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第三章 僕の知らない死神さん
第24話 ―――頑張って
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「さあ、会場にレッツゴー!」
元気よくそう言いながら、死神さんは拳を空高く突き上げました。
「やる気十分ね、お姉さん」
「当り前だよ、先輩ちゃん。なんたって、今日のために有給まで取ったからね。毎日の特訓も欠かさずにやってきたし。今の私に死角はないよ。ふふふのふ」
え。死神業にも有給なんて制度あるの?
僕たちがいるのは、とあるビルの前。今日は、ここで将棋大会が開催されます。高校生だけではなく、一般の人も参加できるということで、死神さんも参加することになったのです。
二週間前の部活動中。先輩から、大会に参加できると聞いた時の死神さんは、かつてないほど興奮していました。キラキラと輝く目。紅潮した頬。ピョンピョンと部室の中を飛び跳ねるその姿。今でも記憶に残っています。
「うー。もう待ちきれないよ。二人とも、早く行こう!」
死神さんは、足早にビルの中へ。
先輩は、やれやれといった様子で死神さんの後についていきます。ですが、その足取りはいつもに比べて軽くなっているように見えました。おそらく先輩も、死神さん同様テンションが上がっているのでしょう。
もちろん僕も例外ではありません。それに、大会に出場すること自体久々ですし。
僕が最後に出場した大会は、小学生時代の西日本大会。そこで手に入れた準優勝の賞状を破られるという経験があってからは、将棋そのものを避けていたのです。今、僕がここにいるのは、間違いなく死神さんのおかげです。
「さて、僕も行こうかな」
そう呟き、僕が足を一歩踏み出した時でした。
―――頑張って。
突然、僕の背後から聞きなれない声がしました。僕は、思わず振り返ります。ですが、そこには誰もいません。僕の目に映るのは、大きな道路と、そこを走る大量の車。
「……気のせい……かな?」
首を傾げる僕。
そんな僕の目の前を、一台の救急車が大きなサイレン音を響かせながら通過していきます。
「ちょっと、何してるのよ。置いて行っちゃうわよ」
「あ、すいません」
先輩に呼ばれ、僕は急いでビルの方へ。中に入ると、一階のロビーを大勢の人が行き来していました。奥の方に見えるのは、『大会受付』と書かれた立て札と小さな列。事前に先輩から聞いていた通り、大会の参加者はここで受付を行ってから会場のあるビル三階へ向かうようです。
「二人とも、こっちだよー」
列の最後尾から僕たちを呼ぶのは、先にビルの中へ入っていた死神さん。
にしても、こうして人の多い中で見ると、死神さんの姿は目立って仕方ありませんね。真っ黒なローブと三角帽子。赤い瞳に白銀色の髪。目立つ要素マシマシです。きっと、周りからはコスプレ好きの外国人と思われていることでしょう。
「待たせたわね。お姉さん」
「もう。二人とも遅いんだから。それより、今回出場するクラスなんだけど、三人それぞれ別なんだよね」
「そうよ」
将棋の大会では、実力によるクラス分けがされている場合が多くあります。今回は、上からS級、A級、B級。S級は、三段以上の実力を持つ人。A級は、初段から二段。B級は、級位者の出場するクラスです。
「君はS級に出るんだよね。私もそっちがいいなあ。『決勝で会おう!』ってやってみたい」
「しに……姉さん。さすがにいきなりは無理ですよ。それに、姉さんが出るB級だって十分レベルが高いんですから。いつもみたいにノリと勢いだけで指しちゃだめですよ」
級位者のクラスとはいえ、大会に参加する人は、ほとんどが初段に近い実力を持っています。中には、二段の実力を持ちながら、あえてB級で出場する人もいるんだとか。果たして死神さんが勝てるのかどうか。最初の頃に比べてかなり地力が付いてきたとは思いますけど。
「まあ、私はA級でやれるところまでやってみようと思うわ。二人とも頑張りましょうね」
「はい」
「了解だよー」
しばらくして僕たちは受付を済ませ、大会の行われる会場へと足を踏み入れました。
元気よくそう言いながら、死神さんは拳を空高く突き上げました。
「やる気十分ね、お姉さん」
「当り前だよ、先輩ちゃん。なんたって、今日のために有給まで取ったからね。毎日の特訓も欠かさずにやってきたし。今の私に死角はないよ。ふふふのふ」
え。死神業にも有給なんて制度あるの?
僕たちがいるのは、とあるビルの前。今日は、ここで将棋大会が開催されます。高校生だけではなく、一般の人も参加できるということで、死神さんも参加することになったのです。
二週間前の部活動中。先輩から、大会に参加できると聞いた時の死神さんは、かつてないほど興奮していました。キラキラと輝く目。紅潮した頬。ピョンピョンと部室の中を飛び跳ねるその姿。今でも記憶に残っています。
「うー。もう待ちきれないよ。二人とも、早く行こう!」
死神さんは、足早にビルの中へ。
先輩は、やれやれといった様子で死神さんの後についていきます。ですが、その足取りはいつもに比べて軽くなっているように見えました。おそらく先輩も、死神さん同様テンションが上がっているのでしょう。
もちろん僕も例外ではありません。それに、大会に出場すること自体久々ですし。
僕が最後に出場した大会は、小学生時代の西日本大会。そこで手に入れた準優勝の賞状を破られるという経験があってからは、将棋そのものを避けていたのです。今、僕がここにいるのは、間違いなく死神さんのおかげです。
「さて、僕も行こうかな」
そう呟き、僕が足を一歩踏み出した時でした。
―――頑張って。
突然、僕の背後から聞きなれない声がしました。僕は、思わず振り返ります。ですが、そこには誰もいません。僕の目に映るのは、大きな道路と、そこを走る大量の車。
「……気のせい……かな?」
首を傾げる僕。
そんな僕の目の前を、一台の救急車が大きなサイレン音を響かせながら通過していきます。
「ちょっと、何してるのよ。置いて行っちゃうわよ」
「あ、すいません」
先輩に呼ばれ、僕は急いでビルの方へ。中に入ると、一階のロビーを大勢の人が行き来していました。奥の方に見えるのは、『大会受付』と書かれた立て札と小さな列。事前に先輩から聞いていた通り、大会の参加者はここで受付を行ってから会場のあるビル三階へ向かうようです。
「二人とも、こっちだよー」
列の最後尾から僕たちを呼ぶのは、先にビルの中へ入っていた死神さん。
にしても、こうして人の多い中で見ると、死神さんの姿は目立って仕方ありませんね。真っ黒なローブと三角帽子。赤い瞳に白銀色の髪。目立つ要素マシマシです。きっと、周りからはコスプレ好きの外国人と思われていることでしょう。
「待たせたわね。お姉さん」
「もう。二人とも遅いんだから。それより、今回出場するクラスなんだけど、三人それぞれ別なんだよね」
「そうよ」
将棋の大会では、実力によるクラス分けがされている場合が多くあります。今回は、上からS級、A級、B級。S級は、三段以上の実力を持つ人。A級は、初段から二段。B級は、級位者の出場するクラスです。
「君はS級に出るんだよね。私もそっちがいいなあ。『決勝で会おう!』ってやってみたい」
「しに……姉さん。さすがにいきなりは無理ですよ。それに、姉さんが出るB級だって十分レベルが高いんですから。いつもみたいにノリと勢いだけで指しちゃだめですよ」
級位者のクラスとはいえ、大会に参加する人は、ほとんどが初段に近い実力を持っています。中には、二段の実力を持ちながら、あえてB級で出場する人もいるんだとか。果たして死神さんが勝てるのかどうか。最初の頃に比べてかなり地力が付いてきたとは思いますけど。
「まあ、私はA級でやれるところまでやってみようと思うわ。二人とも頑張りましょうね」
「はい」
「了解だよー」
しばらくして僕たちは受付を済ませ、大会の行われる会場へと足を踏み入れました。
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