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第三章 僕の知らない死神さん
第27話 ウガー!!
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「さて、私はそろそろ帰らないといけないわ」
お母さんは、僕たちに向かってそう告げました。唐突なその言葉に、死神さんの口から「え!?」と驚きの声が漏れます。
「も、もう行っちゃうの? もう少し一緒にいたいな……なんて」
「私もそうしたいけど、仕事の報告もあるから。それに、帰ってお父さんに晩御飯を作ってあげないと」
「そっか。でも……うん。それなら仕方ないよね」
死神さんは、笑顔でそう言いました。ですが、その笑顔は、普段と全く違っています。まるで、顔に無理矢理貼り付けているかのようなぎこちなさがありました。
「あらあら。この子ったら」
僕ですら違和感を感じたのですから、お母さんはなおさらでしょう。頬に手を当てながら、困ったようにそう呟いていました。そして、死神さんにゆっくりと近づき、その頭を優しく撫で始めます。
なでなで。なでなで。
「……子ども扱いしないで。私、ちゃんと社会人なんだよ」
顔を赤らめる死神さん。文句を言ってはいますが、気持ちよさそうに目を細めています。
「まだまだあなたは子どもよ。だって、いまだに私のこと『ママ』って呼びそうになってるじゃないの。私は別にそれでもいいんだけど」
「ちょっ、彼もいるのにそんなこと言わないで! 私、この世界ではクールなお姉さんキャラなんだから!」
…………クール? お姉さんキャラ?
思わず僕は首を傾げました。まあ、きっと聞き間違えでしょう。そうに決まってますよね。ハハハ。
「あなたがそんなキャラでいられるとは思わないけど。とりあえず、そういうことにしておきましょうか」
不意に、死神さんの頭を撫でるお母さんと視線が合いました。死神さんと同じ赤い瞳。ですが、確実に何かが違います。それが何なのかは上手く説明できないですけど。
「じゃあ、本当に帰るわね。今日は会えて嬉しかったわ」
そう言って、お母さんは死神さんの頭をもう一撫で。次の瞬間、忽然とその姿が消えてしまいました。後に残されたのは、名残惜しそうに頭へ手をやる死神さんと、それを見つめる僕。
「…………」
「…………」
僕と死神さんの間に、奇妙な沈黙が流れます。遠くの方で聞こえる「カー、カー」というカラスの鳴き声が、妙に大きく感じられました。
きっと、死神さんは、寂しい思いをしているに違いありません。二人が会うのは久しぶりだったようですからね。加えて、「もう少し一緒にいたいな」という死神さんの言葉。会いたい人に会えない寂しさ。一緒にいたいのにいられない寂しさ。それは僕も痛いほど知っています。
今、僕には何ができるでしょうか。死神さんのために、何か……何か……。
「あの……死神さ」
「ウガー!!」
僕が声をかけようとした丁度その時。死神さんは、両拳を天に突き上げ叫び出しました。僕の体が、驚きでビクリと大きく跳ね上がります。
「し、死神さん?」
「もう! もう! もう! ママったら、いつもいつも私を子ども扱いして!」
地団駄を踏む死神さん。いつの間にか、「お母さん」ではなく「ママ」と言ってしまっていることにも気がついていないようです。
「文句を言ってるわりには、お母さんに撫でられてる時、それほど抵抗してなかったような気が」
「…………」
「…………」
「ソンナコトナイヨ」
死神さんの片言。聞くのはこれで何度目でしょうか。思わず「ふふっ」と笑みが漏れてしまいます。
「わ、笑わないで。さ、さあ、早く帰ろう。もうお腹ペコペコだよ」
「分かりました」
「あ、食事が終わったら、将棋しようね。今日対局した人から教えてもらった技で、君に勝っちゃうよ」
「…………そうですか」
「? どうしてそんなに不機嫌な顔してるの?」
不思議そうに首を傾げる死神さん。
別に、不機嫌なんかじゃありません。今日、死神さんが、若い男の人と楽しそうに感想戦をしていたのを思い出して、少しモヤッとしただけです。本当に、ただ、それだけなのです。
お母さんは、僕たちに向かってそう告げました。唐突なその言葉に、死神さんの口から「え!?」と驚きの声が漏れます。
「も、もう行っちゃうの? もう少し一緒にいたいな……なんて」
「私もそうしたいけど、仕事の報告もあるから。それに、帰ってお父さんに晩御飯を作ってあげないと」
「そっか。でも……うん。それなら仕方ないよね」
死神さんは、笑顔でそう言いました。ですが、その笑顔は、普段と全く違っています。まるで、顔に無理矢理貼り付けているかのようなぎこちなさがありました。
「あらあら。この子ったら」
僕ですら違和感を感じたのですから、お母さんはなおさらでしょう。頬に手を当てながら、困ったようにそう呟いていました。そして、死神さんにゆっくりと近づき、その頭を優しく撫で始めます。
なでなで。なでなで。
「……子ども扱いしないで。私、ちゃんと社会人なんだよ」
顔を赤らめる死神さん。文句を言ってはいますが、気持ちよさそうに目を細めています。
「まだまだあなたは子どもよ。だって、いまだに私のこと『ママ』って呼びそうになってるじゃないの。私は別にそれでもいいんだけど」
「ちょっ、彼もいるのにそんなこと言わないで! 私、この世界ではクールなお姉さんキャラなんだから!」
…………クール? お姉さんキャラ?
思わず僕は首を傾げました。まあ、きっと聞き間違えでしょう。そうに決まってますよね。ハハハ。
「あなたがそんなキャラでいられるとは思わないけど。とりあえず、そういうことにしておきましょうか」
不意に、死神さんの頭を撫でるお母さんと視線が合いました。死神さんと同じ赤い瞳。ですが、確実に何かが違います。それが何なのかは上手く説明できないですけど。
「じゃあ、本当に帰るわね。今日は会えて嬉しかったわ」
そう言って、お母さんは死神さんの頭をもう一撫で。次の瞬間、忽然とその姿が消えてしまいました。後に残されたのは、名残惜しそうに頭へ手をやる死神さんと、それを見つめる僕。
「…………」
「…………」
僕と死神さんの間に、奇妙な沈黙が流れます。遠くの方で聞こえる「カー、カー」というカラスの鳴き声が、妙に大きく感じられました。
きっと、死神さんは、寂しい思いをしているに違いありません。二人が会うのは久しぶりだったようですからね。加えて、「もう少し一緒にいたいな」という死神さんの言葉。会いたい人に会えない寂しさ。一緒にいたいのにいられない寂しさ。それは僕も痛いほど知っています。
今、僕には何ができるでしょうか。死神さんのために、何か……何か……。
「あの……死神さ」
「ウガー!!」
僕が声をかけようとした丁度その時。死神さんは、両拳を天に突き上げ叫び出しました。僕の体が、驚きでビクリと大きく跳ね上がります。
「し、死神さん?」
「もう! もう! もう! ママったら、いつもいつも私を子ども扱いして!」
地団駄を踏む死神さん。いつの間にか、「お母さん」ではなく「ママ」と言ってしまっていることにも気がついていないようです。
「文句を言ってるわりには、お母さんに撫でられてる時、それほど抵抗してなかったような気が」
「…………」
「…………」
「ソンナコトナイヨ」
死神さんの片言。聞くのはこれで何度目でしょうか。思わず「ふふっ」と笑みが漏れてしまいます。
「わ、笑わないで。さ、さあ、早く帰ろう。もうお腹ペコペコだよ」
「分かりました」
「あ、食事が終わったら、将棋しようね。今日対局した人から教えてもらった技で、君に勝っちゃうよ」
「…………そうですか」
「? どうしてそんなに不機嫌な顔してるの?」
不思議そうに首を傾げる死神さん。
別に、不機嫌なんかじゃありません。今日、死神さんが、若い男の人と楽しそうに感想戦をしていたのを思い出して、少しモヤッとしただけです。本当に、ただ、それだけなのです。
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