った使い魔に関する
資料の類が見つからなかった為の緊急措置。
名前も性能も、依然として不明なままの使い魔との
少しでも円滑な意思疎通を行うにあたり、ライルがとりあえずで付けた仮名だった為です。
後々、本当の名前が分かればそちらを使い
現状、何も分からない今の状態では、あまりにも不便であるのでせめて仮名を付けよう
これが、5年ぶりに新たな屋敷の持ち主として認められた
ライル・クラフトが選んだ苦肉の策でした。
そして、住人である彼らに
少しでも心地の良い目覚めをと、この屋敷に長く仕え続けてきた使い魔こと
ノッポさんは、献身的に身を粉にしてお仕えするのです。
具体的に言い表すと
その起こし方は、もはや寝起きドッキリと言ってしまって良いくらいに。
「ノッポさん、おはようございます
毎朝、起こしに来てもらってありがとうございます
でも、本音を言うと僕は人形なので
人間の皆さんのように、疲労や睡眠不足から寝坊する、ということはほぼ無いです
なので、こうした早朝のモーニングコールの必要性も
人間である師匠よりは、必要性が薄いのですよ? 」
『……………』
ベットの上に寝転がりながら
人形アレンは、彼を起こそうと部屋に侵入して来たノッポさんに、その様な言葉で返事をします。
声も物音も一切出さず、ただじっと、先程まで眠っていたアレンの顔の真横で
自身の体を極端な距離まで近づけた状態で待機するノッポさん。
想像してみて下さい。
朝、何かの視線を感じるなと
重たい瞼を薄く開くと、カーテンの開けられた窓から差し込む淡い日差しに
少し明るくなった自室の風景
そして真横に目を向ければ、自分の顔面から数センチ離れた距離に、身をかがめてこちらの顔を覗き込む
黒い霧の体を持つ、人の服を着た首無しの使い魔。
全長にして約6mもの巨体を持つ、顔の無い存在が
ただフワフワとこちらがベットから起き上がるまで、瞳も無いその体で見つめてくる。
正直に言って、バチクソ怖いです。
びっくりしすぎて朝からショック死しかねません。
現に、この屋敷で数日間
アレンが今遭遇している、この衝撃的な起こし方を毎朝されている人間のライルはと言うと
初日の日には朝から恐怖と驚きのあまり気絶し
ファーストインパクトを終えた次の朝も
気絶とまではいかずとも、怖さのあまり盛大な絶叫を披露したものです。
今となっても、この起こされ方になかなか慣れないらしく
最近では、びっくりして後ろに飛びのいた拍子に、勢いよくベットから転げ落ちるという
毎朝の新しいルーティーンで目を覚ますようになったと言っていました。
そんな師匠のライルよろしく
人形であり人間でないアレンも、最初こそ驚き
ベットから天井まで飛び上がっていた頃もありましたが、今となっては慣れたもの。
2日目以降からは、そこまで驚く事も無くなっていました。
住人の穏やかな寝起きを確認し、満足したかのような態度のノッポさんに
自身に対するこの行為の不要性を訴えてみますが
理解しているのかいないのかは、今も不明なまま。
5年間もの間、借り主も持ち主も見付からなかった、魔女のまじない屋敷。
その理由を、なんとなくではありましたが
それとなく察し始めていたアレンは
過保護な使い魔に着替えを手伝ってもらいながら
2階の廊下を下り、朝食の用意されているダイニングへと向かいました。
「いてて……、あ、おはようアレン
今日も天気は晴れらしいぞ」
「おはようございます、師匠
また腰を床に打ち付けてしまったのですか? 」
「あぁ、2日連続で腰から落ちるのは流石に堪えるよ
いや、頭から落ちた時も痛かったけど
何回言ってもやめてくれる様子はないし
これはもう、こちらが受け身の練習でもした方が早いかもな」
「そうですね、ここまでくると、命令されている使い魔としての業務というわけでは無く
あれはノッポさんの趣味のような物なのかもしれません
それはそれとして、今日の朝食も美味しそうですね」
「そうだな
自宅で出来立ての朝食をすぐ食べれるのって、よく考えたらすごい贅沢な事だよ
目覚ましドッキリぐらいは我慢しなくちゃな
それじゃ、冷めないうちに頂こうか」
アレンとライルは、6席あるうちの2つの席に
向かい合うような形で腰を下ろし、運ばれてきた朝食に向かって手を合わせます。
ベーコン、キノコ、トマトにお豆、ソーセージと目玉焼きも付いた欲張りセット。
こんがりと焼かれた素材に、塩と胡椒で適度に味付けした
シンプルかつボリュームのある、昔ながら定番な朝食メニューの一つ。
そこに、きつね色にこんがりと焼かれたトーストと温かな紅茶まで付いてくるのですから
食いしん坊のアレンも大満足の嬉しい朝食です。
食事を用意してくれた、ノッポさんにお礼を言いつつ
ライルは、これから入学式を迎えるアレンに対して、お祝いの言葉を投げかけました。
「アレン、改めまして
魔法学校への入学おめでとう
今日から、はれてお前もあの学校の生徒だな」
「ありがとうございます、師匠
師匠が目標として僕に提示した、生活魔法の習得と
僕自身の性能の向上に向けて、これからも頑張ります
ところで師匠、学校側からの説明によると
道具や教材の用意はせず、正装で学校まで来てほしいとのことでしたが
様々な魔法職に関する技術を学べる学校、という所では
道具などはまったく使用しない、特殊な学習方法を行っていたりするのでしょか?
それとも、授業で使用する道具は学校側からレンタルとか」
「ははは、流石にそりゃないだろ
勉強に道具は付き物だし、持ち帰っての自宅学習も必要になるんだから
やっぱりそこらへんは、これからそれぞれ購入してねって事じゃないか?
もしかしたら、教材の購入も含めて
今日の入学式後の学校案内の時とかに、合わせて行われるのかもしれないな
授業料なんかの説明も
生徒と保護者向けに、今日行われるとの説明書きがあったし
そう考えると、正装で来いとはいえ
ある程度、まとまった荷物を持ち運べるぐらいの
リュックか鞄なんかは、用意して行った方がいいかもな
アレン、実技試験の時に持って行かせた
解体式の布リュックがあっただろ?
あれと、買い物の時とかによく使ってる、布製のエコバックを1つ持って行っておこう
教科書なんかはかさばると、重さが半端じゃないからな
学校側がもし、気をきかせて紙袋なんかを用意してくれたとしても
重さで持ち手の紐とかが切れたら大惨事だ
ああいった荷物の時は、やっぱりなんだかんだ布製の単純なバックが
一つはあると便利だよ、壊れても汚れても替えが効くしな」
「わかりました、確か、タンスの中にしまっておいたはずなので
またお腹の中にでも入れておきますね
………結局、実技試験のあの夜から、テトラやエレラには会えていません
ホテルが広すぎたという理由もあるので、けして、会えなくても不思議ではないですが
二人は、無事合格できたのでしょうか?
また会えるなら、会って話がしたいです」
「大丈夫だよ、アレンの話を聞けば
二人とも、なかなか良い出来の作品を作って提出出来たそうじゃないか
アレン達の協力プレイも含めて
きっと試験監督の先生達は評価してくれてるはずだ
そこはまあ、学校に入ってみてのお楽しみって事で
さて、そろそろ俺達も
学校に向かう準備をしなくちゃな」
「はい師匠、以前に着た正装も
いつの間にやら、ノッポさん表に出しておいてくれていました
クリーニングから持ち帰って、そのままの状態で放置していたはずなのですが
さすが、お屋敷に仕える使い魔さんです
おかげでいつでも着替えられます」
「あぁ、じゃ、それぞれ着替えて荷物を持って
8時には玄関の広間に集合な
あ、そうそう、これも忘れる前に渡しとこう
アレン、手を出してみなさい」
「 ? こう、ですか? 」
命令の意味がよく理解出来ず
おずおずと、右手をライルの方向へ差し出すアレン。
天井に手の甲を向けた状態で出されたその手を
ライルはくるりと反対側にひっくり返して
空っぽな彼の手の上に
小さな箱をちょこんと乗せました。
真っ白な無地の箱に、青く輝くサテンのリボン。
蝶々結びの結び目には、アレンが最初に身に付けていた衣装の
首元に取り付けられていた、青いバラのブローチによく似た
小さな花の装飾が添えられています。
「師匠から弟子への入学祝い
ちょうどいいから、通信機と発信機の機能も追加して、一つ作ってみたよ」
細く柔らかなリボンの端を、そっと引っ張り
単純な構造をした紙の箱の蓋を開けて、人形は白い箱の中身を覗きました。
青い布地を下敷きにして
十字の星を模った、金色に輝く小さなブローチが一つ。
部屋から差し込む朝日に反射して、その表面に薄く彫り込まれた
細やかな模様の数々が浮かび上がっています。
贈り主であるライルにお礼を言い
足早に2階の寝室へと駆け上がる人形。
扉を開け、ハンガーラックに吊るされた正装へと着替え
大きな布地が掛けられた姿見の前に立ち
古ぼけたその布を、バサリと大胆に払いのけると
自身の姿を映し出した鏡に目をやりながら
先程貰ったばかりの星を手に取って、体の様々な位置にあてがってみます。
胸元にあて、中央に寄せ、逆に真横に移動させてみたり
最後にはブローチという役目を完全に忘れて
彼の頭に取り付けられたリボンと合わせてみたり
おでこの中央にあてがってみたり、と
15分もの間、人形アレンは、貰ったばかりの星型のブローチを
その手に握り込んだまま、色々な使用方法を模索しました。
最終的には、着替えを手伝いに来た、使い魔のノッポさんに
あっさりと首元へブローチを付けてもらい、無難な位置での使用となったのですが
そんな事もお構いなしに、輝く星を身に付けたアレンは
首の無い使い魔に向き直り、誇らしげにそれを見せつけて言い放ちます。
「ご覧ください、ノッポさん
僕は今、この国で一番、星が似合うお人形さんです」
エッヘン、と
無表情に胸を張る、ご立派な衣装に身を包んだ人形と
今の状況を呑み込めているのかいないのか、顔が無いせいで全く分からない使い魔が
いかにも軽そうな両手でフワフワと拍手して見せる様子は
なかなか下の階に降りてこないアレンを迎えに来たライルですら
数分間、状況が理解できずに固まってしまうような
そんな訳の分からない、トンチキで冗談みたいな光景でした。
身支度を終え、階段を下り
玄関ホールに設置された大きな鏡で、身だしなみのチェックを終えると
玄関から見送るノッポさんへと手を振り返しながら
人形アレンと魔法師ライルはまじない屋敷を後にします。
彼らが住む魔女のまじない屋敷、住宅が密集する地域の端っこにポツンと建つ
小さなそのお屋敷から表通りに出て
次の角を右に曲がり、最寄りの駅を目指して進みます。
これからアレンが毎朝通う事になる、お屋敷から魔法学校までの道のりは
近くの駅を通る路面電車に乗り1時間、その後、電車を降りて徒歩15分の
合計片道1時間15分程という、少し長めな道のりではありますが
通って通えない距離ではありません。
自転車や自家用車を使用すれば、もう少し時間を縮められそうなものではありますが
それはまた、アレンが自転車に乗れるよう練習を重ねたり
ライルが散々先延ばしにしていた、運転免許を取得してからのお話になるでしょう。
ガタンゴトンと、流れる街並みを揺れる電車の中から眺めつつ
一人と一体は、これから入学式が執り行われる
空中都市の中心部に位置する、魔法学校への到着を待ちました。
(俺、学校に通ったこと無いから
本当のところは知らないけど
こういった、入学式とか開会式とかいう
何かを始める為の最初の儀式って、やたら長いって話を聞いた事があるな
同期の奴らも、お城で行われるセレモニーでの長い話を聞いている最中
校長先生の話かよって、よく愚痴を零してたし………
聞くからに退屈そうな内容ではあったけど
こうして、実際に目の当たりにできるとなると、ちょっと楽しみではあるかも)
まだ見ぬ入学式という未知のイベントに対して、学校へ通うアレン本人形よりも
師匠であるライルの方が、我が事のように胸を躍らせながら
新たな入学生達が意気揚々と集う、魔法学校の金色の正門をくぐります。
魔法職養成学校〈ログリウム〉
魔法を専門として扱う職業に必要となる、特殊な魔法技術を学び習得する為
年齢、種族、性別を問わず、様々な人々が集い、学ぶ。
この広い星の都、国内でも有数の大型魔法学校に数えられる内の一つ。
そんな、将来有望な人材を育てるべく
国が力を入れている学校ですから、その保有する校舎や施設の大きさも
なかなか類を見ない規模の巨大さを誇っていました。
学校の中央に建造されたメインの校舎、その周りを少し低い校舎が囲みますが
その周りの校舎ですら、この都市のビジネスエリアに建つ高層ビルに
匹敵しかねない大きさをしています。
それに加えて、広い敷地内には複数の体育館にガラス張りの植物園、塔のような図書館
空中を浮遊する、鎖と桟橋で繋がれた複数の校舎が並ぶのですから
その光景と入学を果たす生徒の数を見れば、どれ程の規模の大きさなのか
魔法学校どころか、普通科の学校にすら通った事の無い
城下町から遠く離れた、ド田舎の教会出身なライルにも、よく理解出来ました。
それと同時に、こんなすごい学校の入学試験に
自分の弟子は合格を果たし、これからこの学校へと通う事になるのだなと
改めて、誇らしくも少し寂しいような、干渉深い気持ちが込み上げてきます。
そんなこんなで、目的地である魔法学校へと到着した彼らは
入学式が開催される、この学校内で最も大きい体育館である第一体育館へと移動し
入学生であるアレンは、教師の案内の元、体育館の前側に設けられた学生用の席へ
保護者であるライルは、案内板の指示に従い
来賓者用に用意された、後ろ側の席へ着席しました。
会場にひしめき合う人々、洗練された飾りつけに贈り物の花束達
高さのある大空間、その前方に広がる体育館ステージ
はじめてみる多くの景色に
自身の正体を隠す為、幻影効果を付与した仮面を付けたライルも
目元を覆う仮面の奥から、興味深そうに辺りをキョロキョロと見渡します。
広い作りをした第一体育館が、多くの人々で埋め尽くされた頃
『えーー……皆様、大変長らくお待たせ致しました
これより、第32回 魔法職養成学校 ログリウム の入学式を始めさせて頂きます
一同、ご起立ください』
体育館内に設置されたスピーカーから、入学式の開始を告げるアナウンスが鳴り響きました。
ステージ上にはまだ人は立っておらず、その両サイドにも
司会の人らしき人物は確認できないので、おそらく壁で隠されてはいますが
ステージの両端に準備用の空間などがあり、音響やカーテン、アナウンスの放送も
そちらの方で行っているのでしょう。
会場にいる人々が、館内に反響する指示に従い、無機質な椅子から立ち上がります。
そして、スピーカーからは心地よい管楽器とピアノの音色
どうやら、この国の国家を演奏してくれているようです。
歌声の混じり始めたその放送をBGMに
期待度マックスで、体育館に集まった一同は、前方のステージへと視線を移しますが
………その広く立派なステージに、誰かが壇上する事はありませんでした。
『スピーカーでの校歌斉唱と共に
入学許可宣言を、この体育館の運営を任された、本校の人工精霊の一体である私
0013精霊体が行わせていただきます、本日はよろしくお願い致します
皆様、ご着席ください』
おや、こういった宣言や祝辞の言葉というのは
普通の学校であれば、校長先生などの学校を代表する偉い方が行うのですが
この入学式では、学校の運営を補佐しているであろう
人工精霊がその役割を任されているようです。 不思議ですね。
ステージに誰も立たないまま、エンドレスで流れ続ける国歌斉唱を聞き流しながら
人工精霊が読み上げる、入学許可宣言がされ
続けて、学校長式辞の代理音読、来客祝辞の代理音読も
まとめて人工精霊の0013精霊体さんが簡潔に手短に済ませてしまいます。
時間にしておよそ15分
驚異的な速さで、これまでに類を見ない様なスピーディーな司会と進行で
魔法学校の入学式は進められました。
( ? あれ? 入学式の挨拶って、長いんじゃないの? あれ? )
事前に予習していた情報との違いに、呆気にとられるライル・クラフト
その困惑は彼が入学式初心者だからという訳ではなく
その場にいた半数以上の人が、頭の上に?マークを浮かべてしまいそうな程
この入学式は最初から異質で異常なものとなっていたのです。
まず一番最初から、新入生入場をすっ飛ばしていますしね。
しかし、場に広がる混乱の空気感などいざ知らず
怒涛の勢いで入学式は続行されます。
やや早口気味の来賓紹介と祝電の披露
相変わらず誰も登壇しない前方のステージと置いてあるだけのマイクスタンド
あまつさえ、新入生代表挨拶に至っては
後ろの投影機から前方のステージの壁に映し出された映像での紹介
もはや読み上げてすらいません。
いつの間にやら、BGMとして流していた
国歌斉唱と言う名の、ただの国歌の録音テープを
この学校の校歌斉唱へと切り替えて
式はまさかの閉式の辞、この入学式の終わり宣言へと移行します。
時間にしておよそ30分
この国で一般的に多く存在する、一般的な知識を幅広く教える普通科の学校での
入学式と比較すると、その所要時間はおよそ1/4。
1時間~2時間程度はかかるとされている入学式に比べ
驚異的な速さを誇ります。
「え……終わるの? もう? 」
いよいよ皆が混乱を隠せなくなる中
スピーカーにてアナウンスを務めていた人工精霊は
ひるむことなく、会場の皆様へと終わりの言葉を続けました。
『皆様、お疲れさまでした
これにて、今年度の入学式を終了致します
新入生は入学オリエンテーションなどの行事がありますので
教師の案内に従い、そのまま学校内へとお進みください
保護者の皆様、ご来賓の皆様につきましては…………』
淡々と、アナウンスは続けられます。
『下校時刻まで、お好きにお過ごしください』
体育館の前方と後方、学生側と保護者側を分ける、空間の間に
天井に設置られた可動式の巨大なカーテンが、ドサッと音を立てて場を区切りました。
厚手のカーテンの向こうに消えた新入生達
カーテンのこちら側で暴動の起きる保護者席一同と、その対応に追われる職員の皆さん。
「………………思ってた入学式と違う」
荒れ狂う会場の中、席に座りっぱなしで途方に暮れる保護者のライルは
自身のスーツの内側から取り出した、何かしらの受信機の画面を確認し
少し疲れたように溜息を吐くと
スリッパとハンカチと罵声の飛び交う体育館の隅をそそくさと移動。
いまだ混乱の続く会場を後にしました。
彼が隠し持っていた受信機の小さな画面には
レーダーのような位置情報の表示された絵と
魔力量や熱量をはじめとした、体の状態を示す様々な数値が映し出されています。
改めて言うまでも無く、この受信機が受信している情報は
今朝方、弟子のアレンに渡した星型のブローチから送られてくる物。
彼のバイタルに、何も異変が無いという事は
今、アレンはライルから離れていても、安全に過ごせているという事。
何も心配する事はありません。
学校側で、何か行事があるのだというならば
その終わりを静かに待ちましょう。
体育館外で待っていた、教師の一人を捕まえて
他の保護者よりも早く、ライルは保護者向け説明会の会場へと案内してもらうのでした。
一方その頃、保護者席同様、こちらも混乱の続く生徒側の席にて
「 ? 師匠から聞いていた話より、だいぶ早い終わりだったような……
まあいいか、終わったというのですから、これで終わりなのでしょう
………ところで、こんなにたくさん新入生がいのですから
テトラやエレラも、きっと合格を果たしていますよね
お二人とも、どちらに座っているのでしょうか?
立ち上がっている生徒も多くなってきましたし
僕も二人を探しに行ってみましょう」
全く混乱した様子も、困惑した様子すら無い人形アレンが
乱れたその場の雰囲気に紛れて、入学試験にて共に協力した彼らを探そうと
今までのんびりと着席していた席を立とうとしていました。
ひしめき合い、押しめき合いながら
隅の方に待機している教師側に向かって流れる新入生。
その人の波に、乗ったり逆らったりを繰り返しながら
アレンはフラフラとお目当ての人物達を探します。
あっちフラフラ、こっちフラフラ
辺りをくまなく見渡しますが、緑髪のテトラも、ピンク髪のエレラも
なかなか見つける事が出来ません。
宛ても無く、ただ何となく人に揉まれながら彷徨うアレン、そんな中で
突如、大きな人影が一人、彼の進行方向へと立ちふさがりました。
「! すみません、ぶつかってしまいました」
「あー、ええよええよ、君がぶつかったんと違うから
僕が君を止めたんや
なんかえらい、一人だけフラフラしとる子おるな~思うてね
危ないかもなって、お兄さんのこの広い胸と長い腕で抱き留めさせて貰いました
突然ごめんね、ビックリしたやろ?
でも君、こないたくさんの人がおしくらまんじゅうしとるような場所で
そないに無秩序に移動し続けよったら危ないよ?
流れに身を任せるか、人が少しでも少なそうな隅の方に逃げにゃ
もしかしてお手洗い? それともお父さんかお母さんの所にでも行こうとしたん? 」
「いえ、そうではなく
入学試験の時に、一緒に行動した方々と、また会いたいなと思い
探していたんです
魔力の残滓だけは、先程から確認できるので
無事入学を果たし、この会場にいるとは思うのですが、人が多くて」
「あぁ! なんや、もう仲いい子出来たんか
ええねええね、仲良しさん出来て、楽しい学校生活への第一歩やんか
会えるとええね、お兄さんも陰ながら祈っとるで
でもな~、今から新入生向けのオリエンテーションがあるんよ
それ、みんなそれぞれ、ランダムで場所の指定されたとこからスタートやけ
今、お友達を苦労して探しても、すぐもう一回お別れせんといけんくなるけ
探すのは、休憩時間の挟まる、お昼休みの方がええと思うよ? 」
「そうなのですか? オリエンテーション? なるものが
これからあるのですか、知りませんでした
ありがとうございます、お兄さん
では、テトラ達を探すのは、お昼休みまで待ってみます
これから、僕は何をした方がいいでしょうか? 」
「うんうん、素直でええ子やね
じゃ、とりあえず、君は僕とここで
これから始まる生徒会執行部、会長さんの
ありがた~いお言葉を一緒に聞こっか
オリエンテーション、たぶん大変やと思うけど
少しでも楽しんでもらえるよう、在校生のみんなでがんばったけん
君達にも、是非楽しんでほしいんよね」
「? 在校生、という事は
お兄さんはこの学校の生徒さんなのですか? 」
「せやね、先におる生徒って事で
新入生の君から見たら、先輩っちゅう事になると思うよ」
オレンジ色の明るい髪を、後ろで長い三つ編みにまとめた
訛り言葉の目立つ、アレンよりもだいぶ背の高い青年に抱き留められながら
青い人形こと、アレン・フォートレスは
いまだ混乱の続く人混みの中、突然現れた先輩の指示に従い
第一体育館の正面側、無人の体育館ステージへと体を向け
彼の言う、会長なる人物の登場を待ちます。
『皆様、おはようございます
突然の入学式の終了に、驚かせてしまって申し訳ありません
しかし、これも全て、この後に行われる
新入生歓迎を兼ねた、入学オリエンテーションの為のプログラムの一つです
どうか怒りを鎮め、混乱する頭を一度リセットし
僕の声に耳を傾けてほしい……
僕達は、この魔法学校にて、己の研鑽を続けようと高みを目指し続ける
君達、生徒諸君の充実した学校生活をサポートする目的で活動する
魔法職養成学校 ログリウム の生徒会執行部!
皆の意を取りまとめ、日々の活動により実現を目指す
この学校の頼れる守護者集団です! 』
高らかに響く、通りの良い透き通るようなソプラノの声
柔らかい声色と、ハキハキとしたしゃべり方。
暴動とかしていた人の波を、一瞬にして釘付けにした
ステージの壇上へと降り立つ、輝く星のきらめきを宿した金髪の少年。
もはや、喚き散らしながら、教師陣へ質問攻めを行う新入生など
その場に一人も存在しません。
はちきれんばかりに溢れ出すカリスマ性と、煌めく金色の美しさを武器に
ステージに登壇した一人の少年は、その場に巻き起こっていた暴動を
事もあろうか、その言葉一つで、いとも簡単に沈めてみせたのです。
『------ピピ、広範囲の魅力系魔法の発動を感知しました
簡易型の防護魔法陣を発動させます』
「 ? 今の声、あの方の何かしらの魔法なのでしょうか?
発動範囲も広く、その威力も高い………
生徒会長、とは
凄腕の魅了系魔法を操る方への、別称か何かなのですね、きっと」
「あれ? 君、もしかして
会長の魅了魔法、防いでしもうたん?
あらら、すごいんやね君
いや、なんや今、自動で防護魔法を発動させた
その星型のブローチがすごいんかな?
どちらにせよ、この事が会長にばれると
後々ぐずって厄介な感じになるから
魔法に掛かった振りして、説明聞いてくれると嬉しいな~」
「分かりました、このまま説明が終わるまで待機を続けます」
「ありがとね、後でなんか奢ったげるわ」
広範囲かつ、強力な魅了効果を持った声を発する
壇上に登場した謎の少年は、魔法の声で皆を魅了しつつ
会場に響き渡るその美声で、皆の視線を釘付けにしたまま話を続けました。
『それではこれより、新入生歓迎オリエンテーション
研究会勧誘と紹介を兼ねた
必要教材配布型、校内スタンプラリーの説明を開始します!
司会進行、演説は
この学校の生徒会執行部、会長を務める
この僕、輝けるみんなの星でお馴染みの
ステラ・サテライトがお送り致します!
皆さん、これからよろしくお願いしますね! 』
輝く星の光を宿した先輩
ステラ会長の始まりの言葉により
人形アレンの学校生活は、華々しいスタートを切るのでした。
(おまけ)
〔ライルの記録帳より抜粋〕
魔女のまじない屋敷で過ごして三日目
既に色々あったし、新たな発見も多かったので
同じ轍を踏まぬよう、ここにメモしておく
・使い魔のノッポさんが必ず起こしに来る
今のところ、正体がほぼ分からないこの屋敷の使い魔、仮名をノッポさんとする
この方、毎朝ご丁寧に起こしてくれるのは良いのだが
その時間が毎朝5時なので、朝眠くて仕方がない。
起こしてくれる時刻を変更したくて、ノッポさん自身に何度お願いしても
微妙にわかっていない様な反応しか返ってこないので
他に何かしらの設定方法があるのだろうが
説明書が無い為、今のところ全くの不明である。
寝坊していい日でも必ず5時に起こしに来てしまう為
夜遅くまで作業を続けた日は地獄だ。
あと、起こし方が怖すぎて
朝から悲鳴を上げたりベットから落ちたりと、割と散々な目にあった。
設定の変更方法が分かるまでは、もう朝5時起きの生活に
体を慣らす他ないかもしれない。
ちなみに、その後に用意されている朝食はとても美味しい。
この点は、この屋敷の大きなセールスポイントの一つだと思う。
アレンも、朝から美味しそうにたくさん食べていた。
いや、よく考えたら、それはいつもの事だった、アレンは元からよく食べる。
・1日に最低でも一回、玄関ホールの鏡に顔を見せないと呪われる
2日目でやらかした。
アレンの調査して来てくれたおまじないの内容から、何かしら起こるとは分かっていたのに
つい、忙しさにかまけておろそかにしてしまい、夜中、枕元に立たれて呪われた。
激しい頭痛と倦怠感が続き、しばらく苦しい思いをしたが
玄関の鏡で自分の姿を確かめると、噓のように症状は消えた。
どうもあの鏡、ただのまじない鏡じゃなくて、使い魔化している気がしてならない。
まじないが掛けられた道具が、時を経て使い魔へと進化するなんて事あるのだろうか?
何はともあれ、2度目はこりごりだ。
小まめに挨拶するようにしよう。
・閉まっていた書庫の扉を開けたら、本に顔面を強打された
この屋敷、鍵の掛けられた部屋がいくつも存在しており
今のところ、使い魔のノッポさんに聞いてみても
その鍵がどこにしまわれているのか分からない為、使えない部屋が何個も存在している形である。
その中で、書庫と名付けられた部屋の鍵は
単純な作りのまじないであった為、いけるかなと思いこじ開けてみたら、甘かった。
まさか、部屋を開けた途端、中から本が飛び出して来て締め出されるとは思わなかった。
アレンは本を読むのが、割と好きなようだから
きっとこの部屋が使えたら喜ぶだろうと思ったのだが、ズルは許してくれないご様子。
大人しく、屋敷内の捜索を続けよう。
・工房の仕掛け魔法と誰かからの課題
魔女が作っただけあり、この屋敷には立派な工房が設けられている。
しかしこの工房、中に代々、この屋敷を使用した住人が貯め込んだであろう
魔法の記録が収納されているらしい。
いったい、何人目の住人が、こんな面倒な仕掛けを施したのか
工房の入り口の扉には、この工房に入るに足りる知恵者か否か
こちらを試す番人の使い魔が備え付けられている。
15問目までは、俺も仕掛けを突破出来たが
それ以降でミスをして、いまだ工房の中にまでは、まだ入れてもらえない。
ただ、15問正解という事もあり、扉だけは開けてくれた。
工房の中を、入り口から見る事が出来るので、それだけでも今は大きな成果だ。
俺自身は、工房の中に入れないが
魔法や魔法道具を使用して、何とか中にある資料を閲覧できないか、今度試してみたい。
中にあった資料や道具、材料などは
遠目からでも分かる程のお宝の山ばかりだったし
いつかなんとしても、全問正解を果たし、あの工房の中身を調べ尽くしたい。
ちなみに、アレンはたまに
扉の番人である使い魔とおしゃべりをして遊んだりしている。
俺には主に相応しいかテストだなんだという癖に
ああ見えて、子供相手には意外と優しいタイプなのかもしれない。
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