浦町ニュータウン~血塗られた怪異~

如月 幽吏

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《┈第一部┈》過去編~1~

3、

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時は戦後の混乱期だ。霧島のアパートの周囲は整備されていたが、少し道をはずれると、そこは整備されず、ただ草原が続いている。
しばらく歩くと、目の前に、彼のアパートが現れた。
霧島は、扉を開け、中へ入る。
彼は、娘や妻と暮らした家を出る時、何も持たず、闇雲に、疾走した結果、この街に辿り着いた。
六畳一間の彼の部屋には、何かが置かれることも無く、裸電球の下、備え付けの卓袱台が置かれているだけだ。
スイッチを押し、電気をつける。
卓袱台を押し入れにしまうと、代わりに布団を取り出す。
そのまま霧島は、眠りについた。
────朝が明け、彼は目を覚ました。
起き上がると、朝食を済ませ、洋服をきる。
ドアを開けると、彼は歩き出す。
満員のバスにのり佰神台病院に向かった。
「次は────佰神台……佰神台です。」
アナウンスが流れ、霧島はハッとする。
荷物をしっかりと握り、構えた。
ガタンっ
バスが揺れ、止まる。目の前には、佰神台病院がそびえ立っていた。
霧島は席を立ち、バスをおりる。
正門から中に入ると、ぷーんと消毒液の匂いがたちこめた。
容態を受付に伝えると、硬い椅子に座り、案内を待つ。
母の手記───そして一番上に名前のあった彼のことを考え込んでいると、眠りに落ちていたようだ。
「霧島さん……霧島さん」
受付の女性の呼び声で霧島は目を覚ました。
眠気に目をこすっていると、彼女は口を開く。
「順番ですよ」
そういうと、霧島を連れ、歩き始める。
新しくたった新病棟から旧病棟へはいると、空気は一気に冷え切り、暗く沈む。
椅子にかけるよう言われ、座る。
木で作られたその椅子は古く、座った途端みしっと音がした。その音は薄気味悪く、助けを求むようで、彼は、不安を感じる。
木造の病棟は少し傾き、窓こそはわれていないも、まるで廃墟のようだ。
薄暗いその空気は、霧島の心の闇を表すように、沈む。
不安、哀しみ、孤独が犇めき合うように、どんよりとした空気は彼の心を凍りつかせる。
永遠に終わりの来そうにない長い時間は、彼にのしかかった。
まるで閉じ込められたかのように霧島は、そこに一人、身動きひとつせず虚空を見つめる。
シ───ンと音がしそうな静寂が、この廊下を満たしていた。
数々の鉄扉があるが、それらは開くことなく、壁に溶け混む。
霧島は恐怖を感じ、項垂れる。
そんな中───静寂を切り裂くように、開く事がないと思われた扉が開き、シャ───ッと音が響く。
そして、扉から光が漏れ、一見、希望的だが、霧島は、鋭く指すその光に、心臓を波打たせるのであった。
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