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22話
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交流試合では同じグループでも試合の間隔がある。Fグループはさっき私と石井百合が試合したから、今は別のグループがリングを使っている。
「陽菜おつかれー。相変わらずいい動きだったじゃん」
「ありがとう。とりあえず白星ひとつ」
「やっぱりジャーマン好きなんだ。でも陽菜の他の技も見てみたいな」
「えー。でもこれで決めないと勝った感じしないんだよねー」
私は試合の大半をこのジャーマンスープレックスで決めてきた。威力もあって派手でカッコいい。プロレス技らしいところが好きなんだ。でもブリッジして投げる技繋がりで、タイガースープレックスとか練習してみてもいいかも。
「ずっとお気に入りの技だもんね。あ、そうだ、咲来ちゃん?試合どうだった?」
「咲来勝ったよ!最後はすっごいキックでバシッと決めてた!」
咲来が相手を仕留めた華麗な蹴りを桜に熱弁する。咲来の蹴りはほんとにすごかった。自分だったら対処できていただろうか。しなる鞭のように柔らかく軌道を変えたあの蹴りを。
「カッコいいチームメイトじゃん。私も見たかったなー」
「桜も打撃得意だもんね。次、頑張ってね。高山さんとの試合」
Fグループの第2試合の対戦カードは桜と高山美優だ。久しぶりに桜の試合を見れるのも嬉しいし、高山美優を今度は間近で見られる。この試合を誰よりも楽しみにしてる自信があるくらいだ。
「そうだねー。いきなり高山さんとはね。なんだか、ちょっと怖いよ」
「なに弱気なこと言ってんの。勝ちにいってよね」
そう言って桜に笑いかけたけど、桜の表情は固かった。口をきゅっと閉じて、目はどこに焦点があってるのかわからない。
桜は心優しい子だ。相手を蹴ったり投げたりするのも最初はかなり抵抗があったらしい。そういう競技なんだけど。それでも桜はなかなか慣れなかった。
でも弱くない。桜は全然弱くない。聖華の私たちの代は中学2年生になる前から試合でも結果を出し始めていて、豊作だと言われたくらいレベルが高かった。
桜には試合で負けたことはないけど、スパーリングの時に関節技で1本取られることは度々あった。
そんな桜の、自信が無さそうな顔を見て思わず目をそらしてしまう。
「高山さんは、強いよ。ほんとに」
「知ってる。私も南関東見たもん」
「だったらわかるでしょ?全国行きが決まった3年生たちにも全然引けを取らなかった。次元が違うよ」
「でも、そうかもしれないけど。だからって、負けるつもりでリングに上がってどうすんのよ」
「そうじゃないけど。頑張るけど。でも結果は見えてるよ」
「やってみなきゃわかんないじゃん!桜が一瞬のチャンスを掴んで決めるかもしれないじゃん!」
桜は何も言わず、またどこか遠くに目をやってしまう。居てもたってもいられなくて桜を残して私は会場を飛び出した。
なんでなの?どうして諦めるの?負けると思ってて勝てるわけないのに。
そういえば桜とはよくこうやって言い争ってたっけ。桜は強いのに試合前にネガティブなこと言うから。私が見てられなくて。
でも今日の桜は落ち着いていた。試合で手を抜いたりする子じゃない。全力で戦うはずだ。自分が頑張るかどうかに関係なく、それでも負けるだろうってことを悟ったような目だった。
私は絶対嫌だ。負けるだろうなんて気持ちでリングに上がりたくない。
「陽菜おつかれー。相変わらずいい動きだったじゃん」
「ありがとう。とりあえず白星ひとつ」
「やっぱりジャーマン好きなんだ。でも陽菜の他の技も見てみたいな」
「えー。でもこれで決めないと勝った感じしないんだよねー」
私は試合の大半をこのジャーマンスープレックスで決めてきた。威力もあって派手でカッコいい。プロレス技らしいところが好きなんだ。でもブリッジして投げる技繋がりで、タイガースープレックスとか練習してみてもいいかも。
「ずっとお気に入りの技だもんね。あ、そうだ、咲来ちゃん?試合どうだった?」
「咲来勝ったよ!最後はすっごいキックでバシッと決めてた!」
咲来が相手を仕留めた華麗な蹴りを桜に熱弁する。咲来の蹴りはほんとにすごかった。自分だったら対処できていただろうか。しなる鞭のように柔らかく軌道を変えたあの蹴りを。
「カッコいいチームメイトじゃん。私も見たかったなー」
「桜も打撃得意だもんね。次、頑張ってね。高山さんとの試合」
Fグループの第2試合の対戦カードは桜と高山美優だ。久しぶりに桜の試合を見れるのも嬉しいし、高山美優を今度は間近で見られる。この試合を誰よりも楽しみにしてる自信があるくらいだ。
「そうだねー。いきなり高山さんとはね。なんだか、ちょっと怖いよ」
「なに弱気なこと言ってんの。勝ちにいってよね」
そう言って桜に笑いかけたけど、桜の表情は固かった。口をきゅっと閉じて、目はどこに焦点があってるのかわからない。
桜は心優しい子だ。相手を蹴ったり投げたりするのも最初はかなり抵抗があったらしい。そういう競技なんだけど。それでも桜はなかなか慣れなかった。
でも弱くない。桜は全然弱くない。聖華の私たちの代は中学2年生になる前から試合でも結果を出し始めていて、豊作だと言われたくらいレベルが高かった。
桜には試合で負けたことはないけど、スパーリングの時に関節技で1本取られることは度々あった。
そんな桜の、自信が無さそうな顔を見て思わず目をそらしてしまう。
「高山さんは、強いよ。ほんとに」
「知ってる。私も南関東見たもん」
「だったらわかるでしょ?全国行きが決まった3年生たちにも全然引けを取らなかった。次元が違うよ」
「でも、そうかもしれないけど。だからって、負けるつもりでリングに上がってどうすんのよ」
「そうじゃないけど。頑張るけど。でも結果は見えてるよ」
「やってみなきゃわかんないじゃん!桜が一瞬のチャンスを掴んで決めるかもしれないじゃん!」
桜は何も言わず、またどこか遠くに目をやってしまう。居てもたってもいられなくて桜を残して私は会場を飛び出した。
なんでなの?どうして諦めるの?負けると思ってて勝てるわけないのに。
そういえば桜とはよくこうやって言い争ってたっけ。桜は強いのに試合前にネガティブなこと言うから。私が見てられなくて。
でも今日の桜は落ち着いていた。試合で手を抜いたりする子じゃない。全力で戦うはずだ。自分が頑張るかどうかに関係なく、それでも負けるだろうってことを悟ったような目だった。
私は絶対嫌だ。負けるだろうなんて気持ちでリングに上がりたくない。
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