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二章
六十話
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交番を出た俺は、しばし呆然と佇んだ。すっかり絶望しきっていた。俺が困っていたところで、本気で助けようと思う人間なんていないのだ。
――親戚の家、すぐ近くにあったかな。
ぼんやりと浮かんだ思考はそれだけだった。
ふと喫茶店が目に入り、足を踏み入れる。自分が何を頼んだのかも覚えていない。しかし、席についてすぐコーヒーが運ばれてきたので、一応注文はできていたらしい。コーヒーを一口飲む。苦い。砂糖を入れ、丹念にかき混ぜると鳴門海峡のような渦ができた。
自分の心境を反映したかのように、淀んだ暗い色合いを呈している。部屋に例えるならさながら廃墟といったところだろう。
……何をしているんだ、俺は。
渦を見つめている内に、涙が出てきた。自分が情けない。
突如として店内が賑やかになる。見ると、二人の女子高生が言葉を交わしながら席をとっているところだった。
うるさいな、と言いかけて口をつぐむ。彼女たちは、見覚えのあるえんじ色のブレザーを着ていた。青色の校章を身に付けている。
雪村さんと同じ学校だ。
俺はマネキン・チャレンジのように動きを止め、彼女たちの言葉に聞き入った。
「彩佳、試験どうだった?」
髪を茶色く染め、派手な出で立ちをした女が周囲を見渡した。
「あー、全然ダメダメ。やっていられない」
ストレートの黒髪をなびかせた女が、オーバーに首を振る。華奢な体つきに釣り合わない大きな手が、がっしりと抹茶ラテを掴んでいる。爪には真っ赤なマニキュアが施されていた。
「だって、受験シーズンじゃん。試験なんて真面目に勉強してられないよ」
「だよねー」
やり取りを聞いていて何かが冴える気がした。第六感と言うべきか。つまり、違和感を覚えたのだ。
今一度、女子高生二人に視線を送る。
次の瞬間、違和感の正体がはっきりと分かった。
――親戚の家、すぐ近くにあったかな。
ぼんやりと浮かんだ思考はそれだけだった。
ふと喫茶店が目に入り、足を踏み入れる。自分が何を頼んだのかも覚えていない。しかし、席についてすぐコーヒーが運ばれてきたので、一応注文はできていたらしい。コーヒーを一口飲む。苦い。砂糖を入れ、丹念にかき混ぜると鳴門海峡のような渦ができた。
自分の心境を反映したかのように、淀んだ暗い色合いを呈している。部屋に例えるならさながら廃墟といったところだろう。
……何をしているんだ、俺は。
渦を見つめている内に、涙が出てきた。自分が情けない。
突如として店内が賑やかになる。見ると、二人の女子高生が言葉を交わしながら席をとっているところだった。
うるさいな、と言いかけて口をつぐむ。彼女たちは、見覚えのあるえんじ色のブレザーを着ていた。青色の校章を身に付けている。
雪村さんと同じ学校だ。
俺はマネキン・チャレンジのように動きを止め、彼女たちの言葉に聞き入った。
「彩佳、試験どうだった?」
髪を茶色く染め、派手な出で立ちをした女が周囲を見渡した。
「あー、全然ダメダメ。やっていられない」
ストレートの黒髪をなびかせた女が、オーバーに首を振る。華奢な体つきに釣り合わない大きな手が、がっしりと抹茶ラテを掴んでいる。爪には真っ赤なマニキュアが施されていた。
「だって、受験シーズンじゃん。試験なんて真面目に勉強してられないよ」
「だよねー」
やり取りを聞いていて何かが冴える気がした。第六感と言うべきか。つまり、違和感を覚えたのだ。
今一度、女子高生二人に視線を送る。
次の瞬間、違和感の正体がはっきりと分かった。
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