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《┈第一部┈》第四章
《凛》
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プルルルル────。
携帯電話が振動する。
寝落ちしていたわたしはハッとなり、画面をのぞき込む。
汐梨────
そこには、友人の名前が映し出されていた。
眠気眼を擦り、通話ボタンを押す。
そして口を開いた。
「はい、もしもし」
わたしの口から発せられた声は、寝ていたことが通じるのでは無いかと思うような声だった。
言い終えると、返事を待つ。
携帯電話から、汐梨が口を開く音が聞こえた。
「凛は知らないかもだけど、わたしの友達の美湖が死んだの……。」
ピリピリと震えた声を、絞り出すように、彼女は切り出した。
悲しみに震える声────とはいえぬ、茫然自失な声だった。
わたしは黙り込み、彼女の次の言葉を待った。
「罪悪感があるの───。」
予想したものとは違う回答だった。その言葉を聞くまで、汐梨は驚き、言葉が出ないほど、悲しんでいると思っていた。わたしは、彼女の言葉に呆然とする。
「えっ…」
気づけば、わたしの口から、そんな声が漏れていた。
「なんでもない…!なんでもない。切るね───」
そう言い残し電話は切れた。
わたしはしばらく、その場に立ち尽くし、電話の内容───彼女の言葉を考えていた。
***********
その電話から一ヶ月がたったいま、わたしは携帯電話を手にし、逡巡していた。
勇気を出し、彼女の名前の書かれている場所を押す。
プルルル────
呼出音がひびき始めてすぐ、ピッと言う音とともに、「はい、もしもし」という声が聞こえた。少し落ち着いた様子の汐梨の声に、わたしは安堵する。
意を決し、口を開いた。
「ねえ、明日、ショッピング行こう」
声が、少し強ばっていた。
電話の向こうで、汐梨が口を開く音がかすかに聞こえる。
「いいよ」
彼女の口から、その言葉が、小さく発せられた。
次の日、わたしは朝早く家を出た。
駅で、汐梨と落ち合うと、ショッピングセンターに向かった。汐梨の様子は、一見普通に思われたが、言動には、どこか影が落ちている。
目に光がない。暗く沈んだ眼底は、曇って表情が窺えない。
ひとしきりショッピングをすると、日は傾き始めていた。
街灯が灯り始め、あたりは薄暗くなって行く。
「凛、あの人見て。どうしたんだろう。」
汐梨が指さすその先にはひとりの男性が座っていた。
俯き、陰鬱な空気を孕む彼は、違和感を漂わせていた。その服装は、昔教科書で見たような、昭和のそれだ。
「どうされましたか?」
気づけば私は、彼に声をかけていた。
ゆっくりと、彼の顔が上がり、少しずつ表情が露わになる。
それは、周りの空気を吸い込むように、いっそう陰鬱に沈み、疲れきったような顔だった。
そして、まるで助けを求むような悲しげな表情に顔をゆがめ、わたしと汐梨を見上げる。
彼は、ぐったりとした様子で、とても立ち上がれそうにない。
汐梨は彼に駆け寄り手を差し述べた。
「立てますか?」
男性はスーッと手を伸ばし汐梨の手を握る。
その瞬間────彼は一瞬にして消え去った。
全く跡形もなく───
「え?」
わたしと汐梨はその場に立ち尽くしていた。
彼が消えた場所には何も残っていない。
まるで、彼がそこに存在したという証拠が、すべて消し去られたかのように。
汐梨はただただそこを眺め、呆然としていた。
「汐梨…?」
わたしは、言葉を発すると同時に、汐梨の顔を覗き込む。
その顔は、混乱するように────言葉が出ない様子で、虚空を見つめていた。
普通ではない。
そこにあってはいけないようなものを見るような目で、彼女はわたしを見つめた。
そして、しばらくの間の後、汐梨は口を開く。
信じられない言葉が彼女の口から飛び出した。
一瞬、事態が飲み込めず、わたしも唖然とする。
「誰…ですか?」
その言葉が夕闇の街に余韻を残した。
携帯電話が振動する。
寝落ちしていたわたしはハッとなり、画面をのぞき込む。
汐梨────
そこには、友人の名前が映し出されていた。
眠気眼を擦り、通話ボタンを押す。
そして口を開いた。
「はい、もしもし」
わたしの口から発せられた声は、寝ていたことが通じるのでは無いかと思うような声だった。
言い終えると、返事を待つ。
携帯電話から、汐梨が口を開く音が聞こえた。
「凛は知らないかもだけど、わたしの友達の美湖が死んだの……。」
ピリピリと震えた声を、絞り出すように、彼女は切り出した。
悲しみに震える声────とはいえぬ、茫然自失な声だった。
わたしは黙り込み、彼女の次の言葉を待った。
「罪悪感があるの───。」
予想したものとは違う回答だった。その言葉を聞くまで、汐梨は驚き、言葉が出ないほど、悲しんでいると思っていた。わたしは、彼女の言葉に呆然とする。
「えっ…」
気づけば、わたしの口から、そんな声が漏れていた。
「なんでもない…!なんでもない。切るね───」
そう言い残し電話は切れた。
わたしはしばらく、その場に立ち尽くし、電話の内容───彼女の言葉を考えていた。
***********
その電話から一ヶ月がたったいま、わたしは携帯電話を手にし、逡巡していた。
勇気を出し、彼女の名前の書かれている場所を押す。
プルルル────
呼出音がひびき始めてすぐ、ピッと言う音とともに、「はい、もしもし」という声が聞こえた。少し落ち着いた様子の汐梨の声に、わたしは安堵する。
意を決し、口を開いた。
「ねえ、明日、ショッピング行こう」
声が、少し強ばっていた。
電話の向こうで、汐梨が口を開く音がかすかに聞こえる。
「いいよ」
彼女の口から、その言葉が、小さく発せられた。
次の日、わたしは朝早く家を出た。
駅で、汐梨と落ち合うと、ショッピングセンターに向かった。汐梨の様子は、一見普通に思われたが、言動には、どこか影が落ちている。
目に光がない。暗く沈んだ眼底は、曇って表情が窺えない。
ひとしきりショッピングをすると、日は傾き始めていた。
街灯が灯り始め、あたりは薄暗くなって行く。
「凛、あの人見て。どうしたんだろう。」
汐梨が指さすその先にはひとりの男性が座っていた。
俯き、陰鬱な空気を孕む彼は、違和感を漂わせていた。その服装は、昔教科書で見たような、昭和のそれだ。
「どうされましたか?」
気づけば私は、彼に声をかけていた。
ゆっくりと、彼の顔が上がり、少しずつ表情が露わになる。
それは、周りの空気を吸い込むように、いっそう陰鬱に沈み、疲れきったような顔だった。
そして、まるで助けを求むような悲しげな表情に顔をゆがめ、わたしと汐梨を見上げる。
彼は、ぐったりとした様子で、とても立ち上がれそうにない。
汐梨は彼に駆け寄り手を差し述べた。
「立てますか?」
男性はスーッと手を伸ばし汐梨の手を握る。
その瞬間────彼は一瞬にして消え去った。
全く跡形もなく───
「え?」
わたしと汐梨はその場に立ち尽くしていた。
彼が消えた場所には何も残っていない。
まるで、彼がそこに存在したという証拠が、すべて消し去られたかのように。
汐梨はただただそこを眺め、呆然としていた。
「汐梨…?」
わたしは、言葉を発すると同時に、汐梨の顔を覗き込む。
その顔は、混乱するように────言葉が出ない様子で、虚空を見つめていた。
普通ではない。
そこにあってはいけないようなものを見るような目で、彼女はわたしを見つめた。
そして、しばらくの間の後、汐梨は口を開く。
信じられない言葉が彼女の口から飛び出した。
一瞬、事態が飲み込めず、わたしも唖然とする。
「誰…ですか?」
その言葉が夕闇の街に余韻を残した。
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