たまにはヒロインを助けても良いのではないか?

サイトウさん

文字の大きさ
上 下
2 / 2

乙女ゲームは始まらない

しおりを挟む
 魔法使う怪しい少女を捕らえる事となった騒ぎで、パーティーは中止となった。

 ただ、中止となったのは、同年代が集う子供達だけのパーティーのみで。
 パーティ参加者の兄の婚約者候補や側近候補などのご子息、ご令嬢の保護者たちがいるパーティー会場は警備が強化されたものの、夜会のような雰囲気でその催しは続けられていた。

 簡単に言うと、大人たちのパーティーは中止にはならなかったようだ。
 そして、その大人たちのパーティーに父であるこの国の陛下がいる。うん。堅苦しい空気を好まない父らしく、普通にパーティーを楽しんでいたようだ。

 ぶっちゃけ王族って本当の意味でパーティーは楽しめないんだけどね。

「ここは謁見の間ではない。楽にして構わぬ」

 兵を通して、先に父には状況は報告されていた為か、特に大事になっている様子もなく、私と兄からの報告を受ける時点でも、父は毅然とした態度を崩さずにいた。

 まあ、子供が紛れ込んできただけの騒ぎなので、現場となった場所以外は中止をする理由はないか………。

「はい! 王太子殿下主催のパーティー会場の庭に、子供の侵入者が紛れ込みました」

 とりあえず、一番大事な報告を私の口から伝える。

 本来であれば、主催者の兄が報告するのが筋だが、侵入者を捕らえたのが私という事で役目を譲ってもらった。
 じゃないと、上手く問題を解決する方向に誘導できないからである。

「進入経路は、どうやら私たちも知らない子供用の隠し通路を通って進入した様子で、実際に少し通路を覗いてみた限り、今回の事が起こるまで利用された形跡はございませんでした。詳しくは調査中です」

 とりあえず、一番重要な王城への進入路について報告する。

「うむ。続けよ」

「はい! 続いて、進入してきた子供ですが、城下町の井戸に落ちて、その先に登ろうとした際に横穴を見つけて、そこが王城へ通じていたとの事です」

「そうか、その井戸以外にも同じような場所がないか確認する必要がありそうだな」

 長い歴史を持つ王城だから、隠し通路の1つや2つは伝え忘れがあるのだろう………って事だ。まったく面倒な限りだ。

「そして、進入した子供ですが、なにやら聞いた事のない言葉を話し、少量の魔力を感知した為、とっさに取り押さえる事にし、現在は口を塞いだまま拘束中でございます」

「その者は危険なのか?」

「いえ、魔力は確かにございましたが、私自身が追跡して捕縛した際は一度も魔法を使う事はございませんでした」

 聞き出さないといけない事があるので、処刑されないように手を打つ。
 ………例え、子供であったとしても、王城に侵入したら死罪は免れない。隠し通路を通っている間に何を聞いたのかを私たちに知る術がないからだ。

 まあ、疑わしきは罰せよ。厳しいがこの世界いせかいの現実だ。

「かと言って、そのまま開放する事は難しかろう」

 案に処刑は免れないと父は言っている。

「はい。陛下。その事で1つ私に提案がございます」

「良いだろう。申して見よ」

 父も少女を処刑するのは、さすがに良い気がしないようで、私の話を聞いてくれるみたいだ。
 本当に感謝しろよ? あの人に汚名を着せようとしたクソアマめ。

「その少女の取調べと身柄を私にお任せ頂きたい」

「ほぅ。それはなぜじゃ?」

「我が国の魔法技術を発展させる為でございます」

 ここからは、私の口八丁だけで戦わなければいけない。父を含めて、周りの貴族を納得させる事が出来なければ、少女は処刑されるだろう。
 さすがに同郷の前世を持つ者だけあって、それだと目覚めが悪い。

「皆様もご存知の通り、私は王位継承権を持っておりますが、野心はございません。それを示す為に、側近も貴族家との繋がりも持たぬようにして参りました」

 そう、私には傍付きの侍女すらいない。完全に権力のない第2王子様として振舞っている。

「その分、魔法に関して力を注ぐ事が出来て、魔法の天才などと言われておりますが、最近は1人で魔法の研究をするのに限界を感じておりました」

 何を隠そう! いや、別に隠す事でもなく、異世界転生して、一番興味を持ったのが魔法だった。たぶん、異世界転生者の殆どが興味を持つだろう。そのおかげで、自称ではなく、本当にこの世界における魔法の天才の名をほしいままにしている。
 そして、その事を理由に普段は魔法研究馬鹿を装っているというのが、私の第2王子としての仮の姿だ。

「うむ。少女が何の権力も持たない魔力を持つ者だから、手伝いに丁度良いという訳だな」

「はい。陛下」

 一応、それっぽい理由を述べたが、まだ処刑する者を助命する理由に足りていないのは会場の雰囲気で分かる。

「私は魔法の発展には好奇心こそが最重要と考えておりますので、このような行動を取った少女の好奇心に興味が湧きました」

 ついでに、私の婚約者候補はご令嬢のような方々に興味はないと言っておいた。これで私への令嬢もうじゅうたちのアピールも減るだろう。うん。良い事だ。
 魔法一筋の馬鹿ですよというアピールも兼ねて、なかなか良い言い訳が出来ていると思う。

「少女を追跡した際にも、薔薇・・の香りのする庭園の近くでの少女とのやり取りに感銘を覚えまして、是非この少女を私の助手にしたいと思った次第です」

 実際に起こったやり取りは、ただのエロトークにしか聞こえないが、あの場にいたものたちは兵たちには内容を口止めしてあるし、隠し通路の周りにいた者たちはある事情でその事を口外する事は出来ない。

 あの場所は、薔薇の咲き誇る庭園で、大人たちにとっては暗黙の了解の場所であった。
 平たく言えば「逢引場」だ。

 私の発言は一見すると、王子である私の我侭を言っているように聞こえるが………。
 「おぅおぅ。心当たりのある方々。浮気はいけないぜ? こっちはちゃんとお前達の事を知っているんだよ?」というハッタリというのが、この発言の裏の意味で、私と少女の叫んだやり取りをしても、近づいてくるのではなく、遠ざかっていったのは浮気の密会現場だったという証拠だ。

 現に私が薔薇の香りと口にした事で、8人の男女が視線を逸らしていた………。

 おいおい、この国のお家事情は本当に大丈夫か?

 そう思える程に、視線を逸らした8人はいずれも………ごにょごにょなお方たちだった。

「うむ。さすがに私も何もしていない少女を処刑するのは忍びない」

 私の「浮気現場を目撃しちゃったよ」発言の有効性を理解してくれた父が、私をフォローしてくれる。
 先ほど、視線を逸らした方々は、かなりの有力者だ。えぇ、それはもうお家事情がドロドロの!

「滅多に我侭を言わなかった息子の気持ちに応えてやりたい父としての気持ちもある。どうだろう? 諸君」

 王族としての振る舞いより魔法研究に没頭する息子を我侭と言わない当たり、相当に意地悪である。
 
 父は、「今日は何も起こらなかった」という事を言うついでに、王家に文句があるか?とも言っているように聞こえなくも無い。

 まあ、その「何も」には当然、誰かの浮気についても入っているので文句を言える人はいないだろう。
 例え、その事実に気付いた人たちがいてもだ………。

 有力者と王族を同時に敵に回したい人なんて極少数だ。

 そして、本来であれば、反対しなくてはいけない有力貴族たちが揃って沈黙をした事で、何とか少女の助命は何とかなったような雰囲気になる。

 王家としても、失態をなかった事にして、関係ない貴族たちからの責任追求は浮気していたであろう方々へと向けられる。
 子供の侵入騒ぎなどよりも、浮気の口止めの方が、後々有益なのだから、他に黙っている貴族たちも、中々に損得勘定が上手いようだ。

「うむ。誰も異論はなさそうだな。この件は第2王子ロレンツァへ預ける事とする。危険がないように十分に注意せよ」

「ありがとうございます。陛下」

 最終的に、父より浮気現場の事を口止めをしっかりするように釘を刺された事で、表向きはこれで解決だ。浮気現場なんて実際に見ていないんだけどね。

 王家特有の………いや、権力のある者たち特有の面倒事はこれからも多少はあるのだが、それ以上に心あたりのある面倒事を回避する為にも、気が抜けない状況が続くだろう。
 ………それにしても王子様に転生しても、ロマンなんて全くないな。
しおりを挟む
感想 3

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(3件)

もっちり道明寺♪

復活っ!
ありがと~!

そして、投稿に気が付いた自分っ!グッジョブ!(笑)

更新、楽しみに待ってます♪
ヽ(^o^)丿♪

解除
piromaru
2019.06.12 piromaru

新作だ~\(^o^)/

解除
m0th
2019.06.11 m0th

おかえりなさい。

タイトルからして最近のヒロインざまぁではないのがうかがえて楽しみです。だからといって悪役令嬢ざまぁを期待しているわけではないですよ(笑)

サイトウさん
2019.06.11 サイトウさん

ただいまです?

すこーしだけ時間に余裕が出来たので、文字を書く練習で始めた物語です。
期待されているようでごめんなさい! オチはまだ考えていないです!!
オチが決まったらタイトルとか修正予定です………執筆時間が欲しい(^・x・^)

解除

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

悪役令嬢はあらかじめ手を打つ

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしは公爵令嬢のアレクサンドラ。 どうやら悪役令嬢に転生したみたい。 でもゲーム開始したばかりなのに、ヒロインのアリスに対する攻略対象たちの好感度はMAX。 それっておかしすぎない? アルファポリス(以後敬称略)、小説家になろうにも掲載。 筆者は体調不良なことが多いので、コメントなどの受け取らない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。