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二章
二十五話
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灰色の雲しかない曇天を見ていると、すっかり気が滅入ってしまった。
通っている私立高校があまり好きではないのも一因かもしれない。
本当は美術大付属に行きたかった。父親の反対がなければ、こんなさえない学校には行っていなかった。今でも悔恨の念があるのか、夢にはよく美術大付属高校に通う自分の姿が出てくる。
せめてもの抵抗で、部活は美術部に所属している。
教室はやけに静かだった。それもそのはず、もう高校三年だからだ。みんな進路で頭がいっぱいなのだ。能天気に部活に打ち込んでいる馬鹿なんて、俺と岸本陸ぐらいのものだろう。
そんな中、隣席の板垣愛子には勉強している素振りがなかった。目が疲れているのか、天井を仰いでいる。
「おはよう、板垣」
「……おはよう」
板垣の肩には白いものが散見され、制服はやたらと汚れていた。濃い臭気が空間に漂っている。飲食店のニオイが、そのまま彼女の髪や服に付きまとっているのだ。重々しい前髪が板垣の両目を隠していた。
春先で暖かいのに、長袖のセーターを手のひらにまで引き上げている。
「大丈夫か?」
声をかけると、彼女はようやくおれを見た。がさがさの唇に嘲笑が浮かぶ。
「余計なお世話」
「なんだよ」
心配してやったのに、可愛くないヤツだ。
自席に座り、教科書を取り出す。どこもかしこも落書きで埋め尽くされている。勉強する気がないのだ。他人事みたいに呆れるしかない。
頭の中では色とりどりの絵の具が弾けていた。放課後が楽しみだ。
通っている私立高校があまり好きではないのも一因かもしれない。
本当は美術大付属に行きたかった。父親の反対がなければ、こんなさえない学校には行っていなかった。今でも悔恨の念があるのか、夢にはよく美術大付属高校に通う自分の姿が出てくる。
せめてもの抵抗で、部活は美術部に所属している。
教室はやけに静かだった。それもそのはず、もう高校三年だからだ。みんな進路で頭がいっぱいなのだ。能天気に部活に打ち込んでいる馬鹿なんて、俺と岸本陸ぐらいのものだろう。
そんな中、隣席の板垣愛子には勉強している素振りがなかった。目が疲れているのか、天井を仰いでいる。
「おはよう、板垣」
「……おはよう」
板垣の肩には白いものが散見され、制服はやたらと汚れていた。濃い臭気が空間に漂っている。飲食店のニオイが、そのまま彼女の髪や服に付きまとっているのだ。重々しい前髪が板垣の両目を隠していた。
春先で暖かいのに、長袖のセーターを手のひらにまで引き上げている。
「大丈夫か?」
声をかけると、彼女はようやくおれを見た。がさがさの唇に嘲笑が浮かぶ。
「余計なお世話」
「なんだよ」
心配してやったのに、可愛くないヤツだ。
自席に座り、教科書を取り出す。どこもかしこも落書きで埋め尽くされている。勉強する気がないのだ。他人事みたいに呆れるしかない。
頭の中では色とりどりの絵の具が弾けていた。放課後が楽しみだ。
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