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入学準備編
029 リア充生活はじめています
しおりを挟む冗談を交わしながら会話できるようになったマックスさんであったが、時間が来たので、お帰りになられた。ただそのお帰りの足取りは重かったように見える。
これから、また厄介な仕事が待っているのだろう。
私はしっかりと哀愁の漂う背中を見送って、新たな同居人の件を考えた結果、私も憂鬱になったが、許可した手前、逃げる事は許されていなかった。
「もしかしたら、同居人が増えるかもしれません」
報告連絡相談は大事だ。例え、私が全ての決定権があるとしてもだ。
家族と思っているなら、なおさらだ。憂鬱なんて言ってられない。
マックスさんが訪ねてきた日の夕食の終わりに、皆に話をした。
「………そのお相手は男性でしょうか?」
決定権は全権を私が握っていたわけではなかった………。訂正しよう。
助祭様が男性か女性かは分からない。聞くのを忘れた。………たぶん、マックスさんも知らないから、教えてくれなかったんだろう。
「マリー。もし、相手が男性で、問題があれば、私が始末しよう」
そう、始末だ。私が問題を始末しないと、マリーが物理的に始末してしまうからね。
「分かりました。クロム様にお任せします」
助祭様の同居についての話し合いで、問題になったのはそれだけだ。逆にそれだけ分かれば、他の人も安心という事だ。マリーが受け入れるか否か。それがみんなの基準らしい。
助祭様が男性で、母にちょっかいをかける。助祭様の物理的に始末エンドだ。
また、子供たちに手を出そうとすると、母が怒る。そして、物理的に始末エンドになるという訳だ。確かに安心だ。
まあ、その兆候が少しでもあったら、私がさくっと追い出すけどね。お互いの為に。
当孤児院の戦力は、親方、そして親方の部下たちの方々と、主力が肉体労働派の方々で占められている。
私は号令をかけるだけで全てが片付くというものさ。楽に追い出せるだろう。
「………………こうして、聖女様は王子様と幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし」
マックスさんの話し合いで、アメジスト教について知らなさ過ぎることが問題として浮かび上がったので、色々と調べる事にした。
すぐに集まる情報が童話だったので、子供たちに色々な話を読み聞かせている。
ついでに、文字も教えている。
この世界の識字率も高いわけではないようだ。
「お兄ちゃん、もっとご本を読んで!」
相変わらず、私の一番の癒しであるメイが甘えてくる。
そして、メイが甘えてくる時は、告白魔のベティも遠慮している。ベティも何も考えていない訳ではないようだ。
それとは別に童話だけでも、色々と情報が手に入る。
聖女様は自然発生する生き物だと推測出来る。大抵は、国の有力者と結婚する事になるのが多く、政治の道具の一端を担う存在である事は分かった。
あとは眉唾ものの伝説があるだけだ。魔を打ち払う力だとか、大地に恵みをもたらすとか………そういう奴だ。自分が魔法なんて使えなかったら聖女様(笑)と馬鹿にしていただろう。
「本は、1日1冊だけだよ」
最年少だけあるのか、メイは色々な事にすぐに興味を示す。
前にお姉さん役のナズリーンと共に買った花も、室内で自分たちで世話をする程度には、本当に色々とやる。
子供たちの中で一番将来有望なのはメイだろう。
「クロムウェル様はお忙しいのです。メイならわかってくれますよね?」
エイシアさんがメイにそう告げると、メイは大人しく従う。適度に甘やかす事はあっても、甘やかしすぎない教育方針のおかげで、メイは本当に良い子に育っている。
そんなメイの様子をみて、私としては、既にパパになった気分だ。
そして、エイシアさんが言ったとおり、私は忙しい。
孤児院に同居するかもしれない助祭様は、アメジスト教における立場は思っていたよりも高かった。
国によっては、その国にある教会の最高の地位を務める事がある程だと分かった。
そんな方が孤児院に住み着こうというのだろうか?
目的は何であれ、最低でも部屋の改築を行なわなくてはならない。偉い人の住む部屋くらいはちゃんとしないといけないからな!
DIYリフォームは嫌いじゃないので、親方と共に作業だ。最近は親方の弟子も混ざって作業しているので、だんだん技術は順調に盗まれている。
「クロムウェルの旦那。ご報告があります」
空き部屋を2つぶち抜いて、少し広い部屋へと改築しているところで、親方から声を掛けられる。う~ん。この部屋には暖炉とか設置したいな。
「何かトラブルですか?」
「いえ、この部屋に住まうかもしれない助祭様を紹介する日取りが決まりました」
マックスさんが帰って3日が経過している。
その早いのか遅いのか分からない日にちの経過が、やっぱり色々と政治的な事が絡んだ内容なのだろうと予測できる。
「急で申し訳ないのですが、明後日になります」
「本当に急だね。という事は顔合わせだけって事で良いのかな?」
「はい。それと………」
親方が言葉を詰らせた事で、政治がらみは本当に厄介ごとしかないのだと思った。
「案内役がグレンスコット公爵のご令嬢との事です」
それは困った。グレンスコット公爵家といえば、公妃様のご実家だ。
予想が正しければ………。
「その方も馬鹿公子の婚約候補者の方という認識で良いのかな?」
「………気持ちは分からなくはないですが、第1王子殿下の婚約者候補の方で間違いありません」
厄介ごとというよりは面倒ごとだな。
「公爵令嬢をもてなせる程の支度はできないから、断る事は出来ない?」
「無理ですね。夫人から直々に命令を受けています。そして、そう言われた時は「お忍びだから」と答えるようにと言われています」
つまりは、馬鹿公子のざまぁ計画の報告込みって事か。
勝手にやってくれれば良いのに、なぜに私を巻き込もうとするかね………。
「分かりました。話だけはお聞きしますので、最低限もてなすだけの準備に侍女を借り受ける事も了承して頂いて下さい」
「クロムウェルの旦那は話が早くて助かります」
だって、あの公爵夫人相手じゃ逆らっても無駄なのは前回に会った時に悟った。
マリーにも、公爵夫人にも逆らえない。私も他人を笑えない立場になってしまったようだ。
「せっかくだから、ミルファに本職の侍女の仕事を見させる良い機会になるか」
「………旦那は前向きですね。その度胸には感服します」
私も人並みには驚いたりしているし、心の準備の時間とかが必要さ。
金髪縦ロールをみて笑わない心の準備とか………な?
翌日には総勢10名ほどの侍女が孤児院を訪れて、本職による清掃が開始された。
私も役立たずで居られなかったので、給湯器としての仕事ぶりを発揮させて貰った。
まあ、最初は侍女が私の魔法に驚いていたので、普通は魔法を掃除に使わないらしい。
一応、侍女たちがマックスさんからの篭絡要員である事も警戒していたが、杞憂に終わった。プロの人たちを疑って申し訳ありませんでした。
「せっかく綺麗になったのですから、本日は駄犬は犬小屋に預けましょう。下手に汚されては困りますから」
その誰かのひと言で、ロック2号は元祖ロックの元へと預けられた。
ロックはマリーからの頼みだと言えば、素直に言う事を聞く。どうせ、名ばかりの見張り役だ。むしろ、余計な事をしないように見張っているのは、こっちだから、これからも便利に使わせて貰おう。
「明日の話し合いの場には、ミルファに同席して貰う」
ミルファは公爵家から派遣された侍女たちの仕事をぶりを良く見て、意識的に学ぼうとしている事は良く分かった。
そして、今、私には自由に使える人材はいない。だからこそ、彼女を育てる事にした。
父と別れてから、徐々に母の甘やかし行為が過剰になっていくマリーは既に私の手を離れたと言っても良いだろう。お給料はちゃんと私が払ってるんだけどね………。
「わ、私がですか?」
「あぁ。ただ私の後ろに控えてくれているだけで良い。何かを話す必要はない。………だが相手は公爵令嬢だ。嫌なら断って欲しい。その際は私1人で対応する」
ミルファが私の傍にいる為に、色々な勉強も頑張っている事は知っている。
だが、私は既に権力者に目を付けられてしまっている。なので、私の傍に居る限りは少なからず、そういう人物と会う事は十分に考えられる事だ。
最初は誰でも緊張するものだ。それにその最初の相手が公爵令嬢なら、次からは大抵の相手で臆す事はなくなるはずだ。
厳しいが、現状はのんびり人を育てる余裕もないし、信用できそうな人材の心当たりもない。
少しスパルタ気味なのは諦めて貰おう。
「わ、私を傍において下さい! お願いします!!」
こういう時にミルファは積極的だ。普段は距離をおいて、熱い視線を送ってきてくれるだけだが、チャンスがあると告白に近い発言をしてくる。
エイシアさん曰くベティに対抗しているらしい。
当然、そんな可愛いらしい発言は、私の心に、効果は抜群だ!!
応援ありがとうございます!
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