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第六章 大人で子供な私のことを
第155話 とてもとても温かい
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「あ、でも……」
私に向けられていた彼の視線。それが、スッと下がっていく。
「どうしたの?」
「僕、どうやってこの家に来ればいいんでしょう? 森には魔獣もいますし」
「え? そりゃ、ほうきで…………あ」
すっかり忘れていた。彼が、ほうきを扱えないということを。
私の家が建っているのは、『迷いの森』にある開けた土地。もしほうきを扱うことができれば、上空から家の場所を見つけることはできる。しかし、徒歩で来ようとすると話は別。『迷いの森』は広大であり、多くの木々が日光を遮っている。どこへ向かって歩いても景色が変わらず、方向感覚が鈍ってしまう。それに加え、人を襲う魔獣も生息しているのだ。
「じゃあ、私が君の家に行くっていうのは?」
「そ、それはやめた方がいいと思います。僕が住んでる所って、ものすごく狭いですし。他にも……その……あんまり詳しくは言えないですけど、問題が……ハハハ」
自嘲気味に笑う彼。その顔には、暗い影が差している。
きっと、彼自身、今の生活に満足しているわけではないのだろう。孤児院を出ていきなりの一人暮らし。それがどれほど大変なことなのか、私には分からない。けれど、大変でないなんてことはあり得ないのだ。
「本当は、引っ越しができるならしたいんですけどね。でも、今はお金がないですから」
「…………」
「すいません。こんな暗い話しちゃって。そんなことより、何か策を考えないとですね」
「…………」
「作ったシチューを誰かに届けてもらうとか? いや、それだと味が落ちちゃいますね。せっかくですから、魔女さんには、今日以上においしいシチューを食べていただきたいですし……うーん……」
彼は、腕組みをしながら考え始める。自身の苦しさなんて放り出して。私のわがままを叶えようとしてくれている。
不意に、私の心が、よく分からない感情に埋め尽くされる。ちょっぴり苦しくて。ちょっぴり痛くて。そして、とてもとても温かい。
心臓が、先ほどよりも速い速度で鼓動を刻む。顔の温度が、だんだん高くなっていく。
「君がよければなんだけどさ」
私は、言葉を紡ぐ。目の前にいる彼に向かって。よく分からない感情の答えを探るように。
「……一緒に暮らさない?」
私に向けられていた彼の視線。それが、スッと下がっていく。
「どうしたの?」
「僕、どうやってこの家に来ればいいんでしょう? 森には魔獣もいますし」
「え? そりゃ、ほうきで…………あ」
すっかり忘れていた。彼が、ほうきを扱えないということを。
私の家が建っているのは、『迷いの森』にある開けた土地。もしほうきを扱うことができれば、上空から家の場所を見つけることはできる。しかし、徒歩で来ようとすると話は別。『迷いの森』は広大であり、多くの木々が日光を遮っている。どこへ向かって歩いても景色が変わらず、方向感覚が鈍ってしまう。それに加え、人を襲う魔獣も生息しているのだ。
「じゃあ、私が君の家に行くっていうのは?」
「そ、それはやめた方がいいと思います。僕が住んでる所って、ものすごく狭いですし。他にも……その……あんまり詳しくは言えないですけど、問題が……ハハハ」
自嘲気味に笑う彼。その顔には、暗い影が差している。
きっと、彼自身、今の生活に満足しているわけではないのだろう。孤児院を出ていきなりの一人暮らし。それがどれほど大変なことなのか、私には分からない。けれど、大変でないなんてことはあり得ないのだ。
「本当は、引っ越しができるならしたいんですけどね。でも、今はお金がないですから」
「…………」
「すいません。こんな暗い話しちゃって。そんなことより、何か策を考えないとですね」
「…………」
「作ったシチューを誰かに届けてもらうとか? いや、それだと味が落ちちゃいますね。せっかくですから、魔女さんには、今日以上においしいシチューを食べていただきたいですし……うーん……」
彼は、腕組みをしながら考え始める。自身の苦しさなんて放り出して。私のわがままを叶えようとしてくれている。
不意に、私の心が、よく分からない感情に埋め尽くされる。ちょっぴり苦しくて。ちょっぴり痛くて。そして、とてもとても温かい。
心臓が、先ほどよりも速い速度で鼓動を刻む。顔の温度が、だんだん高くなっていく。
「君がよければなんだけどさ」
私は、言葉を紡ぐ。目の前にいる彼に向かって。よく分からない感情の答えを探るように。
「……一緒に暮らさない?」
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