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入学準備編

032 思春期の煩悩はピンク色

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 一応、ミルファへ話し合いで聞いた内容の口止めをしたが、本人は話の内容を理解出来なかった事と、私の困る事は絶対にしないと凄い勢いで誓われた。
 今度、個人的に街に出る機会があれば、その時はミルファも連れて行って、街で買い物をしよう。

 そんな事を考えた私のミルファに対する好感度は40を超えたようだ。好感度が100を超えれば、私は見事にロリコンの仲間入りを果たす事になるので注意しよう。

「それにしても、貰ってこの本って………」

 孤児院の大人たちに、話し合いの結果を伝えた後は、お土産として頂いた本を一通り目を通してみた。
 そして、つい独り言を口走る程度には動揺している。

「どう見ても教科書だろ………」

 そう、お土産として頂いた本は、教科書としか言えない内容の本だった。
 そのおかげで、この国の公妃様が何を企んでいるのか、おおよその見当が付いた。

「これは親方から情報収集だな」

 馬鹿公子ざまぁ計画の舞台となる学園について、親方から情報収集を行なうと、何でも来年から庶民も学園に入学させる準備が進められていると噂になっているらしい。
 
 これについては、予想が付いている。
 あの公爵夫人の持つ店にいたピンク髪の店員を学園に入れる為に必要な事なのだろう。
 それに予備として、1~2人も追加で動員するのにも良い手だ。

 国としては、共和国の国民を優遇する対抗手段として受け入れられるだろう。
 良い人材の発掘は、国としての宝探しと同じなのだ。決して損になる事ではない。将来を見据えた政策だ。

 ………どうやら、この国に残り続ける方が得策に思えてきた。
 そして、こう考える事を予想して、今日の話し合いを持ったわけか。公妃様の能力は本当に侮れないな。

 となると、あの残念助祭様の行動も気になる………。無意味にあのような人物を送ってきたりしないだろうが、意図が未だに掴めない。

「あぁ~。それでしたら、この近くに教会を建てる予定だからじゃないですかね?」

 私が親方と相談しながら考え事をしていると、親方が答えを教えてくれる。

「クロムウェルの旦那に関する作業が終わったら、あっしたちもそっちの作業に参加するように言われていやす」

 うむ。そして、この孤児院を完全に教会の保護下として、この国の貴族たちから遠ざける為か。
 一体、いくら金をつぎ込もうとしているやら。

「それと『成人の儀』を庶民にまで拡大して、人気取りをするような噂を聞いています」

 あぁ。たぶんそれは、学園に通う庶民を増やして、私たちの企みの隠れ蓑にするつもりだね。

「それって実際にどれくらい人気が上がるものなの?」

「へっ?」

 いや、本当に分からないから聞いたのだが………。

「クロムウェル様はアメジスト教の教徒ではなかったのですか?」

「いや、これっぽちも」

 私の即答に、親方は天を仰いでしまった。

「この大陸の8割近い人々がアメジスト教の教徒だとはご存知ですよね?」

「それは知っている。私は残りの2割の人間って事だ」

「いや、あっしも2割の方ですが………」

 まあ、親方の言いたい事は分かった。

「単純にアメジスト教との繋がりが強くなるから、アメジスト教徒は国に愛国心の抱くようになって、そのアメジスト教を呼び寄せた公妃様の人気が高まるという事だね」

「………ちゃんと分かっているじゃないですか」

「ついでに、恐らく平民でも貴族になれる可能性を国民に公表するつもりだろうね」

「へっ?」

 おぃおぃ。そんなにへっへ言っていると、ロック2号と同じようにマリーに駄犬扱いされちゃうよ?

「『成人の儀』で魔力のある者を探し出して、学園に通わせる。その学園で学んだ者の中で、1人か2人ほど貴族にする。まあ、1代限りの貴族だと思うけど」

 『成人の儀』はアメジスト教がやっている布教活動の1つだ。
 貴族たちの子供たちが成人した際に、自身にどれだけの魔力が宿っているのかを教えてくれる。………言わばテンプレート的な魔法能力解放儀式みたいなものだ。

 ついでに、貴族たちからお金を集めるお布施活動でもある。世の中世知辛い。

「平民から貴族が出れば、共和国への牽制とこの国の民の流出を止められるからね。良い手だと思うよ」

「いや、出来ればそんな国の陰謀みたいなのを、あっしにさらっと教えないで下さい。私はこの件は何も聞いておりやせん」

 残念だ。せっかく身近に相談できる信用できる人を増やそうと思ったのに。

「とにかく、教会を建てるんだったら、親方はずっとこの周辺での仕事になりそうだね」

「あっしとしては、ありがたい限りです。受付の店舗も近くに移転させる予定です」

 うむ。エイシアさんと住む家も、この孤児院の隣に建てているからね。
 あとは院長先生大好きのシルキーを説得して、養女に迎えれたら、正式に婚姻を結べそうだね。

 私がその条件を知らないと思っているだろうけど、私は知っているんだよ?
 ………エイシアさんが母に相談したからね。当然、私の耳にも入るよ。

「私の秘密を知っている人が周りを固めてくれるのは助かるから、家の建築も支援させて貰うよ。どうせお屋敷だって建てられる程のお金を貰っているのに使う事はないからね」

「………感謝いたしやす」

 交換条件の内容は分かっているようで、親方も了承してくれる。
 どちらにしてもエイシアさんがいる限り、親方は私を裏切る事は絶対にない。エイシアさんも私に恩を感じているので、よほどの事がない限りは裏切られない。

 私はそのよほどの事にならないように対処するだけだ。
 この平穏な孤児院スローライフを満喫する為に!




 さて、情報収集と親方との仲も深めた。
 さっそく、分かった問題の対処を考えようか。

 ほぼ間違いなく、私は学園に入学させられるだろう。
 断るのは簡単だが、そうするとメリットもデメリットもない。

 いや、計画の進行具合を直接目で確かめられるチャンスを逃すというのはデメリットだ。

 決して面白そうな事をみたいという訳ではない。

 馬鹿公子の排除は国に残る決断をした今では、かなりの優先事項だ。
 その馬鹿公子に関しては、イベントという名の篭絡手段を私ならたくさん思いつく。

 公妃様も、きっと私の発案をした考え方の柔軟性と臨機応変性を期待していると思う。
 あと………ここから離れたら、気まぐれ草の栽培方法を他の者に伝授すると企んでいるんだろうな。学園は確か寮生活だから。

「クロムウェル様。グレンスコット公爵家から次回来訪の予定を確認したいとお手紙を預かっております」

 まったく昨日の今日で、次回の話し合いの日取りを決めようという事は、私が学園に入学する為の準備期間の為に早めに決定したいのだろう。

「まっ。メリットはあるか………。ミルファ。手紙の返事の書き方も教えよう」

 ミルファから手紙を受け取って、ミルファにも分かるように読み上げる。
 依然努力はしているが、すぐに文字の読み書きが出来るわけではないので、これも少しずつの教育の一環だ。

 私の癒しになって貰っているのも否定はしない。
 自分付きのメイドさん………じゃなかった侍女と2人きりのオフィスラブ。それを悪くはないとは思ってしまったので、私の煩悩は未だ健在のようだ。

 その煩悩を払う為に、手紙を書き終えた後はひたすら学園の教科書と思わしき本と向き合った。
 歴史として習う項目は非常に楽しく、魔法に関しては、全くつまらない内容だった。

 他は計算、書類、手紙の書き方や礼儀作法なども書かれていたが、覚えるべき事はそこまで多くない。むしろ礼儀などは実習による実学がメインのようだった。
 なるほど、学園内はその礼儀作法の練習の場でもあるのか。


 あっ! 忘れてた………。助祭様の部屋を用意する為にぶち抜いた2部屋はどうしよう………。

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