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第三章 僕の知らない死神さん
第28話 私とお話するのはどうかしら?
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翌週。土曜日。お昼過ぎ。
死神さんは、仕事に行って不在です。基本的に、死神さんの休みは不定期。日曜日のこともあれば、月曜日のこともあります。一週間の内に全く休みがないなんてこともしばしば。一度、どうして休みが不定期なのかを聞いたことがありましたが、教えてくれませんでした。まあ、死神業にもいろいろあるのでしょう。
確か、先週は「有休を取った」と言っていましたね。「有休? 何それ、おいしいの?」という言葉をどこかで聞いた記憶がありますが、そのあたりのことに関して、死神業は融通が利きやすいのかもしれません。ホワイトなのかブラックなのか。はたまたグレーなのか。
「さて、今から何しようかな」
僕は、ベッドに座り、天井を見つめながらそう呟きます。
家事は一通り終えてしまいました。今から特にやらなければならないことはありません。しいて言えば、晩御飯の準備くらいですが、それをやるにはまだ時間が早すぎます。
「暇だし、図書館にでも」
「じゃあ、私とお話するのはどうかしら?」
僕の言葉を遮るように、女性の声が部屋に響きました。。それは、つい先週聞いたことのあるような声で……。
「え!?」
僕は、思わずベッドから立ち上がりました。
目の前にいた女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。そして、死神さんを大人にしたかのような顔。
「お、お母さん!?」
「こんにちは。先週ぶりね」
♦♦♦
「これ、どうぞ」
「ありがとう。いただくわね」
僕からお茶の入ったコップを受け取るお母さん。軽くお茶を口に含み、ゆっくりとテーブルにコップを置きます。
ふと、死神さんと初めて会った時のことを思い出しました。確か、死神さんはお茶を一気に飲み干した後、「いいお茶だね」なんて言いながら満足そうに頷いてましたっけ。まあ、スーパーで売ってる一番安いお茶だったんですけど。
「あら? あなた、顔がちょっとにやけちゃってるわよ」
「え?」
「もしかして、あの子のこと考えてたのかしら。ふふふ」
「…………」
そ、そんなに顔に出てたんですか? といいますか、にやけてる理由が死神さんのことを考えてるからなんて普通分かりませんよね?
この瞬間、僕は察してしまうのでした。お母さんはとてつもなく勘の鋭い人なのだと。
「こほん。ところで、お母さん。今日は何の御用でしょうか?」
僕は、彼女の向かい側に腰を下ろしながら恐る恐る問いかけました。
「特に大した用があるわけじゃないわよ。しいて言うなら、あなたとお話しがしたかったの」
「僕と、ですか?」
「ええ」
お母さんは、そう言って頷きます。
急にやってきて話をしたい。一体どんな…………あ。
その時、僕の頭にとある考えが浮かび上がってきました。お母さんは、死神さんのことを連れ戻しに来たんじゃないか。そんな、最悪の考えが。
以前、死神さんは言っていました。僕と同棲するために親を説得したと。裏を返せば、死神さんのご両親は、死神さんが僕と同棲することに関してあまりいい思いを持っていないということです。昨日お母さんと会った時は、そんな雰囲気は感じなかったのですが、もしかしたら。
少しずつ大きくなる心臓の鼓動。体温の下がる感覚。背筋をつたう冷たい汗。
「まず最初に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「……はい」
「二人は」
お母さんは、優しく微笑みながら言葉を放ちました。恐怖で震えそうになる僕に向かって。
「いつ孫の顔を見せてくれるのかしら?」
「…………へ?」
まご?
マゴ?
MAGO?
孫?
孫の顔を見せる?
ということはつまり、僕と死神さんが……。
「うえええええええええ!?」
「あらあら。そんなに驚くようなこと言ったかしら?」
不思議そうに首を傾げるお母さん。
「お、驚きますよ! いきなり孫だなんて!」
「もしかして、あの子とじゃ不満?」
「ふ、不満とかじゃなくて! 段階が飛び過ぎてることに困惑してるんです!」
実際、僕と死神さんは恋人でも何でもないのです。それなのに、子供をつくる云々なんて考えられるわけがありません。確かに、死神さんと一緒にいると楽しいですし、同棲生活も毎日すごく充実してますけど。ちゃんとした順序というものがあってですね。
「ふむ。不満ではない、と」
お母さんはウンウンと何度も頷きます。本当に分かっているのかとても怪しいです。おそらく、死神さんのマイペースなところはお母さんに似たのでしょう。間違いありません。
「と、とにかくです。孫とかそういう話は、ちょっと」
「そう。じゃあ、少し話題を変えようかしら」
「お願いします」
勢いよく頭を下げる僕。さすがにこの話題を続けられたのでは、僕の精神が持ちませんからね。
お母さんは、腕組みをしながら何かを考え始めます。次の話題を探しているのか、それとも、本当に聞きたい話を切り出すかどうか迷っているのか。そのどちらなのかは、僕には分かりません。
「あなたは、あの子のことどう思ってるの?」
しばらくしてお母さんの口から飛び出したのは、そんな質問でした。
死神さんは、仕事に行って不在です。基本的に、死神さんの休みは不定期。日曜日のこともあれば、月曜日のこともあります。一週間の内に全く休みがないなんてこともしばしば。一度、どうして休みが不定期なのかを聞いたことがありましたが、教えてくれませんでした。まあ、死神業にもいろいろあるのでしょう。
確か、先週は「有休を取った」と言っていましたね。「有休? 何それ、おいしいの?」という言葉をどこかで聞いた記憶がありますが、そのあたりのことに関して、死神業は融通が利きやすいのかもしれません。ホワイトなのかブラックなのか。はたまたグレーなのか。
「さて、今から何しようかな」
僕は、ベッドに座り、天井を見つめながらそう呟きます。
家事は一通り終えてしまいました。今から特にやらなければならないことはありません。しいて言えば、晩御飯の準備くらいですが、それをやるにはまだ時間が早すぎます。
「暇だし、図書館にでも」
「じゃあ、私とお話するのはどうかしら?」
僕の言葉を遮るように、女性の声が部屋に響きました。。それは、つい先週聞いたことのあるような声で……。
「え!?」
僕は、思わずベッドから立ち上がりました。
目の前にいた女性。真っ黒なローブ。真っ黒な三角帽子。綺麗な赤い瞳。胸のあたりまである長い白銀色の髪。そして、死神さんを大人にしたかのような顔。
「お、お母さん!?」
「こんにちは。先週ぶりね」
♦♦♦
「これ、どうぞ」
「ありがとう。いただくわね」
僕からお茶の入ったコップを受け取るお母さん。軽くお茶を口に含み、ゆっくりとテーブルにコップを置きます。
ふと、死神さんと初めて会った時のことを思い出しました。確か、死神さんはお茶を一気に飲み干した後、「いいお茶だね」なんて言いながら満足そうに頷いてましたっけ。まあ、スーパーで売ってる一番安いお茶だったんですけど。
「あら? あなた、顔がちょっとにやけちゃってるわよ」
「え?」
「もしかして、あの子のこと考えてたのかしら。ふふふ」
「…………」
そ、そんなに顔に出てたんですか? といいますか、にやけてる理由が死神さんのことを考えてるからなんて普通分かりませんよね?
この瞬間、僕は察してしまうのでした。お母さんはとてつもなく勘の鋭い人なのだと。
「こほん。ところで、お母さん。今日は何の御用でしょうか?」
僕は、彼女の向かい側に腰を下ろしながら恐る恐る問いかけました。
「特に大した用があるわけじゃないわよ。しいて言うなら、あなたとお話しがしたかったの」
「僕と、ですか?」
「ええ」
お母さんは、そう言って頷きます。
急にやってきて話をしたい。一体どんな…………あ。
その時、僕の頭にとある考えが浮かび上がってきました。お母さんは、死神さんのことを連れ戻しに来たんじゃないか。そんな、最悪の考えが。
以前、死神さんは言っていました。僕と同棲するために親を説得したと。裏を返せば、死神さんのご両親は、死神さんが僕と同棲することに関してあまりいい思いを持っていないということです。昨日お母さんと会った時は、そんな雰囲気は感じなかったのですが、もしかしたら。
少しずつ大きくなる心臓の鼓動。体温の下がる感覚。背筋をつたう冷たい汗。
「まず最初に聞きたいことがあるのだけれど、いいかしら?」
「……はい」
「二人は」
お母さんは、優しく微笑みながら言葉を放ちました。恐怖で震えそうになる僕に向かって。
「いつ孫の顔を見せてくれるのかしら?」
「…………へ?」
まご?
マゴ?
MAGO?
孫?
孫の顔を見せる?
ということはつまり、僕と死神さんが……。
「うえええええええええ!?」
「あらあら。そんなに驚くようなこと言ったかしら?」
不思議そうに首を傾げるお母さん。
「お、驚きますよ! いきなり孫だなんて!」
「もしかして、あの子とじゃ不満?」
「ふ、不満とかじゃなくて! 段階が飛び過ぎてることに困惑してるんです!」
実際、僕と死神さんは恋人でも何でもないのです。それなのに、子供をつくる云々なんて考えられるわけがありません。確かに、死神さんと一緒にいると楽しいですし、同棲生活も毎日すごく充実してますけど。ちゃんとした順序というものがあってですね。
「ふむ。不満ではない、と」
お母さんはウンウンと何度も頷きます。本当に分かっているのかとても怪しいです。おそらく、死神さんのマイペースなところはお母さんに似たのでしょう。間違いありません。
「と、とにかくです。孫とかそういう話は、ちょっと」
「そう。じゃあ、少し話題を変えようかしら」
「お願いします」
勢いよく頭を下げる僕。さすがにこの話題を続けられたのでは、僕の精神が持ちませんからね。
お母さんは、腕組みをしながら何かを考え始めます。次の話題を探しているのか、それとも、本当に聞きたい話を切り出すかどうか迷っているのか。そのどちらなのかは、僕には分かりません。
「あなたは、あの子のことどう思ってるの?」
しばらくしてお母さんの口から飛び出したのは、そんな質問でした。
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