上 下
114 / 164
第四章 戦花の魔女

第113話 ……夢

しおりを挟む
「……夢」

 懐かしい夢を見た。まさか、心の中に閉じ込めていたはずの記憶を思い出してしまうなんて。だが、不思議と嫌な気分ではない。最後の光景が、弟子君の姿だったからだろう。

 ゆっくりとベッドから降りる。欠伸をしながら自室の扉を開けると、キッチンの方に弟子君の姿。ちょうど、夕飯を作る前といったところか。

「あれ? 師匠、もう起きて大丈夫なんですか?」

「うん。だいぶ体調良くなった」

「それはよかったです」

 ニコリと私に笑顔を向ける弟子君。

 私が弟子君と会ってからずいぶん経った。まさか、大人を目指していた私が、こんなふうになってしまうなんて、あの頃の私は想像できただろうか。わがままで。面倒くさがりで。弟子君に頼りっぱなしで。見た目は大人なのに、やっていることは子供のよう。でも、後悔はしていない。だって……。

 …………あれ?

 その時、ふと気が付く。弟子君の視線が、左の方に移動していくことに。何か悪いことを企んでいる時の癖だ。弟子君とはそれほど長い付き合いがあるというわけではないが、その好みや癖くらいは熟知している……と思う。

「弟子君、何か悪いこと考えてない?」

「あ、あはは。ソンナコトナイデスヨ」

 弟子君は、焦って顔をそらす。どうして片言なのか。その答えは明白だった。

「……まあ、いっか」

 本当は、弟子君を問い詰めたい。だが、その気持ちをグッと押し留める。今はそんなことより、もっとやらなければならないことがあったから。

 数時間前、郵便屋である彼女から聞いた話が脳裏によみがえる。最近、国の中に、『戦花の魔女』を捕えようとしている連中がいる。もし、その連中が、私の居場所を突き止めたとしたら。一体どうなってしまうのか、想像もつかない。だからこそ、伝えておいた方がいいだろう。今、私が、狙われているということを。

「ところで、弟子君」

「何ですか?」

「…………」

 唇が震える。言葉が上手く出てこない。最近、私を狙う連中がいる。そう告げるだけでいいはずなのに。本当に、それだけなのに。

「……師匠?」

「…………」

「…………」

 無言の空間。居心地が悪くて仕方がない。目の前には、不安げな表情を浮かべた弟子君。

 そんな顔、しないでよ。

「弟子君」

「は、はい」

「お菓子」

「……へ?」

「お菓子、食べてもいい?」

 私の言葉に、弟子君が「はあ」と大きなため息を吐く。そこに、先ほどまでの不安げな表情はない。完全に、いつも通りの弟子君だ。

「夕飯の後ならいいですよ」

「やった!」

 この幸せが、いつまで続くか分からない。明日には終わってしまうかもしれない。だからこそ、少しでも長く。

 弟子君と……。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

声優召喚!

白川ちさと
児童書・童話
 星崎夢乃はいま売り出し中の、女性声優。  仕事があるって言うのに、妖精のエルメラによって精霊たちが暴れる異世界に召喚されてしまった。しかも十二歳の姿に若返っている。  ユメノは精霊使いの巫女として、暴れる精霊を鎮めることに。――それには声に魂を込めることが重要。声優である彼女には精霊使いの素質が十二分にあった。次々に精霊たちを使役していくユメノ。しかし、彼女にとっては仕事が一番。アニメもない異世界にいるわけにはいかない。  ユメノは元の世界に帰るため、精霊の四人の王ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームに会いに妖精エルメラと旅に出る。

アンナのぬいぐるみ

蒼河颯人
児童書・童話
突然消えてしまったぬいぐるみの行く先とは? アンナは五歳の女の子。 彼女のお気に入りのくまのぬいぐるみが、突然姿を消してしまい、大変なことに! さて、彼女の宝物は一体どこに行ったのでしょうか? 表紙画像は花音様に企画で描いて頂きました。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

ぼくとぼくたち

ちみあくた
児童書・童話
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。 それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。 特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。 人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。 おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。 でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

菊池兄弟のいそがしい一年 ―妖怪退治、はじめました!―

阿々井 青和
児童書・童話
明日誕生日を迎える菊池和真(きくちかずま)は学校の帰り道に口さけ女に襲われた。 絶体絶命と思われたその時、颯兄こと兄の颯真(そうま)が助けに入り、どうにかピンチを乗り切った。 が、そこで知らされる菊池家の稼業の話。 しゃべるキツネのぬいぐるみに、妖怪を呼べる巻物、さらに都市伝説とバトルって何!? 本が好き以外は至って平凡な小学二年生の和真は、どんどん非現実な世界へと足を踏みこんで行くことになり……? これは小さな町を舞台に兄弟が繰り広げる、現代の妖怪退治の記録である。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

処理中です...