浦町ニュータウン～血塗られた怪異～

プロローグ～憑依～

洋子

ガチャという、どこか懐かしい音。
家計簿をつける指が、一瞬、止まる。
「美湖…？」
戸を開けると、そこにたたずむのは、いつも通りの美湖ではなかった。
見た目はいつもの美湖だ。
しかし見慣れた玄関先で、彼女はあたりを警戒するように、大きな瞳を左右に振っている。
その様子は、まるで迷い込んだ小動物のよう。
普段の穏やかな表情はどこへやら、彼女の周りに漂うのは、どこか異質な緊張感。
何が彼女をそうさせているのか。
わたしの心は、不穏な予感で満たされ始めた。
「美湖、おふろに入ってきなさい。」
平然を粧いいつもの通り、美湖に言う。
しかしわたしの心には何かが引っかかっていた。
ふろから上がった美湖はすぐに部屋にもどった。
いつもはリビングに立ち寄る美湖。
やはり今日は様子が違う。
「美湖。どうしたの？今日はなんだか様子が変よ。」
「えっと……」
何かを隠しているかのように言い淀む美湖。
これからなにか悪いことが起きる予感がした。