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プロローグ
しおりを挟む「ごめんね」
彼女は言った。その頬は雪のように白い。柔らかな唇は流血し、紅白のコントラストを作り上げていた。
赤い液体が、唇を染めていく。どんな口紅よりも艶やかで、そして忌々しい。
今、俺の中に渦巻くもの。
怒り、哀しみ。……絶望。
闇よりも黒い感情。
「ごめんね」
謝り続ける彼女の声は、老婆のようにか細くて、少女のように澄んでいた。
どす黒い夜に一片、純白の羽が舞った気がした。
彼女の誠実な眼差しは、あまりにも俺に釣り合わない。
「ごめん、ね」
そうだ。彼女は許してもらおうなんて思っていないのだ。俺を傷つけたこと。それだけを謝りたいのだ。
なんて返せばいいのだろう。許す、その一言だけ言えばいいのか。
声を絞り出すが、出てきたのは全く別の言葉だった。
「……お前を、愛していた」
違う、愛していた、じゃない。
今も、愛している。
彼女はハッとしたようにおれを見つめる。見開かれた瞳から、涙がこぼれた。
「本当に……ごめんね……ごめん」
脳裏で純白の羽が破け、散り散りに堕ちていく。また、闇が全てを覆おうとする。
違う。そんなつもりじゃなかったんだ。俺は、お前を……。
「許す。今でも、愛している」
彼女の耳元で吐露する。熱い涙が、彼女の頬を濡らす。
返事は、ない。おれの言葉は届かなかった。
彼女は死んだ。
今際の際に見開かれた目が、まだおれを見つめている。
彼女は俺を、恨んでいる?
回りだす意識の中で、おれは自問自答していた。
彼女は俺を、信じていた?
彼女は俺を、愛していた?
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