上 下
150 / 164
第六章 大人で子供な私のことを

第149話 これは『ちょっと』じゃありません!

しおりを挟む
「着いたよ」

「ここが、魔女さんの住む家……ほああああ!」

 地面に降り立った私たち。私の家を見て感嘆の声をあげる彼。相変わらず、その目はキラキラと輝いている。

 そんなにすごいかな?

「ちょっと散らかってるけど、どうぞ入って」

 そう言いながら、私は玄関扉を開ける。ギギギと鈍い音が響き、薄暗い室内があらわになる。

「いえいえ。ちょっと散らかってるくらい…………え?」

 私に続いて家の中に足を踏み入れた彼。そんな彼の体が、ピタリとその動きを止めた。

「ん? どうしたの?」

「えっと……『ちょっと』散らかってるんですよね?」

「そうだけど」

 私は、ぐるりと室内を見渡す。特にいつもと変わっているところはない。しいて違いを挙げるとするなら、失敗したシチューの残骸があるくらい。でも、別に気になるほどでは……。

「魔女さん」

「な、何?」

「これは『ちょっと』じゃありません!」

「ふええ!」

 突然、室内に響き渡る彼の大きな声。それに驚いた私の口から、間抜けな声が飛び出した。

 そんな私に構わず、彼は言葉を発し続ける。

「まず床。ほこりがそこら中に溜まってるじゃないですか。しかも、本まで散らかして。ちゃんと綺麗にしてあげないと、本に失礼です。次に、そこの袋。多分ゴミを入れてるんだと思いますけど、いろんなものがごちゃまぜに見えます。ゴミの処理とかどうしてるんですか? 極めつけは台所。食器が洗われてません。それに、野菜くずが散乱してます。これじゃ、料理どころじゃありませんよ」

 ここにいる彼は、本当にさっきまでと同じ人物なのだろうか。まさか、家に入れた途端に怒られるなんて、思いもしなかった。というか、軍にいた頃はもっとひどい環境で生活していたのだし、これくらい私にとってはどうってことないのだが。

 ……あれ? そういえば。

 その後も、彼は私に何かを言っていたが、ほとんど頭に入らなかった。別に、怒られたことに腹を立て、彼の言葉を聞かないようにしていたからではない。少し、考え事をしてしまっていたからだ。

 私、生活のことでちゃんと注意されたのっていつぶりだっけ?
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

声優召喚!

白川ちさと
児童書・童話
 星崎夢乃はいま売り出し中の、女性声優。  仕事があるって言うのに、妖精のエルメラによって精霊たちが暴れる異世界に召喚されてしまった。しかも十二歳の姿に若返っている。  ユメノは精霊使いの巫女として、暴れる精霊を鎮めることに。――それには声に魂を込めることが重要。声優である彼女には精霊使いの素質が十二分にあった。次々に精霊たちを使役していくユメノ。しかし、彼女にとっては仕事が一番。アニメもない異世界にいるわけにはいかない。  ユメノは元の世界に帰るため、精霊の四人の王ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームに会いに妖精エルメラと旅に出る。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

ぼくとぼくたち

ちみあくた
児童書・童話
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。 それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。 特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。 人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。 おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。 でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

林間学校に待ち受ける異次元のワナ

Ryo
児童書・童話
 今日は待ちに待った林間学校の日。  小学三年生のマサキは仲良し五人組で行動班を作り、バスに乗り込んで山中湖へと出発した。  けれどもその途中、深い山の中でバスが立ち往生してしまい……そこから何かが少しずつおかしくなり始めた。

絵描き旅行者〜美術部員が、魔術師の絵の世界へ連れていかれました

香橙ぽぷり
児童書・童話
桜中学校の美術室に、謎のおじいさんが現れました。 そのおじいさんはなんと魔術師! 美術部員6人に、自分の絵の中に入って、その中で絵を描いてくれるように頼みます。 3人ずつ2グループに分かれて、絵を描く旅が始まります。 この物語は山編、村編と2つの話があります。 山編はアウトドア生活。 村編は、西洋風の少し不思議な村での生活です。 高校の文芸部誌用に書いた作品。 美術部員6人ともの心理描写や視点を入れたいと考えたので、初めて三人称で書いた物語です。 15歳から書いていますが、長編予定なため、まだまだ完結しそうにありません。現在10話程。

いい先生とは・・・

未来教育花恋堂
児童書・童話
いい先生についての評論

処理中です...