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第三章 僕の知らない死神さん
閑話 とある日のお出かけ②
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赤ちゃんが泣き止み、落ち着きを取り戻した店内。僕と死神さんは、注文したカフェオレを飲みながら、たわいもない話に花を咲かせていました。
「あれ?」
不意に、何かに気がついたような声をあげる死神さん。
「どうかしましたか?」
「あそこに見えるのって、先輩ちゃんじゃない?」
「……本当ですね」
死神さんが指差す喫茶店の窓の外。そこから見えたのは、いつも学校で顔を合わせる先輩の姿。そう。間違いなく先輩……のはずなんですが。
「何というか、いつもと雰囲気が違うね」
「確かに」
先輩は、真っ白なワンピースを身にまとい、その上からベージュ色のジャケットを羽織っています。普段、制服姿しか見ていないからでしょうか。いや、それでなくても、今の先輩はとてもおしゃれに見えました。
「もしかしてだけど。先輩ちゃん、今からデートするんじゃない?」
先ほどから先輩は、腕時計をチラチラ見たり、周りをキョロキョロ見渡したりしています。加えて、肩にかけたポシェットから手鏡を取り出し、それを見ながら髪型を整え始めました。明らかに、大切な人を待っているという様子です。
「かもしれませんね」
「…………」
「…………」
「よし、決めた」
死神さんは、残っていたカフェオレを一気に飲み干しました。そのまま、カップをソーサーに勢いよく置きます。
「何を決めたんですか?」
首を傾げながら尋ねる僕。死神さんの顔には、いつの間にかニヤニヤとした悪い笑みが浮かんでいました。
「フフフ。これから、先輩ちゃんに挨拶しに行こう!」
♦♦♦
「先輩ちゃん!」
「え!?」
「あ、ど、どうも」
「ええ!? な、何で二人がここに!?」
僕たちを見た先輩の目が驚きで見開かれます。当然といえば当然でしょう。
「今日はたまたまここに来てたんだよ」
「へ、へー。姉弟仲のよろしいことで」
「そんなことより。フフフフフ」
「な、なによ」
「先輩ちゃんは、今からデートなのかなー?」
「んな!?」
悪い笑みを浮かべる死神さん。顔を真っ赤にして焦る先輩。何とも不思議な光景ですね。
「いやはや。先輩ちゃんも隅に置けないねー。このこのー」
「お、お姉さん、やめて頂戴」
死神さんは、肘で先輩の脇腹をつつき始めました。面白がっているのが丸分かりです。うーん。さすがに止めた方がいいかもです。
おっと。どうせ止めるなら喫茶店を出る前にしておけというツッコミが聞こえた気がしますよ。まあ、後輩として、先輩に挨拶をするのは当然ですから。決して、珍しいもの見たさで死神さんを止めなかったわけではないのですよ。
「あんまり先輩の邪魔になるのもなんですし、僕たちは別の所に行きますね。デート、楽しんでください」
「ち、違うからね!」
声を張り上げて否定する先輩。周囲にいた人たちが、何事かとこちらに視線を向けるのが分かりました。
「デ、デートとかじゃなくて。そ、そう。こ、これは、あくまで交流というか。二人でのお出かけというか」
「それをデートって言うんじゃないかな?」
「それをデートって言うんじゃないですかね?」
「黙ってて!」
「「あ、はい」」
いやはや。焦っていても、先輩の強気の姿勢は健在です。
「と、とにかく、デートってわけじゃ……」
先輩が、再度弁明を始めようとした時でした。
「お待たせ―。って、その人たちは?」
突然、僕たちの真横から声がしました。顔を向けると、そこには今まで見たことのない人が立っています。ナチュラルショートの茶髪。ニコニコとした表情。そして、百人に聞けば百人が「イケメン」と答えるほどの整った顔立ち。
「え!? 女の人!?」
僕の横で、死神さんが小さく呟くのが聞こえました。
「ぶ、部長!」
女性に向かって叫ぶ先輩。
先輩の「部長」という言葉。僕には聞き覚えがありました。以前、先輩が、自分の過去を語ってくれた時に出てきた言葉です。まさか、目の前にいるこのイケメン女性が……。
「えっと」
部長さんは、僕と死神さんの顔を交互に見つめます。そういえば、まだ挨拶もしていませんでしたね。いろいろ呆気にとられすぎていました。
「あ。初めまして。僕は」
「こ、この二人は、私の将棋仲間なんです! こっちは私の後輩で、こっちは後輩のお姉さん。後輩は将棋部の新しい部員です。お姉さんは部員じゃないですけど、外部コーチってことで将棋部に来てくれてます。ほら、二人とも。早く部長に挨拶して!」
僕の自己紹介を遮り、とんでもない早口で僕と死神さんの紹介をする先輩。おそらく、部長さんを前にしてこれ以上ないほど慌てているのでしょう。
「よ、よろしくお願いします、部長さん」
「部長ちゃん、よろしくだよー」
僕と死神さんは、部長さんにペコリと頭を下げました。
「こちらこそよろしくね。まあ、ボクはもう卒業しちゃってるから部長じゃないけど」
僕たちに向かって微笑む部長さん。キラキラと輝くその笑顔に、僕の心臓が大きく跳ねます。これがイケメンオーラというやつでしょうか。もしかしたら先輩も、この笑顔にやられてしまったのかもしれません。
「あれ?」
不意に、何かに気がついたような声をあげる死神さん。
「どうかしましたか?」
「あそこに見えるのって、先輩ちゃんじゃない?」
「……本当ですね」
死神さんが指差す喫茶店の窓の外。そこから見えたのは、いつも学校で顔を合わせる先輩の姿。そう。間違いなく先輩……のはずなんですが。
「何というか、いつもと雰囲気が違うね」
「確かに」
先輩は、真っ白なワンピースを身にまとい、その上からベージュ色のジャケットを羽織っています。普段、制服姿しか見ていないからでしょうか。いや、それでなくても、今の先輩はとてもおしゃれに見えました。
「もしかしてだけど。先輩ちゃん、今からデートするんじゃない?」
先ほどから先輩は、腕時計をチラチラ見たり、周りをキョロキョロ見渡したりしています。加えて、肩にかけたポシェットから手鏡を取り出し、それを見ながら髪型を整え始めました。明らかに、大切な人を待っているという様子です。
「かもしれませんね」
「…………」
「…………」
「よし、決めた」
死神さんは、残っていたカフェオレを一気に飲み干しました。そのまま、カップをソーサーに勢いよく置きます。
「何を決めたんですか?」
首を傾げながら尋ねる僕。死神さんの顔には、いつの間にかニヤニヤとした悪い笑みが浮かんでいました。
「フフフ。これから、先輩ちゃんに挨拶しに行こう!」
♦♦♦
「先輩ちゃん!」
「え!?」
「あ、ど、どうも」
「ええ!? な、何で二人がここに!?」
僕たちを見た先輩の目が驚きで見開かれます。当然といえば当然でしょう。
「今日はたまたまここに来てたんだよ」
「へ、へー。姉弟仲のよろしいことで」
「そんなことより。フフフフフ」
「な、なによ」
「先輩ちゃんは、今からデートなのかなー?」
「んな!?」
悪い笑みを浮かべる死神さん。顔を真っ赤にして焦る先輩。何とも不思議な光景ですね。
「いやはや。先輩ちゃんも隅に置けないねー。このこのー」
「お、お姉さん、やめて頂戴」
死神さんは、肘で先輩の脇腹をつつき始めました。面白がっているのが丸分かりです。うーん。さすがに止めた方がいいかもです。
おっと。どうせ止めるなら喫茶店を出る前にしておけというツッコミが聞こえた気がしますよ。まあ、後輩として、先輩に挨拶をするのは当然ですから。決して、珍しいもの見たさで死神さんを止めなかったわけではないのですよ。
「あんまり先輩の邪魔になるのもなんですし、僕たちは別の所に行きますね。デート、楽しんでください」
「ち、違うからね!」
声を張り上げて否定する先輩。周囲にいた人たちが、何事かとこちらに視線を向けるのが分かりました。
「デ、デートとかじゃなくて。そ、そう。こ、これは、あくまで交流というか。二人でのお出かけというか」
「それをデートって言うんじゃないかな?」
「それをデートって言うんじゃないですかね?」
「黙ってて!」
「「あ、はい」」
いやはや。焦っていても、先輩の強気の姿勢は健在です。
「と、とにかく、デートってわけじゃ……」
先輩が、再度弁明を始めようとした時でした。
「お待たせ―。って、その人たちは?」
突然、僕たちの真横から声がしました。顔を向けると、そこには今まで見たことのない人が立っています。ナチュラルショートの茶髪。ニコニコとした表情。そして、百人に聞けば百人が「イケメン」と答えるほどの整った顔立ち。
「え!? 女の人!?」
僕の横で、死神さんが小さく呟くのが聞こえました。
「ぶ、部長!」
女性に向かって叫ぶ先輩。
先輩の「部長」という言葉。僕には聞き覚えがありました。以前、先輩が、自分の過去を語ってくれた時に出てきた言葉です。まさか、目の前にいるこのイケメン女性が……。
「えっと」
部長さんは、僕と死神さんの顔を交互に見つめます。そういえば、まだ挨拶もしていませんでしたね。いろいろ呆気にとられすぎていました。
「あ。初めまして。僕は」
「こ、この二人は、私の将棋仲間なんです! こっちは私の後輩で、こっちは後輩のお姉さん。後輩は将棋部の新しい部員です。お姉さんは部員じゃないですけど、外部コーチってことで将棋部に来てくれてます。ほら、二人とも。早く部長に挨拶して!」
僕の自己紹介を遮り、とんでもない早口で僕と死神さんの紹介をする先輩。おそらく、部長さんを前にしてこれ以上ないほど慌てているのでしょう。
「よ、よろしくお願いします、部長さん」
「部長ちゃん、よろしくだよー」
僕と死神さんは、部長さんにペコリと頭を下げました。
「こちらこそよろしくね。まあ、ボクはもう卒業しちゃってるから部長じゃないけど」
僕たちに向かって微笑む部長さん。キラキラと輝くその笑顔に、僕の心臓が大きく跳ねます。これがイケメンオーラというやつでしょうか。もしかしたら先輩も、この笑顔にやられてしまったのかもしれません。
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