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最終章 〇〇〇さん

第0話 『鬼殺し』を教えてくれたおじさん

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「わしにもついにお迎えが来てしまったか」

 目の前のおじさんは、何かを決意したようにそう呟いた。ベッドに横になった彼の目からは、一筋の涙が流れ落ちていく。彼は、これから病気で死ぬことになっているのだ。

「じゃあ、あなたの魂、回収させてもらうね」

「ああ」

 頷く彼を見て、私は手のひらを天井に向かって突き上げた。次の瞬間、その手に光の粒が大量に集まり始め、一つの形を形成していく。それは、私たち死神の必需品。

「痛くないからね」

 私は、手に持った鎌を彼に向かって振り下ろした。



♦♦♦



「魂の姿になっても会話はできるのか」

「ふふ。すごいでしょう」

「どうして君が自慢げなんだ」

 呆れたような彼の声。だが、その姿はただの魂。すでに表情は読み取れない。

「死神世界までにはまだ時間があるから、何かお話ししない?」

「お話?」

「そう。例えば……あなた、人間世界に何か未練とかあるの?」

 我ながら、最低なことをしていると思う。死んだ人間に対して、人間世界での未練を聞くなんて。でも、ここで未練を語ることによって、思いを吐き出すことによって、心が軽くなる。そう私は信じている。

「未練……か。まあ、数えきれないほどある。もっとうまいものを食べたかったとか、あの時あの人にお礼をちゃんと言っておけばよかったとか。でも、やはり……」

 ここで彼は少し言いよどんだ。よほどの未練があるとき、人間はこういう反応をするのだ。

「やはり、何?」

「……一番は、あの子を救えなかったことかな」

 彼は語る。親戚である一人の男の子の話を。

 男の子は、親戚たちに、生まれた時から『鬼の子』と蔑まれていた。どうやら、男の子の父親が、親戚たちの反対を押し切り、自分の愛した女性と結婚したことが原因らしい。男の子の父親と仲が良かった彼は、蔑まれ続ける男の子を何とか救おうとしたが、無駄だったようだ。

「あの子はいつも暗い顔をしていたよ。どうやら、学校でも酷いいじめがあったみたいでね。あの子と同じ学校に、親戚の子も通っていたんだよ。きっとそのせいだ」

「…………」

「でも、わしが教えた将棋をするときだけは、目を輝かせていたな」

「将棋?」

 思いがけない言葉に、思わず聞き返す私。

「もしかして、君は将棋を知らないのか?」

「いや、一応知ってるけど……やったことない」

 時々、死神世界には人間世界の文化が入って来る。どこかの死神が、気まぐれで輸入するためだ。将棋も人間世界から持ち込まれた文化の一つ。だが、死神世界では、人間世界ほど一般的なものではない。まあ、死神と人間では価値観が違うのだから当たり前ではあるが。

「将棋はいいぞ。人間一人の心を軽くしてくれるからな。少なくとも、あの子にとっての将棋は、そういうものだった」

「心を……軽く……」

 それは、私が、回収した魂に未練がないか聞く目的と同じ。将棋とは、それほどまでにすごい遊戯なのだろうか。

「死神の君もやってみるといい。そうだな……死神だから、『鬼殺おにごろし』とかがピッタリじゃないか?」

「え、何それ。すごくかっこいい名前」

「お。興味が出てきたようだな」
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みんなの感想(2件)

香澄 翔
2024.07.04 香澄 翔

番外編みました。
こうして鬼ごろしを覚えたのですね!w

takemot
2024.07.04 takemot

読んでいただいてありがとうございます。過去と今とのつながりをどうしても作りたくて、この話を書いてみましたー。

解除
鳴海 酒
2024.04.21 鳴海 酒

囲碁好きなので、タイトルに惹かれて読み始めました。
妙に距離感近すぎで、明るい死神が好きです。
話全体の雰囲気も、暗めかと思ったらわりとポップな感じですし。
続き待ってます、がんばてください。

takemot
2024.04.21 takemot

読んでいただいてありがとうございます! 囲碁も面白いですよねー。主人公と死神さんとの掛け合いを今後も楽しんでいただけるよう頑張ります!

解除

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