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《┈第一部┈》第三章

《汐梨》

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ヴーゥーヴーゥヴー
ポケットの中の携帯電話が振動する。
携帯電話を取りだし、誰からだろうと、画面をのぞき込む。
「美湖ママ」────そう表示された文字を見て、わたしの心臓はドクン────!と飛び跳ねた。
「もしもし────汐梨ちゃん?」
バクンバクンバクン
震え、憔悴しきったその声がわたしの耳に飛び込む。
嫌な予感────経験値によるそれが、今現実になろうとしている。
「は…はい。」
無理やり声を絞り出し、返事をする。
声は、彼女と同様、震えていた。
ドクンドクン
電話越しに、言い淀む、唸り声が、聞こえた。
悪い予感が深みをましてゆく。
「落ち着いて聞いてね」
一言そう発せられた掠れた声。
その前置きは、答えをまるで言っているようで、わたしの脳裏にこの後発せられる言葉が浮かぶ。
ゴクリ
知らず、喉が上下し、音が鳴った。
「美湖が亡くなったの。昨日────」
彼女の言葉が、わたしの脳裏で予想していた言葉と重なる。
美湖の死因は衰弱死だろう。わたしは過去に、美湖のようになくなった人々を知っている。皆、衰弱死だった。この街には数々の骨が埋められていると言う。
古くは江戸時代の骨から、昭和の骨まで。
考えていると、彼女が口を開いた。
「死因は……死因は衰弱死らしいの。」
またも、今まで死んでいった住人と同じ、死因に、わたしの懸念は確信へと変わった。
────おかしかった様子…衰弱死。彼女はここに眠る誰かに憑依され、この世を去ったのだろう。
罪悪感に胸が締め付けられる。
もし、今、時が戻り────わたしが美湖の家を尋ねた時に戻ったとしても、あの家に入ることは出来ないだろう。美湖の部屋の窓から溢れ出るあの空気。わたしは直感的にわかった。あの部屋に────いやあの家に入ればわたしは確実に死ぬ。
わたしは美湖のために、死ねない。
気づけば通話は切られていた。
ホームボタンへ手を運ぶ。
あっ──!
手が滑り、別のボタンを押してしまったようだ。
録音
そう書かれたページに今日の日付と再生ボタンが映し出されていた。
どうやら、電話の録音のようだ。
そう考えていて、わたしは気づく。
わたしは録音機能をオフにしていたはずだ。
それなのになぜ、録音されているのだろう。
再生ボタンを押してみる。
────すると音声が流れ出した。
『もしもし───汐梨ちゃん』
今日のわたしたちの会話だ。
ザザザァーザザァア────
ノイズが混ざる。よく聞けば、女性の声が混ざっている。よく聞き取れないが、声が混ざっていることだけはわかった。混線だろうか────一瞬そう思うが、これは携帯電話だ。混線はしないだろう。
たすけて────!
それだけははっきりと聞こえた。その声は間違いなく美湖のそれだ。そして、その声を最後に、録音は終わった。
美湖は、もういないはずなのに。それは、美湖の亡霊なのだろうか────それとも、他の、人ではないなにかなのだろうか。
わたしは、美湖みたいに、他の友人がおかしくなっても、同じことを繰り返すだろう。
同じことを繰り返し、罪悪感は募る一方だろう。
わたしはやはり、自分の命がいちばん大切だ。
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