上 下
111 / 164
第四章 戦花の魔女

第110話 シチュー作ろう!

しおりを挟む
「はあ……」

 そんな私の溜息は、広い室内に静かに溶けていった。返答はない。まあ、当たり前だ。私以外、ここには誰も住んでいないのだから。

 つい最近、二十歳を超えた私。大人と言っても誰も疑わない。収入は安定し、貯蓄もできた。魔法で家を大きく造り直し、家具もある程度買いそろえた。順風満帆。そう。順風満帆……のはずなのだ。

 でもどうしてだろうか。心の中に、モヤモヤとしたものがうごめいているのは。

「よし!」

 私は、とある決心をして家を飛び出す。ほうきを走らせ、町の大通りへ。お昼前ということもあって、かなりの人出。人と人の間をすり抜けながら目的の商店へ行き、食材を購入する。タマネギ、ニンジン、ジャガイモ。ほとんどの場合、パンと飲み物しか買わない私。ちゃんとした食材を買うなんて、いつ以来のことだろうか。

 家に帰り、さっそく食材をテーブルに広げる。そして、心の中のモヤモヤを吹き飛ばすように、明るい声でこう言った。

「シチュー作ろう!」

 数分後。

「おかしい」

 鍋の中には、謎の物体。色は紫。妙なにおいもする。明らかにシチューではなかった。試しに、スプーンでそれをすくい、口の中へ。

「……………………は!」

 危ない。一瞬、意識が飛びかけた。

 思わず鍋から距離をとる私。暗黒のオーラを放つ鍋。

「はあ……」

 私は、再び溜息を吐く。脳裏によぎるのは、孤児院での記憶。シチューをもっと食べたいと訴えた私。貧乏だからと断られる私。お金を稼ぐため、早く大人になろうと決心した私。

「あ」

 不意に気が付く。私の中にうごめくモヤモヤ。その正体に。

 そっか。

 私、まだ分かってないんだ。

 自分が大人になれたのかどうかを。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

声優召喚!

白川ちさと
児童書・童話
 星崎夢乃はいま売り出し中の、女性声優。  仕事があるって言うのに、妖精のエルメラによって精霊たちが暴れる異世界に召喚されてしまった。しかも十二歳の姿に若返っている。  ユメノは精霊使いの巫女として、暴れる精霊を鎮めることに。――それには声に魂を込めることが重要。声優である彼女には精霊使いの素質が十二分にあった。次々に精霊たちを使役していくユメノ。しかし、彼女にとっては仕事が一番。アニメもない異世界にいるわけにはいかない。  ユメノは元の世界に帰るため、精霊の四人の王ウンディーネ、シルフ、サラマンダー、ノームに会いに妖精エルメラと旅に出る。

GREATEST BOONS+

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!

ぼくとぼくたち

ちみあくた
児童書・童話
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。 それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。 特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。 人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。 おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。 でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです…… エブリスタ、小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しております。

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

林間学校に待ち受ける異次元のワナ

Ryo
児童書・童話
 今日は待ちに待った林間学校の日。  小学三年生のマサキは仲良し五人組で行動班を作り、バスに乗り込んで山中湖へと出発した。  けれどもその途中、深い山の中でバスが立ち往生してしまい……そこから何かが少しずつおかしくなり始めた。

キミと踏み出す、最初の一歩。

青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。 そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。 友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。 しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?

絵描き旅行者〜美術部員が、魔術師の絵の世界へ連れていかれました

香橙ぽぷり
児童書・童話
桜中学校の美術室に、謎のおじいさんが現れました。 そのおじいさんはなんと魔術師! 美術部員6人に、自分の絵の中に入って、その中で絵を描いてくれるように頼みます。 3人ずつ2グループに分かれて、絵を描く旅が始まります。 この物語は山編、村編と2つの話があります。 山編はアウトドア生活。 村編は、西洋風の少し不思議な村での生活です。 高校の文芸部誌用に書いた作品。 美術部員6人ともの心理描写や視点を入れたいと考えたので、初めて三人称で書いた物語です。 15歳から書いていますが、長編予定なため、まだまだ完結しそうにありません。現在10話程。

処理中です...