7 / 52
《┈第一部┈》第一章
《靖史》
しおりを挟む
ガチャリ───その音とともに,僕を包んだ異質な空気。その時,僕の心に,あることがフラッシュバックした。
───学生時代,悪友に誘われ,廃屋に入ったことがある.割れた窓から足を踏み入れた時に,鼻を付いた冷たい空気────。
そんな空気に似ていた.
美湖の部屋に入れば,その空気が、すーっとそこに吸い込まれているように感じた。
恐ろしい,僕の心に湧き上がったそれは,畏怖の感情.それでも,次の日には元に戻るだろう.僕はそう思うと,部屋を出た.
次の日,目覚めれば絶望に染まる.美湖の様子は変わらず,異質なそれが,そこにはいた。
笑顔がない.言葉がない。僅かな言葉も、美湖が出す言葉とは思えないほどに,暗く,淡々と沈んでいる。
家族と夕食をとる時も,ただただ俯き,淡々と食事を口に運ぶ.
友人と外出することも全く無い。
ただただロボットのように,家と会社を往復するだけだ.
そんな様子のまま,気づけば、一年が過ぎていた.
僕は,恐怖すら感じるようになった。
まるで、僕の娘ではなく、見知らぬ誰かがそこにいるようで、家にいると落ち着かない。あの日か僕は、家にいることが少なくなっていた。
会社帰り,居酒屋や公園で時間を潰し,今や,家はただの寝床とかしている.
夜も更け,重い足取りで,鈍重な空気の横たわる家へと,帰路に着く.
気がつくと,家の前だ.
ガチャリ,この音を聞けばあの日を思い出す.
そして,光景はあの日と変わらない.
家に帰れば,急ぎ,部屋に駆け込む.
まるで様子のおかしい美湖のようだと苦笑しつつも,異質な空気の蔓延る居間にいたくなくて,部屋に駆け込む日々が続いていた.
あの日の事を想っていると僕は眠りへと落ちた。
───そこは葬儀場のようだ.隣には妻が涙を流し,佇む.そして僕も,悲痛な叫びを漏らしていた.
目の前の棺には,少女の遺体が.
これは娘.そして僕は気づいた.
誰だ────?
疑問が浮上していた.妻だと思っていたそれは,洋子ではない.娘だと思っていたそれも,美湖ではない.
目覚めれば,朝食をとりに,居間へ向かう.
あの日から変わらぬ、おかしい美湖がそこにはいた。それを目の当たりにし,絶望に染まる.
絶望に支配され,目の前が眩む.いつもの朝────美湖がおかしくなってから,いつも朝はこうだった.
美湖がそそくさと出て行った後,
洋子に声をかける。
「やっぱり、美湖はおかしい…憑依…」
思いもよらぬ言葉が口をついて出た.そして,妙に冷静な自分が憑依ーという言葉に,案外そうかもなーと呟いた.
そして、しばらくの間の後。
「うん」
一言、洋子が呟くように言うと、再び黙り込む。
美湖の部屋は常に閉ざされていた。
僕は部屋の前に立つ.
恐ろしく,暗い空気が隙間から漏れ出ていた.
その空気が僕を包み,全身が総毛立つ。
逃げるように,部屋の前を後にして,椅子に座る.ボーっとしていると美湖の姿が浮かぶ.
美湖の瞳は、かつて輝いていた星々が消え去った夜空のように、虚ろで暗く、そこに映るものは何もない.
美湖の瞳には、かつて輝いていた光が失われ、代わりに深い闇が潜む.
水をやらない植物が枯れてゆくように,美湖が痩せこけてゆく.その姿はまるで別人だ.
それは美湖ではなかった.
それは僕の娘ではなかった.
───学生時代,悪友に誘われ,廃屋に入ったことがある.割れた窓から足を踏み入れた時に,鼻を付いた冷たい空気────。
そんな空気に似ていた.
美湖の部屋に入れば,その空気が、すーっとそこに吸い込まれているように感じた。
恐ろしい,僕の心に湧き上がったそれは,畏怖の感情.それでも,次の日には元に戻るだろう.僕はそう思うと,部屋を出た.
次の日,目覚めれば絶望に染まる.美湖の様子は変わらず,異質なそれが,そこにはいた。
笑顔がない.言葉がない。僅かな言葉も、美湖が出す言葉とは思えないほどに,暗く,淡々と沈んでいる。
家族と夕食をとる時も,ただただ俯き,淡々と食事を口に運ぶ.
友人と外出することも全く無い。
ただただロボットのように,家と会社を往復するだけだ.
そんな様子のまま,気づけば、一年が過ぎていた.
僕は,恐怖すら感じるようになった。
まるで、僕の娘ではなく、見知らぬ誰かがそこにいるようで、家にいると落ち着かない。あの日か僕は、家にいることが少なくなっていた。
会社帰り,居酒屋や公園で時間を潰し,今や,家はただの寝床とかしている.
夜も更け,重い足取りで,鈍重な空気の横たわる家へと,帰路に着く.
気がつくと,家の前だ.
ガチャリ,この音を聞けばあの日を思い出す.
そして,光景はあの日と変わらない.
家に帰れば,急ぎ,部屋に駆け込む.
まるで様子のおかしい美湖のようだと苦笑しつつも,異質な空気の蔓延る居間にいたくなくて,部屋に駆け込む日々が続いていた.
あの日の事を想っていると僕は眠りへと落ちた。
───そこは葬儀場のようだ.隣には妻が涙を流し,佇む.そして僕も,悲痛な叫びを漏らしていた.
目の前の棺には,少女の遺体が.
これは娘.そして僕は気づいた.
誰だ────?
疑問が浮上していた.妻だと思っていたそれは,洋子ではない.娘だと思っていたそれも,美湖ではない.
目覚めれば,朝食をとりに,居間へ向かう.
あの日から変わらぬ、おかしい美湖がそこにはいた。それを目の当たりにし,絶望に染まる.
絶望に支配され,目の前が眩む.いつもの朝────美湖がおかしくなってから,いつも朝はこうだった.
美湖がそそくさと出て行った後,
洋子に声をかける。
「やっぱり、美湖はおかしい…憑依…」
思いもよらぬ言葉が口をついて出た.そして,妙に冷静な自分が憑依ーという言葉に,案外そうかもなーと呟いた.
そして、しばらくの間の後。
「うん」
一言、洋子が呟くように言うと、再び黙り込む。
美湖の部屋は常に閉ざされていた。
僕は部屋の前に立つ.
恐ろしく,暗い空気が隙間から漏れ出ていた.
その空気が僕を包み,全身が総毛立つ。
逃げるように,部屋の前を後にして,椅子に座る.ボーっとしていると美湖の姿が浮かぶ.
美湖の瞳は、かつて輝いていた星々が消え去った夜空のように、虚ろで暗く、そこに映るものは何もない.
美湖の瞳には、かつて輝いていた光が失われ、代わりに深い闇が潜む.
水をやらない植物が枯れてゆくように,美湖が痩せこけてゆく.その姿はまるで別人だ.
それは美湖ではなかった.
それは僕の娘ではなかった.
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説



禁忌index コトリバコの記録
藍沢 理
ホラー
都市伝説検証サイト『エニグマ・リサーチ』管理人・佐藤慎一が失踪した。彼の友人・高橋健太は、佐藤が残した暗号化ファイル「kotodama.zip」を発見する。
ファイルには、AI怪談生成ブログ「コトリバコ」、自己啓発オンラインサロン「言霊の会」、そして福岡県██村に伝わる「神鳴り様」伝承に関する、膨大な情報が収められていた。
【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~
榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】
ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。
八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。
現在 100話 越え。
エブリスタ・カクヨム・小説家になろうに同時掲載中
※8/2 Kindleにて電子書籍化しました
【総文字数 700,000字 超え 文庫本 約7冊分 のボリュームです】
【怖さレベル】
★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度
★★☆ ふつうに怖い話
★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話
『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる