リング上のエンターテイナー

knk

文字の大きさ
上 下
24 / 36

22話

しおりを挟む
交流試合では同じグループでも試合の間隔がある。Fグループはさっき私と石井百合が試合したから、今は別のグループがリングを使っている。

「陽菜おつかれー。相変わらずいい動きだったじゃん」
「ありがとう。とりあえず白星ひとつ」
「やっぱりジャーマン好きなんだ。でも陽菜の他の技も見てみたいな」
「えー。でもこれで決めないと勝った感じしないんだよねー」

私は試合の大半をこのジャーマンスープレックスで決めてきた。威力もあって派手でカッコいい。プロレス技らしいところが好きなんだ。でもブリッジして投げる技繋がりで、タイガースープレックスとか練習してみてもいいかも。

「ずっとお気に入りの技だもんね。あ、そうだ、咲来ちゃん?試合どうだった?」
「咲来勝ったよ!最後はすっごいキックでバシッと決めてた!」

咲来が相手を仕留めた華麗な蹴りを桜に熱弁する。咲来の蹴りはほんとにすごかった。自分だったら対処できていただろうか。しなる鞭のように柔らかく軌道を変えたあの蹴りを。

「カッコいいチームメイトじゃん。私も見たかったなー」
「桜も打撃得意だもんね。次、頑張ってね。高山さんとの試合」

Fグループの第2試合の対戦カードは桜と高山美優だ。久しぶりに桜の試合を見れるのも嬉しいし、高山美優を今度は間近で見られる。この試合を誰よりも楽しみにしてる自信があるくらいだ。

「そうだねー。いきなり高山さんとはね。なんだか、ちょっと怖いよ」
「なに弱気なこと言ってんの。勝ちにいってよね」

そう言って桜に笑いかけたけど、桜の表情は固かった。口をきゅっと閉じて、目はどこに焦点があってるのかわからない。

桜は心優しい子だ。相手を蹴ったり投げたりするのも最初はかなり抵抗があったらしい。そういう競技なんだけど。それでも桜はなかなか慣れなかった。

でも弱くない。桜は全然弱くない。聖華の私たちの代は中学2年生になる前から試合でも結果を出し始めていて、豊作だと言われたくらいレベルが高かった。
桜には試合で負けたことはないけど、スパーリングの時に関節技で1本取られることは度々あった。

そんな桜の、自信が無さそうな顔を見て思わず目をそらしてしまう。

「高山さんは、強いよ。ほんとに」
「知ってる。私も南関東見たもん」
「だったらわかるでしょ?全国行きが決まった3年生たちにも全然引けを取らなかった。次元が違うよ」
「でも、そうかもしれないけど。だからって、負けるつもりでリングに上がってどうすんのよ」
「そうじゃないけど。頑張るけど。でも結果は見えてるよ」
「やってみなきゃわかんないじゃん!桜が一瞬のチャンスを掴んで決めるかもしれないじゃん!」

桜は何も言わず、またどこか遠くに目をやってしまう。居てもたってもいられなくて桜を残して私は会場を飛び出した。

なんでなの?どうして諦めるの?負けると思ってて勝てるわけないのに。

そういえば桜とはよくこうやって言い争ってたっけ。桜は強いのに試合前にネガティブなこと言うから。私が見てられなくて。

でも今日の桜は落ち着いていた。試合で手を抜いたりする子じゃない。全力で戦うはずだ。自分が頑張るかどうかに関係なく、それでも負けるだろうってことを悟ったような目だった。

私は絶対嫌だ。負けるだろうなんて気持ちでリングに上がりたくない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

おてんばプロレスの女神たち ~男子で、女子大生で、女子プロレスラーのジュリーという生き方~

ちひろ
青春
 おてんば女子大学初の“男子の女子大生”ジュリー。憧れの大学生活では想定外のジレンマを抱えながらも、涼子先輩が立ち上げた女子プロレスごっこ団体・おてんばプロレスで開花し、地元のプロレスファン(特にオッさん連中!)をとりこに。青春派プロレスノベル「おてんばプロレスの女神たち」のアナザーストーリー。

坊主女子:女子野球短編集【短編集】

S.H.L
青春
野球をやっている女の子が坊主になるストーリーを集めた短編集ですり

坊主女子:学園青春短編集【短編集】

S.H.L
青春
坊主女子の学園もの青春ストーリーを集めた短編集です。

坊主女子:青春恋愛短編集【短編集】

S.H.L
青春
女性が坊主にする恋愛小説を短篇集としてまとめました。

坊主女子:スポーツ女子短編集[短編集]

S.H.L
青春
野球部以外の部活の女の子が坊主にする話をまとめました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

坊主頭の絆:学校を変えた一歩【シリーズ】

S.H.L
青春
高校生のあかりとユイは、学校を襲う謎の病に立ち向かうため、伝説に基づく古い儀式に従い、坊主頭になる決断をします。この一見小さな行動は、学校全体に大きな影響を与え、生徒や教職員の間で新しい絆と理解を生み出します。 物語は、あかりとユイが学校の秘密を解き明かし、新しい伝統を築く過程を追いながら、彼女たちの内面の成長と変革の旅を描きます。彼女たちの行動は、生徒たちにインスピレーションを与え、更には教師にも影響を及ぼし、伝統的な教育コミュニティに新たな風を吹き込みます。

【ショートショート】雨のおはなし

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇、朗読用台本になりますが普通に読んで頂ける作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

処理中です...