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旅立ち編

001 ロックは主人公じゃありません!

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 のどかな風景には飽きても、ロック弄りは飽きない妹の手によって、ロックがついに降参した。

「分かりました! この旅が終わったらちゃんと告白します! もうどうせバレているんですから!」

「本当! 確かに聞きましたよ!!」

 態度も言葉も投げやり気味なロック。それに対して、とうとうロックを焚きつける事に成功して、明らかに嬉しそうにしている妹。
 一見すると真逆なように見えるが、私には何となく分かる。

 2人ともが嬉しい・・・のだと………。

 ロックの方は、侍女のマリーに自分の気持ちを知られてもマリーの態度が変わらない事で、期待をしている。
 自分から告白をしてくるのを待ってくれているのだ。と………。

 一方、妹は告白の結果がどうなるかをある程度は予想しているはずだ。
 むしろ、マリーに直接、そうなった場合・・・・・・・の話も聞いているはずだ。だからこそ、面白くなるのが分かって笑っているのだろう。

「さっそく、向こうの馬車に行ったらお母様にも報告しなきゃ!」

 現在、後ろを走る馬車の御者をしているマリーには、この会話も筒抜けだ。いまさら気にする事じゃないぞ。だから大丈夫だ。ロック。骨くらいは拾ってやる。

 旅の休憩中のロックの態度は変わらない。当然マリーの態度も変わらない。
 
「坊ちゃん。マリーに告白する時に何を贈ったら良いでしょうか?」

 休憩中の態度は変わらないのだが、夜営の見張り交代時にそんな会話をするようになった。

「マリーの好きな物を贈ったら良いと思うよ」

「………坊ちゃん。分かってて言っているでしょう? そのマリーの好きな物を教えて下さい」

「お母様」

「………………………」

 私からこれ以上は聞き出すことが出来ないと諦めたのか、早々に会話を切り上げて見張りに付く。

 最近では、人通りも増えた道を通っているので、誰とも会わなかった今までと違う。
 人が増えれば必然と良い人も悪い人も増える。旅のメンバーで実際に戦う事が出来るのは私とロックだけだ。

 侍女のマリーもお転婆な妹も、そこそこは武術の基本を学んでいるが、実戦経験はないに等しい。
 母については、マリーが甘やかしている為か実力の程は完全に不明だ。

 そんな状況の為、私とロックは夜営の見張りに馬車の御者も務める。その分、体力的にかなり消耗している。
 『百里の道は九十九里をもって半ばとす』というような諺はこの世界にはないが、この諺の意味を知っている私はロックが見張りに立っている時も、気を配って半分だけ寝ている。おかげで最近は昼によく寝るようになった。




 必要最低限の警戒をしていたのが功を奏したのか、幸いにして何事もなく最初の目的地である町へ着いた。
 
 この世界に転生してから、領地で出会った人々の数よりも、確実にこの町へ入る為に順番待ちをしている人の数の方が多いだろう。
 そんな感想を持つくらいに、大きな町だった。
 
「申し訳ございません。そちらの馬車はリヒュルト家の方の馬車でしょうか?」

 町へ入るための列に並んで、順番待ちをしているとそのように声を掛けられる。

「はい。そうですが………。失礼ですが、どちら様でしょうか?」

「大変失礼致しました。私はキーマン商会に所属しておりますマックスと申します。お約束どおり、お迎えに参りました」

 そう名乗ったマックスさんは、いつも私が受け取っていた手紙のあるじと同じ筆跡の書状を手渡してきた。
 うん。確かにこの筆跡は間違いなく、私の薬草を買ってくれた方だ。

「確認いたしました。高い所から失礼致しました。私はクロムウェル=リヒュルトと申します。国はなくなりましたので、ただのクロムウェルとお呼び下さい」

 私がそう名乗ると、マックスさんは少し驚かれたようだったがすぐに表情を元に戻した。

 商人を驚かせるような内容の挨拶だったは思えない………。何に驚いたんだ? 国がなくなった事か?
 国がなくなった事に関してはこの町に来るまでの村で噂話を聞いた。もっとも国がなくなった事よりも攻め込んできた一国に帝国がいた事が噂になっていた。

 ………………帝国はどうやら、かなり嫌われているらしいという印象だ。

「たびたび失礼致しました。まさかご本人様がこんなに若い方だとは思いませんでした」

 どうやら、驚いたのは私の年齢であったようだ。

「私は今年成人したばかりですが、そんなにおかしいでしょうか?」

 田舎者丸出しですか? と貴族風に尋ねてみる。

「申し訳ございません。そう言った意味ではございません。手紙の筆跡を拝見した事がございましたので、もう少し年配の方かと思っておりました」

 なるほど、私はこの世界に転生して文字を覚えた際に、子供向けの本ではなく、貴族同士のやりとりの手紙や正式な書状などから文字の練習をした。
 そのせいで、筆跡がおっさん臭くなっているという事だろう。予想外の弊害だ。

「あぁ、父の代行をしていた事もございましたので、丁寧に文字を書かせて頂きました」

「さようでしたか。お若いのに優秀な方なのですね」

 それっぽい言い訳を世間話として挟み、この話を終わらせる。今度、若者が書くような文字を練習しよう………。

「このようなところで長話もなんですので、まずは本日の宿へご案内させて頂きます」

 マックスさんが、そう告げると町の兵士と思われる者が列を抜けるように誘導してくれる。
 ちなみに私が御者席を下りて挨拶をしている間にマリーが御者を代わっていた。さすがは出来る侍女マリーだ。

「もう1台、荷馬車があるのですが、そちらも付いて行った方が宜しいでしょうか?」

 私は馬車に降りたまま、誘導してくれる町の兵士に尋ねる。

「はい。共に付いてきて頂くようお願い致します」

 町の兵士の態度もこちらに対して好意的だ。
 亡国の貴族に対しての扱いで、最悪の場合を警戒していただけに、この扱いは拍子抜けだった。

 町へ入るために並んでいる人たちの視線を尻目に、特に積荷の荷物検査もなく、町へ入る事が出来た。
 そして、そのまま宿へと案内された。
 
「改めて、自己紹介をさせて頂きます。キーマン商会の副会頭をさせて頂いておりますマックスと申します」

 宿に着いて、一息を入れてから、今後の話し合いが行なわれた。その時の挨拶で、何か丁寧な態度の人だと思っていたら、偉い人だったのが分かった。

「副会頭と申しましても、3人いるその中の1番下っ端になります」

 偉い人と聞いて、明らかに緊張をした妹に向かって優しく微笑む。なるほど紳士さんだ。まあ、ちょっと残念紳士ではあるのだが………。

 この場には私と母と妹だけが参加している。
 ロックとマリーは2人で揃って残りの旅路に必要な物の買出しだ。

 当然、2人で揃って・・・買出しに出ているのには理由はある。




「旅に必要なものでしたら、我々がご用意いたしますが?」

 話し合いが始まる前に、無関係だったマリーが買い物をしたいと要望した事で、マックスさんがそう提案する。
 本当に何から何までの好待遇である。

 マリーはマリーで母の世話は自分でしたいのだろう。その提案に困った顔をしていた。

「私たちは基本的に自身の事は自身で行なわせて下さい。それにこの国について知らない事もございます。侍女に付ける護衛もおりますので、私たちの代わりにこの町を見て貰いたいというのが本音です」

 口から出まかせ、嘘八百。
 私の口は本当にそれっぽい事が簡単に言葉として出るような便利な口らしい。

「そうでしたか。かしこまりました。町を見て不足分がございましたら、ご相談下さい」

 私の口からでまかせを、あっさりと信じてくれたマックスさんに、少しだけ罪悪感を覚える。

「それにロックはマリーへ告白する為のプレゼントを選びたいはずですからね。2人で町を散策しても貰った方が面白いでしょう」

 せっかく、上手く話が終わりそうだったのに、妹の天然っぷりがまた発揮されてしまった。

「ほうほう」

 そして、意外にもマックスさんは妹に会話に興味を示した。

「ロックはコールウィン公国の首都についたら、マリーに告白する事になっているのです」

「それはそれは」

 妹の会話を聞いて、マリーを見るマックスさんだったが、マリーは完全に無表情だ。
 私でも分かりづらいほどの無表情の為か、マックスさんもマリーの心情は察せなかったようだ。

「それは首都までのご案内の旅が楽しくなるお話でございますね。そういう事でしたら無粋な真似は出来ません」

 そう言って、ロックとマリーをあっさりと町への買い物へと送り出した。
 一応、離れて他の侍女を付き添わせていたので、迷子になる事はないだろう。

 まあ、どちらかというとあの付いて行く侍女の仕事は観察の方だろう。

 この話は当然、その場にいなかったロックは知らない。そして、ロックのヘタレっぷりを知らない侍女は、きっと色々と面白いものを見る事になるのだろう。最後は、やきもきした気持ちを抱えて帰ってくるはずだ。

「でも、ロックは奥手だから、期待した報告は貰えないと思いますよ?」

 マックスさんが侍女を付けた理由を察した妹がそう発言する。

「首都までご一緒する仲ですので、少しでもお2人を知っておけば、楽しくなるのでしょう?」

 最初に出会った時とは違った、かなり悪戯好きな印象をマックスさんに持った。なるほど、なかなかに柔軟性のある方のようだ。


 それに妹よ。ロックは奥手って言わずにヘタレって言うんだよ? 

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