たまにはヒロインを助けても良いのではないか?

サイトウさん

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プロローグ

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 私は前世の記憶を持って生まれた事は、幸運だと考えている。

 ただ、その記憶を持ってしまったせいで、現代っ子だった前世の意志が強かった時は『ふざけるな!』と叫んでしまった事もある。
 その時は、前世の時の言葉で叫んだので、周りからは訳の分からない単語をいきなり叫んだとして、一時期は物凄く周りに心配を掛けたという黒歴史のおまけ付きである。

 私が今、生きているこの世界いせかいの生活レベルは中世のそれと同じだ。
 電気がなければ、ネットもない。
 娯楽自体もないのに、王族として生まれてしまった私には自由もない。

 本当にないない尽くしの生活の中で、ついストレスを溜めて当時はつい叫んでしまった訳だ。

 王族と言っても、次期国王になるわけではない。いわゆる第2王子という奴だ。
 『ふざけるな!』と叫んだ当時は「あなたは次期国王になるのよ」と母に言われて育てられていた。

 平たく言えば、権力抗争の中に無理やり立たされていた訳だ。
 おかげで本当に教育は厳しく、一挙一動を見守られるような生活を強いられて、ストレスのせいで齢1桁にして剥げるんじゃないかとさえ思った。

 そんな微妙な黒歴史をもつ、その時の私の気持ちを察して欲しい。

 ともかく、叫んでしまった時に、傍にいた侍女たちが何かしたのではないかと疑われて解雇されそうになったのを必死で止めたり、ストレスの原因である王位継承問題について、兄と父と正妃である義母に私には野心がない事を必死にアピールしまくった結果、王太子である兄とは良好な兄弟関係を築く事に成功したのであるから人生何があるか分からない。

 まあ、これだけでは前世の記憶を持っている事が幸運と考える理由には物足りないだろう。
 どちらかというと、前世の記憶を持っている為に、苦労した苦労話でしかない。

 いや、ある意味苦労話はここからである。

 あれは、私が8歳で兄が10歳の時で、王太子である兄の婚約者を探す為のパーティー会場の事であった………。




「どうなさったのですか? 兄上」

 私は、パーティーの主役である兄が会場の外へ向かったのを見て、慌てて追いかけて声を掛けた。

「すまない。ロレンツ。会場にいるご令嬢方の熱い視線に酔ってしまって、少し夜風に当たりに来ただけだ」

 熱い視線とは、肉食獣のそれを思わせる視線の事ですよね?
 そして、顔色を見る限り酔うというより身の危険を感じて震えているように見えますよ?

 まあ、私も人の事は言えない。
 一代限りとはいえ、臣下降下して公爵になる事が決まっている身の上だ。ライバルの少ないうちに手を付けたいお嬢様方の視線を私も受けていたのだから。

「私も似たようなものですが、兄上ほど酷くはないので、会場に戻ります。場を持たせておきますので、ゆっくりお戻り下さい」

「すまない。いつも助かっている」

「いえいえ、私たちは兄弟じゃなっ!」

 2人の会話を楽しんでいると、庭にある茂みの一角がガサガサッと音を立てた。
 兄は気付かなかったが、私が気付き慌てて視界をそちらに向けると、兄も気付いて注意を払っている。

 私は兄の前に躍り出て、いざという時に備えようとしたが、先に兄の方が私の前に出てしまった。

 本来であれば、誰かを呼ぶべきだろうが、ただの動物だった場合は、せっかくのパーティーを台無しにしてしまう事になる。そうなると後が面倒だ。
 顔を見せる一瞬を確認して、最悪の場合に備えるしかない。

 一応、近くにいる護衛を手招きして近くで待機はして貰っている。
 出てくるのが暗殺者であれば、足止めを任せて兄を連れて会場へ逃げるだけだ。

「あぁぁぁぁ………この迷路みたいな草の道。やっと抜けられたわ………」

 そう言って顔を出したのは、兄や私とさほど年齢の違わなさそうな少女だった。

 さすがの兄と私も、一瞬呆気に取られたが、動き出した兵については一旦静止させる。
 この少女は気になる事を口にしたので、その事を問い質さなければならないからだ。

「君は一体?」

 私よりも前に出ていた兄が、私の変わりに口を開いてくれる。

「あっ! はじめまして! 私はアイシャって言います!!」

 そう自分の名前を名乗った少女は、よく見たら泥に塗れており、とても今日のパーティーへ招かれた客には見えない。

 いや、言い繕うのはやめよう。普通の庶民の少女にしか見えない。
 名前も家名を名乗っていないので、庶民で間違いないだろう。

「あぁ、私の名前はレインハルト=ファン=カタストレアだ」

 兄も普通に自己紹介をされると思わなかったので、毒気を抜かれた状態で普通に自己紹介をして返していた。
 
「君はなぜここへ?」

「はい! 井戸に落っこちてしまって、登ろうとしたら脇道があったので進んでみました!」

 素直に答える少女の事情は良く分かった。
 どうやら城からの抜け道が城下町のどこかの井戸に繋がっているという事だろう。

 その井戸にこの少女が落ちて、かなりの時間をかけて、この城までやってきたという事か………。なんて好奇心の強い少女だ。

「どうやら、害意はないようだ。すまない保護をしてやってくれ。私は他の兵にも伝えてくる」

 私がすぐ近くに控えていた兵にそう告げて、この場は一度兄に預ける事にする。
 この少女の相手をしていれば、少しは気が紛れると思ったからだ。

 だが………。

『え? なんでここにロレンツァ第2王子様もいるの? イベントと違わない?』

 そう小さく前世の言葉で呟いた少女の言葉を、私は聞き逃さなかった。

「その少女を捕まえろ! 取り逃がすな!!」

 私は直感的に、そう叫び兵に命令を下す。兵は一瞬戸惑ったせいで、驚いた少女が出てきたところへ慌てて逃げていく。

「お、おぃ。乱暴にしなくても良いぞ」

 兄が慌てて声を掛けるが、既に遅かった。
 私も一瞬の事だったので、冷静さを欠いてしまったようだ。

「わ、私では、この通路に身体が入りません!」

 兵が慌てて少女が逃げたであろう茂みの通路へ身体を潜り込ませようとするが、どうやら大人用の脱出ルートではなかったようだ。

 先ほどの少女の発言で、あの少女は私と同じ転生者である事は理解した。そして、その上で何か重大な事を知っている事を理解した私は、兵を押しのけてシルバーにピンク・・・掛かった髪色の少女を追う為に、植物の通路と呼べる場所へと身体を滑り込ませた。

 とっさに滑り込んだトンネルと呼べるような草木の道を通ると、なかなかに冒険心をくすぐる道になっている。なるほど、あの少女がこの道を進んできた理由が良く分かると考える程度の余裕を持って、少女を追いかける。
 後ろで私を引き止める声が聞こえるが、道の先から『ちょっと、木が引っかかった! 逃げれない!』という声が聞こえたので、構わず進む決断をする。

 声の聞こえた方向へトンネル内を進むと、程なくして、そこにはパンツを丸出しにした先ほど見た少女の姿が見えた。

『わっ! は、腹黒王子!!』

 私がすぐ近くまで来た事に気付いた少女が、とんだ濡れ衣を着せてくる。

『おぃおぃ。そのプリティーなパンツのお嬢さん。そいつはとんだ言いがかりだ』

 私は前世で使っていた言葉で、言い返すと、少女の顔が青くなったのが分かる。
 そして、私はその隙に、少女の足を掴む。………もう逃がすつもりはない。

「ひゃっ! いやっ! お嫁にいけなくなる!!」

『人聞きが悪いわ! なんで、そういう言葉はこっちの世界いせかいの言葉なんだよ!!』

 私と少女の叫び声が、まだ城内のどこかであるであろうこの場所に響き渡る。
 その声を聞いて、人が遠ざかっていくのが分かる………。あぁ、ここは例の場所の近くか………。薔薇の香りもするし、間違いないだろう。

「そ、そこはダメ!」

 冷静に周りの状況を判断していると、また少女から言われない中傷を受ける。
 誤解ないように言っておくが、人聞きの悪い悲鳴を上げる少女が蹴りをかましてくるので、防御しているだけだぞ?

「そんなに強くされたら裂けちゃう!」

 股がな!
 蹴り攻撃を防ぐ為に、私は相手の片足を持って、強引に引き摺っているので、体勢を整えていない状態だと見事に開脚した状態で横向きに引き摺っている事になる。

 その為、こんな言い回しをされているだけだ。

「ひゃあ! もうダメェ!!」

「いい加減に黙らないと処刑するぞ!!」

 明らかにピンク電波系ヒロインだと判断していた少女に対して、
 さすがにイラっときて、強く怒鳴った事で、ようやく静かになる………。

「そ、その………もう少し優しくお願いします」

 ………引き摺るのをな!

「私はロレンツァだ! 今から捕まえた少女を連れて外に出る!! 攻撃はするな!」

 そう叫んでから、茂みを抜けて庭へと戻る。
 当然、少女はパンツを晒したまま、引き摺って放り出した。

 ………その光景のせいか兄からの視線が痛い。きっと、引き摺っている途中の会話も聞こえていただろう。

「この者の口を塞いでおけ! 何か呪文のようなものを唱えようとした!!」

「ひゃ! 私そんなも………ごぉ!」

 私の言葉に反応した兵によって、すぐに少女の口が塞がれる。
 そして、兄も私を見る目が元に戻ったようだ。

「すまない………ロレンツを疑ってしまった」

 まあ、無理もない。あんな発言をしていたこの少女が悪いのだから。

「いえ、とっさの事とはいえ、説明もせずに申しわけありませんでした」

「いや、相手が魔法使いであれば、あの判断は正しい。だが、おまえが優秀な魔法の使い手だからと言っても、今度から1人で向かわないでくれ。頼む」

「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。兄上」

 この私と兄のやり取りを聞いていた兵たちの緊張も柔らぐ。
 言い忘れていたが、この世界には魔法がある。それについては、話す機会があれば別の機会に話をしよう。

「兄上。私はこの通り汚れてしまったので、入浴を済ませてから父上へ報告へ参ります」

 危なく別の意味で汚れてしまうところだった。汚名という意味でな。

「分かった。パーティーの方は私で対処しよう。………はぁ、王城に子供とはいえ侵入者を許してしまうとは、とんだ失態だ」

 このパーティーの主役で主催者は兄上だ。
 だからこそ、その責任も兄上が取る必要がある………。具体的にはお詫びと称して、きっと各家からの招待を受けなければいけなくなる程度に。 

 自ら、令嬢もうじゅうたちが待つお屋敷オリへ向かう事になる兄に同情しか出来ない。
 ………………私で力になれる事があれば、必ず手を貸そう。兄弟で仲良く強敵れいじょうに立ち向かおうではないか!

「とりあえず、その少女も洗ってやるように伝えてくれ。衣服は豪華なものでなくて良い。だが、決して口を塞ぐ事を忘れるな」

 こうして、兄の婚約者探しパーティーで、いきなり鬼ごっこをするハメになった私も、後始末をしなくてはいけない兄も、相当に疲れる結果となったが、父への報告という地獄へ、気を落としながら向かうしかなかった。

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