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第二章 僕と死神さんと、それから……
閑話 風邪ひき死神さん③
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ピンポーン。
夕方。目を覚ました死神さんと話をしていると、突然、普段鳴るはずのないインターフォンが鳴り響きました。
「珍しいね。お客さんなんて」
「そうですね。宗教勧誘とかでしょうか。ちょっと行ってきます」
「はーい。行ってらっしゃい」
僕は足早に玄関扉の前へ行き、ドアスコープから外を見ました。目に入った光景に、思わず「え!?」と漏れる声。
「先輩!?」
ドアスコープから顔を離し、扉を開けます。そこにいたのは、ビニール袋を手に提げた先輩。
「あれ? 元気そうじゃない。風邪はもういいの?」
「先輩、どうしてここに?」
「どうしてって。決まってるでしょ。あんたのお見舞いに来たのよ」
そう言って、ビニール袋を前に突き出す先輩。受け取って中を見ると、スポーツドリンクやゼリー、リンゴなどが入っていました。
「僕のお見舞い……僕の……あ」
一瞬、先輩が何を言っているのか理解できなかった僕。少しの間をおいてその意味に思い至りました。今日、僕が学校に行かなかったのは、風邪をひいた死神さんを看病するためです。ですが学校には、僕が風邪をひいてしまったと伝えているのです。
僕は、急いで先輩に事情を説明しました。
「なるほど。お姉さんの看病だったのね」
「そういえば、先輩はどうやって僕が風邪だって知ったんですか?」
「ん? ああ。今日、あんたとお昼一緒に食べようと思って教室に行ったんだけどね。その時に、クラスの子から、あんたが風邪で休んでるって言われたのよ」
先輩とは、時たま一緒にお昼ご飯を食べています。先輩いわく、「部員同士のコミュニケーションよ」だそうです。
「そういうことでしたか。あ、先輩。しに……姉さんに会っていきますよね。中にどうぞ」
「ありがとう。お邪魔するわね」
僕は、先輩と一緒に部屋の中へ入りました。
「先輩ちゃんとお昼……ねえ。むうう」
ベッドの上で僕たちを迎えた死神さん。その唇は尖り、ジトリとした目線を僕に送っています。おそらく、玄関先での僕と先輩との会話を聞いていたのでしょう。ベッドから玄関まであまり距離は離れていませんしね。
「あらら。なんか嫉妬されちゃってるみたいね」
死神さんの様子を見て、先輩は、クックックと声を漏らしながら笑っていました。
♦♦♦
「ねえ、今日は本当にありがとね」
就寝前。寝る準備を終えた僕の耳に、死神さんの呟き声が聞こえてきました。
「え? な、何がでしょう?」
「私のために休んでくれて、ずっと一緒にいてくれて、私のこと大切だって……その……すごく、嬉しかった」
恥ずかしそうに微笑む死神さん。その顔には、ほんの少し朱が差しています。死神さんの白銀色の髪が、部屋の蛍光灯に照らされてキラキラと輝いて見えました。
「ど、どういたしまして。じゃ、じゃあ、電気消しますね」
死神さんから顔をそらしながら、僕は急いで電気を消しました。部屋の中が真っ暗になります。これで、今の僕の顔は、死神さんには見えないでしょう。
「君、おやすみ」
「おやすみなさい。死神さん」
僕は、床に敷いた布団に潜り込みました。ちなみにその布団は、死神さんが普段使っているものです。
「……やっぱり眠れない」
♦♦♦
「復活!」
翌朝。拳を天井に向かって突き上げながら、死神さんは叫びます。
「それはよかったです」
「二ヒヒ。君のおかげだよー。本当にありがとう」
「い、いえいえ、そんな……コホ、コホ」
おっと、どうしたことでしょうか。突然、僕の口から咳が飛び出しました。心なしか、頭がフラフラするような。
「…………」
「…………」
僕たちは無言で見つめ合います。
「まさか……君……」
「い、いやいや、そんなベタなこと……コホ、コホ」
「…………」
「…………」
結局、僕はもう一度、学校を休むことになったのでした。
夕方。目を覚ました死神さんと話をしていると、突然、普段鳴るはずのないインターフォンが鳴り響きました。
「珍しいね。お客さんなんて」
「そうですね。宗教勧誘とかでしょうか。ちょっと行ってきます」
「はーい。行ってらっしゃい」
僕は足早に玄関扉の前へ行き、ドアスコープから外を見ました。目に入った光景に、思わず「え!?」と漏れる声。
「先輩!?」
ドアスコープから顔を離し、扉を開けます。そこにいたのは、ビニール袋を手に提げた先輩。
「あれ? 元気そうじゃない。風邪はもういいの?」
「先輩、どうしてここに?」
「どうしてって。決まってるでしょ。あんたのお見舞いに来たのよ」
そう言って、ビニール袋を前に突き出す先輩。受け取って中を見ると、スポーツドリンクやゼリー、リンゴなどが入っていました。
「僕のお見舞い……僕の……あ」
一瞬、先輩が何を言っているのか理解できなかった僕。少しの間をおいてその意味に思い至りました。今日、僕が学校に行かなかったのは、風邪をひいた死神さんを看病するためです。ですが学校には、僕が風邪をひいてしまったと伝えているのです。
僕は、急いで先輩に事情を説明しました。
「なるほど。お姉さんの看病だったのね」
「そういえば、先輩はどうやって僕が風邪だって知ったんですか?」
「ん? ああ。今日、あんたとお昼一緒に食べようと思って教室に行ったんだけどね。その時に、クラスの子から、あんたが風邪で休んでるって言われたのよ」
先輩とは、時たま一緒にお昼ご飯を食べています。先輩いわく、「部員同士のコミュニケーションよ」だそうです。
「そういうことでしたか。あ、先輩。しに……姉さんに会っていきますよね。中にどうぞ」
「ありがとう。お邪魔するわね」
僕は、先輩と一緒に部屋の中へ入りました。
「先輩ちゃんとお昼……ねえ。むうう」
ベッドの上で僕たちを迎えた死神さん。その唇は尖り、ジトリとした目線を僕に送っています。おそらく、玄関先での僕と先輩との会話を聞いていたのでしょう。ベッドから玄関まであまり距離は離れていませんしね。
「あらら。なんか嫉妬されちゃってるみたいね」
死神さんの様子を見て、先輩は、クックックと声を漏らしながら笑っていました。
♦♦♦
「ねえ、今日は本当にありがとね」
就寝前。寝る準備を終えた僕の耳に、死神さんの呟き声が聞こえてきました。
「え? な、何がでしょう?」
「私のために休んでくれて、ずっと一緒にいてくれて、私のこと大切だって……その……すごく、嬉しかった」
恥ずかしそうに微笑む死神さん。その顔には、ほんの少し朱が差しています。死神さんの白銀色の髪が、部屋の蛍光灯に照らされてキラキラと輝いて見えました。
「ど、どういたしまして。じゃ、じゃあ、電気消しますね」
死神さんから顔をそらしながら、僕は急いで電気を消しました。部屋の中が真っ暗になります。これで、今の僕の顔は、死神さんには見えないでしょう。
「君、おやすみ」
「おやすみなさい。死神さん」
僕は、床に敷いた布団に潜り込みました。ちなみにその布団は、死神さんが普段使っているものです。
「……やっぱり眠れない」
♦♦♦
「復活!」
翌朝。拳を天井に向かって突き上げながら、死神さんは叫びます。
「それはよかったです」
「二ヒヒ。君のおかげだよー。本当にありがとう」
「い、いえいえ、そんな……コホ、コホ」
おっと、どうしたことでしょうか。突然、僕の口から咳が飛び出しました。心なしか、頭がフラフラするような。
「…………」
「…………」
僕たちは無言で見つめ合います。
「まさか……君……」
「い、いやいや、そんなベタなこと……コホ、コホ」
「…………」
「…………」
結局、僕はもう一度、学校を休むことになったのでした。
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